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中国河北省で重油タンク5基が同時に爆発・火災、84時間炎上(2021年)

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 今回は、今から3年前の2021531日(月)、中国河北省滄州市にある石油施設で、重油タンク5基が同時に爆発・火災を起こし、84時間炎上した事例を紹介します。

< 発災施設の概要>

■ 発災があったのは、 中国河北省(かほくーしょう、フーペイーショー)滄州市(そうしゅうーし、沧州市;ツァンヂョウーシ)の南大港工業団地(南大港工业园区)にある定瑞石化有限公司(鼎睿石化有限公司)の石油施設である。

■ 事故があったのは、石油施設内の容量2,000KLの重油貯蔵タンクである。内液は希釈アスファルトだった。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2021531日(月)午後230分頃、重油貯蔵タンクで爆発があり、火災となった。

■ 発災に伴い、南大港工業団地の自衛消防隊が出動した。

■ 近くの住民のひとりは、「ドーンという雷が鳴るような大きな音がして火災が発生しました。その後、消防隊がやってきたが、火は消えていません」と語った。

■ 火災は、2号タンク、3号タンク、4号タンク、5号タンクの上部でほぼ同時に発火した。その直後、1号タンクの上部が発火し、2号タンクの屋根が地面に噴き飛んだ。

■ 火災は複数のタンク火災になった。タンクは激しい炎で燃え上がり、炎が上空100m以上にまで達し、黒煙が立ち昇った。現場では時折爆発が起こり、破片が遠くまで飛び、現場の作業員たちは命からがら逃げた。タンクは少なくとも5基が火災に見舞われた。

■ 消防隊は、火災タンクに放水し、堤内火災に対応し、隣接する貯蔵タンクに冷却散水を行った。しかし、火災タンクに向けて噴射した消火用水は、火災の勢いが強く、消火には効果がなかった。現場には、滄州市の消防隊が到着し、消火活動を行った。燃え上がっている1号タンクから5号タンクを冷却し、流れ出る火災の対応に部隊を投入した。

■ 火災現場から1km以内にある企業は生産を停止し、従業員全員が避難した。周囲の道路は交通規制で閉鎖された。

■ 531日(月)の夜、3号タンクが噴き上げ、6号タンクが発火し、火災となった。

■ 火勢は衰えることがなく、6号タンクと隣接する企業の3,000KLの貯蔵タンク3基の間に水幕を設置して延焼しないように図った。また、土のうを輸送し、防液堤を築き、LNG貯蔵タンクを守った。 202161日、隣接していたLNG貯蔵タンクでは、内液を移送し、処理した。16時間後、タンク内のLNGは空になり、窒素注入の置換が実施され、LNG貯蔵タンクの爆発のリスクを排除した。

■ 消防士と消防車が徹夜で現場の消火活動を行ったが、 火災から1日経った時点でも、依然として火災が続いている。複数のタンクが火災になって長時間燃え続けたため、濃い黒煙が空の半分を覆った。

■ 事故当日、重油タンクまわりで火気工事が行われたといい、これが火災の原因とみられる。火気工事を行っていた作業員は現場から逃げ出し、無事だった。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

被 害

■ 貯蔵タンク6基が火災で損傷したほか、まわりの設備が損傷した。

■ 長時間の火災により環境が汚染された。また、大量の消火排水や廃棄物が発生した。

■ 住民の避難はなかったが、現場近くの道路が閉鎖された。  

■ 直接的な経済損失は3,8721,000元と報じられている。

< 事故の原因>

■ 直接原因: 石油・ガス回収配管の設計不良およびタンクまわりでの違法な火気作業による。 石油・ガス回収配管に本来付けておくべき逆火防止装置(フレーム・アレスター)と遮断弁を設置していなかった。その上、タンクまわりでの火気作業の安全手順を逸脱していたことによって、石油・ガス回収配管内およびタンク上部で可燃性ガスが爆発を起こし、タンク内の重油(希釈アスファルト)に引火した。

 間接的な理由: 事業者が許可を得ないでタンクに希釈アスファルトを貯蔵していた。また、事業所内における安全に対する責任が果たされなかった。 工事前に危険要因について検討されず、安全対策を講じておらず、タンク設備や配管の縁切りが行われていなかった。作業員への安全教育や安全説明は実施されておらず、安全を監視するための特別な人員を配置していなかった。

< 対 応>

■ 事故翌日の61日(火)も依然として火災が続いた。その前の531日(月)の夜、3号タンクが噴き上げ、6号タンクが発火した。タンク火災は6基となった。

■ 62日(水)もタンク火災は続いた。

■ 63日(木)、タンク火災は弱まり始め、5号タンク、3号タンク、4号タンク、1号タンク、2号タンクが鎮火した。

■ 64日(金)、残っていた6号タンクの火災が鎮火した。

■ 65日土)、重油を輸送するタンクローリーから油のサンプルを採取し、性状を検査した。その結果、引火点が3.0℃、沸点が89.4℃であり、油は引火性液体であることが判明した。また、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンが含まれていた。これにより、石油ガス回収配管と貯蔵タンクの上部にあったガスが爆発・火災の要因だと判断された。

■ 鎮火後、南大港工業団地の管理者は消火活動で出た排水と有害廃棄物の収集・処分に関する作業計画を策定し、611日(金)に事故現場に33,000KLの排水回収池と28,200㎥の有害廃棄物回収場所が緊急に建設された。また、違法保管されていた軽油相当の油2,667.3トンを移送し、612日(土)に全ての移送が完了した。火災タンクに残ったアスファルトや船舶用燃料油は貯蔵タンク内で冷えて固まっており、後日処理される予定になった。613日(日)、事故現場周辺の道路、緑地帯、タンクエリアにあった有害廃棄物が収集され、約6,200㎥の有害廃棄物が処分された。

■ 2021910日(金)、河北省非常管理局は事故原因について調査報告書を発表した。主な内容はつぎのとおりである。

 ● 2021530日(日)、定瑞石化有限公司の東工場では、石油ガス回収装置の設置作業を行っていた。東工場の工場長は、作業員Aに石油ガス回収装置の配管を貯蔵タンクの石油ガス回収収集配管に接続するよう指示した。作業員のリーダーAのほか作業員のBCDEが作業を行った。同日中に貯蔵タンクの石油ガス回収収集配管のブラインドプレートが外され、フランジ接続を完了した。

 ● 531日(月)午前中、作業員ABCDE5名は貯蔵タンクの防油堤の外側で接続配管をプレハブで組み立てた。作業が完了した後、午後220分頃、作業員ABのふたりが貯蔵タンクの防油堤内に入り、切断作業を行った。作業員B1号タンクと2号タンクの間にある石油ガス回収の収集管の切断点を決めた後、午後228分頃にガス溶断器で切断を開始した。数秒後、異常な音がして、2号、3号、4号、5号タンクの上部がほぼ同時に発火した。

 ● さらに続いて、1号タンクの上部が発火し、2号タンクの屋根が地面に噴き飛んだ。作業員ABのふたりはすぐに防油堤から逃げ出し、防油堤の外にいた作業員CDEとともに工場内の倉庫に隠れた。

 ● 531日(月)午後1113分、3号タンクが噴き上げ、6号タンクが閃光とともに発火した。

 ● 63日(木)午前12時、5号タンクの火は消し止められた。 午前1225分、3号タンクと4号タンクの火災が鎮火した。午後810分、1号タンクと2号タンクの火災が鎮火した。

 ● 64日(金)午前230分、6号タンクの火災が鎮火した。火災は発災から84時間続いた。

 ● 南大港工業団地の自衛消防隊、滄州消防隊のほか、天津消防隊、山東消防隊、石家荘消防隊、唐山消防隊、華北油田消防隊などの消防隊が滄州の火災現場に支援のため出動した。結局、消火活動に参加したのは消防士1,547名と消防車351台だった。

■ 中国の非常事態管理部は、この事故に関する教訓についてつぎのように述べている。

「定瑞石化有限公司は、法的認識が弱く、無許可で貯蔵タンクを使用し、希釈アスファルトを違法に貯蔵していた。また、火気作業前に危険要因を特定せず、工事の安全対策を策定・実施しなかった。さらに、火気作業に対して無資格の作業者に違法に指示した」

■ ユーチューブには、火災に関する動画の投稿はない。しかし、中国の動画共有サービス“Bilibil” には火災の発生から鎮火後の状況をまとめた動画が投稿されている。Bilibil「河北沧州鼎睿石化有限公司重油罐着火爆炸事故」2024/04/10 を参照)

補 足

■「中国」は、正式には中華人民共和国で、1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家である。人口約139,000万人で、首都は北京である。

「河北省」(かほくーしょう、フーペイーショー)は、中国の東に位置し、省都は石家荘市で人口約7,460万人の省である。

「滄州市」(そうしゅうーし、沧州市;ツァンヂョウーシ)は、河北省の東に位置し、渤海湾を臨み、人口約680万人の市である。

「南大港工業団地」は、河北省滄州市の北東部に位置し、面積は296平方kmで、大港油田の主な生産地である。

■「定瑞石化有限公司」(鼎睿石化有限公司;ティンルイ)は、滄州市南大港管理区の株式会社で2012年に設立され、事業内容は重油、燃料油、石油アスファルトなどの製造・加工である。しかし、会社の実態はよく分からないし、事故の会社名としてはインターネット検索で出てくるが、そのほかはまったく出てこない。おそらく、事故後、会社(名)は変更されたものと思われる。

■「発災タンク」の重油タンクは容量2,000KLと報じられているだけで、そのほかの仕様は分からない。この容量だとすれば、直径14m×高さ14m相当だと思われる。グーグルマップで調べると、南大港工業団地付近にタンク群があり、タンク撤去されたところ(写真参照)があるが、ほかのタンク設備の配置が異なっており、該当する場所は特定できなかった。

 重油の燃焼速度(降下速度)1.7mm/分というデータがあり、時間あたり102mmとなる。発災タンクには軽質分が含まれた希釈アスファルトであり、燃焼速度は速いと思われるが、仮に全面火災時に102mm/時(=10cm/時)とすれば、火災時間の84時間にはタンク液面は8.4m降下することになる。各タンクに油がどのくらいの量(液面)が入っていたか分からないが、鎮火後のタンクは側板が座屈しており、ほとんどのタンクは燃え尽きたものと思う。

所 感

■ この事故は20215月に発生したものであるが、事故調査報告書が同年9月に発表され、その後も度々取り上げられている。20244月にも事故をまとめた動画が発表されている。事故原因を読むと、余りにもひどい(お粗末)事故であるという印象を持つ。工事が関わるタンク事故を回避するには、ルールを正しく守る、危険予知を活発に行う、報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化の3つが重要であるが、今回の事故は「ルール・危険予知・報連相」を指摘する以前の話である。

 中国では、「中国における石油貯蔵所の火災・爆発の事例分析」20197月)という秀逸な論文があり、このブログでも紹介した。この中で「安全に関するマネジメントが科学的な指針によって改善されれば、中国の石油貯蔵所における火災・爆発の多くは防止あるいは回避できる」と示され、ブログの「後記」に「指摘どおりに進むか見ていくこととします」と書いた。しかし、内在していた不安全の問題がこのような形で露呈するとは思ってもいなかった。

■ 消防活動の詳細はあまり発表されていない。消防隊は3日半にも及ぶ火災対応でよく負傷者も出さずに対応している。参画したのは、消防士1,547名と消防車351台だったということであるが、隊員や消防資機材の交代などはどのようにしたのか知りたいところである。

 容量2,000KLタンクの火災では、大容量泡放射砲システムは必要なく、3点セット(大型化学消防車、大型高所放水車、泡原液搬送車)でよいとされている。今回の場合、タンク5基が同時に爆発・火災を起こすという極めて稀な事例であるが、日本でも複数タンク火災は起こり得ると考えるべきである。消火活動の写真によると、大型高所放水車などが活動しており、消防資機材が貧しいということではない。容量の大きくない貯蔵タンクでも、堤内火災を伴う複数タンク火災において既存の消防資機材では太刀打ちできないことを示す事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Soundofhope.or,  河北沧州多个油罐着火18个小时仍未扑视频,  June  01,  2021

    M.news.cctv.com,  河北沧州南大港产业园区兴工区油罐着火周边疏散,  June  01,  2021

    Hb.dzwww.com,  河北沧州涉重油罐火灾企相关人已被控制目击者:像天雷,炸了就着火了,  June  01,  2021

    Goohaha.com,  2021河北沧州鼎睿石化化5·31火灾故故,火灾持续84小时,  June  28,  2022

    Anquan.com.cn,  河北沧州一石化企重油生火灾一公里范围内人被疏散,  June  02,  2021

    Baike.com,  5·31州油罐着火事故,  February  02,  2024

    M.163.com,  油罐火灾失达3872.1万元,事故期间火焰沸溢喷溅200,  September  14,  2021

    Anhuanjia.com,  河北应急管理公布州鼎睿石化5·31火灾事故调查报告,9人被追责,  September  14,  2021

    M.thepaper.cn, 中国骄 | 逆行:84小时火海鏖,  November  10,  2021

    Toutiao.com,  河北沧州南大港产业园区兴工区油罐着火周边疏散,  June  01,  2021

    Bilibili.com,   河北沧州鼎睿石化有限公司重油罐着火爆炸事故, April  10,  2024  


後 記: 2021年のタンク火災の事故ですが、メディアによる報道記事はたくさんありました。中国語記事では、インターネットの翻訳機能が役立ちます。それでも首をかしげるような訳が出てきます。そのような場合の対処方法は、中国語を英語に訳し、その英語を日本語に訳すという方法があります。中国語と英語は語順が似ており、日本語とは異なっているということを実感しました。ところで、今回は発災タンクの場所(地図)で悩みました。地図検索だけで二・三日は費やし、結局、悩んだ末にあきらめました。さすがにグーグルマップも中国の地図の詳細は取り込みが難しいのでしょう。中国地図である“高徳地図”をダウンロードしてみましたが、タンク配置のような地図はダメでした。


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