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Channel: 世界の貯蔵タンク事故情報
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米国ウィスコンシン州の製油所で爆発、貯蔵タンクが被災して火災、20名負傷

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 今回は、2018年4月26日(木)、米国ウィスコンシン州ダグラス郡スーペリアにあるハスキー・エナージー社の製油所で、流動接触分解装置が爆発し、金属片がアスファルトの貯蔵タンクに当たって穴が開き、火災となった事例を紹介します。
(写真はCbc.caから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のウィスコンシン州(Wisconsin)ダグラス郡(Douglas)スーペリア(Superior)にあるハスキー・エナージー社(Husky Energy)の製油所である。

■ 発災があったのは、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所である。スーペリア製油所の精製能力は50,000バレル/日である。製油所は、5年ごとの定期検査のため、4月30日(月)から運転停止して5週間の定期検査を準備しており、広範囲の開放工事を予定して多くの作業員が入構していた。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所付近  (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年4月26日(木)午前10時頃、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所で爆発が起こり、続いて、火災が発生した。現場からは有害な煙が大気中に放出された。

■ 最初の爆発が起きた後、金属片がアスファルトの貯蔵タンクの1基に当たって穴が開き、2度目の火災になった。タンク側板の穴の開いた箇所から真黒い液体が奔流となって落ち、数時間にわたって流れ出した。2回目の爆発が午後12時30分頃に起こった。その後、午後から複数回の爆発が発生した。
(写真はHuffingtonpost.comから引用)
■ 製油所から約1マイル(1.6km)離れたところにある店の主人は、「照明が3回ほど付いたり消えたりし、建物全体が揺れました」と語った。製油所から約2マイル(3.2km)離れたところに住んでいた夫婦は、爆発が起こったとき、家に車か何かがぶつかったと思ったという。犬が吠え始めた。犬と猫を抱きあげ、友人宅に避難し、最新のニュースを見ていたという。

■ この事故に伴い、少なくとも13名が負傷した。うち6名が病院へ搬送され、7名は現場で治療を受けたという。その後、5月1日(火)時点で負傷者は少なくとも20名いたことが分かった。

■ 事故が起こったのが午前中の休憩時間だったことは、不幸中の幸いだったといえよう。現場には、請負会社の多くの作業員が入構していた。

■ 製油所から半径5km圏内の住民に、また、煙が流れる南の方向では16kmの範囲に避難指示が出された。また、近隣の住宅、学校、病院に避難指示が出された。製油所は工業地区にあるが、北東側の2km以内に住宅地がある。このため、千人以上が避難し、3つの学校と1つの病院が予防措置として避難した。風下の南側は人があまり住んでいない地区だった。

■ 発災に伴い、消防署が出動した。消防署によると、火は午前11時頃に消えたと発表したが、現場ではなおも煙が出続け、火災が再び起こった。警察は避難した人のために、再点火したということをツイッターで公表した。警察は近くの道路の交通を遮断した。
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
■ 426日(木)の午後になると、火炎の勢いが増し、消火を試みることができなかった。消防隊は近隣のタンクに冷却水を掛け、火災が拡大するのを防ごうと試みた。消防隊員は火炎だけでなく、発火する恐れのある他のケミカル類や石油製品に関する危険性を考慮しなければならない。しかし、午後遅くなって約30名の消防隊員からは、十分な消火水と水圧が得られたと報告があった。その後、泡消火が試みられた。

■ 火災は、4月26日(木)午後6時45分頃、消された。しかし、熱い油が現場に残っており、別な火災の原因になったり、ほかの問題を生じる恐れがあるため、消防隊は27日(金)まで現場に残って監視を続けた。

避難指示解除で帰宅する住民
(写真はStartribune.comから引用)
■ 住民の避難指示は継続され、解除されたのは4月27日(金)午前6時だった。

■ 製油所でフッ化水素を使用しているために、住民を避難させることにつながった。このことはスペリオル市長が明らかにした。市長は以前からフッ化水素の代替物質を検討すべきという意見をもっていた。現場では、フッ化水素が爆発や火災に関係ないということを確認するのに、1時間ほどかかったという。
 米国の製油所では、ガソリンのオクタン価を上げるため、まだフッ化水素を使用しているところがある。フッ化水素は有毒ガスであり、長年警告が発せられてきた。公衆衛生センターの2011年報告書によれば、スーペリア製油所で使用されている量は、最悪の場合、180,000人が死や重大な人身傷害に至る恐れがあるという。

被 害
■ 流動接触分解装置の一部が損壊し、火災で焼損した。
 アスファルト貯蔵タンク1基が破片で損傷し、内部の流体が流出して火災となった。

■ 事故に伴い、20名以上が負傷した。

■ 住民が、火災の煙とフッ化水素の懸念のため、千人以上が約20時間避難した。実際の避難者数は分かっていない。

< 事故の原因 >
■ 発災の起点は流動接触分解装置の爆発によるものである。爆発の原因は調査中である。
 アスファルト貯蔵タンクの損壊は、装置の爆発のよって飛散した破片が側板に当たって貫通したものである。
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
(写真はEcowatch.comの動画から引用)
< 対 応 >
■ 米国環境保護庁は、現場まわりの大気(空気質)の状況の監視を行った。4月27日(金)朝の状況では、安全な状態であることを確認したという。

■ 米国化学物質安全性委員会(The U.S. Chemical Safety Board ; CSB)は事故調査を行うことととした。また、4月27日(金)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)は、調査のため4人のメンバーを派遣することとした。調査メンバーは、つぎのような点を焦点をおいて調査を行い、予備調査結果にもとづき、さらに調査を進める予定である。
 ● 物理的な証拠を収集して文書化。
 ●  製油所内と事故現場の撮影。
 ●  事故に関連する可能性あるのハスキー・エナジー社と請負会社の従業員への事情聴取。
 ●  事故当時に製油所内で実施される作業に関連する文書の入手。この中には、作業計画、安全計画、ハザード分析、安全分析を含む。
 ●  事故に関連していると疑われる機器の建設、保守、検査記録の入手。
 ●  事故時の緊急対応の有効性の検証。この中には、避難対応を含む。

■ 5月1日(日)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会は、最初の爆発が流動接触分解装置(13,000バレル/日)で起こったことを明らかにした。今後、なぜ流動接触分解装置が爆発を起こしたかを調べるため、金属分析を行う予定で、金属片について物理的性質と化学的性質が調べられる。

■ ハスキー・エナージー社は、5月4日(金)時点で、1,045通のクレームを受け取ったという。そのほとんどは、避難中に発生した経費や損失に関するものだった。ごくわずかであるが、傷害に関わるクレームもあるという。
(写真はFirehouse.comから引用)
(写真はDenver.cbslocal.comから引用)
                       事故後の状況   (写真はStartribune.com から引用)
飛散した破片
(写真は、左と中:Csb.gov、右:Superiortelegrarmcomから引用)
補 足
■ 「ウィスコンシン州」は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。 
 「ダグラス郡」(Douglas County)は、ウィスコンシン州の北西部に位置し、五大湖地域にあり、人口は約44,000人の郡である。
 「スーペリア」(Superior)は、ウィスコンシン州北西端に位置し、ダグラス郡の郡庁所在地で、人口は約27,000人の都市である。スーペリアには、ウィスコンシン州で唯一の製油所であるスーペリア製油所がある。
ウィスコンシン州ダグラス郡スーペリアにあるスーペリア製油所付近
(写真はGoogleMapから引用)
■ 「ハスキー・エナジー社」(Husky Energy Inc.)は、1938年に設立し、カナダのアルバータ州カルガリーを本社とする石油と天然ガスのエネルギー会社である。カナダを始め、世界で原油と天然ガスの探査、開発、生産などの業務に従事している。香港を本社とする多国籍企業のハチソン・ワンポア(Hutchison Whampoa Ltd.)の子会社のひとつである。2008年に中国海洋石油がハスキー・エナジー社の子会社の株式の50%を取得した。2009年、ハスキー・エナジー社は南シナ海で大型ガス田を発見している。

■ 「スーペリア製油所」(Superior Refinery)は、ハスキー・エナジー社が2017年にカルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ(Calumet Specialty Products Partners. LP)から買収して得た。精製能力は50,000バレル/日で、アスファルト、ガソリン、ディーゼル燃料、重油を製造する。当時の従業員数は180名である。製油所は、アルバータのオイルサンドと軽質のノースダコタのバッケン原油の両方を処理する。また、製油所には、2つのアスファルト・ターミナルと360万バレル(57万KL)の原油と石油製品の貯蔵タンクがある。
 なお、スーペリア製油所では、カルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ時代につぎのような事故を起こしている。

■ 「発災タンク」はアスファルト用で保温付き固定屋根式タンクであるが、仕様は分からない。グーグルマップによると、直径約28mであり、高さを10mと仮定すれば、容量は約5,800KLとなる。
               事故前の発災タンク(矢印)   (写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ この事故は流動接触分解装置の爆発に伴って、破片が隣接するアスファルトタンクの側板を貫通して火災になるという極めて珍しい事例である。プロセス装置が爆発して、貯蔵タンクが被災するという事例は、架空で想像したような筋書きであり、実際に起こりうるといことに驚く。少しでも破片の衝突がズレておれば、キズがつくにしても開口することはなかっただろう。

■ 流動接触分解装置のプロセスは、温度は高い(約430~540℃)が、圧力は低い(0.1~0.2MPa)装置であり、本体系装置の爆発ではないだろう。破片がタンク側板を貫通させるくらいの強烈な爆発力であり、2次装置の液化石油ガス(LPG)系などの異常によるものではないかだろうか。それにしても、破片の写真を見ると、配管ではなく、何かの機器で結構な大きさのものであり、脆性的な割れの様相が見られる。あるいは、製油所は定期検査のためのシャットダウンに入っており、非定常運転による要因が関係しているのかもしれない。事故調査には公的機関が入っており、明らかにされるだろう。

■ 事故対応の消防活動についてはあまり言及されていない。2015年のカルメット社時代の「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」では、公的消防と製油所消防の連携が良かったことが伝えられているが、今回は流動接触分解装置の爆発、アスファルトタンクの火災、フッ化水素の問題など考慮すべきことの多い事故だったので、現場では大変だったように思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Cbc.ca,  Fire Reignites at Husky Energy Oil Refinery in Wisconsin after Being Put Out,  April 27  2018
    ・Afpbb.com ,  米中西部の精油所で爆発・火災、6人負傷 住民に避難命令,  April  27,  2018
    ・Cbc.ca,  Officials Say 13 People Injured in Husky Refinery Fire in Wisconsin,  April 27  2018
    ・Reuters.com , Wisconsin Oil Refinery Fire Out, at Least 15 Hurt: Officials,  April 27,  2018
    ・Wdio.com,  Husky Receives 1,000 Claims After Refinery Fire,  May 04,  2018
    ・Mprnews.org,  Husky Energy Refinery Blast in Wisconsin: What We Know,  April 26  2018
    ・Theglobeandmail.com, Husky’s Wisconsin Refinery Fire Started in Gasoline Unit,  May 01,  2018
    ・Wpr.org,  Safety Board: Superior Refinery Explosion Happened In Fluid Catalytic Cracking Unit,  May 01,  2018
    ・Wbay.com ,  Fire is out at Superior oil refinery; evacuation order lifted ,  April 26,  2018
    ・Jsonline.com,  Fire Extinguished at Superior Oil Refinery after at Least 20 Were Injured in Explosions,  April  26, 2018
    ・Csb.gov,  Husky Energy Oil Refinery Investigation Update ,  May 02,  2018
    ・Csb.gov,  Husky Energy Oil Refinery Investigation Update ,  May 11,  2018
    ・Npr.org,  Emergency Evacuation Finally Lifted After Huge Oil Refinery Fire In Superior, Wis.,  April 27,  2018
    ・Superiortelegram.com,  CSB Issues update on Husky Energy Refinery Fire in Superior ,  May 15,  2018
    ・Denver.cbslocal.com , Explosion Rocks Wisconsin Oil Refinery; Entire City Could Be Evacuated,   April 26  2018
    ・Startribune.com, Wisconsin Gov. Scott Walker Inspects Damage at Refinery Blast Site,  April 30,  2018


後 記: 事故情報は多いのですが、はっきりしないことの多い事例です。米国では負傷者に敏感なはずですが、負傷者数は記事や日にちによって変わっています。20名としましたが、入構していた作業員のほかに住民がいるのかどうかがはっきりしません。また、事故の経過がはっきりしません。初めは原油またはアスファルトタンクが火災になったという情報でしたが、あとになって流動接触分解装置の爆発・火災が引き金になったことが報じられました。午前中に消火したという話や爆発が午後まで続いたという情報があり、事故の経過や消防活動がどうだったのかはっきりしません。
 ところで、ハスキー・エナジー社の経歴をみると、カナダの会社ですが、香港の多国籍企業ハチソン・ワンポアの子会社であり、米国のウィスコンシン州の製油所を買収したり、中国海洋石油がハスキー・エナジー社の子会社の株式の50%を取得し、ハスキー・エナジー社が南シナ海で大型ガス田を発見しているという話を聞くと、石油メジャーの姿が変わってきたなと感じますね。


東ソー南陽事業所の特別高圧変電所で感電事故

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 今回は、2018年4月6日(金)、山口県周南市にある東ソー南陽事業所の特別高圧変電所で起こった感電事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
周南市と東ソー南陽事業所の位置
(図はTosoh.co.jpから引用)
■ 発災があったのは、山口県周南市にある周南コンビナートの一社である東ソーの南陽事業所である。

■ 事故があったのは、東ソー南陽事業所の第3特高と呼ばれる特別高圧変電所である。
東ソー南陽事業所
(写真はTosoh.co.jpから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年4月6日(金)午前10時35分頃、南陽事業所において爆発音のような大きな異音が発生するとともに所内の一部が停電した。 

■ 東ソーによると、自家発電所(動力プラント)から各プラントに電気を送る特別高圧変電所で、電気が地面に流れ出る「地絡」が発生したという。発災当時、作業に当たっていた請負会社の男性(20歳)が感電し、全身やけどの重傷を負った。

■ 当時、変電所では4人が作業に当たっており、火傷を負った男性はボイラーの配電盤に関わる作業を行っていて、何らかの原因で通電していた箇所に接触し、感電したとみられている。男性は病院に搬送されたが、意識はあるということである。

■ 自家発電所は緊急停止に伴う安全装置が作動し、高圧蒸気を外に放出するため、一時的に大きな異音がおよそ1時間半にわたって鳴り響いた。電力供給を受ける関連プラントも安全に停止した。東ソーでは、この事故に伴う有害物質の漏れは無く、周辺住民に避難の必要はないという。

被 害
■ 人的被害として負傷者1名(感電による火傷)が発生した。

■ 物的被害や生産・出荷への影響は調査中(公表されていない)

■ 有害物質の漏洩はなく、環境への影響はない。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、男性の持っていた金属製メジャーが電線にある碍子(がいし)と呼ばれる部品に接触し、電気が地面に流れ出る地絡が発生した。

■ 事故の発生時には作業を監視する担当が不在で、東ソーは作業員への研修を徹底するなど再発防止に努めるとしている。

< 対 応 >
■ 4月10日(火)時点、東ソーは運転を停止していた構内にある15施設の稼働を再開したと発表した。残りの5施設も稼働準備中で、4月19日(木)に全面復旧するという。

■ インタ-ネットでは、東ソーで塩酸タンクが爆発したというフェイクニュースが流れた。

■ 東ソーは、5月14日(月)までに原因をまとめた報告書を経済産業省などに提出した。事故原因は、男性が持っていた金属製メジャーが、電線にある碍子と呼ばれる部品に接触したと推定している。事故の発生時に、作業を監視する担当が不在で、東ソーは作業員への研修を徹底するなど再発防止に努めたいとしている。  

補 足
■ 「周南市」は、山口県の東南部に位置し、人口約144,000人の市である。2003年4月「平成の大合併」で徳山市、新南陽市、熊毛町、鹿野町の2市2町のよる合併でできた新しい市である。1980年代後半から
周南地域における市町の合併機運が高まり、下松市、光市、田布施町、大和町を含めた大合併が模索されたが、結局、 2市2町による合併で終わった。周南市の主要産業は重化学工業であり、旧徳山海軍燃料廠から発展した石油コンビナート(周南コンビナート)が形成されている。
周南コンビナートの基本イメージ
(写真はShunan-marketing.jpから引用)
■ 「周南コンビナート」の先駆けは、戦前に日本曹達工業が進出し、その後、徳山曹達、現在の()トクヤマに名称を変更した。東ソーの前身となる東洋曹達は、日本曹達工業の工場長が退職して旧新南陽市に設立したもので、この2社が現在の中核2社となった。その後、徳山海軍燃料廠の跡地に出光興産が進出し、当時日本最大規模の徳山製油所の建設に着手し、周南石油コンビナート形成の口火を切ることになり、続いて、日本ゼオン徳山工場が操業を始めた。

■ 「東ソー株式会社」は、1935年に設立した総合化学メーカーで、本店は周南市にあり、苛性ソーダ、塩化ビニルモノマー、ポリウレタン、石油化学事業や機能商品事業などをコアとして事業展開している。南陽事業所は、単一工場としては日本最大規模となる敷地面積(300万㎡)と自家発電設備(825,000kW)を有し、周南コンビナートの中核をなしている。 
 なお、東ソー南陽事業所では、つぎのような事故がある。
東ソー南陽事業所の配置
(図はTosoh.co.jpから引用)
 高圧変電所などの「感電事故」は少なくない。例えば、関東東北産業保安監督部東北支部による平成27年度電気事故事例(感電等死傷事故)によれば、4件が報告されている。いずれも、感電の怖さをよく知る電気工事士による感電事故である。原因は、装着していた安全帯の一部が接触したり、デジタルカメラの先端が接触したり、他の作業に集中して通電中であることが頭から抜けてしまったりというあとから考えれば、単純なミスである。
 厚生労働省では、職場のあんぜんサイトで「労働災害事例」をデータベース化し、感電事故防止のための啓蒙に努めている。例えば、今回と似た事例としては「キュービクル(受電設備)の高圧盤内をのぞき込んだとき、6,600Vの高圧線に触れて感電」がある。この背景にあるのは、電気は見えないものであり、感電を実体験していないことからきていると思う。
 電気工事士の知っている感電の怖さはあくまでも知識上のものである。この点、YouTubeに「感電事故を合成する!」が投稿されている。このような疑似体験を通じて感電を怖さを知るのもひとつであろう。

所 感
■ 今回の事例は、貯蔵タンクの事故情報と関係はないが、久しく聞いていなかった感電事故が地元企業で起こったので、調べてみると、意外に感電事故は少なくないことを知った。
 今回は、男性の持っていた金属製メジャーが電線にある碍子(がいし)に接触したという。おそらく、何かの寸法を計測しようとしたものではないかと思う。感電の怖さを知る事例である。このようなある種善意の行動による事故は何としても回避しなければならないと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tosoh.co.jp,  南陽事業所における異音発生および感電事故について,  April 06,  2018
    ・Tysnewstime.jimdo.com, 山口県周南市・東ソー感電事故で1人重傷,  April 06,  2018
   ・Anzendaiichi.blog.shinobi.jp, 山口県周南市にある工場の変電所でボイラー配電盤の工事中、作業員が感電・・・,  April 06,  2018
   ・Tosoh.co.jp,  4/6(金)南陽事業所における事故後の生産再開状況について,  April  11,  2018
    ・Pujapan.com,  東ソー 南陽事業所で地絡・感電事故 1名負傷 全面復旧は4月19日,  April  12,  2018
    ・Yab.co.jp,  東ソー作業員の感電大けが事故で報告書提出,  May  16,  2018



後 記: タンク設備ではありませんでしたが、地元テレビで報道された感電事故というので、まとめることにしました。というのも、今回と類似の事例を知っているので、この種の人身事例を無くさなければならないという気がしたからです。当時火傷を負った本人の反省文は、迷惑をかけたこととともに、自分の経験をこれからの後輩に教えていくことを切々と語る心のこもったものでした。随分、昔のことですが、このことを思い出しました。今回の事例でも、被災者はまだ若い20歳の男性ですので、是非立ち直ってくれることを期待しますね。

 話は変わりますが、周南市は合併特例債によって徳山駅ビルに変わって今年(2018年)2月に周南市駅前図書館が完成し、Tsutaya運営の市立図書館や蔦屋書店、スターバックス、フタバフルーツパーラーができました。また、今年度には、市役所の新庁舎が完成します。周南市駅前図書館の評判は良いようですが、駅前のシャッター街になった町が活性化するかどうかは、これからの取組み次第でしょう。  
2018年に完成した周南市駅前図書館
写真は、左;Shunan.ekimae-library.jp 、右;Tabetainjya.com からの引用)
2018年に完成予定の周南市役所
(図はToshoken.comから引用)





石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名

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 今回は、2018年6月6日(水)、石川県白山市にある中川製紙㈱の製紙工場においてマシンチェストと呼ばれる溶剤タンク内で男性3名が死亡するという事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、石川県白山市にある中川製紙㈱の製紙工場である。中川製紙㈱は、色付段ボールや機能紙などの高付加価値の製品を製造している特長を有する会社である。

■ 事故があったのは、製紙工場の古紙再生プロセスのマシンチェストと呼ばれる溶剤タンクで、円柱状の高さ(深さ)約5m、容量は約80KLである。工場床の開口部(約50cm四方)からはしごで中に下りる構造である。
事故のあった中川製紙 松任(まっとう)工場の周辺
(図はGoogleMapから引用)
 <事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年6月6日(水)午前3時45分頃、中川製紙の工場で、「タンクに人が転落した」と消防署に通報があった。消防隊員が現場に駆けつけたところ、マシンチェストと呼ばれる溶剤タンク内で男性3人が倒れており、その場で死亡が確認された。

■ 死亡したのは、いずれも同社の従業員で57歳、49歳、27歳の男性3人である。当時、タンクに混入した異物を取り除くため、中に入った57歳の男性が倒れ、助けようとした49歳と27歳の男性次々に巻き込まれたとみられる。警察によると、タンク内で水や希硫酸を混ぜて粘土状になった古紙が詰まりを引き起こした可能性があるため、男性ひとりが中に入ったものの倒れ、その後、助けに入った男性ふたりも次々と倒れたという。工場は24時間稼働しており、三交代制のシフトを組んでいる。死亡した3人は6日午前0時から午前8時まで勤務する予定だった。

■ タンクは、古紙に水、希硫酸、マグネシウムを混ぜて溶かし、濃度を調整するものであったが、事故当時はタンク底に深さ約20cmの溶液が溜まっていた。

■ 現場に到着した消防隊がタンク内で硫化水素を検知した。消防が駆けつけた際、タンク内には、致死量の濃度を下回るものの硫化水素が発生しているのが確認されたという。

■ 強い雨が降る中、家族が慌ただしく駆け付けた。「何も状況が分からない」と従業員の家族は不安な表情で次々と工場に入っていった。警察官が現場を規制するなど周辺は物々しい雰囲気に包まれた。
 中川製紙の社長は、「基本はタンク内に入らないが、今回は何かの異常があったからだと推測している」と語っている。

■ 同社によると、従業員が中に入って作業することを想定しておらず、マニュアルを作成していなかった。ただ、従業員に立入りの禁止は指示していなかったとしている。

 被 害
■ 人的被害として死者3名が発生した。

■ 物的被害や生産・出荷への影響は不明。有害物質の漏洩はなく、環境への影響はない。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、硫化水素の発生した可能性のあるタンク内へ防護策をとらずに降りたため、硫化水素中毒、または溶剤が揮発したことによる酸素欠乏による死亡とみられる。また、この男性が倒れたのを見て、防護策をとらずに降りた男性2人も同様に硫化水素中毒または酸素欠乏による死亡とみられる。

■ 6月10日(日)、警察は、司法解剖の結果、3人の死因を急性硫化水素中毒と発表した。
(硫化水素は無色のガスで刺激臭があり、高濃度で吸うと意識混濁や呼吸マヒの症状が現れる)

< 対 応 >
■ 6月7日(木)、警察は安全管理を怠った疑いがあるとして業務上過失致死容疑で捜査に乗り出した。警察は中川製紙を家宅捜索した。中川製紙は、タンク内に入る際の安全マニュアルなどが無く、安全管理の不備を認めている。
 一方、金沢労働基準監督署は、今回の事故の原因が安全管理の不備など法律違反によって引き起こされた疑いもあるとみて調べを進めている。

■ 金沢市内の別の製紙業者は、「再生紙を作る工程でタンクに入る可能性はあり、その際には『送風機で酸素濃度を高める』などと定めたマニュアルを用意している」と話す。労働安全衛生法に基づいて酸素欠乏危険作業主任者を置き、安全性が確保されない場合は作業を中止するという。 

■ 北國新聞の6月8日(金)の社説では、「製紙工場で3人死亡 安全対策に不備なかったか」という題でつぎのように指摘している。
 ● 白山市の製紙工場で3人の従業員が死亡した事故は、安全対策の欠如が重大な結果を招くことを痛感させる。3人は再生紙の製造に使うタンクの中で死亡した。内部では硫化水素が発生していた可能性がある。タンクには、古紙や水とともに希硫酸が入っていた。他の製紙会社では、タンクの中で作業する際は事故が起きないように対策を講じているという。タンク内で発生した硫化水素が原因で死亡事故に至った事例は過去にもある。それなのに、今回の事故を起こした中川製紙の社長が硫化水素の危険を認識していなかったと述べたのは、なぜなのだろうか。

 ● 3人の死亡を受けて、石川県警は業務上過失致死容疑の捜査を本格化させた。金沢労働基準監督署は労働安全衛生法違反の観点から調べている。事故を防げなかったのはなぜか。安全対策に不備はなかったのか。事実と原因の徹底解明が求められている。

 ● 危険なタンク内で作業を行うときは、酸素欠乏危険作業主任者の資格保有者が指揮し、安全に配慮するように法などで定められている。中川製紙によると、事故発生時に、この資格を持つ従業員は現場にいなかった。タンク付近に有毒ガスの感知器はなく、作業マニュアルも作成されていないという。安全意識が足りないと言わざるを得ない状況である。中川製紙では、1995年にも段ボールの原料液を混ぜる装置で死亡事故が発生している。当時の教訓が事故防止に生かされなかった背景を調べて、再発を防ぐ必要がある。

 ● 石川県内では労働災害で毎年10人前後が亡くなっている。2017年は死傷災害が前年比で増加に転じており、労災防止は重要な課題になっている。製造現場の人手不足が深刻なときに、安全対策を拡充するのは簡単でないかもしれない。化学物質を扱う事業場では、有害性の認識と危険回避の対策がどこまで進んでいるのだろうか。石川労働局は製造現場の実態把握に努めて、労災防止策の実効性を高めてほしい。今回の事故で浮かび上がる課題を検討して、対策を強化する必要がある。 

補 足
■ 「白山市」(はくさん)は、石川の南部に位置し、人口約11万人の市である。2005年、松任市(まっとう)など1市2町5村が合併してできた。金沢市の南部に隣接するため、ベッドタウンとして人口が急増し、住宅都市化が進むとともに、工業都市としても急成長している。

■ 「中川製紙株式会社」は、1937年創業、1952年設立され、現在、従業員約70名の特殊製紙会社である。段ボール、雑誌、新聞紙などの紙を溶かし、不純物を取り除き、新たな紙となる原料を作っていき、顧客からの要望に応えるために、求められる風合い、機能、強度等の紙質確立のため、実機での試験抄造を行い、求められる産業用特殊紙を生み出す会社である。
中川製紙の製品の例
(写真はNakagawa-paper.co.jp から引用)
■ 中川製紙の「製紙工程」は、古紙原料に含まれる異物を精選除去し、古紙パルプを製造する「原質工程」と精選された古紙パルプから段ボールライナーを製造する「抄紙工程」の2つがあり、同社のウェブサイトに掲載されている。事故のあった「マシンチェスト」の位置が書かれていないが、おそらく、パルパー、サイクロン、スクリーンを通った後のタンクと思われる。事故のあったタンクは、高さ(深さ)が約5mで、容量が80KLとあり、これから直径は約4.5mの大きさである。
 製紙業界では、パルパーやスクリーン等の各装置から板紙原料とならない粕(PS)の発生が課題のひとつである。また、色ライナーを製紙する際、色違いや原料・マシントラブルによって製品にならず、その間に使用される原料や染料がロスとしてカウントされるので、色の調整や色合わせをすることなく、初回で製品ができたときは従業員のやりがいに通じることになるらしい。
中川製紙の原質工程
(図はNakagawa-paper.co.jp から引用)
近代の製紙工程の例
(図はSlideshare.netから引用)
■ 「マシンチェスト」内における硫化水素による人身事故は、つぎのような事例がある。
 ● 「タンクの清掃時における硫化水素中毒」(マシンチェスト内の状況は図を参照)
 この事例では、最初に入った人は硫化水素で亡くなったが、倒れている人を発見した人は、換気を行い、酸素濃度を確認した後、ロープで引き上げ、2次災害を回避できた。この事例でも、酸素欠乏危険作業主任者の職務が履行されていなかった。
マシンチェストにおける人身災害事例
(図はAnzeninfo.mhlw.go.jpから引用)
所 感
■ 今回の事例は、善意の行動が裏目に出た事例である。本来であれば、前工程のスクリーンやサイクロンで取り除かれているべき異物(紙詰まり)が発生したため、次工程で支障になるので、タンク内に入って除去しようと考えたのだろう。使用される原料や染料がロスとしてカウントされるという経営的判断が働いたと思う。このような改善意欲は日本人によく見られ、これが最初の善意の行動である。
 そして、2番目の善意の行動は、最初に倒れた人を助けようとして、すぐに入った2番目・3番目の人の行動である。深さ20cmとはいえ、内部に液が溜まっている状態であり、とにかく、急いで助けなくてはならないという思いで行動したのであろう。

■ しかし、換気が十分でない高さ(深さ)約5mのタンク内へ降りるという行動は、酸素欠乏危険作業であるという認識があれば、躊躇(ちゅうちょ)しただろう。少なくとも、2番目・3番目の人身災害は回避できていた。事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 
■ 今回の事故では、「危険予知活動」と「報連相(報告・連絡・相談)による情報を共有化」が行われていれば、事故は回避できていただろう。しかし、タンクへの入槽作業に関するマニュアルが無かった点をみると、基本である「ルールを正しく守る」ことができない状況のようである。この観点でみれば、北國新聞の社説で指摘されているように、まず、「ルールを正しく守る」ことに焦点を当てる方がよいと思う。
 ● タンク内ヘの入槽作業のマニュアル化
 ● 硫化水素の発生の恐れ
 ● 酸素欠乏危険作業主任者の配置

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Mainichi.jp,   石川 製紙工場、溶剤タンクで作業員3人死亡,  June  06,  2018
    ・Sankei.com , 石川・溶剤タンク3人死亡、未明の事故に家族「何も状況分からない」と不安,  June  06,  2018
    ・Hokkaido-np.co.jp , 立ち入り作業のマニュアルなし 製紙工場タンク死亡事故、石川,  June  06,  2018
    ・News.tbs.co.jp,   石川・白山の製紙工場の溶剤タンクで男性従業員3人が死亡,  June  06,  2018
    ・Asahi.com, 製紙会社の工場で男性3人死亡 タンクに転落か,  June  06,  2018
    ・Nhk.or.jp, 製紙会社のタンク内で3人死亡 石川 白山,  June  06,  2018
    ・Hokkoku.co.jp,  今日の社説「製紙工場で3人死亡 安全対策に不備なかったか」 ,  June  08,  2018
    ・Ishikawa-tv.com,   製紙会社事故 業務上過失致死で捜査,  June  07,  2018
    ・Mainichi.jp , 白山の製紙会社転落事故 3人死亡 業過致死疑いで捜査 白山署が見分 ,  June  08,  2018
    ・Asahi.com,  3人の死因は急性硫化水素中毒 石川の製紙工場事故,  June  10,  2018


後 記: 今回の事故の情報を調べていると、報道によって少しづつ内容に差があり、すべてをつなぎ合わせると、見えてくるものがありました。マシンチェストという製紙業界の言葉を使っているところは一社のみでした。しかし、この用語をきっかけに調べてみると、分かったことは多いものでした。また、事故発生から二日間は、発災事業所のウェブサイトが開けませんでした。事故関係で開けないのかと思っていましたが、どうやらそうではないようです。開いたウェブサイトでは、事故の話はもちろん、最新の情報が昨年7月のものであり、改訂されていないと分かりました。それでも、製紙工程などの情報を知ることができました。警察が業務上過失致死容疑で捜査し始めたとあり、発災事業所からの情報公開は望めそうもないので、不明な点がありますが、一旦区切りをつけてまとめることとしました。

米国ペンシルバニア州のタンク・ターミナルで配管火災

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 今回は、2018年6月7日(木)、米国ペンシルバニア州カンバランド郡ハンプデンにあるゼニス・エナージー社のメカニクスバーグ・ターミナルで起こった配管の火災事故について紹介します。
(写真はCbc.caから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のペンシルバニア州(Pennsylvania)南部のカンバランド郡(Cumberland County)ハンプデン(Hampden Township)にあるゼニス・エナージー社(Zenith Energy)のメカニクスバーグ・ターミナル(Mechanicsburg Terminal)のタンク施設である。

■ 発災があったタンク施設は、ウェズリーとシャイマンズタウンの間のシンプソン・フェリー通りにある。施設にはタンクローリー・ステーションが4基あり、ガソリン、軽油、暖房油をハリスバーグ市場に出している。貯蔵タンクは7基あり、貯蔵能力は378,000バレル(60,100KL)である。
   ゼニス・エナージー社のメカニクスバーグ・ターミナル付近 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はWgal.comから引用)
■ 2018年6月7日(木)午後12時15分頃、メカニクスバーグ・ターミナルのタンク施設で火災が起きた。

■ 施設の従業員がガソリンを配管を通じてタンクから別なタンクに移送していたときに、火災が起こった。  当時、作業員が呼び径10インチの配管(パイプライン)のメンテナンスを行っていた。

■ 事故発生に伴い、消防署に通報が入り、消防隊が現場に出動した。消防隊は8台の消防車、2台のはしご車、1台の救助車で出動するとともに、カンバランド郡とダフリン郡からハズマット隊(HazMat)が出動した。このほか、カーライル陸軍施設とハリスバーグ国際空港の消防隊が出動した。空港消防隊は空港用化学消防車を待機させ、もしもタンク本体に延焼する事態になったら、消火用泡放射を行い、支援する体勢をとった。

■ 消防隊は、火災になった配管に隣接するタンクへの冷却に注力した。

■ およそ1時間の活動の後、火は消防隊によってその日の午後に消された。しかし、消火後も、ガソリンが配管の近くで漏れ出ていた。ハズマット隊(HazMat)が漏れを構内に限定させようと努めた。消火した後も数時間、消防隊は現場に待機し、タンクへの注水を行い、泡消火剤の補給を行った。

■ 事故に伴うけが人の発生はなかった。また、構内から避難する必要はなく、住民への危険も無かった。漏洩による水源への汚染はなかった。

■ ゼニス・エネルギー社は、関係するパイプラインを停止するとともに、ターミナルの操業を中止した。

■ 道路はウェズリー・ドライブとシーリー・レーンからラップ・アベニューまでの間、閉鎖されており、この地域で大きな交通マヒを引き起こした。

被 害
■ 呼び径10インチのガソリン配管が焼損した。付近の配管などの設備も被災しているが、損害状況は分かっていない。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。避難した住民もいない。

■ タンク・ターミナル前の公共道路が閉鎖され、交通マヒが起こった。。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は分かっていない。調査には、数週間かかるとみられている。
(写真はPennlive.comから引用)
(写真はWgal.comから引用)
          待機する空港用化学消防車  (写真はPennlive.comから引用)
(写真はPennlive.comから引用)
< 対 応 >
■ 火災対応に出動した消防隊員など緊急対応人員は約70名だった。
  
■ ゼニス・エナージー社の広報担当は、「ハンプデン消防署、地方警察、その他の自治体当局に対して迅速な火災の消火に感謝を申し上げる。また、道路閉鎖による交通マヒによって車のドライバーに多大な迷惑をお掛けしたことを陳謝します」と語った。

■ 同タンク・ターミナルでは、2013年7月、家庭用暖房油で満杯の200万ガロン(7,560KL)タンクが落雷によって壊れた事例がある。この事故では、環境災害を回避するため、損傷タンクから燃料油を排出した。そして、約300人の人々が4時間にわたって自宅から避難した。
                 20137月のタンク事故 (写真はLowerallenfire.comから引用)
補 足 
米国におけるペンシルバニア州の位置
(図はNizm.co.jpから引用)
■ 「ペンシルバニア州」(Pennsylvania)は、米国の北東部に位置する州で、人口約1,270万人である。 
 「カンバランド郡」(Cumberland County)は、ペンシルバニア州の中央部南に位置し、人口約235,000人の郡である。
 「ハンプデン」(Hampden Township)は、カンバランド郡(Cumberland County)にある町で、人口は28,000人である。

■ 「ゼニス・エナジー社」(Zenith Energy Inc.)は、北米、欧州、中南米においてタンク・ターミナルを有する石油物流会社である。タンク・ターミナルは自社で建てるほか、購入することが多く、現在、世界で24箇所のタンク・ターミナルを所有している。
 ハンプデンには、16エーカーの土地に貯蔵能力378,000バレル(60,100KL)のメカニクスバーグ・ターミナルを保有している。タンク・ターミナルはガルフ・オイルからアークライト・エナージー社へ売却され、さらに最近、ゼニス・エナジー社が購入したものである。
 発災場所に隣接するタンクは、グーグルマップによると、直径約13mと直径約22mの2基である。それぞれ、高さを約15m、約26mと仮定すれば、両タンクの容量は2,000KLクラスと10,000KLクラスとなる。
         メカニクスバーグ・ターミナルの発災場所付近 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ 今回の事故は、ガソリンタンクのパイプライン関連の配管事故である。施設の従業員がガソリンをタンクから別なタンクに移送していたときに、火災が起こったという一方、作業員が呼び径10インチの配管(パイプライン)のメンテナンスを行っていたという。この両者の作業が関連しているかどうかは分からない。いずれにしても、人為的なことが関係していると思われる。また、タンク・ターミナルは、最近になって2度も経営者が変わって おり、事故の背景になっていることも考えられる。

■ 消防活動がどのように行われたか詳細には分からないが、発災現場から約20km離れたところにあるハリスバーグ国際空港の空港用化学消防車を待機させたのは、適切な判断である。結局、配管の火災だけで済んだので、無駄な待機だったと言えるが、事故では、最悪の事態を想起しておくことが必要である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Abc27.com,  Fuel Tank Fire Extinguished in Hampden Township,  June 07  2018
    ・Fox43.com ,  No Injuries Reported after Fire at Energy Facility in Cumberland County,  June 07  2018
    ・Pennlive.com,  Fire at Cumberland County Fuel Facility,  June 08,  2018
    ・Hazmatnation.com,  Pennsylvania Crews Battle Fuel Storage Fire ,  June 08,  2018
    ・Cumberlink.com ,  Crews Quickly Control Fire at Fuel Storage Facility in Hampden Township ,  June 07  2018
    ・Wgal.com,  Fuel Storage Tank Catches Fire in Mechanicsburg,  June 07  2018
    ・Firedirect.net , USA – Large Fire At Fuel Storage Facility – Updated,  June  11,  2018



後 記: 最近、感じていることは、米国の事故情報は速いのですが、内容が伴っていないというか、正しい情報ではないことが多くなってきたように思います。その要因はふたつあると思います。ひとつはインターネット情報のため、速さを競うのではないかと思います。もうひとつは、報道関係の人員が減っているのではないかと思います。このため、読み手のことを考えるのではなく、速ければよいという風潮になっているのではないでしょうか。例えば、今回の事例でいえば、消防活動時間が報道によってバラバラです。数時間かかったというものから8分で消火したというものまで、いろいろです。発災時間(消防への通報時間)については記載がありますが、消火時間について書かれたものはありませんでした。このブログを書く立場からすれば、悩みの多い状況ですね。


佐賀県の温泉施設で燃料タンクから流出

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 今回は、2018年6月13日(水)、佐賀県多久市の温泉保養宿泊施設「タクア」でボイラー室の燃料用の重油タンクから重油が流出した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
温泉保養宿泊施設「タクア」
(写真はNhk.or.jpから引用)
■ 発災があったのは、佐賀県多久市の公設民営の温泉保養宿泊施設「タクア」(Taqua)である。

■ 事故があったのは、施設にあるボイラー室の燃料用の重油タンクである。
事故のあった温泉保養宿泊施設「タクア」の周辺
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年6月13日(水)午後3時45分頃、タクアの燃料タンクに給油中、重油があふれ出て、構外に流出したという施設の従業員から通報があった。また、午後4時頃、市民から立山橋付近で油流出との電話連絡があった。

■ 午後4時10分、現場に出動した消防が油流出を確認した。重油は近くを流れる山犬原川(やまいぬばる・かわ)に流出し、中通川(なかどおり・がわ)に合流する下流約3kmの東鶴橋付近まで達した。

■ 午後4時30分、多久市は河川にオイルフェンスの設置を開始し、前田地区・山犬原地区の水田への取水を控えるよう依頼した。市などでは、流域約3kmにわたってオイルフェンスを17箇所設置し、吸着マットを使用するなどの対応を行い、市や佐賀県、施設の運営会社が重油の回収を進めている。

■ 近くの住民は、「重油の臭いがひどくて、家の窓も開けられなかった。川も油で黒くて、底が見えない状態だった」と話している。

■ 消防によると、佐世保市の燃料配送業者が同日午後2時30分頃から施設のボイラー室の燃料用タンクへ給油をしていたところ、タンクの油量計の値の異常に気付き、燃料タンクの上部にある通気管から重油があふれ出ているのを見つけて通報したという。

■ 流出した重油量は約8,000リットル(8KL)である。多久市は川の水を農業用に取水しないよう呼びかけたが、水田1箇所に油が広がっているのが確認された。6月15日(金)時点で、水田約4・5ヘクタールで油膜が確認された。
                オイルフェンス設置状況    (図はCity.taku.lg.jpから引用)
被 害
■ 人的被害は無かった。

■ 環境汚染として約8,000リットルの重油が川へ流出した。このため、油回収が行われている。吹き出た部分が砂利であったため、相当量は地下にしみ込んだ。 

< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因は、満杯であった地下式タンクに圧送によって重油を強制的に注入したため、高さ4mの通気管を通じて約8,000リットルの重油が流出した。間接原因としては、タクア従業員間の連絡不足が指摘された。

■ 6月15日(金)の多久市の対策本部において、つぎのように報告された。
 ● 重油配送業者が地下式タンクへ給油する際(給油口とタンクは離れているため目視できない)、自然圧で注入(通常運転)していたが、依頼された量(9,000リットル)の重油が入らなかったため、圧送により注入を行った。地下式タンクの場合、通常は圧送による注入を行う事はないが、高低差がある場合は、圧送する場合がある。
 ● 給油をする際は、双方の危険物取扱者の立会が義務づけられているが、タクア側は不在であった。
 ● タンクは前日の6月12日(火)に減っていたため、タクア社員が他のタンクから補給を行い、満杯状態であった。しかし、タクア社員同士の連絡が行われておらず、タンクにはほとんど注入できない状況であったが、重油配送業者へタンクへの9,000リットルの重油を注入するよう依頼した。
 ● その結果、圧送したことによって通気管(高さ4m)から重油が流出した。
 ● 佐賀広域消防局によるこれまでの調べでは約8,000リットルが漏れており、その一部が雨水排水の側溝を通り、県河川の山犬原川に流出した。また、吹き出た部分が砂利であったため、相当量が地下にしみ込んだと思われる。

< 対 応 >
■ 温泉施設タクアは、「早急に実態を把握して誠心誠意対応に当たりたい」とコメントを発表している。

■ 6月13日(水)午後5時、多久市は関係機関(武雄河川事務所、佐賀土木事務所、佐賀中部保健福祉事務所)へ緊急連絡した。また、午後6時40分、市は農業用水への影響を現地確認した。

■ 6月14日(木)午前8時10分、多久市は、下流域の高木川内、砂原、下鶴、撰分、宮ノ浦、石州分の6地区生産組合長に油流出事故を伝え、水田への取水を控えるよう依頼した。

■ 6月14日(木)午後3時、多久市は対策本部を設置して、第1回の対策会議を開催した。
佐賀県も14日(木)に情報連絡室を設置した。

■ 6月14日(木)夜、地元住民を集めた会合に運営会社のタクアの社長らが訪れ、事故について謝罪した。油の流出は業者による人為的なミスが原因だったと語った。タクアの社長は、「いろんなミスが重なって事故が起きたのは、我々にとって大きなダメージです。地域の住民にも期待を裏切ったのは非常に反省すべき点です」と語った。

■ 6月15日(金)午前10時10分、多久市は油流出事故の第2回対策会議を実施した。参加したのは、 多久市(23人)、佐賀広域消防局(3人)のほか、国土交通省(4人)と佐賀県(8人)である。会議では、事故原因の報告、対策の検討、河川流出の油除去方法、水田への対応、地下水対策、広報について協議が行われた。

■ 6月15日(金)、多久市は、事故で水田への取水を控えるように伝えていたが、同日午後7時から8地区すべてで取水できるようになった旨の報告をした。(8地区:前田、山犬原、高木川内、砂原、下鶴、撰分、宮ノ浦、石州分) なお、8地区には、水稲管理情報を提供している。

■ タクアでは、漏水工事などの影響で全面開業が7月8日(日)に延期されていたが、6月15日(金)に予定していた報道機関向けの内覧会は中止するものの、6月19日(火)のプレオープン、7月8日(日)の開業に変更はないという。

■ 6月16日(土)、多久市は、午前10時から第3回の対策会議を開催した。対策の実施状況および今後の対応を協議した結果、会議後、県管理河川の山犬原川の油除去作業の現地を確認し、午後1時から本格的な油除去作業を実施することとした。
 この対策を受け、前日午後7時以降、水田への取水を可能としていた流域8地区のうち、前田、山犬原地区については、6月16日(土)午前7時から再び水田への取水を控えるよう伝えた。今後、作業区域が下流側へ進むことから、作業により取水可能となる地区、一時的に水田への取水を控えるよう依頼する地区が発生する見込みだという。
(写真はSaga-s.co.jpから引用)
補 足 
佐賀県多久市の位置
(図はTaku-kankou.comから引用)
■ 「多久市」(たく・し)は、佐賀県中央部に位置する人口約19,000人の市である。消防は佐賀県中部広域連合佐賀広域消防局が所轄する。

■ 「タクア」(Taqua)は、2007年に閉鎖した「ゆうらく」を多久市が19億6,300万円をかけて改修、㈱長崎環境美化のグループ会社が運営する温泉保養施設である。なお、長崎環境美化は、側溝および暗渠清掃・貯水槽等の各種清掃、産業廃棄物・特別管理産業廃棄物等の収集運搬を専門とする会社である。。
 「タクア」は6月19日(火)にプレオープンし、7月8日(日)に開業する予定である。季節を問わずに利用できる温水プールや大浴場、ビュッフェ形式のレストランのほか、式典や披露宴などで利用できるホールを完備し、年間10万人の利用を目指すとしている。大浴場やプールなどを備えた本館と宿泊棟があり、延べ床面積は14,650㎡である。客室は、標準的な広さの和室と洋室、広めの和洋室の3タイプで、最大155人を収容できる。駐車場は460台分を確保している。
 レストランは九州の旬の食材を使った創作料理を提供する。宴会向けの会席料理は、長崎県の老舗ホテルの元料理長が手掛ける。メインのプールは流水式でジェットバス、水深が浅い子ども向けもある。カフェやバーのほか、宴会場やカラオケルーム、エステサロン、ゲームコーナーがある。県内をはじめ、福岡や長崎など北部九州を中心に家族やグループ、ツアー客の利用を見込み、売上高は年間5億円を目指す。

■  一方、タクアは開業の問題点が続いている。
 ● 2017年11月、漏水で運営めど立たず、雇用契約先送り
  2017年11月13日、タクアが11月上旬に予定していた入社式を延期し、約20人との雇用契約を先送りしていることが分かった。施設地下室の漏水対策に関し、「市側の対策が不十分で運営開始のめどが立たない」と採用者に説明している。延期期間は明確にしていないという。
 関係者によると、入社予定者は運営管理業務などを担う。2017年10月17日付で採用者宛てに「入社日等のご案内」として11月1日午前10時からタクア内のホールで開催すると明記していた。実際に面談に訪れた40代の男性は、同社幹部から漏水の件を初めて聞かされ、「市から回答を待ち、後日連絡する」と雇用契約は先延ばしされた。多久市は、漏水について2017年10月の施設引渡し書に「引き続き、対策に応じる」と盛り込んでいた。10月13日の市議会勉強会で現状を報告、本格的な修理に向け工法など対応策を練っていると説明した。

● 2017年11月、宴会予約のキャンセル2,000人分
 2017年11月15日、タクアは、2017年12月以降の宴会予約のキャンセル通知を始めたことが分かった。タクアと親会社の長崎環境美化は、2017年9月の記者会見で、「2018年2月中にグランドオープンしたいが、忘年・新年会は12月から始めたい」と説明していた。しかし、予約キャンセルは30数件2,000人分とみられ、市に「同窓会を予定していたが、できなくなった」など、市民から戸惑いの声が上がっていた。タクアから、理由は説明されず「2,000人分の予約は全てキャンセルする」とだけ言われたという。市内の経済関係者は、「従業員がなかなか集まらず、漏水対策が進まない中で運営の見通しが立たなくなり、(宴会の)サービスの提供ができないと判断したようだ」と語る。多久市の担当課は、タクア側から予約キャンセルの説明があったと認め、「推移を見守る」とコメントした。 

● 2018年3月、多久市長、タクアの問題で減給4か月
  2018年3月30日、多久市議会は、タクアの事業費増額に対する市長の処分案について、議員が修正を動議し、2分の1の減給期間を原案より1か月間加重した修正議案を賛成多数で可決した。修正動議をかけた議員は「整備事業費について18億円の上限額を定めたにもかかわらず、約1億5千万円の追加工事と休業中の営業補償費(4,880万円)を派生させ、多額の公費を支出した責任は重い」と説明した。市長は、議会後の記者会見で、「議会の決定を重く受け止め、事業を推進したい」と頭を下げた。

● 2018年3月、内定取り消し者を採用、7月8日開業へ 
 2018年3月31日、 市議会が延期中の補償費4,880万円を盛り込んだ一般会計補正予算案の可決を受け、市側とタクアは覚書を交わす。昨年秋以降、漏水策の追加工事もあり、不透明になっていた開業時期が7月8日と決まった。事務職やホールスタッフなど従業員の募集はすでに始め、2017年11月に内定を取消された調理師ら49人に対しては「優先して採用する」として31人が雇用に応じているという。
 昨年9月にフランス料理から日本料理に変更した食堂は、長崎やハウステンボスに向かう観光客の昼食場所を目指す計画だという。4月中旬から宿泊や宴会などのインターネット予約の受付けを始めるほか、5月から従業員の研修を本格化させ、6月中旬には、市内の法人関係者や各種団体向けにプレオープンする予定であった。

所 感
■ 今回の事例は、地上式タンクと地下式タンクの違いはあるが、過充填による油流出事故である。近年、地上式タンクでは、過充填による油流出事例として、つぎのような事例がある。
 これらの事故はガソリンであったため、蒸気雲爆発を伴い、甚大な被害を出し、大きな教訓を残した。事故を契機に、API(米国石油協会)は、リスク・アセスメントに基づき「タンク過充填防止の規格」(API Std 2350)を改訂することになった。

■ 今回の事例を、失敗を防ぐために必要なつぎの3つの要素の観点で見てみる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
● タンクへの給油法についてのルールがあるのか曖昧である。給油は、双方の危険物取扱者の立会が義務づけられているが、施設側は立会者が不在でいなかった。まして、給油口とタンクが離れているため目視できないような状態であり、どのような方法で安全を確保しようとしていたか不明である。
● 重油配送業者は、通常、自然圧で注入していたが、重油が入らなかったため、圧送により注入を行ったという。おそらく、短時間で給油を終わらせようと考えたようで、ここには危険予知活動を行う意識はみられない。一方、施設側には、給油を重油配送業者に任せっきりで、給油に関する危険予知が感じられない。
● 施設側では、他のタンクから補給を行い、当該タンクは満杯状態であったのもかかわらず、社員同士の連絡が行われていなかった。どのような方法で他のタンクから補給を行ったか、またその結果をどのように社内で情報を共有化していたかが分からない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Saga-s.co.jp,   多久市の温泉宿泊施設から重油流出,  June  14,  2018
    ・Sagatv.co.jp , 多久市の温泉施設から重油9000L流出,  June  14,  2018
    ・Www3.nhk.or.jp , 多久市の温泉施設から重油流出,  June  14,  2018
    ・Asahi.com,  9千リットルの重油漏れ、川に一部流出 佐賀の温泉施設,  June  15,  2018
    ・Mainichi.jp, 重油漏れ 多久の温泉施設 川に流出 水田1箇所に油,  June  15,  2018
    ・City.taku.lg.jp, 平成30年6月13日発生油流出事故対策本部(第2報)事故の状況など確認できた内容をお知らせします,  June  15,  2018
    ・City.taku.lg.jp, 平成30年6月13日発生油流出事故対策本部(第3報)水稲管理情報,  June  15,  2018
    ・City.taku.lg.jp, 平成30年6月13日発生油流出事故対策本部(第4報)本格的な油除去作業を実施,  June  16,  2018
    ・Saga-s.co.jp , タクア重油流出8キロリットル 多久市、対策本部を設置 周辺農家に注意喚起,  June  15,  2018
    ・Mainichi.jp, 多久の温泉施設 川に流出 水田1箇所に油,  June  15,  2018
  ・Mainichi.jp, 従業員の連絡不足が原因 タクア,  June  16,  2018 
    ・Sagatv.co.jp , 多久の温泉施設“油流出”社長が謝罪,  June  15,  2018
    ・Saga-s.co.jp , 「タクア」19日プレオープン 7月8日本格開業  多久市の温泉保養宿泊施設,  June  13,  2018
    ・Saga-s.co.jp , タクア、宴会予約をキャンセル通知 2000人分  多久市民困惑「同窓会できない」,  November,  17, 2017 
    ・Saga-s.co.jp , タクア7月8日開業へ 内定取り消し者を採用  温泉保養宿泊施設,  March  31,  2018
    ・Saga-s.co.jp , 「タクア」雇用契約先送り 漏水で運営めど立たず,  November,  14, 2017
    ・Saga-s.co.jp , 多久市長、「タクア」で減給4カ月に  処分案、加重修正し可決,  March  31,  2018



後 記: 今回の事故の第一報を聞いたときには、円筒タンクの過充填による溢流であり、タンク液面の計装に問題があると思いました。調べてみると、地下タンクであることが分かり、少し状況が違うと感じました。多久市から本事故に関する情報が公開されていることが分かり、読んでみて驚きました。起こるべくして起こったという印象です。施設は改修してオープン前で、いろいろやることが多くて、忙しいことは理解できますが、大丈夫かなと思いました。さらに、調べてみると、施設は漏水問題で追加工事が発生し、雇用契約や宴会のキャンセル問題などが昨年から続いていました。観光に力を入れることは分かります。円滑な経営には、失敗を防ぐために必要な3つの要素を取り入れ、気を引き締めてかかる必要があるでしょう。

米国コロラド州のタンク施設で落雷による火災

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 今回は、2018年6月18日(月)、米国のコロラド州ウェルド郡にあるNGLエナージー・パートナーズの油井用のタンク施設で起こった落雷によるタンク火災事故を紹介します。
(写真はHazmatnation.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のコロラド州(Colorado)ウェルド郡(Weld County)にあるNGLエナージー・パートナーズ(NGL Energy Partners)の油井用のタンク施設である。

■ 発災があった施設には、6基のタンクがあった。タンク施設は、郡道51号線と53号線の間の郡道16号線沿いにあり、ハドソンとキーンズバーグの間で、デンバーから北西に約40マイル(64km)のところであった。
郡道51号線と53号線の間の郡道16号線沿い周辺
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真は9news.comから引用)
■ 2018年6月18日(月)午後10時20分頃、油井用施設のタンク1基に落雷があり、大きな爆発音が鳴った。

■ 落雷とともにタンクは火災となり、すぐに隣接するタンク2基に延焼し、制圧されるまで火災は数時間続き、19日(火)朝まで続いた。

■ 発災とともに近くの消防署が現場へ出動した。消防隊は火災を限定的に封じ込めようと、消防活動を行った。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。

被 害
■ 油井用のタンク施設が3基以上が焼損した。被災写真によると、5基が被災しているが、詳細な損害状況は分かっていない。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は落雷による爆発・火災である。

< 対 応 >
■ 火災対応に出動した消防隊員など緊急対応の人員は分かっていない。
(写真はFox4kc.comから引用)
(写真はFox4kc.comから引用)
(写真はFox31.comから引用)
補 足
米国におけるコロラド州の位置
(図は1.bp.blogspot.comから引用)
■ 「コロラド州」(Colorado)は、米国西部に位置し、州の南北にロッキー山脈があり、州全体の平均標高が全米で一番高い山岳地帯の州である。人口は約500万人で、州都および最大都市はデンバーである。コロラド州は石油・天然ガス資源に恵まれており、オイルシェールの埋蔵量は石油換算で1兆バーレルとされているほか、石炭(瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭)もかなりの埋蔵量が見つかっている。
 「ウェルド郡」 (Weld County)は、コロラド州北東部に位置し、比較的平坦な地域にあり、人口約25万人である。
 ウェルド郡では、近年、洪水による石油タンク施設から油流出の事故があった。

■ 「NGLエナージー・パートナーズ」(NGL Energy Partners)は、石油・天然ガスの生産・貯蔵・輸送、プロパンガスの販売などを行なうエネルギー会社で、本社はオクラホマ州タルサにある。
 なお、NGLエナージー・パートナーズでは、コロラド州ウェルド郡で傘下のNGLウォーター・ソリュージョン社の天然ガス生産関連施設で落雷によって火災を起こす事例がある。

■ 事故のあったタンク施設は、郡道51号線と53号線の間の郡道16号線沿いにあると報じられており、同地区をグーグルマップで探したら、同じようなタンク施設が2箇所あった。しかし、被災写真とタンクの配置や数が違っており、発災タンクは新しい設備ではないかと思われる。なお、発災タンクを既設のこれらのタンク形状と同じだとすれば、直径は約5mであり、高さを約8mとすれば、容量は160KLクラスとみられる。
郡道16号線沿いにあるタンク施設
(写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ 今回の事故は油井用のタンク施設で、損壊したのはファイバーグラス製タンクと思われる。従って、天然ガス生産関連施設の排水貯蔵タンクではないだろうか。被災したタンクの写真を見ると、タンク下部は残っており、タンク上部は爆発で噴き飛んだか、溶け落ちたものだと思われる。一方、隣接タンクでも完全に形状が残っているものがあり、火災の影響を受けなかったか、鋼製タンクだとみられる。

■ 消防活動は分からないが、まわりは広大な畑であり、消火用水源に乏しく、最低限の延焼対策を行い、燃え尽きるのを待つ戦略がとられたものと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Fox40.com , Video Shows Massive Explosion After Lightning Strikes Colorado Oil Tanks,  June 20  2018
    ・9news.com,  Lightning Ignites Oil Tank in Hudson,  June 19  2018
    ・Hazmatnation.com,  Colorado Crews Battle Well Site Fire after Lightning Strike,  June 21,  2018



後 記: 今回の事故は米国のコロラド州の話なので、事故情報は多いと思っていましたが、意外に少なく、内容に深みがありませんでした。広大な畑の中にある石油・天然ガス生産設備の多いコロラド州において、落雷によるタンク火災で、朝には火が消えているような事故はニュース性が薄いのでしょう。現場で消火活動に従事する消防隊について感謝の心をもって取材するのが通常ですが、今回は何も触れられていません。
 これまで、米国はメモにいたるまで記録を残し、情報公開していくという点について感心していましたが、どうなってしまったのでしょう。最近、新しくできた徳山駅前図書館で「写真が語る 山口県の空襲 米軍が記録した偵察・攻撃・損害」(徳山高専 工藤洋三著)を借りてみました。写真が主ですので、読むというより、見たという感じですが、よくまとめられています。これこそ米国の記録というものです。
徳山海軍燃料廠の爆撃跡と大浦油槽所のタンク損壊状況(米国立公文書館所蔵)
(写真は「写真が語る山口県の空襲 米軍が記録した偵察・攻撃・損害」(徳山高専 工藤洋三著)から引用)

米国アイオワ州で石油タンク車が脱線し、洪水の川へ油流出

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 今回は、2018年6月22日(金)、アイオワ州ライアン郡のドゥーンで起こった石油タンク車の脱線による油流出事故を紹介します。
(写真はKttc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のBNSF鉄道の貨物列車である。列車は、コノコフィリップス社用の原油(タールサンド)をカナダのアルバータ州からオクラホマ州のストラウドに輸送していた。

■ 発災があったのは、アイオワ州(Iowa)北西部のライアン郡(Lyon County)ドゥーン(Doon)である。当時、このエリアは6月20日(水)から21日(木)にかけて豪雨があり、地域によって洪水が起こっていた。
      ライアン郡ドゥーンの脱線場所付近 (矢印が発災場所、洪水前
(写真はGoogleMapから引用)
洪水前の脱線した線路と郡道付近
(写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年6月22日(金)午前4時30分、原油を輸送していた貨物列車に牽引された石油タンク車の一部が脱線した。脱線した石油タンク車のまわりに油膜が広がり、石油タンク車は線路や土砂の上に積み重なり、一部は水中に沈んでいるものもあった。

■ 脱線したのは32輌の石油タンク車で、うち14輌から原油が漏れ出した。漏れた油量は推定230,000ガロン(871KL)で、洪水のリトルロック川に流出した。石油タンク車の積載量は1輌当たり25,000ガロン(95KL)以上である。
脱線後の早い時期に撮られたと思われる被災写真
(写真はKiwaradio.comから引用)
■ 前日、アイオワ州ライアン郡とスー郡の広い地域で洪水が発生し、道路が閉鎖された。この洪水の復旧活動のボランティアに前夜参加していた住民によると、「鉄道の軌道上に水が溢れ、貨物列車はその中を通り抜けようとした」と語った。住民のひとりは、30輌近くの石油タンク車が洪水の中を“レゴのように投げ込まれた”と語った。川幅は100ヤード(90m)から洪水によって半マイル(1,600m)に広がっていた。

■ 脱線場所から離れている農場主は、「竜巻の心配はしていたが、油流出を心配する必要は無いと思っていた」と語っている。油流出によって、このエリアでは強い油臭がした。

■ 脱線事故によってライアン郡南部のドゥーンでは、270番通りと280番通り間のガーフィールド通り沿いの住民に避難勧告が出された。現場から半マイル(800m)以内の住民はわずかであるが、少なくとも4世帯が避難した。

■ リトルロック川はすぐにロック川に合流する。ロック川の水位は21.5フィート(6.5m)に達し、2014年以降2番目に高い水位になっていた。下流の地区では、飲料水の汚染が心配された。流出油が脱線現場から約240km離れたネブラスカ州オマハの南まで達する可能性を指摘されている。オマハの公共水道事業者は、ミズーリ川から飲料水を取り入れているポンプを監視しているという。

■ 脱線したタンク車は、DOT-117Rs型という新機種で、安全性が改善され、事故時において漏れを防ぐことができるといわれていた。

■ この事故に伴う負傷者は出なかった。

被 害
■ 原油(タールサンド)を運んでいた32輌の石油タンク車が脱線し、損傷を受けた。

■ 石油タンク車14輌から原油が漏れ出し、流出した油量は推定230,000ガロン(871KL)である、油は洪水のリトルロック川に流出し、環境汚染を起こした。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。しかし、油流出によって少なくとも4世帯が避難した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、洪水で増水し、線路の土盤が十分な強度をもつことができず、通過していく石油タンク車の重さに耐えることができなかったと思われる。

■ 当局は、増水したリトル・ロック川の洪水によって石油タンク車が線路から外れた要因のひとつであることは認めたが、物理的に水が線路を傷つけたかどうかはまだ分かっていないという。
 なお、6月20日(水)に降った130~180mmの雨によって川は急激に水かさが増え、さらに6月21日(木)のどしゃぶりが拍車をかけた。

■ 一部の関係者は、洪水が線路の下の土壌を浸食したと推測していたとみている。
(写真はNewstiowa.comから引用)
(写真はResilience.orgから引用)
(写真はNwestiowa.comから引用)
手前はクリーンアップ作業用の車両
(写真はDesmoinesregister.comから引用)
(写真はKiwaradio.comから引用)
< 対 応 >
■ 事故後数時間で、BNSF社は危険物専門家と環境保全専門家を現場に派遣したと語った。そして、6月22日(金)午後5時頃からBNSFのスタッフ、危険物担当、クリーンアップ作業員がドゥーンの南からロックバレーの北で作業を行った。作業は、オイルフェンス、スキマー、バキューム車を使用して、できるだけエリアを狭めようとした。クリーンアップ作業には、ミネソタ州セントポールに本社のある産業・環境保全会社ベイウェスト社がオイルフェンスなどを積んだトラック6台でやってきた。

■ ライアン郡の保安官は、「対応は長くかかるだろう」といい、「洪水と脱線事故を同時に対処するのは最悪である。原因は分からないが、ひとつ言えることは、洪水が起こっていなければ、脱線事故は起こっていないだろう」と語った。
 
■ 6月23日(土)、アイオワ州知事は、異常気象による洪水と脱線事故による油流出を受け、プリマス郡、スー郡、ウッドベリー郡とともにライアン郡に災害非常事態宣言を発令した。同日、アイオワ州知事は現場を訪れた。対応は、鉄道会社、連邦政府、アイオワ州、地方自治体の各機関が参加している。

■ BNSF社の広報によると、流出油の半分は脱線現場に近いところに展張したオイルフェンス内にあるといい、追加のオイルフェンスを現場から下流の約8kmのところに展張したと語った。そして、水から油を分離できる特別な装置を使って回収する予定だという。

■ クリーンアップ作業では、脱線して部分的に水没した石油タンク車をクレーンで移動することができるように、線路と並行して仮設道路を建設することとなった。

■ 油流出のニュースによって、脱線場所から南西にある約8kmの小さな町であるロック・バレーの当局者は、町の飲料水の井戸をすべて停止させた。町はロック・バレーの農村水系から水を供給した。ライアン郡保安官は、地区の飲料水は汚染の危険性はないと思われるという話だったが、住民をあずかる町は、アイオワ州天然資源省の検査で町の飲料水の安全性が確認されるまで農村水系から取り入れるとした。

■ 6月24日(日)の時点で、脱線した石油タンク車のうち7輌を別な場所へ移動し、10輌から油を抜いた。移動したところには、油が広がらないよう堤を作っている。クリーンアップに参加している作業員は200名という。

■ 6月25日(月)、BNSF鉄道によると、脱線した石油タンク車32輌のうち24輌から油を抜き取ったといい、うち14輌はかなり損傷している石油タンク車からだった。残りの8輌は油漏れを起こしておらず、すでに線路から移動されている。しかし、作業をしているメンバーによると、6月27日(水)までにカラになることはないという。線路の復旧は6月26日(火)までに終える目標だという。
(写真はSiouxcityjounal.comから引用)
(写真はSiouxcityjounal.comから引用)
補 足 
米国アイオワ州の位置
(写真はNizm.co.jpから引用)
■ 「アイオワ州」(Iowa)は、米国中西部に位置し、人口約305万人の州である。地形は平坦ではなく、うねりのある丘陵で構成されている。
 「ライアン郡」(Lyon County)は、アイオワ州北西隅に位置し、人口約11,500人の郡である。
 「ドゥーン」(Doon)は、ライアン郡の南部に位置し、人口約600人の町である。BNSF鉄道はドゥーンを通過している。

■ 「BNSF鉄道」は、旧バーリントン・ノーザン・サンタ・フェ:Burlington Northern Santa Fe:BNSF)で、テキサス州のフォートワースに本社があり、1996年に運行を開始し、米国の中西部から西部にかけて50,000kmの路線網を保有している。米国では、ユニオン・パシフィック鉄道(UP)に次いで第2位の鉄道会社である。2009年、BNSF鉄道はバークシャー・ハサウェイ社(Berkshire Hathaway Inc)の傘下になった。
BNSF鉄道の線路網
(写真はJa.wikipedia.orgから引用)
■ 石油タンク車で大きな事故は、つぎの事例である。
 この脱線事故では、石油タンク車63台のほとんどが損壊し、さらに爆発・火災を起こし、47名の死者を出した。このときに使用されていたタンク車が「DOT-111型」で、当時から安全性に問題があることが指摘されていた。 DOT-111型の設計上の問題は、タンクのヘッド部およびシェルが破損しやすいことなどである。
 その後も、石油タンク車の事故は続き、ラック・メガンティック列車脱線事故後、半年も経たずに、アラバマ州アリスビルで石油タンク車が脱線し、湿地帯に大量の油流出を起こした。オンタリオ州ゴガモでも同様の事故があり、2015年3月の1か月間に2回の石油タンク車の脱線があり、マカミ川に2度の油流出があった。2017年7月には、イリノイ州プレーンフィールドで45,000ガロン(170KL)の油流出を起こす石油タンク車の脱線事故があった。  

DOT-117型タンク車の改善点
(図はScoopnest.comから引用)
■ 米国では、石油タンク車の安全化が思うように進まない状況が続いていたが、2017年、議会は鉄道業界に対して、危険物や引火性液体を輸送するDOT-111型タンク車を段階的廃止するよう命じた。また、国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board)は、できるだけ早く、DOT-111型タンク車を「DOT-117型」タンク車へ交換するように求めた。「DOT-117型」はDOT-111型の問題点を改善した機種である。
 今回のドゥーンの事故は、鉄道輸送上、石油の輸送を安全化するとした新型のDOT-117型タンク車による最初の事故である。しかし、今回の事故は、アイオワ州の川に871KLの油を流出させたということを考えれば、この種のタンク車が絶対安全ではないことを明らかにしたという意見もある。

所 感
■ 今回の事故で、負傷者が出なかったことや流出油の半分はオイルフェンスに囲い込まれているという報道に、なぜそのようなことがいえるのだろうという疑問をもったが、かなり早い段階に撮られた一枚の被災写真によって理由が分かった。(写真は前出)
 ● 脱線したタンク車より進行方向側に無事な何輌かのタンク車が見える。すなわち、機関車と何輌かのタンク車が増水に曝される線路を通過したあと、あるタンク車が脱線したものである。洪水で増水し、線路の土盤が十分な強度を保つことができず、石油タンク車の重さに耐えることができなかったと思われる。従って、先頭の機関車にいた運転手はケガをしなかった。
 (なお、脱線したタンク車の後方に無事なタンク車の列が見える)
 ● 流出油のかなりの部分は、線路と郡道に囲まれる三角形の増水エリアに留まっているのが分かる。このことにより、流出油の半分はオイルフェンスに封じ込まれたというコメントになったと考えられる。

■ 脱線したタンク車は将棋倒しで覆いかぶさる様相を呈している。かなりの速度が出ていたものと思われる。タンク車は、カナダのラック・メガンティック列車脱線事故で使用されたDOT-111型でなく、新しいDOT-117型であったが、このタンク車が絶対安全ではないことを明らかになったという意見がある。一方、 DOT-111型タンク車だったならば、被害はもっとひどいものになっただろう。

■ 米国では、石油パイプラインとともに、広大な土地を縦横に鉄道輸送するのが日常の状況とはいえ、洪水で線路の際まで増水している中を、貨物列車を高速で走らせる考え方が理解できない。狭い日本であれば、走らせないか、あるいは最徐行で確認するのではないだろうか。


備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Desmoinesregister.com,  Lowa Train Derailment: Hazmat Team on Scene after Oil Leaks into River,  June 22  2018
    ・Desmoinesregister.com,  230,000 gallons of Crude Released into Floodwaters after Train Derailment, Railroad Says,  June 23  2018
    ・Ecowatch.com, Derailed Train Spills 230,000 Gallons of Crude Into ,  June 25  2018
    ・Cbc.ca,  Cleanup Underway after Train from Alberta Derails in Iowa, Leaking Crude Oil into Floodwaters,  June 23,  2018
    ・Desmoinesregister.com, Seven Cars Removed after Train Derailment, Oil Spill; Cleanup and Railroad Repair to Follow,  June 24,  2018
    ・Apnews.com,  Crude Oil Leaks into Floodwaters after Train Derails in Iowa,  June 22,  2018
    ・Nytimes.com, The Latest: Estimated 230,000 Gallons of Oil Spilled,  June 23,  2018
    ・Kttc.com, Train Derailment Leaks Crude Oil into Rock River near Doon, IA,  June 23,  2018
    ・Globalnews.ca,  About 870,000 Litres of Crude Oil Leaks into Iowa Floodwaters after Train Carrying Oil from Alberta Derails,  June 22,  2018
    ・Reuters.com,  Nearly Half of Iowa Crude Oil Spill Contained, BNSF says,  June 25,  2018
    ・Washingtonpost.com , The Latest: Cleanup of Oil from Derailment in Iowa Begins,  June 22,  2018
    ・Kiwaradio.com, FOURTH UPDATE: Railroad Says 230,000 Gallons Of Crude Leaked Into Floodwaters,  June 23,  2018
    ・Argusleader.com, Train Carrying Oil Derails in Northwestern Iowa, Prompting Evacuations, Clean-up,  June 22,  2018
    ・Wpta21.com,  Train derailment leaks crude oil into Rock River near Doon, IA,  June 22,  2018
    ・Mprnews.org,  Crude Oil Leaks into Floodwaters after Train Derails in Iowa,  June 23,  2018
    ・Rt.com , Major Oil Spill Spreads across Iowa Floodwaters, Forcing Evacuations after Train Derails (VIDEO),  June 24,  2018
    ・Siouxcityjournal.com, Railroad reopens track at oil spill derailment site in Northwest Iowa's Lyon County,  June 26,  2018
    ・Siouxcityjournal.com ,Northwest Iowa oil spill not expected to disrupt water supplies downstream,  June 25,  2018
    ・Resilience.org,  Derailed Oil Train Spills 230,000 Gallons of Tar Sands in Flooded Iowa River,  June 27,  2018
    ・Progressiverailroading.com ,USDOT Publishes First Report on Tank-car Fleet Composition,  September 25,  2017


後 記: 今回の事例は、アイオワ州で洪水に見舞われている中で起こった事故のためか、予期したほどセンセーショナルな伝え方をされていませんでした。かなり多くの報道がありましたが、通信社の情報をもとにしたものが多く、淡々とした同じような内容のものでした。人口約600人ほどの町の話ですし、ライアン郡としても約11,500人の地域のニュースだと、こんなものなのでしょうか。脱線後のクリーンアップの状況もやっと見つかったという感じです。なお、アイオワ州の事故を扱うのは初めてです。


マレーシアの製油所で原油タンク火災、負傷者4名

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  今回は、2018年7月5日(木)、マレーシアのトレンガヌ州にあるケママン・ビチューメン・カンパニーのケママン・ビチューメン製油所で起こった原油タンク火災の事故について紹介します。
 (写真はFiredirect.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、マレーシア(Malaysia)トレンガヌ州(Terengganu)ケママン(Kemaman)にあるケママン・ビチューメン・カンパニー(KemamanBitumen CompanyKBC)のケママン・ビチューメン製油所(KemamanBitumen Refinery)である
 ケママン・ビチューメン・カンパニー(KBC)は、タイにあるTipcoアスファルト社(TipcoAsphalt Public Company Limited)の完全子会社である。ケママン・ビチューメン製油所の精製能力は30,000バレル/日で、アスファルト精製の製油所である

■ 発災があったのは、テルーク・カロング工業地帯(TelukKalong Industrial Area)にある製油所の2つある原油タンク地区のうちのひとつである。発災のあった原油タンク地区には、6基の原油貯蔵タンクがあった。なお、精製設備は618日(月)から定期保全期間に入っていた。
      トレンガヌ州のケママン・ビチューメン製油所付近  写真はGoogleMapから引用)
      ケママン・ビチューメン製油所の貯蔵タンク地区 (発災前、矢印が発災タンク)
(写真はKbc.com.myから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 201875日(木)午後605分頃、4,800KLの原油の入ったタンクの1基から火災が発生した。タンクは炎が高さ30m以上噴き出し、厚い真っ黒い煙がこの地区の大気を覆うように立ち昇り、数km先からも確認できた。

■ その後、タンク火災は隣接のタンクへ延焼した。さらに、午後930分まで3基目のタンクへと広がった。

■ 火災発生に伴い、ケママン・ビチューメン製油所の自衛消防隊が出動し、公設消防署には午後626分に通報が寄せられ、消防隊が出動した。ケママン消防署などの消防車両十数台と消防士100名が現場に急行した。

■ 消防隊は、テレンガヌ州で起こった最大の火災に立ち向かっていた。消防隊は、最初の2基のタンク火災を80%まで制圧することができたといい、さらに3基目のタンク火災の制圧に苦労していた
 76日(金)の午前中、火災は2基の原油タンクを損壊させ、3基目へと広がり、事故発生から16時間が経過していた。 3基目のタンク火災は比較的小さかった。

■ 事故発生に伴い、4名の負傷者が出た。4名の負傷者が出たが、ひとりは43歳の請負会社の人であり、顔と右手に火傷を負い、病院へ搬送されて治療を受けている。ほかの3名の被災者は病院で外来治療を受けた。当時、被災者は事故のあった現場でメンテナンス作業をやっていたとみられる。

 火災のあった1基目のタンクには4,800KL2基目は1,580KL3基目のタンクには13,679KLの油が入っていたという。3基の合計で20,059KLである。この貯蔵タンク地区には6基のタンクがあった。

■ 消防隊は、タンクへ泡を使った消火試みた。消防隊は、消防署管内の泡薬剤とともに、数社の会社から泡の供給を受け、14,000リットルの泡薬剤を準備していた。さらに本部から泡薬剤の供給を受ける予定であるという。消火用水の供給には問題なかった。

■ 76日(金)午前9Tipco社から消防隊には、重質原油の入った火災タンクは制御できるならば、これらのタンクに限定して燃え尽きさせてもよいという指示が出された。

■ 火災は、3日目の77日(土)午前7時になって消された

被 害
■ 原油タンク2基が火災で損壊し、1基が損傷した。内部の原油が焼失した。発災当時、3基の原油タンクの総容量は101,000KL、入っていた容量の五分の一だったというが、焼失量は分かっていない。

■ 事故に伴い、負傷者4名が発生した。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は分かっていない。調査中である。(3週間で報告書が出される予定)
(写真はYoutubeから引用)
(写真はLimaumanis.comから引用)
 (写真はBernama.comから引用)
(写真はFreemalasiatoday.comから引用)
(写真はHydrocarbonprocessing.comから引用)
< 対 応 >
■ 出動したのは、トレンガヌ州の消防隊員78人とパハン州の消防隊員33人が火災に対応した。このほか、
また、警察や民間防衛部隊を含む関係機関とともに、ケママン・ビチューメン・カンパニーとケママン・サプライ・ベース社の緊急対応チーム41名が支援した。

■ マレーシア国家消防救助局(State Fire and Rescue Department)によれば、火災の調査をするため特別なチームが編成され、原因調査は3週間かけて行われ、報告書が出される予定だという。現地には、石油精製タンクの設計者やコンサルタントが調査を支援するため呼ばれた。火災が消され次第、調査が開始される。

■ 発災から3日、火災対応に従事した消防士は200名を超えた。自らの命の危険をかえりみず、巨大な炎を消すために戦った。実際、このような状況に対応するのが初めての隊員もいた。

■ 2基目と3基目のタンク火災は48時間以内で終わると予想されていた。最初のタンク火災は完全に消火されていた。2基目のタンク火災は数%を残すだけになっていた。3基目のタンク火災はなおも燃えていた。現場で見積もられている油の減少によって、消防士は直接攻撃のテクニックが適用できるようになった。

■ Tipcoアスファルト社は、3基のタンク火災に対して製油所の生産能力は影響しないと語った。残ったタンクの運用についてよく管理しなければならないと付け加えた。マレーシアのタンク設備は8基の原油タンクがあり、総貯蔵能力は350,000KLである。火災に巻き込まれたタンクの総容量は101,000KLで、発災当時は、五分の一だったという。
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
補 足
■ 「マレーシア」(Malaysia)は、東南アジアのマレー半島南部とボルネオ島北部を領域とする連邦立憲君主制国家で、人口約2,900万人である。イギリス連邦加盟国で、タイ、インドネシア、ブルネイと陸上の国境線で接し、シンガポール、フィリピンと海を隔てて近接する。通常、マレー半島部分が「マレーシア半島」、ボルネオ島部分が「東マレーシア」と呼ばれる。一方、マレー半島とボルネオ島間の往来は、マレーシア国民であってもパスポートを必要とする。
 「トレンガヌ州」(Terengganu)は、マレーシア半島の東部に位置し、人口約630万人の州である。
 「ケママン」(Kemaman)は、トレンガヌ州の南部に位置し、人口約20万人の工業都市である。
 
 なお、マレーシアの事故としては、つぎのような事例がある。
              マレーシア周辺  (写真はGoogleMapから引用)
■ 「ケママン・ビチューメン・カンパニー」(KemamanBitumen CompanyKBC)は、2003年に設立され、精製能力30,000バレル/日のアスファルト精製に特化した石油会社である。トレンガヌ州ケママンに26ヘクタールの土地のケママン・ビチューメン製油所を有しており、2016年には、原油970万バレルを処理し、アスファルトおよび非アスファルト製品150万トンを生産した。重質ナフテン系原油を処理し、アスファルトAGO(常圧軽油)、VGO(減圧軽油)、ナフサなどを生産している。マレーシア国内のアスファルト需要の四分の一を供給しているほか、アジア各国にも輸出しているなお、ケママン・ビチューメン・カンパニー(KBC)は、タイにあるTipcoアスファルト社(TipcoAsphalt Public Company Limited)の完全子会社である。
ケママン・ビチューメン製油所の精製プロセス
(写真はKbc.com.myから引用)
■ 「発災タンク」は図の①のタンクである。2基目が②、3基目が③と続いた。タンクに入っていた量は、報道によれば、それぞれ4,800リットル、1,580リットル、13,679リットルで、3基合計で20,059リットルと報じられているが、明らかに単位が間違っている。このブログ本文では、KLのミスとして、1基目が4,800KL2基目が1,580KL3基目が13,679KLし、3基の合計で20,059KLとした。一方、Tipco社によれば、被災原油タンクの総容量は101,000KLで、発災当時、容量の五分の一だったというので、総容量は概ね合っている。

 グーグルマップによれば、タンク①と③の直径が約50m、タンク②が約65mである。タンク高さを約15mと仮定すれば、容量はタンク①が28,000KL、タンク②が50,000KL、タンク③が28,000KLとなる。総容量は106,000KLとなり、大体合っている。

 このタンク寸法によれば、タンク①の4,800KLは液位約2.4m、タンク②の1,580KLは液位約0.5m、タンク③の13,679KLは液位約7.0mとなる。ここで、ひっかかるのがタンク②の液位約0.5mである。今回のタンク火災の燃焼時間は約36時間で、このうちタンク②が全面火災の様相を呈し、最もひどく燃えている。仮に燃焼時間を30時間とし、燃焼速度30cm/h仮定すれば、液位は約9.0mである。この容量は約30,000KLでタンク容量の60%である。おそらく、タンク②には、30,000KLほどの油が入っていたとみる方が妥当だと思う。
 
(写真はGoogleMapから引用)
■ 火災タンクと隣接タンクとのタンク間距離が短い。タンク間距離は約10mほどしかない。また、火災タンクは原油タンクではあるが、固定屋根式になっている。なぜ、このような仕様になっているか分からないが、複数タンク火災の要因のひとつになっていると思われる 

■ 火災の状況であるが、最初2基目のタンクは屋根が噴き飛ばされているので、爆発的な燃焼があったものと思われる。従って、火災は「障害物あり全面火災」になった可能性がある。また、この2基のタンクの外まわりには、足場が組んであり、何らかの工事が実施されていたとみられる。

 これらのタンクの全面火災を消火するために必要な大容量泡放射砲の能力は、日本の法令では、つぎのようになる。
 ● タンク①と③(直径約50m: 20,000L/min
 ● タンク②(直径約65m:     40,000L/min
 タンク②の全面火災を消火するために必要な泡薬剤量(混合比率1%とし、2時間分を確保と仮定48,000リットルとなる。今回の事故で確保できた泡薬剤量は14,000リットルと言われており、能力40,000L/min大容量泡放射砲の35分間分の量である過去の成功した消火事例では、ノックダウン時間(泡消火剤投入後、火勢が急激に衰えた時間)が1030分といわれている。極めて適切な泡放射を行えば、消える可能性もあるが、 「障害物あり全面火災」であり、消火後も一定時間、泡放射を継続する必要があることから、泡薬剤量14,000リットルは不十分だといえる。

■ 発災タンクは原油タンクであり、「ボイルオーバー」の発生する可能性がある。報道では、この爆発的事象について言及されていないが、YoutubeCrude oil tank explosion in kemamanでは、少なくとも爆発的な燃焼が見られ、慌てた様子の動画が紹介されている。タンク②の液位を約9.0mとして、ヒートウェーブの降下速度を一般的にいわれている12m/hとすれば、火災から約4時間30分~9.0時間でボイルオーバーは発生する可能性がある。動画は75日に公開されており、事故当日の夜の場面と思われ、時間的には合う。これらから考えると、タンク②では、ボイルオーバーが発生したのではないだろうか。

所 感
■ 今回のタンク事故原因は、何も言及されていない。しかし、
 ● 請負会社の人が負傷している
 ● 発災タンクのまわりに足場が組んである
 ことからすると、タンク工事に関係しているのではないだろうか。この点からいえば、「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事故ではないかと思う。

■ 今回の事故は、3基の複数タンク火災になっている。
 ● 最初のタンク火災で爆発的な事象が起きたのではないだろうか。この燃焼炎が隣接する固定屋根式タンクのブリーザー弁などの息継ぎ設備に着火したと思われる。
 ● それに加えて、タンク間距離が約10mと短いことも複数タンク火災の要因になった。

■ 消火活動は報道をみる限り、順調に経過したように受け取れるが、実際はそうでもないと思われる。
 ● Tipco社の情報公開では、燃え尽きさせてもよいと意見を出している。実際の火災時間も約36時間かかっており、2基目のタンク火災では、ボイルオーバーと思われる爆発的燃焼が起きている。
 ● 最初の2基のタンク火災は、結局、防御的消火戦略をとらざるを得なかったものと思われる。
 ● 泡消火が試みられており、さらに大容量泡放射砲も使用されているが、効果はあがっていなかったと思われる。この要因には、確保した泡薬剤量が不十分な上に、タンク配置が大容量泡放射砲システムに適していなかったとみられる。


 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   Nst.com.my,  Fire at KemamanOil Storage Facility Spreads to Third Tank,  July  07,  2018
          Freemalaysiatoday.com, 100 Firemen Battle Raging Oil Tank Fire in Kemaman,  July  06,  2018
          Thestar.com.my,  Special Task Force to Investigate Raging Oil Tanker Fire in Terengganu,  July  06,  2018
          Malaymail.com ,  KemamanRefinery Fire: Firefighters Soldier on Despite Life-Threatening Hazard,  July  07,  2018
          Tanknewsinternational.com , Fire Breaks Out at Kemaman Oil Storage Facility,  July  06,  2018
          Sg.news.yahoo.com, Cause of Kemaman Refinery Blaze to Be Known in Three Weeks,  July  07,  2018
          Theedgemarkets.com,  Tipco Says Malaysia Refinery Production Capacity Unaffected by Fire,  July  06,  2018
          Hydrocarbonprocessing.com, Over 100 Firefighters Battle Massive KemamanRefinery Fire,  July  06,  2018
          Tipcoasphalt.com, Notification of Fire Broke out in Three Crude Oil Storage Tanks of KemamanBitumen Company Sdn. Bhd. (KBC) ,  July  06,  2018
          Tipcoasphalt.com,  Update of Fire Broke out in Three Crude Oil Storage Tanks of Kemaman Bitumen Company Sdn. Bhd. (KBC) ,  July  07,  2018
          Youtube.com, Crude Oil Tanker Catches Fire in KemamanIndustrial Area,  July  05,  2018
          Youtube.com, Crude Oil Tank Explosion in Kemaman,  July  05,  2018
          Youtube.com, Seorangcederakebakarantangkisimpananminyak,  July  05,  2018
          Youtube.com, Viral TangkiMinyakMeletup Di Kemaman,  July  06,  2018
          Youtube.com, KEBAKARAN TINGKI MINYAK KILANG KBC - KEBAKARAN BERJAYA DIPADAMKAN SEPENUHNYA [8 JULAI 2018],  July  07,  2018



後 記: 今回の事故は分からないことの多い事例です。報道で一番惑わされたのが、タンクに入っていた油量です。最初に見た記事でリットル単位で書かれおり、ミスと思いました。その後、他の記事でも同様にリットル単位で、タンクの規模から明らかに違うのですが、結局、正しいと思われる記事が出てきませんでした。マレーシアはイギリス連邦加盟国ですので、体積単位に混乱があるのかと思いましたが、ハイドロカーボン・プロセッシング(Hydrocarbon Processing)という米国の化学雑誌の報道でも、同じミスがありました。米国や英国では、国際単位(メートル系)を使っていませんので、このような間違いが起こるのだろうと感じます。

 では、発災現場では、どのような単位が使われていたかというと、現地のニュース番組で流されていた中に、発災タンクの情報をホワイトボードに記載されている箇所がありました。これによると、タンク①と②の内部容量が書かれています。タンク①は4,800㎥とメートル系で表示されていますが、タンク②はIn3単位です。表示は、13666.220となっており、はっきりしませんが、13,666,220In3だとすれば、22,352KLです。補足では、30,000KLほどが入っていたのではないかと記載しましたが、オーダー的には合っているように思います
 一方、単位が混在しており、どのような管理をしているのかと思う反面、これで実態が把握できるのかという疑問もありますこの油量だと、消防活動の状況も見方が変わってきます。報道では、消防による消防活動が十分成果を上げていたようになっていますが、補足で記載したように実際はかなり違っていたように思います



エジプトで軍事化学工場の貯蔵施設で爆発、負傷者12名

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 今回は、2018年7月12日(木)、エジプトの首都カイロにある化学工業用ヘリオポリス・カンパニーという軍事工場の貯蔵施設であった爆発事故の情報を紹介します。
(写真はFiredirect.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、エジプト(Egypt)の首都カイロ(Cairo)にある化学工業用ヘリオポリス・カンパニー(Heliopolis Company for Chemical Industries)という軍事工場である。所有者は明らかにされていないが、軍に所属している。

■ 発災があったのは、カイロ国際空港の近くにある化学工場の貯蔵施設である。
        エジプトのカイロ国際空港周辺  写真はGoogleMapから引用
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018712日(木)、カイロ国際空港の近くにある化学工場で爆発が起こった。この地域全域に爆発音が聞こえた。真っ黒い煙が空に立ち昇った。

■ 発災に伴い、消防署の消防車両と救急車が出動した。消防隊は、爆発後に生じた火災と戦い、消火活動に従事した。火災の制御のために民間防衛車両が出動したという

■ 爆発事故に伴い、12名の負傷者が発生し、病院へ搬送された。しかし、重症度は分かっていない。

■ 軍によると、爆発はヘリオポリス・カンパニーの石油化学の貯蔵施設で高温のため起こったという。
最近、カイロでは、気温が32℃を超えているが、夏のカイロでは珍しいことではない。なお、高温ではなく、“熱の増加”(increase in heat)と表現しているメディアもある。また、爆発したのは、ケミカルタンクと報じているところもある。

■ 民間航空大臣によると、この爆発事故による空港の空の便への影響はないと語った。

被 害
■ 化学工場の貯蔵施設またはケミカルタンクが爆発で損傷した。被災の状況や損害は分かっていない。

■ 事故に伴い、12名の負傷者が出た。近隣地区への避難指示は出ていない。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は不明である。貯蔵施設またはケミカルタンクが高温または熱の増加によって起こったとみられている。

< 対 応 >
■ 火災対応に出動した消防隊員など緊急対応の人員は分かっていない。
(写真はNewsfirst.lkから引用)
(写真は、左:Africanews24-7.co.za、右:Twoeggz.cpmから引用)
補 足
エジプトの位置
(図はKotobank.jpから引用)
■ 「エジプト」は(Egypt)は、正式には「エジプト・アラブ共和国」で、アフリカ北東部に位置し、人口約8,500万人である。北は地中海、東は紅海に面し、南北に流れるナイル川とデルタ地帯のほかは国土の大部分が砂漠である。
 「カイロ」(Cairo) は、エジプトの北部に位置する首都で、人口約675万人の都市である。アフリカ、アラブ世界で最も人口の多い都市である。
 なお、エジプトでは、つぎのような事故がある。

■ 「化学工業用ヘリオポリス・カンパニー」(Heliopolis Company for Chemical Industries)は、カイロ近郊に存在した古代エジプトの都市「ヘリオポリス」から名付けられたエジプトの軍事工場で、軍事生産省の管轄である。1949年にエジプト初の国有兵器生産工場として建設され、現在、戦車、防空弾などの広い範囲の兵器を製造しており、民間製品には、ホルムアルデヒド、ヘキサミン塗料、爆発フューズ、ゴム、プラスチック製品、接着剤などが作られているという。

所 感
■ 今回の事故は、軍事施設の民間の化学工場の貯蔵施設で起こったものと思われる。しかし、詳細はもちろん、発災内容も分からない。「失敗は隠れたがる」というが、軍事工場ということで、内容を隠したがる典型である。軍事機密の名のもとに覆い隠すものではないと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Reuters.com, Chemicals Factory Blast Injures 12 Outside Cairo's Main Airport,  July  13,  2018
  ・Independent.co.uk, Cairo Explosion: 12 injured in Chemical Factory Blast near Airport,   July  13,  2018
    Bbc.com,  Egypt: Twelve Hurt in Huge Blast near Cairo International Airport ,  July  13,  2018
    Washingtonpost.com , Egypt State Media Says Blast near Cairo Airport Injures 12 ,  July  13,  2018
    Nigerianwatch.com , 12 People Injured in Egypt Chemical Factory Blast,  July  13,  2018
    Gulfnews.com , Fuel Tank Blast near Cairo Airport,  July  13,  2018
    Thechemicalengineer.com , 12 Injured in Cairo Chemicals Blast,  July  16,  2018 
    Liveleak.com , Chemical Tank Blast Rocks Cairo Airport - 12 injured,  July  13,  2018
    En.tempo.co , Chemicals Factory Blast Injures 12 Outside Egypt Airport ,  July  13,  2018
    Newsfirst.lk , Explosion Sets off Fire Outside Egypt’s Cairo Airport,  July  13,  2018
    Guardian.ng, Blast at Cairo Chemical Site Injures 12,  July  13,  2018
    Firedirect.net, Egypt – Chemical Depot Blast Injures 12,  July  13,  2018


後 記: 今回の事故は、軍事工場で起こったことに興味をひかれました。しかし、というか案の定、発災状況はわかりませんでした。アフリカのカイロで起こったということで、アフリカはもちろん、欧州、米国、中国、中東のメディアが取り上げていますが、「いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」という6つの情報ポイントのいずれもわかりません。「いつ」にしても7月12日ということは分かりますが、時間がはっきりしません。軍事事項といえば、世の中が認めてくれると思うのか、「だれが」だって軍事機密のようですね。しかし、エジプトという外国のことだと言えません。日本でも、自衛隊イラク派遣時の日誌を廃棄したと言っていたわけですし、不都合なことは隠したがる傾向(伝統?)は続いているようです。太平洋戦争中、気象情報も軍事機密扱いだったといいます。これでは、失敗は活かされないでしょうね。

米国ニューメキシコ州の油井用貯蔵施設で爆発・火災、死傷者2名

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 今回は、2018年7月18日(水)、米国ニューメキシコ州エディ郡ラビングにあるWPXエネルギー社の油井関連のタンク施設で起こった爆発・火災事故を紹介します。
(写真はZehllaw.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ニューメキシコ州(New Mexico)エディ郡(Eddy County)ラビング(Loving)にあるWPXエネルギー社(WPX Energy Inc.)の施設である。 WPXエネルギー社は、オクラホマ州タルサを本拠にした石油・天然ガスの掘削・生産会社であり、ニューメキシコ州には70名の従業員がおり、ペルミアン盆地での事業に携わっている。

■ 発災があったのは、ラビング郊外のリファイナリー通りにある油井関連のタンク施設である。
ラビング郊外リファイナリー通り付近(四角な場所が油井)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年7月18日(水)午後12時45分頃、ラビングから東へ数マイル(数km)離れた油井関連のタンク施設で爆発・火災が起こり、施設内は危険な状況となった。

■ 発災に伴い、午後1時頃に緊急対応部隊が招集された。

■ 施設には11基のタンクがあった。火災によって施設周辺に近づくことができないほどだった。施設には、抽出作業による塩水処理井、注入ポンプ、貯蔵タンクが含まれている。

■ 事故に伴い、1名が爆発によって死亡し、別な作業員1名が火傷で負傷した。被災した作業員は請負会社の従業員だとみられる。

■ 施設担当者によると、設備から少なくとも1マイル(1.6km)の地区では安全が確保されているという。しかし、同日午後4時頃まで火災は消火できていなかった。タンクはすべて火災によって損壊した。

■ 事故当時、油井の掘削作業は実施していなかった。11基のタンクのうち、8基は油井からの塩水を保持していた。2基が油を保有し、もう1基は油分離ユニットの設備だった。すべての油井は遠隔地から操作され、7月18日(水)に停止され、その晩はその状態で保持された。

被 害
■ 火災に伴い、油井用貯蔵施設が損壊した。貯蔵施設には、油タンクのほか塩水タンクなど11基が被災したとみられる。

■ 事故に伴い、死者1名、負傷者1名が出た。 

< 事故の原因 >
■ 爆発の原因は、調査中である。

< 対 応 >
■ 出動した消防隊員など緊急対応人員の人数や活動の詳細は分からない。

■ WPTエナージー社は、火災原因を特定するため、地元関係機関と米国労働安全衛生局(Occupational Safety and Health Administration)と協力している。

補 足
■ 「ニューメキシコ州」(New Mexico)は、米国南西部に位置し、北はコロラド州に接し、東側にはオクラホマ州とテキサス州、西側はアリゾナ州、南側はメキシコとの国境に接する人口約206万人の州である。ニューメキシコ州の原油と天然ガスの生産は米国で第3位である。パーミアン盆地(ミッド・コンティネント油田の一部)とサンフアン盆地が州内に掛かっている。特に、最近では、液化天然ガスの生産が好調である。
 「エディ郡」(Eddy County)は、ニューメキシコ州の南東部に位置し、人口約57,000人の郡である。
 「ラビング」(Loving)は、ラビング郡の中央部に位置し、人口約1,400人の村である。

 なお、 ニューメキシコ州エディ郡では、昨年、今回と同じような事故が起こっている。
               米国ニューメキシコ州の位置   (図はGoogleMapから引用)
■ 「WPXエネルギー社」(WPX Energy)は、2011年に設立され、オクラホマ州タルサを本拠にした石油・天然ガスの掘削・生産会社である。WPXは、Williams Production and Explorationからとっている。従業員は約650名である。
 WPXエネルギー社はウェブサイトを保有しているが、今回の事故に関しては何も発表していない。
WPXエネルギー社の石油・天然ガス掘削生産の例
(写真はWpxenergy.comから引用)
所 感 
■ 今回の事故は、状況や原因がはっきり分からないが、昨年の「米国ニューメキシコ州の石油施設で爆発・火災、死者3名」と類似の事故であると思われる。
 米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」、すなわち、
   ①火気作業の代替方法の採用  ⑤着工許可の発行
   ②危険度の分析        ⑥徹底した訓練
   ③作業環境のモニタリング   ⑦請負者への監督
   ④作業エリアのテスト 
の7つの教訓が活かされていない。死者が出ているにもかかわらず、WPXエネルギー社の冷めた対応に違和感を覚える事例である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Usnews.com,  2 People Injured in Battery Tank Fire in Southern New Mexico,  July  18,  2018
    ・Hazmatnation.com,  2 Injured after Refinery Tank Battery Fire in New Mexico,  July  18,  2018
    ・Currentargus.com,  One Dead in Tank Battery Fire near Loving,  July  18,  2018
    ・Zehllaw.com, Oilfield Worker Tragically Killed at WPX Energy Permian Basin Refinery in New Mexico,  July  18,  2018
    ・Isssource.com , 1 Killed, 1 Hurt in NM Battery Tank Blaze,  July  18,  2018



後 記: 米国ニューメキシコ州のタンク事故の情報を紹介するのは、昨年に続き、2回目です。前回の後記で、「今回、3名の死者を出した事故の割に、メディアによる事故情報の中身が薄いと感じます。(中略) ただ、最近感じるのは、(米国の)メディアの体制や組織が弱体化しつつあるのではないかという危惧です」と述べました。今回は、この危惧が増したと感じます。前回は被災写真があったので、事故の状況が伺えますが、今回は遠くで煙の出ている写真が一枚だけです。
 さらに、多くのメディアが採用しているAP通信社の情報が正確でないということです。情報は、「製油所のタンク火災」、「負傷者2名」、「6基のタンクが火災」 というような内容です。WPXエネルギー社のウェブサイトでも、何も発表されていません。負傷者だけ(実際は1名死亡)だと大したことはないと思ったのでしょうか。米国は、現在、石油・天然ガス業界が活況を呈しているといいます。「経済最優先」になってしまった米国を見ているように感じました。

多摩市の建設中のビルでウレタン製断熱材の火災、死傷者48名

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 今回は、2018年7月26日(木)、東京都多摩市の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で起こった火災事故を紹介します。貯蔵タンクの事故ではありませんが、日本で起こった死傷者48名という大きな事故であり、取り上げました。
(写真はArtide.auone.jp から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、東京都多摩市唐木田の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で、三井不動産が100%出資する南多摩特定目的会社が発注し、安藤ハザマが施工していた。

■ 事故があったのは、地上3階、地下3階建ての工事中の建物(建築面積5,360㎡)で、工事は2016年10月に着工し、2018年10月に完成する予定だった。事故当時は内装工事を中心に作業しており、足場の解体や内装など、仕上げ工事に入りつつある段階だった。
事故のあった多摩市唐木田の多摩テクノロジービルディング(仮称)周辺 (矢印が発災場所)
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年7月26日(木)午後1時45分頃、多摩市で建設中のオフィスビル(鉄骨造り、地上3階地下3階)の地下3階の床下から出火した。火災による黒煙が広範囲に立ち上り、周辺は騒然となった。

■ 事故発生の通報を午後1時52分に受けた東京消防庁は、ただちに現場へ出動した。

■ 黒煙が白昼の住宅街を包み込んでいた。昔ながらの平屋がならび、公園で子どもたちが遊んでいた閑静な住宅街を通り抜けた先に、サイレンを回した消防車や救急車が多数立ち並んでいた。緊急車両は、防音シートがところどころ破け、煤けた建物を取り囲んでいた。現場近くの道路は規制線が張られ、交差点では複数の警官が車を誘導する姿も見えるなど、物々しい雰囲気に包まれていた。

■ 現場では当時、約320人の作業員が働いていたが、逃げ遅れた男性作業員5人が煙を吸うなどして死亡した。負傷者は気道熱傷など43人にのぼり、このうち約24人は症状が重いという。死亡した5人は屋上で1人、地下3階で2人、地下3階の下の免震階で2人が発見された。亡くなった作業員は全員男性で、年齢は52歳、51歳、49歳、44歳で、一名は60歳代である。

■ 地下で配線作業をしていた男性は「火事を伝える大声に気づいて階段を駆け上がったが、煙で何も見えない状態で、どこから外に出たらいいか分からなかった」と声を震わせた。火が燃え始めるところを目撃した男性は「はじけるような音がして、炎が見えたが、すぐに灰色の煙が一直線に上がった」と振り返った。

■ 警視庁などによると、作業員2人が地下3階でガスバーナーを使い、鉄骨(金属製のくい)を切断していたところ、地下3階の下の免震階の天井部分に貼られたウレタン製の断熱材に火花が飛んで、出火したとみられる。ひとりが切断、もうひとりが火花を水で消す役割だったという。火がついた後、作業員は消火器を使うなどして消火を試みたが、火の回りが早く、瞬く間に燃え広がったという。

■ 東京消防庁によると、この火災で約70台の消防車や救急車が出動。延べ床面積約17,656㎡のうち約5,000㎡が燃え、約6時間後の午後7時40分に火災を鎮圧した。正式な鎮火時間は午後10時38分だった。

■ 5人が死亡した建設現場では、建物内で出火直後に停電が起きていたことが分かった。現場の地下3階では、出火直後に作業リーダーが「火事だ」と、トランシーバーで別な作業員に連絡した。多くの作業員が避難を始めたが、直後に停電して照明が消えたという。黒煙が充満し、作業員の避難の遅れにつながった可能性がある。警視庁は、工事用の電源ケーブルが焼けて断線したのではないかとみている。

被 害
■ 人的被害として死者5名、負傷者43名(重症13 名、中等症11 名、軽症14 名ほか)が発生した。

■ 物的被害は分かっていない。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。
 安藤ハザマは、「地下3階にて鉄骨のガスバーナーによる溶断作業中に、何らかの原因で火が付近の可燃物に移り、急速に延焼したもの」とみている。
(写真はArtide.auone.jp.から引用)
(写真はBrandnews-s.comから引用)
< 対 応 >
■ 東京消防庁から出動した車両は、消防車両74 台、消防防災ヘリコプター3機だった。

■ 警視庁は業務上過失致死傷容疑で捜査を始めた。7月27日(金)午前、捜査員ら数十人が現場に入った。

(図はTokyo-np.co.jpから引用)
■ バーナーの作業は、通常、火花がウレタン製の断熱材に触れないよう引火防止シートを使う。警視庁は、作業員が出火当時、工事手順に問題がなかったか調べている。27日(金)の捜査によって、地下3階の床に隙間があったことが分かった。ガスバーナーの火花が隙間から落ち、地下3階の下の免震階の天井部分にあるウレタン製の断熱材(厚さ15mm)に引火したとみられる。地下3階ではアセチレンガスのバーナー作業が二人一組で行われ、ひとりが鉄骨を切断、ひとりがコップの水をかけ、飛び散った火花を消す役割だった。床には、柱を囲むようにベニヤ板を敷き、さらに不燃シートをかぶせていた。免震階でも、作業リーダーがウレタン製の断熱材に引火しないよう警戒していた。

■ 7月27日(金)、施工した安藤ハザマの社長が記者会見し、謝罪した。記者会見の中で、昨年、別の現場で、同じ原因とみられる火災を起こしていたことを明らかにした。同社は、現場で火を使う際、周囲を不燃シートで覆ったり、初期消火用にバケツの水を用意したりするなど、六つのルールを定めていたという。社員や下請け業者を含めて現場での朝礼などで周知し、下請け業者が変わる際には説明の場を設けていたという。同社は、「過去の件にも触れて火災の怖さを伝えていたが、こういう結果になってしまった」と謝罪した。

■ 7月27日(金)、日経コンピュータは、建設中で火災になった「多摩テクノロジービルディング(仮称)」のオフィスビルが、米国アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)向けのデータセンターである可能性が高いと報じている。

■ 建設工事中の建物では、スプリンクラーなどの消火設備が未整備な上、資材がむき出しの部分もあり、火災のリスクは高いとされる。東京消防庁管内では、2007年~2016年の過去10年間、工事現場の火災件数は年間80~130件程度で推移している。2016年に発生した82件のうち、ガスバーナーなどを使用した溶接・溶断作業中の火災が26件で最多だった。

(図はSankei.comから引用)
■ 火元が地下の最下層だったことも、被害を急速に拡大させた一因とみられる。閉鎖的な地下では煙や熱がこもりやすい。近畿大工学部の難波義郎教授(建築防火)によると、階段などを通じて煙が3~5m/s程度で上昇するといい、今回のケースについて「地下に充満した煙が最上階まで一気に到達した可能性がある」とみる。高温の黒煙が充満した地下では、消防隊員の救助活動も難しくなる。死者の5人のうち、最後のひとりが見つかったのは免震階付近で、搬送されたのは出火から数時間後だった。

■ 業界団体のガイドラインでは、ウレタンなど燃えやすい資材の近くでは、原則火気厳禁としている。やむを得ず作業する場合は、防火シートで周囲を覆うなどの措置を求めている。安藤ハザマは7月27日(金)の会見で、「(火花が出る鉄骨の)切断作業が終わった後に、断熱材を設置する手順もある」と説明している。今回の現場でウレタン設置後に火気を伴う作業を行った経緯について、作業員らから聴き取るとした。
近畿大難波教授は、「手順を守っていれば、通常ではありえない火災である。ハード・ソフトの両面で複合的な原因を検証していく必要がある」と指摘する。

■ 石油素材のウレタンにいったん火が付くと、一気に燃え広がる「爆燃」と呼ばれる現象が発生する。急な延焼で逃げ遅れの死者が出た火災は過去にもあり、業界団体などは安全管理の徹底を改めて呼びかけている。

■ 7月27日(金)、総務省消防庁予防課は、類似の火災による被害の発生を防止するため、 「新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について」という通達を出し、同様の建築物に対し、個々の施設の態様に応じて防火対策に係る注意喚起を行うよう指導した。

■ 7月27日(金)、厚生労働省労働基準局は、類似の火災による労働災害の発生を防止するため、「建設現場における火災による労働災害防止について」という通達を出した。

■ 7月30日(月)、多摩市長は「唐木田で発生した火災に関する多摩市長コメント」と題して、「二度とこのような惨事が起こらないことを切に願う」旨のコメントを同市のウェブサイトに載せた。この中で、「東京消防庁、多摩市消防団、医療関係者をはじめ、応援に駆けつけてくださった町田市消防団など、現場で救助・消火活動等にあたられた全ての皆さまに、あらためて感謝する」と述べている。
(写真はArtide.auone.jpから引用)
(写真はResuponsu240.comから引用)
(写真はnews.jorudan.co.jpから引用)
(写真はToyokeizai.netから引用)
(写真はNikkei.comから引用)
(写真はTokyo-np.co.jpから引用)
補 足 
■ 「多摩市」は、東京都23区外の多摩地域南部にあり、人口約147,000万人の市である。
            東京都多摩市の位置   (図はIhin.freshman-s.com から引用)
■ 「安藤ハザマ」は、正式には㈱安藤・間(Hazama Ando Corp.)で、東京都港区に本社をおく大手建設会社である。安藤建設と間組(はざま・ぐみ)が合併してできた会社で、両社は対等な精神に基づく吸収合併の方式による合併(存続会社は間組)により、2013年に新会社としてスタートし、社名はそれぞれの旧社名をとり「安藤・間」(呼称は「安藤ハザマ」)となった。従業員は約3,500名である。

所 感
■ 今回の事例は、貯蔵タンク関連ではないが、火災直後のニュース映像で猛烈な煙を見て、これは石油タンクの火災と同じという気がして、調べることとした。やはり、燃えたのは、断熱材に使用されていた石油系のウレタンだった。以前、断熱材としては石綿(アスベスト)が使用されていたが、肺がんを起こす恐れから使用が禁止され、現在は、繊維系断熱材のグラスウールやロックウールなどに代わり、さらに発泡プラスチック系断熱材が使用されるようになった。
 最近では、施工性の容易さから発泡プラスチック系断熱材が多く使用される。繊維系断熱材のグラスウールやロックウールは、ガラスを主原料としているため、燃えにくい特性がある。一方、例えば、ポリウレタンは、軽く、断熱性が高く、様々な形状で加工できるといった特徴から建材として幅広く使用されるようになったが、燃えやすいという弱点がある。また、火災時、猛烈な発煙や有毒ガスを発生する。今回は、このウレタンフォームの燃えるという弱点(欠点)が前面に出てしまった事例だといえよう。不燃性(難燃性)でない断熱材の使用が果たして適切なのだろうかという疑問をもつ。

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 今回の事故では、「ルールを正しく守る」という点において問題がありそうである。「ルールを守る」ことは行われていたかもしれない(法的に許されている不燃性でない断熱材の使用という点を含め)が、そのルールができた背景を知って「正しく」守ったか疑問がある。
 これと通じるが、作業員がウレタンの燃焼実験を見ておれば(ウレタンの危険性の本当の認識)、「危険予知活動」は違ったものになっただろう。自分たちの工事では、火災は起きないだろうという「正常性バイアス」が働いていたものだと感じる。「危険予知活動を活発に行う」は、この「正常性バイアス」を取り除いておこなわなければならない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Mainichi.jp,  火災建設現場、5人死亡 作業員40人けが 東京・多摩,  July  27,  2018
    ・Nikkei.com, 多摩市の建設現場で火災 5人死亡、30人重症 ,  July  26,  2018
    ・Asahi.com, 東京・多摩の建築現場で火災 5人死亡、約25人が重傷,  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 建設現場火災で5人死亡、東京 約40人けが警視庁捜査,  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 多摩5人死亡火災 出火直後に停電 逃げ遅れ影響か,  July  26,  2018
    ・Ad-hzm.co.jp, 弊社の工事現場での火災発生に関するお知らせ(第1報),  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, B3階、床の隙間から火花落下か 東京・多摩市のビル建設現場火災,  July  27,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 多摩5人死亡火災 床隙間から火花落下か ウレタン引火の可能性,  July  28,  2018
    ・Sankei.com , 東京・多摩のビル建設現場火災、悪条件重なり被害拡大か 作業工程に疑問も,  July  27,  2018
    ・Asahi.com, 断熱材引火、昨年に別現場でも ビル火災の安藤ハザマ,  July  27,  2018
    ・Ad-hzm.co.jp, 弊社の工事現場での火災発生について,  July  27,  2018
    ・Fdma.go.jp , 東京都多摩市における工事中の建物火災(第5報),  July  27,  2018
    ・Fdma.go.jp , 建設現場における火災による労働災害防止に係る 厚生労働省の通知等について(情報提供),  July  27,  2018
    ・Mhlw.go.jp, 建設現場における火災による労働災害防止について,  July  27,  2018
    ・Nikkei.com, 多摩のビル火災、アマゾンのデータセンターか ,  July  30,  2018
    ・Toyokeizai.net , 多摩市火災、建物は「データセンター」だった,  July  31,  2018
    ・Cafe-dc.com , 東京・多摩のビル建設現場火災でAWSのビルが炎上,  August  3,  2018
    ・Nikkei.com, ウレタン火災、「爆燃」で急延焼 業界団体が注意促す,  August  3,  2018


後 記: 今回の事故の状況はいろいろ報じられていますが、消防活動についてはあまり報道されていません。消防庁の情報でも、消防士の動員数を含めてほとんど言及されていません。人が建物内にいることが分かっており、救助と消火活動の進め方にタンク火災よりも難しい判断があったはずです。消火戦略の判断などいろいろと聞いてみたいところです。このことは、地方の消防署の第一線は感じているでしょう。今回は、建設工事中のビルということでしたが、すでに建設が終わった大量に発泡プラスチック系断熱材を使用したビルが火災になれば、今回と同じような状況になる可能性が高いといえます。



イタリアの高速道路で渋滞中、タンクローリーが突っ込み爆発、死傷者72名

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 今回は、2018年8月6日(月)、イタリアのボローニャを通る高速道路で渋滞していた車列にタンクローリーが突っ込み、火災が起き、その後、タンクローリーに積んでいた液化石油ガスが爆発した事故を紹介します。
(写真Nytimes.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、イタリアのボローニャ(Bologna)を通る上下8車線の高速道路A14号で、ボローニャ空港に近い市西部のボルゴ・パニガーレ(Borgo Panigale)地区付近の高架橋である。

■ 事故は、渋滞していた車列にタンクローリーが突っ込み、火災が発生したことによって起こった。
       ボローニャを通る高速道路A14号で事故のあった場所付近  (矢印が発災場所)
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月6日(月)午後1時過ぎ、ボローニャ郊外の高速道路で、液化石油ガスを積んだタンクローリーが、渋滞していた車列のトラックに突っ込み、火災が起こり、その後に爆発した。現場では、巨大な火柱が立ち、黒煙が付近一帯に立ちこめた。

■ 近くのレストランで勤務していた男性は、「激しい爆音が聞こえ、テロ攻撃だと思った。爆発後にレストランの屋根が崩れ落ち始めた。外に目をやると、目の前に炎の壁があるように感じた」と語った。

■ この事故で、2人が死亡、70人が負傷した。タンクローリーの運転手は事故時に死亡した。地元保健当局の報道官によると、やけどの治療のため55人が病院に搬送されたと説明した。高速道路警備当局によれば、負傷者のうち少なくとも2人は警官だという。在ミラノ総領事館によると、日本人が巻き込まれたとの情報はない。

■ 現場はボローニャ空港の近くで、大型ショッピングセンターなどがある。爆発の衝撃で、高速道路の高架の一部が崩落したほか、炎によって高架道路下にあった自動車販売店にあった車に延焼し、これらの車も爆発し始めた。また、付近の店舗や住宅に窓ガラスが割れるなどの被害が出た。けが人の中には、飛んできた窓ガラスの破片で負傷した人もいる。

■ 付近にあるボローニャ空港は運航に影響は出なかった。

■ 消防隊によると、爆発後、火災は3時間ほどで消えた。
■ 現場では、夜になっても積み荷の一部とみられる木材がくすぶるなど、激しい事故の痕跡が残っていた。

被 害
■ 人的被害として死者2名、負傷者70名が発生した。

■ タンクローリーは破裂損壊し、内部の液化石油ガスが焼失した。高速道路が一部崩落したほか、付近の建物や自動車に被害が出た。詳細な物的被害は分かっていない。 
               衝突の前後  白い枠内がタンクローリー)
(写真Youtube.comの動画から引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、タンクローリーが前に渋滞していたトラックに衝突し、火災となり、タンクローリーの液化石油ガスに着火し、爆発を起こしたとみられる。
 タンクローリーが渋滞していたトラックに、なぜ衝突したかは分かっていない。

< 対 応 >
■ 警察は市民に対し、爆発が起きた一帯に近づかないよう呼びかけた。また、国家消防当局は、現場の調査などを担うヘリコプターを派遣した。

■ イタリア内相は、検察が事故原因を調べていると明らかにした。
(写真はMotorbox.comから引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
崩落部に破裂したタンクが見える
(写真はMotorbox.comから引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
(写真はMotorbox.comから引用)
補 足 
■ 「イタリア」(Italy)は、正式にはイタリア共和国で、南ヨーロッパにおける単一国家、議会制共和国である。イタリアは、ロスティバル(lo Stivale)と称されるブーツ状の形をしており、国土の大部分が温帯に属する人口約6,000万人の国である。
 「ボローニャ県」は、イタリアエミニア=ロマーニャ州に属する県級行政区画で、人口約100万人の県である。「ボローニャ」(Bologna)は、イタリアの北部にある都市で、人口約39万人のボローニャ県都である。
  イタリアとボローニャの位置  図はGoogleMapから引用)
■ タンクローリーによる衝突と爆発時の映像は報道でいろいろ報じられており、Youtubeにも投稿されている。その中で、事故時の状況を知る上で、参考になるものを紹介する。
 ● Video Drole、「Explosiond‘un camion-citerne à Bologne (Italie)」(2018/8/7)  

所 感
■ 今回の事例は、タンクローリーが渋滞していたトラックに衝突して起きた事故である。事故時の状況は高速道路の監視カメラに残されていたので、世界中に配信され、日本のメディアでも取り上げられた。ただ、詳細な状況ははっきりしない。前にいたトラックは、自動車を運んでいたらしいが、衝突の影響で自動車が外に飛び出し、火災を起こしたように見える。この後、高速道路上にいた車両が避難し、交通遮断された状況の中で、液化石油ガスを積んだタンクローリーが爆発したものだと思われる。タンクローリーは完全に破裂し、崩落した高速道路に残骸を残した。爆発までにしばらく時間があったようなので、高速道路上にいた車両は被害を免れた。そうでなければ、もっと被害は大きくなっていただろう。

■ タンクローリー車は、ブレーキをかけないで、前に渋滞していたトラックに衝突したと思われる。この原因は、運転手が病気で意識をなくしたか、携帯電話(スマートフォン)の画面に気をとられ、前方を見ていなかったという要因があげられる。最近、自動車だけでなく、自転車や歩行中の携帯電話(スマートフォン)の使用による追突や事故を生じる問題があるが、絶対に止めなければならない。今回の事故は、思ってもいなかったような大きな影響になることを示す事例である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com, イタリアでタンクローリー爆発 1人死亡、高架が崩落,  August  07,  2018
    ・Mainichi.jp, イタリア 高速でローリー爆発 2人死亡60人超負傷 ,  August  07,  2018
    ・Cnn.co.jp, 高速道路でタンクローリー爆発 3人死亡、67人負傷 イタリア,  August  07,  2018
    ・Jp.sputniknews.com, ボローニャでのタンクローリー爆発の瞬間、動画に撮影,  August  07,  2018
    ・Afpbb.com, 伊北部でタンクローリー爆発、約70人死傷,  August  07,  2018
    ・Jiji.com, イタリアでタンクローリー爆発、2人死亡=60人以上負傷,  August  07,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, イタリアでローリー炎上2人死亡 高速道路事故、60人負傷,  August  07,  2018
    ・Nhk.or.jp, イタリアでタンクローリー事故 大規模な爆発・炎上,  August  07,  2018
    ・Fnn.jp, タンクローリー大爆発 3人死亡 伊・ボローニャ,  August  07,  2018
    ・Yomiuri.co.jp, タンクローリー追突し爆発…イタリア,  August  07,  2018
    ・Driving.co.uk, 70 Injured in Devastating Tanker Explosion Italy,  August  07,  2018
    ・Washingtonpost.com, Tanker Truck Explosion in Italy Kills 2,Iinjures up to 70,  August  06,  2018
    ・Cnbc.com, Fuel Truck Explosion in Italy Kills 2, Injures up to 70,  August  06,  2018
    ・Dailymail.co.uk, New CCTV Shows Moment Gas Tanker Plowed into Back of a Truck, Sparking Explosion that Left One Dead and Scores Injured in Italy,  August  07,  2018
    ・Kdvr.com , 3 Killed, Several Injured in Italy Highway Gas Tanker Explosion,  August  07,  2018    



後 記: 今回の事故の状況はいろいろ報じられていますが、最初に悩んだのが、動画です。米国のCNNが報じている動画の初めに「グラフィック・イメージを含むので、視聴者の慎重な裁量に委ねる」というような表示が出てきました。当初は、爆発の画面に車両が映っていないので、この場面に何らかな処理をしているのかなという疑問を持ちました。(下記写真を参照) しかし、いろいろ調べていくと、どうやらそうではなさそう気がしてきましたが、「グラフィック・イメージ」(Graphic Imagery)の意味がはっきりしませんし、結局、この爆発動画からの写真を使わないことにしました。このような事実をあいまいにする表現は避けてほしいと思いますね。
(写真はEdition.cnn.comから引用)

米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で落雷による火災

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 今回は、2018817日(金)、米国ルイジアナ州セント・マーティン教区にあるJPオイル社の油井用のタンク施設で落雷による火災事故を紹介します。
(写真はKatc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ルイジアナ州(Louisiana)セント・マーティン教区(St. Martin Parish)にあるJPオイル社(JP Oil Company)のタンク施設である。

■ 発災があったのは、ブロー・ブリッジ(Breaux Bridge)郊外のルイジアナ州高速94号(LA94号線)沿いにある油井関連のタンク施設である。
        ブロー・ブリッジ郊外のルイジアナ州高速94号付近 (矢印部が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月17日(金)昼過ぎ、油井関連施設の古い油タンクが火災となった。発災現場からは、火災から上がる煙の雲が地域一帯に流れた。

■ 油タンクは落雷によって火災になったとみられる。少なくとも、タンク1基が火災になった。

■ 発災に伴い、セント・マーティン教区消防署が出動した。

■ ルイジアナ州高速94号、通称ミルズ通りは、ラファエットとブロー・ブリッジの間で、消防隊の消火活動中、警察によって一時的に閉鎖された。

■ 事故による負傷者はいなかった。

被 害
■ 火災に伴い、少なくともタンク1基が焼損し、内部の油が焼失した。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。 

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は落雷によってタンク内部の油に引火し、火災になったとみられる。

< 対 応 >
■ ハズマット(HazMat)隊は、事故後のクリーンアップのため現場に残った。

■ 出動した消防隊員など緊急対応人員の人数や活動の詳細は分からない。
(写真はKlfy.comから引用)
(写真はKlfy..comから引用)
(写真はKlfy..comから引用)

補 足
   ルイジアナ州の位置  (写真はNizm.co.jpから引用)
■ 「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国の南部のメキシコ湾に面しており、人口約23万人の州であるが、ハリケーン・カトリーナ後は約30万人まで増えたといわれる。州都はバトンルージュで、最大の都市はニューオリンズである。
 「セント・マーティン教区」(St. Martin Parish)は、日本ではセント・マーティン郡とも呼ばれ、ルイジアナ州南部に位置し、人口約52,000人の郡である。群庁はセントマーティンビル(人口約6,100人)であり、最大の町は「ブロー・ブリッジ」(Breaux Bridge:人口約8,100人)である。

 なお、ルイジアナ州では、つぎのような事故や対応事例がある。
         ルイジアナ州のメキシコ湾岸  (写真GoogleMapから引用)
■ 「JPオイル社」(JP Oil Company, LLC)は、1975年に設立された石油・天然ガス掘削・生産の石油会社で、ルイジアナ州ラファイエットを拠点として、主にルイジアナ州、テキサス州、カリフォルニア州、ワイオミング州で事業を展開している。
JPオイル社の石油・天然ガス掘削生産の例
(写真はJpoil.comから引用)
■ 「発災タンク」の仕様については「古いタンク」ということだけで、大きさなどの情報は報じられていない。グーグルマップで発災場所を調べてみると、ルイジアナ州高速94号(ハイウェイ)沿いに新旧の油井用タンク施設がある。(写真を参照)
 JPオイル社は、石油メジャーから既存の油井(採掘権)を買収し、新しい掘削・生産方法をとる事業を行っている。今回、発災した油井用タンク施設はその例のひとつだと思われる。グーグルマップで調べると、古い方のタンクは、直径約2.5m×3基、直径約4.5m×2基である。直径約2.5mのタンクの高さを4mとすれば、容量は20KL級タンクとなる。直径約4.5mのタンクの高さを6mとすれば、容量は100KL級タンクとなる。容量20~100KL級のタンクのいずれが発災タンクかは特定できなかった。
発災したとみられる油井用タンク施設 (右が古い施設)
(写真はGoogleMapから引用)
事故前の油井用タンク施設 (左が古い施設)
(写真はGoogleMapストリートビューから引用)
所 感 
■ 今回、久しく無かったルイジアナ州での落雷によるタンク火災である。「NASAによる世界の雷マップ」によれば、ルイジアナ州は、テキサス州などと並び、雷の多い地域である。米国の原油・天然ガスの油井施設が好調の背景から、メキシコ湾岸でのタンク火災の頻度の高まる可能性があるのではないだろうか。

 消防活動については、あまり言及されていないが、タンクが容量20~100KL級の規模から数時間で火災は消えたと思われる。注目している点は、ハズマット(HazMat)隊が出動し、事故後のクリーンアップのため現場に残ったことである。ルイジアナ州はハズマット隊の組織化に熱心なところであるが、人口約52,000人のセント・マーティン教区消防署でもハズマット隊を編成していることは興味深い。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Katc.com,  Oil Tank Fire Extinguished in St. Martin Parish,  August  17,  2018
    ・Klfy.com,  Major Fire on Mills Highway in St. Martin Parish Now Under Control ,  August  17,  2018
    ・Kadn.com,  Oil Tank on Fire at Refinery outside Breaux Bridge,  August  17,  2018
    ・Hazmatnation.com , Lightning Strikes Oil Tank in St. Martin Parish,  August  18,  2018


後 記: 米国の事故情報を調べていて、最近、感じることはツイッターを利用する人が増えたことです。以前からフェースブックを使う人はありましたが、大統領の影響(?)でツイッターを使用する人が増えているようです。私は事故の状況の詳細を知りたいので、事故があったということだけを伝えるツイッターは、参考になりません。しかし、メディアも今回のような通信社のような記事だと、伝えるべき内容に乏しいですね。人口約8,100人のブロー・ブリッジのさらに郊外で起こった火災事故では、近隣の人の意見は出ないでしょう。現地に行った記者がいなければ、消防隊が出て消火活動に勤(いそ)しんでも、感想が無いのは当然なのでしょうかね。救いは、事故の写真や映像が出ていることです。(今回は良い写真や映像ではありませんが) これがなければ、無味乾燥の内容になっているでしょう。 



多摩市の建設中のビル火災の原因調査

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 今回は、2018年7月26日(木)、東京都多摩市で安藤ハザマが建設中のビルで起きた火災事故の原因調査について紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、東京都多摩市唐木田の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で、三井不動産が100%出資する南多摩特定目的会社が発注し、安藤ハザマが施工していた。

■ 事故があったのは、地上3階、地下3階建ての工事中の建物(建築面積5,360㎡)で、工事は2016年10月に着工し、2018年10月に完成する予定だった。事故当時は内装工事を中心に作業しており、足場の解体や内装など、仕上げ工事に入りつつある段階だった。

<事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はSankei.comから引用)
■ 2018年7月26日(木)午後1時45分頃、多摩市で建設中のオフィスビル(鉄骨造り、地上3階地下3階)の地下3階の床下から出火した。

■ 事故発生の通報を午後1時52分に受けた東京消防庁は、ただちに現場へ出動した。

■ 現場では当時、約320人の作業員が働いていたが、逃げ遅れた男性作業員5人が煙を吸うなどして死亡した。負傷者は気道熱傷など43人にのぼり、このうち約24人は症状が重いという。死亡した5人は屋上で1人、地下3階で2人、地下3階の下の免震階で2人が発見された。亡くなった作業員は全員男性で、年齢は52歳、51歳、49歳、44歳で、一名は60歳代である。

■ 警視庁などによると、作業員2人が地下3階でガスバーナーを使い、鉄骨(金属製のくい)を切断していたところ、地下3階の下の免震階の天井部分に貼られたウレタン製の断熱材に火花が飛んで、出火したとみられる。ひとりが切断、もうひとりが火花を水で消す役割だったという。火がついた後、作業員は消火器を使うなどして消火を試みたが、火の回りが早く、瞬く間に燃え広がったという。

■ 東京消防庁によると、この火災で約70台の消防車や救急車が出動。延べ床面積約17,656㎡のうち約5,000㎡が燃え、約6時間後の午後7時40分に火災を鎮圧した。正式な鎮火時間は午後10時38分だった。

■ 5人が死亡した建設現場では、建物内で出火直後に停電が起きていたことが分かった。現場の地下3階では、出火直後に作業リーダーが「火事だ」と、トランシーバーで別な作業員に連絡した。多くの作業員が避難を始めたが、直後に停電して照明が消えたという。黒煙が充満し、作業員の避難の遅れにつながった可能性がある。警視庁は、工事用の電源ケーブルが焼けて断線したのではないかとみている。

被 害
■ 人的被害として死者5名、負傷者43名(重症13 名、中等症11 名、軽症14 名ほか)が発生した。

■ 物的被害は分かっていない。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、警視庁が刑事事件として調査中で、8月28日(火)に安藤ハザマの関係部署に家宅捜査に入った。

■ 安藤ハザマは、「地下3階にて鉄骨のガスバーナーによる溶断作業中に、何らかの原因で火が付近の可燃物に移り、急速に延焼したもの」とみている。

■ 8月28日(火)段階で、つぎの事項がわかった。
● 当初、難燃性のウレタン材を使う予定だったが、実際は燃えやすい種類のウレタン材が使われていた。
● 鉄骨に仮設したH鋼を切断するため、ガスバーナー作業を実施した。
● 地下3階の床に隙間があったことが分かった。ガスバーナーの火花が隙間から落ち、地下3階の下の免震階の天井部分にあるウレタン製の断熱材(厚さ15mm)に引火したとみられる。
● 地下3階ではアセチレンガスのバーナー作業が二人一組で行われ、ひとりが鉄骨を切断、ひとりがコップの水をかけ、飛び散った火花を消す役割だった。
● 切断作業前に、床にベニヤ板と不燃性のシートを敷き、周辺には水もまいていた。

< 対 応 >
■ 警視庁は業務上過失致死傷容疑で捜査を始め、7月27日(金)午前、捜査員ら数十人が現場に入った。

■ 警視庁は捜査員60人態勢で臨み、8月28日(火)、業務上過失致死容疑で、施工者の「安藤ハザマ」の本社(東京都港区)と火災現場の事務所に家宅捜索に入った。同社の防火管理体勢や施工手順などに問題がなかったかを調べる方針で、燃えやすいウレタン材のそばでバーナーなどを使う際の防火措置や作業手順に不備があった可能性があるとみて、家宅捜索に踏み切った。同社本社のある港区のビルには午前10時頃、捜査1課の腕章を着けた捜査員数十人が到着し、隊列を組み、次々と中に入って行った。

■ 安藤ハザマをめぐっては、昨年2017年6月にも、同社が施工した東京都江東区の倉庫解体工事現場で同様の火災が起きている。

■ 現場では当初、難燃性のウレタン断熱材を使う予定だったが、実際は燃えやすい種類のウレタン材が使われていたという。

■ 警視庁は、現場にいた作業員約320人全員から話を聴いて火災発生時の状況について捜査するほか、押収した資料を分析して、当日の人員配置や避難経路などに問題がなかったかも調べる。

補 足
■ 「多摩市」は、東京都23区外の多摩地域南部にあり、人口約147,000万人の市である。

■ 「安藤ハザマ」は、正式には㈱安藤・間(Hazama Ando Corp.)で、東京都港区に本社をおく大手建設会社である。安藤建設と間組(はざま・ぐみ)が合併してできた会社で、両社は対等な精神に基づく吸収合併の方式による合併(存続会社は間組)により、2013年に新会社としてスタートし、社名はそれぞれの旧社名をとり「安藤・間」(呼称は「安藤ハザマ」)となった。従業員は約3,500名である。

■ 当初使用予定だったウレタンは「難燃性のウレタン材」としたが、メディアによって「耐火性」や「不燃性」という言葉が使用されている。「難燃性」でも誤解を受けるが、「耐火性」や「不燃性」では、さらに誤解されるので、あえて「難燃性」 とした。
 「日本ウレタン工業協会」では、ウェブサイトにウレタンの特徴や取扱方法などを掲載している。この中で、例えば、硬質ウレタンフォームについて、「リン酸エステル系難燃剤を増やしたり、イソシアネート指数を大きくすることで、難燃化(燃え難くすること)ができる、有機物である限り、不燃化には至らない。ウレタンフォームの難燃化は、火災の初期段階で火災の拡大を遅らせて、手のつけられない火災状態になる前に人が避難できる時間を増やすことを目指している」という。
 また、同ウェブサイトには、「硬質ウレタンフォームの難燃性はJIS A 9511などの試験によって評価されるが、これらの試験は一定の条件下での材料の燃焼性の比較を目的としたものであり、必ずしも実際の火災時の危険性を反映したものではない。従って、これらの試験に合格したもの、あるいは準不燃・難燃材料の認定をうけている材料であっても火気に接すると燃焼するので、他の一般的なプラスチック材料と同様に取扱いにおいては火気に対する注意は怠らないこと」と注意喚起されている。

所 感
■ 今回、当初「難燃性のウレタン材」が使用される予定だったという事実が出てきた。 「難燃性のウレタン材」を使用するという判断は設計部門で行われたはずである。その決定が工事管理部門に移った際に「普通のウレタン材」に変更されている。どのような「変更管理」が行われたかが、ひとつの焦点になると思われる。しかし、 ウレタン材を使用する限りにおいては、今回の火災状況(規模や速さ)から「難燃性のウレタン材」の効果があったかは懐疑的に思わざるをえない。そして、 「難燃性のウレタン材」の効果を設計部門と工事管理部門が認識を共有化していたのだろうか。

■ 事故防止に重要なつぎの3つがいずれも行われなかった場合、事故は起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 今回の火災事故の原因については、防火管理体勢や施工手順などに問題がなかったか調査されている。しかし、断熱材を貼った工事の仕上げ段階で仮設のH鋼をガスバーナーで切断しなければならないような施工に至ったのは、単に工事管理部門における安全管理だけでなく、設計部門を含めた社内体勢に問題があったのではないかという疑念があり、根が深そうである。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com, 多摩のビル火災、安藤ハザマを捜索 業務上過失致死容疑,  August  28,  2018
    ・S.mxtv.jp,  安藤ハザマを家宅捜索 東京・多摩市の5人死亡火災で ,  August  28,  2018
    ・Jiji.com , 安藤ハザマを家宅捜索=5人死亡ビル火災-警視庁,  August  28,  2018
    ・Nikkei.com, 多摩ビル火災、安藤ハザマを捜索 業過致死の疑い ,  August  28,  2018
    ・Sankei.com, ビル建設現場火災 安藤ハザマ本社を捜索,  August  28,  2018
    ・Risktaisaku.com, 安藤ハザマを家宅捜索=5人死亡ビル火災-警視庁,  August  28,  2018
    ・Jp.reuters.com, ビル火災、安藤ハザマを家宅捜索,  August  28,  2018
    ・Mainichi.jp, 多摩5人死亡火災 安藤ハザマを捜索 業過致死容疑,  August  28,  2018
    ・Urethane-jp.org , ウレタンフォームは難燃化できますか。
    ・Urethane-jp.org , 難燃性硬質ウレタンフォームとはどのようなものですか?


後 記: 今回の事故は多くの死傷者が発生し、警察が家宅捜査に入りました。このため、新しい事実が一部出てきましたが、情報開示という点においては、ここまでだろうと思います。押収した資料の調査と320人の事情聴取を考えると、相当な期間を要することでしょう。人を裁くことになるので、慎重にならざるを得ませんが、事故の教訓を活かすということからすれば、この方法が良いかどうかは疑問です。裁判になれば、何年もの間、情報は開示されず、意見をいうことも憚(はばか)られます。この期間に一般の人にとって事故は忘れ去られます。(関係者は針のむしろですが) オウム事件などと異なり、工業事故はだれも事件を起こそうとしたわけではありません。事故は活かされてこそ価値があるわけで、警察の刑事事件とは別に、工業事故としての調査が行われ、早く教訓を開示すべきではないかと思います。

テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災

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 今回は、2018年8月28日(火)、米国テキサス州ウィチタ郡ウィチタフォールズにあるプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社の原油タンク施設で起こったリムシール火災について紹介します。
(写真はFiredirect.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国テキサス州(Texas)ウィチタ郡(Wichita)ウィチタフォールズ(Wichita Falls)にあるプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社(Plains All American Pipeline LP)の原油タンク施設である
 ウィチタフォールズは北テキサスの原油配送拠点で、テキサス西部のペルミアン盆地からオクラホマ州クッシングの石油貯蔵ハブまでプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社のパイプラインが走っている。
 
■ 発災があったのは、ウィチタフォールズ東部のハーディング通り2100番地にあるタンク基地の原油タンクで、容量504万ガロン(19,100KL)で高さ約60フィート(18m)の浮き屋根式タンクである。
        ウィチタフォールズのハーディング通り付近  (右端がタンク施設) 
 (写真はGoggleMapから引用)
 プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社のタンク施設 (矢印が発災タンクとみられる) 
 (写真はGoggleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月28日(火)午前7時40分頃、ウィチタフォールズ基地の原油貯蔵タンクで火災が発生した。

■ 火災は屋根シール部から起こったリムシール火災だとみられる。プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、タンクの屋根シールを交換する工事を発注していた。

■ 発災に伴い、ウィチタフォールズ消防署が出動した。

■ タンクの近くにいる住民のひとりは、家への被害や隣人が心配だといい、「どのくらいの量を貯蔵しているか知りませんが、ここには原油がいっぱいあるので、ちょっと怖いですね。風向きが変われば、火の粉が心配です」と語った。 

■ 屋根シールの交換作業中、タンク内の油が火災に巻き込まれた。タンク容量は504万ガロン(19,100KL)であるが、火災発生時に原油がどのくらい入っていたかは発表されていない。多くの作業員が安全な場所に避難した。消防署は、タンクのシール部の交換作業中に、内部の原油に引火したものとみている。

■ 警察は、すぐに発災場所への通行を閉鎖し、周辺の交通規制を実施した。この地区の住民に対して避難の勧告をすることは一度も無かった。大気の空気質は火災が消火されるまで監視された。

■ プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、火災は貯蔵タンク1基に限定されており、行方不明の作業員はいないと語っている。 一方、最初の対応者は現場にいたといい、けが人の有無については語っていない。また、火災による影響についても言及しなかった。

■ 消防隊は泡を使って火災を消火したが、午前10時30分頃、再び燃え出し、タンクから6~8フィート(1.8~2.4m)のところで燃えていた。タンク頂部には手すりのない狭い歩廊しかなく、十分な泡を維持することができなかった。この種の消火用泡を確保するため、ヒューストンやボーモントから泡薬剤の搬送車とともに消防隊が支援で訪れた。消防隊は、爆発の危険性はないと語った。

■ 28日(火)午後1時30分時点で、オンラインのウィチタフォールズ公共交通規制システムを搭載した2台のユニットともに、ウィチタフォールズ消防署の13台の消防機材は現場にいた。午後4時の時点でも、11台の消防機材が現場にいた。交通規制は消火されるまで継続された。

■ 民間人や消防関係者に負傷の報告は無かった。

■ タンクのリムシール火災は、29日(水)の深夜に消火できた。

被 害
■ 容量504万ガロン(19,100KL)の浮き屋根式貯蔵タンク1基の屋根シール部が焼損した。このほかに損傷した部品があるとみられるが、詳細はわからない。

■ タンク内にあった原油が焼失した。燃えた油量はわからない。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >
■ 浮き屋根式貯蔵タンクの屋根シール部の交換作業中に、内部の原油に引火し、リムシール火災になったものとみられる。どのような交換作業を行っていたかはわからない。

< 対 応 >
■ ウィチタフォールズ消防署は、48名の消防士と15台の消防機材を投入した。シェパード空軍基地消防署、ウィチタ警察署、ウィチタ郡保安官事務所が支援に駆けつけた。

■ 8月29日(水)、プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、タンク基地と関連のパイプラインは操業を再開したと発表した。また、消火に携われた方に感謝申し上げるとともに、タンク基地の近隣住民へご心配をおかけしたことをお詫び申しあげますというコメントを出した。

■ 8月30日(木)、パイプラインは1日当たり410,000バレルの流量に回復した。パイプラインの設計流量は1日当たり450,000バレルである。パイプラインの供給停止のニュースが流れたとき、石油関係者の間には、西テキサスの原油物流の弱さを露呈したとみられていた。
(写真はTimesrecordnews.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
                避難してきた人々  (写真はTimesrecordnews.comから引用)
補 足
■  「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,830万人の州で、州都はオースティンである。  「ウィチタ郡」(Wichita)は、テキサス州の北部にあり、人口約13万人の郡である。
「ウィチタフォールズ」(Wichita Falls)は、ウィチタ郡の東部にあり、人口約10万人の郡長所在地の町である。
         テキサス州ウィチタ郡の位置  (写真はGoggleMapから引用)
■ 「プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社」(Plains All American Pipeline. LP) は、1998年に米国で設立された原油・天然ガスの輸送・貯蔵事業を行っているエネルギー会社である。1,000マイル(1,600km)のパイプラインと7,700万バレル(1,200KL)の原油貯蔵能力を有しており、主に北米で事業を展開している。親会社はプレインズ・GP・ホールディング社(Plains GP Holdings.LP)である。

■ 「発災タンク」の容量は19,100KLである。このタンクをグーグルマップで調べてみると、タンク基地の南東端のタンクだとみられる。このタンクの直径は約38mであり、高さを18mとすれば、容量は20,000KL級である。一部のメディアで60フート・タンク(a 60-foot tank)という表現があり、直径でなく、高さ60フィート(18m)と解釈した。発災タンクの写真を見ると、リムシール火災はタンク頂部に近いところで燃えており、内部の原油はほぼ一杯だったとみられる。
             発災したとみられるタンク(右端)  (写真はGoggleMapから引用)
          発災したとみられるタンク(事故前)  (写真はGoggleMapから引用
■ 「リムシール」はタンク側板と浮き屋根(ポンツーン)のシールである。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。シール部の交換を運転中に行うことはない。一方、米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を採用した浮き屋根タンクがある。グーグルマップ写真では、タンク側板側からタンク中央にかけていく筋もの油の流れた跡のようなものが見える。当該タンクがメカニカルシールを使用し、運転中保全を行ったとみられる。
リムシールの種類の例
■ 「リムシール火災」は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、「リング火災」とも呼ばれる。日本では、固定式泡消火設備を設けることになっており、リムシール火災への別な対応方法は考えられていない。海外では、固定式泡消火設備のないのがあり、リムシール火災への対応方法が考えられている。当ブログでリムシール火災について言及した資料を紹介する。

 この資料は、タンク火災事故の消防対応の業務などを行うウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が、2004年9月米国オクラホマ州で起こった落雷によるリムシール火災の消火活動状況について述べたものである。

 この事例は、落雷による浮屋根式タンクのリムシール火災の典型的な事例である。米国では、固定式泡消火設備を設置したタンクは多くないが、このタンクには自動システムの泡消火設備が設置されており、有効に機能した事例である。

 この資料は、「A-CERT」(シンガポール企業緊急対応チーム協会)がまとめた貯蔵タンク火災の消火戦略である。貯蔵タンクの概要を含めて消火戦略について総合的に整理されており、リムシール火災への対応として火災の状況によって、①積極的(オフェンシブ)戦略、②防御的(ディフェンシブ)戦略、③不介入戦略の選択に関する基本的考え方などについてまとめられている。

 この資料は、石油貯蔵タンク施設における消火戦略・戦術について書かれたものである。リムシール火災については固定泡消火設備が設置されていない場合、人による消火活動に頼る必要があり、水を噴霧して防護した上で、消防士が消火泡モニターを携行し、タンク頂部のプラットフォームに昇って対応することなどについて言及されている。

 この資料は、タンク火災の発生頻度、タンク規模による消火の容易性、タンク開放検査の周期など定量的に書かれている。リムシール火災の95%は落雷によって発生しており、リムシールを保有する全タンクの0.16%は使用期間中にリムシール火災に遭うといい、早期に対処するため、タンクリムまわりには監視システムおよび消火システムを設置することを推奨している。 

 この資料は、石油貯蔵タンクの避雷設備について言及されたものであるが、日本ではなじみのない浮き屋根式タンクのシャンツやメカニカルシール(メタルシール)について実験を行い、評価したもので、2010年のAPIタンク会議で発表されたものである。

 この資料は、イタリア化学工学協会の会報に掲載されたもので、タンクの種類、火災の発生要因、事故対応の事前計画などについて書かれたものである。貯蔵タンクの固定泡消火設備は損傷を受けなければ、リムシール火災に対して適切な装置といえるが、貯蔵タンクの事故において火災の前に爆発が起これば、固定泡消火設備は損傷を受ける可能性が高く、火災を抑制することができないので、代替の消火システム(移動式消火設備)を必要だという。

所 感
■ 消防隊の隊員はタンク上部に昇り、よく活動して対応したらしいことは分かる。しかし、リムシール火災の消火戦略・戦術がみえない。消防隊は泡を使って火災を一旦消火したが、約3時間後に再燃してしまった。タンク頂部には手すりのない狭い歩廊しかなく、十分な泡を維持することができなかったという。しかし、リムシール火災では、消火してもタンク側板が熱くなっているので、再燃しやすい。 「燃えているタンク内に油を入れる消火戦術」(2016年1月)によると、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は、再燃しないように防油堤内からタンク側板を冷却したという。今回の事故対応の消火活動は詳しく言及されていないので、一概には言えないが、過去の教訓が活かされていないように感じる。

■ 今回の事例では、どのようにして消火できたかわからないが、大量の泡薬剤を手配しているので、タンク側板の階段頂部1箇所からリムシール部に消火泡を投入し、消火と再燃を繰り返しながらも全周に泡を行き渡らせたのではないかと推測する。また、タンクの被災写真によると、火災はタンク全周でなく、ところどころから火の手が上がっており、屋根シールはメカニカルシール(メタルシール)の可能性が高い。これが、16時間余のリムシール火災でも全周火災にならずに済んだともいえよう。
 日本では、固定泡消火設備が設置されているので、リムシール火災については対策はとれている。一方、固定泡消火設備が壊れた場合、対応がうまくとれるだろうかという疑問は残る。大型化学消防車や大型高所放水車によって、手前でタンク側板裏の死角になる部分にうまく泡放射できるだろうか。これは、大容量泡放射砲システムでも同じことである。さらに、大容量泡放射砲システムでは、時間がかかれば大量の水をタンク屋根に供給することになり、浮き屋根の浮力が問題になる。また、フォーム・ログ・シール方式の屋根シールでは、シール(ウレタン)がすぐに燃えてしまい、かなり大きな全周のリムシール火災になる可能性がある。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
     ・ Fredirect.net ,   US – Crude Oil Tank Fire Extinguished,  August 31,   2018
     ・Reuters.com, Fire Breaks out at Plains All American Crude Tank near Wichita Falls, Texas,  August 29,   2018
     ・Timesrecordnews.com , Company States Oil Tank Fire Extinguished, Terminal Has Resumed Operation,  August 29,   2018
     ・Oilandgasinvestor.com, Fire Breaks Out At Plains Crude Tank Near Wichita Falls,  August 28,   2018
     ・Newschannel6now.com, Crude oil tank fire extinguished in Wichita Co.,  August 28,   2018
     ・Bicmagazine.com , Fire Breaks out at Plains All American Crude Tank near Wichita Falls, Texas,  August 30,   2018



後 記: 今回の事例を調べていて、過去の事例が活かされていないことを感じました。そのように思っているところに北海道で震度7の地震(北海道胆振東部地震)がありました。このようなブログを書いていると、当然ですが、近くにある製油所や原油タンク備蓄基地の貯蔵タンクは大丈夫だったのだろうかとすぐに思いました。長周期でなく、直下型の短周期の揺れだとみられますので、おそらく無事だと思いましたが、ニュースでは、何も触れられませんでした。2003年十勝沖地震後にあった製油所でのタンク火災事故は、すでに15年を経ており、忘れ去られているのでしょうね。


北海道電力・苫東厚真発電所の胆振東部地震による損傷

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 今回は、貯蔵タンク事故ではありませんが、 201896日(木)、北海道厚真町で震度7の揺れを記録した北海道胆振東部地震において、北海道全域で停電に至るきっかけになった北海道電力の苫東厚真発電所の地震による損傷事故について紹介します。
写真はhokkaido-np.co.jpから引用)
< 事故施設の概要 >

■ 事故があったのは、北海道勇払郡厚真町(あつま・ちょう)にある北海道電力の苫東厚真発電所(とまとうあつま)である。苫東厚真発電所は石炭火力発電所で1980年に運転を開始した。総発電能力は165万kWで、1号機35万kW(1980年運転開始)、2号機60万kW(1985年運転開始)、4号機70万kW(2002年運転開始)である。

■ 事故があったのは、発電所施設の1号機から4号機の3機すべてである。
事故のあった厚真町の苫東厚真発電所周辺(矢印が発電所)
(写真はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
北海道胆振東部地震
(図はLivedoor.comから引用)
■  2018年9月6日(木)午前3時8分頃、北海道胆振東部地震が発生し、厚真町で震度7の揺れが起こった。震源は胆振(いぶり)地方中東部、深さ37km、マグニチュード6.7だった。

■ この地震によって、厚真町で大規模な崖崩れが広範囲で発生して多数の住宅が巻き込まれるなどの被害が出て、全道で41名の死者が出た。

■ 苫東厚真発電所では、地震によって全機が緊急停止した。これによって、北海道内の電力の発電量と使用量のバランスが急激に崩れて周波数が乱れ、この影響による機器の故障を避けるために当時稼働していたほかの火力発電所も自動停止し、道内の離島を除く全域にあたる295万戸で停電、いわゆる「ブラックアウト」が起こった。

北海道電力の主な発電所と送電線
(図はHokkaido-np-.comから引用)
■ 地震発生時に苫東厚真火力発電所では、3基の発電機が動いており、合計出力は165万kWで、地震発生時の需要(310万kW)のほぼ半分を1箇所の発電所が担っていた。一方、地震発生時に運転していた火力発電所は6基で、砂川発電所など別の火力発電所の6基はバックアップ用で運転待機中だった。しかし、これらが全てすぐに稼働できたとしても、発電能力は約92万kWであり、苫東厚真発電所の3基分の出力を補うことはできなかった。

■ 9月6日(木)午前9時過ぎ、苫東厚真発電所の4号機の蒸気タービン付近から出火した。火災は午前10時15分に鎮火した。

■ 北海道電力は、苫東厚真火力発電所以外の停止した発電所を立ち上げるとともに、新たに各地の発電所の運転を始めた。9月7日(金)夕方時点で運転を始めた火力発電所は9箇所、水力発電所は47箇所である。火力発電所では、発電を始めていった順に砂川3号機(12.5万kW)、奈井江2号機(17.5万kW)、砂川4号機(12.5万kW)、森(2.5万kW)、知内1号機(35万kW)、奈井江1号機(17.5万kW)、音別2号機(7.4万kW)、伊達1号機(35万kW)、伊達2号機(35万kW)である。 47箇所の水力発電所の出力は計29.3万kWである。このほか北海道電力以外の火力発電所からの供給が3箇所(10.1万kW)、水力発電所が19箇所(11.1万kW)であった。

■ 9月8日(土)、北海道電力は電力供給を午後8時時点でピーク需要の9割を満たす350万kWを確保した。 北海道電力は、週明け10日以降の計画停電を回避するため、節電を全道に呼びかけた。節電に加えて水力発電所を新たに稼働、他社の自家発電設備からの電力供給を合わせて十分な供給力を確保できると判断し、9月9日(日)、10日(月)両日は計画停電を行わずに済むとの見通しを示した。

■ 9月8日(日)、北海道電力の社長が記者会見を開き、苫東厚真火力発電所の復旧に「1週間以上を要する」と明らかにした。1、2号機で蒸気配管、4号機でタービンが損傷し、地震からほぼ3日たっても高温で立ち入れない箇所があるという。

地震発生からの動き
(表はAsahi.comから引用)
■ 9月10日(月)、「ブラックアウト」は、苫東厚真火力発電所の1号機(出力35万kW)が、地震発生から約17分後に停止したのが引き金だったことが分かった。地震発生直後の6日(木)午前3時8分頃、2号機と4号機が地震で緊急停止したが、1号機は稼働を続けていた。電力は需要と供給のバランスが崩れると、周波数が乱れて発電機が損傷する恐れがある。このため、北海道電力は、失われた供給分(約130万kW)に見合うように一部の地域を強制的に停電させて需要を落としバランスの維持を試みた。
 しかし、地震発生から約17分後の午前3時25分頃に何らかの原因で1号機が緊急停止した。強制停電による需給バランスの維持が間に合わなかったとみられ、1分以内に知内、伊達、奈井江の三つの発電所が発電機の損傷を防ぐため自動的に停止し、北海道電力のすべての発電所が停止するブラックアウトとなった。

■ 9月12日(水)、苫東厚真発電所の周辺道路や石炭置き場など発電所敷地内の数箇所で、砂が噴き出す地盤の液状化とみられる痕跡があることがわかった。敷地内の道路の一部などは液状化により、陥没していた。北海道電力は、「復旧作業に影響があるものではない。必要に応じて補修を行っていく」としている。ヘリコプターで上空から観察した北海道大の渡部教授(地盤工学)は、「発電所周辺の海沿いでは、至る所で砂が噴き出していた。建屋近くでも、少なくとも2箇所は痕跡が確認できた。ただ、今回見る限りでは、発電所の建物に直接影響している可能性は少ないのではないか」と話している。
苫東厚真発電所内の液状化痕跡 (白い部分)
(写真はAsahi.comから引用)
被 害
■ 北海道胆振東部地震による死者は41名、負傷者681名である。

■ 住宅の被害は、全壊64棟、半壊57棟、一部破損72棟である。このほか、土砂崩れ、液状化、インフラ・農業・産業への影響があるが、損害額は分かっていない。

■ 苫東厚真発電所では、地震による死傷者は出なかった。
 発電所のボイラーおよび蒸気タービンに損傷が出たが、損害額は分かっていない。 

< 事故の原因 >
■ 苫東厚真発電所の事故原因は、地震の揺れのよるボイラーまたは蒸気タービンが損傷し、緊急停止したことによる。

< 対 応 >
■ 経済産業大臣は、9月6日(木)地震直後の朝の記者会見で、北海道電力に対して数時間以内に復旧のめどを立てるよう、北海道電力に指示した。しかし、6日(木)の昼前、苫東厚真発電所の損傷が次第に分かってきたため、復旧に少なくとも1週間程度かかるという見通しに変わった。

■ 9月11日(火)、 北海道電力は、これまで「1週間以上」と説明していたが、復旧時期が大幅にずれこみ、全面復旧が11月以降になるとの見通しを示した。復旧が遅れる理由について「点検が進むにつれ、損傷していた場所が多く見つかっている」という。

■ 9月11日(火)、北海道電力はこれまでに分かった苫東厚真発電所の損傷状況を公表した。
(1) 1号機
 ● ボイラーの内部点検の結果、ボイラー管2本の損傷を確認した。
 ● 損傷管は取替を実施する。その後に健全性確認のため、水圧試験を実施予定。(9月16日の週)
 ● タービン設備については、現時点、運転再開に影響する損傷は確認していない。
 ● 復旧は9月末以降の予定である。
苫東厚真発電所の損傷の部位
(写真はHepco.co.jpから引用)
1号機のボイラー管の損傷 (ボイラー上部)
(写真はHepco.co.jpから引用)
() 2号機
 ●  ボイラーの内部点検の結果、ボイラー管11本の損傷を確認した。
 ● 損傷管は取替を実施する。その後に健全性確認のため水圧試験を実施予定。(9月16日の週)
 ● タービン設備については、現時点、運転再開に影響する損傷は確認していない。
 ● 復旧は10月中旬以降の予定である。1号機より2号機の方が損傷を受けた管の数が多い分、復旧には時間がかかる見込みである。
2号機のボイラー管の損傷
(写真はHepco.co.jpから引用)
() 4号機
 ● 冷却を継続していたボイラー本体は、9月10日(月)から内部点検を開始し、今のところ運転再開に影響する損傷は確認していない。
 ● 点検後、健全性確認のため水圧試験を実施予定。(9月16日の週)
 ● 4号機のタービンは内部の温度がまだ90℃あり、作業員が入れないため、内部の冷却が終わり次第、16日以降に点検を始める。
 ● タービンを分解し、損傷部分を修理・交換するなどして組み立て直す必要があり、1、2号機よりさらに時間が必要になる。
 ● 復旧は11月以降の予定である。 
4号機のタービン出火時の状況
(写真はHepco.co.jpから引用)
タービンの開放時の例(過去の例)
(写真はHepco.co.jpから引用)
■ 911日(火)、需給逼迫に伴う節電要請が続く北海道電力エリアで、高圧系統に接続された太陽光、風力が本格的に運用を再開した。これまでは蓄電池と組み合わせて運用できる設備を連系対象としてきたが、供給力の積み増しにより、北海道本州間連系設備(北本連系設備)に生じた余力を調整力として活用できるようになったことから、接続可能量が大幅に増加した。11日(火)正午時点で連系済みとなった風力は10箇所で約18万kW、午後5時時点で18箇所で約29万kWとなった。これまでは系統側に設置された大型蓄電池で調整できる約10万kWのみを連系対象としていたが、北本連系線に一定の空き容量ができたことから、他の風力も活用できるようになった。

■ 9月11日(火)、北海道電力は、電力の安定供給作業のため、各電力会社から支援を受けていると発表した。支援しているのは、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力で、合計約700名の社員と約150台の移動発電機車が北海道に派遣されている。
各電力会社からの支援
(写真はTwitter.comから引用)
■ 911日(火)、北海道全停電に対する北海道電力の対応への非難が出てきている中、北海道知事は記者会見で、北海道電力の対応について「今段階で過去にさかのぼってうんぬんと言うつもりは全くない」と述べ、評価に言及しなかった。知事は「北海道電力関係の方々は士気高く、北海道の危機的状況を乗り切るため、睡眠時間も抑えながら頑張っている」と指摘し、その上で「まずは道民それぞれの立場で総力を挙げて乗り切る。その後に検証し、同じような災害に備えるプロセスが重要だ」と強調した。

北海道電力の再稼働スケジュール
(図はHokkaido-np.co.jpから引用)
■ 9月13日(木)、北海道電力京極発電所1号機(揚水、20万kW)の運転が再開され、14日(金)には2号機(同)が運転を再開し、需給状況が大幅に改善し、計画停電が回避される可能性が高くなった。京極1、2号機が再開することで、供給力は393万kWにまで増え、これまで基準としてきた地震前のピーク需要383万kW(9月5日午後7時)を上回ることになる。

■ 北海道電力では、電力の安定供給対策として、つぎの計画を進めていた。
 ● 同社初の液化天然ガス(LNG)火力である石狩湾新港発電所1号機(56万9,400kW)を建設中で、10月に総合試運転を始める予定で、2019年2月の営業運転開始を目指している。
 ● 北海道-本州の連系線の増強。北本連系設備の容量は現在60万kWであるが、別ルートで30万kWの増強工事中である。2019年3月に運用開始予定である。
 しかし、これらの対策は今回の地震には間に合わなかった。

補 足
■ 「厚真町」(あつま・ちょう)は、北海道南部に位置し、胆振(いぶり)総合振興局管内の勇払郡(ゆうふつ・ぐん)にあり、人口約4,800人の町である。海側の地区は苫小牧東部工業地域に続く地域として1980年以降開発が進み、苫小牧市との境に苫小牧東港が作られたほか、道内最大規模の北海道電力の苫東厚真発電所や石油備蓄基地(国家・民間備蓄量は国内最大)がある。
北海道電力・苫東厚真発電所と石油備蓄基地 
(写真はTaku-kankou.comから引用)
■ 「北海道電力」は、1951年に設立された北海道を営業地域とする電力会社である。従業員は約8,000人である。発電所は火力・水力などを含めて70箇所、総出力780万kWを有する。
北海道電力の保有発電所
(表はAmeblo.jpから引用)
■ 「苫東厚真発電所」は、1980年に1号機が運転を開始して以降、4号機まで建設された。3号機は商用としては世界初の加圧流動床複合発電方式を採用し、高い熱効率と低環境負荷が期待されたが、配管の摩耗や損傷などによるトラブルが多発して稼働率が上がらず、多額の補修費が問題となり、2005年に廃止された。4号機も加圧流動床複合発電方式で35kWでの計画だったが、3号機の運転が不良だったために、4号機は従来型の70kWに計画変更を行った。この4号機は、発電効率向上のため、主蒸気温度および再熱蒸気温度600℃、主蒸気圧力25.0MPaとした北海道電力初の超々臨海圧のボイラーと蒸気タービンを採用している。

■ 「平成30年北海道胆振東部地震」は、防災科学技術研究所の推定震度分布(速報)によると、北海道苫東厚真発電所のある場所の震度は6.2~6.4(震度6強)だったとみられる。また、今回の観測点で最大加速度は追分観測点で1,796galだった。追分観測点は苫東厚真発電所から見れば約50kmとやや離れているが、発電所に近い早来観測点(約17km)で716gal、むかわ観測点(約11km)で662galを記録している。発電所構内では、少なくとも600~700galを超えていたものと思われる。
 なお、危険物を扱うプロセス装置では、地震検知による自動停止機能を組み込むが、火力発電所は、一般的に地震検知による自動停止機能はない。(原子力発電所では、「地震加速度大(120gal)」で停止する)
北海道胆振東部地震の防災科学技術研究所による推定震度分布 (矢印が苫東厚真発電所)
(図はhinet.bosai.go.jpから引用
所 感 
■ 今回の苫東厚真発電所の事故原因は、地震の揺れのよるボイラーまたは蒸気タービンが損傷し、緊急停止したことによる。北海道電力はこのことを認識してオープンにすればよいが、情報公開の量・質ともに少ない。そのような中で、推測と疑問について述べる。

 ● ブラックアウトまでの17分間の理由は、1号機と2号機の損傷程度の差異だと思う。ボイラー管11本が破損した2号機はボイラーの蒸気が急激に低下し、自動停止したものではないかと思う。一方、1号機のボイラー管の損傷が2本と少なく、且つ予熱系であったため、蒸気タービンへの供給蒸気がある程度保たれたので、自動停止までに時間がかかったのではないだろうか。

 ● 火力発電所は、危険物を取り扱うプロセス装置と異なり、地震検知による自動停止機能が組み込まれていない。1号機と2号機が自動停止した検知機能(蒸気圧低下、燃料供給圧低下、運転員の判断など)を北海道電力は公表すべきである。

 ● 一方、4号機はボイラー管には運転再開に影響する損傷を確認していないという。蒸気タービンから出火したというが、これは地震発生後、6時間を経過したのちである。蒸気タービンには振動が大きくなったことによる自動停止機能がついている。振動大で自動停止したとすれば、なぜ4号機だけなのかという疑問が出る。4号機の自動停止した検知機能を公表すべきである。

 ● 4号機の出火要因についても疑問が残る。もっとも可能性があるとすれば、潤滑油系統の漏れがある。4号機は主蒸気温度が600℃で主蒸気圧力25.0MPaの超々臨海圧のボイラーと蒸気タービンである。この型式と関係があるのかもしれない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Nikkei.com,  苫東厚真発電所の復旧、北電社長「1週間以上要する」 ,  September  08,  2018
    ・Denkishimbun.com,  北海道電力、苫東厚真の点検急ぐ/復旧時期は「損傷次第」,  September  11,  2018
    ・Asahi.com,苫東厚真発電所、全面復旧は11月以降 配管損傷や出火,  September  12,  2018
    ・Nhk.or.jp ,  北海道の停電「数時間以内に復旧のめどを」指示 経産省,  September  06,  2018
    ・ Hepco.co.jp , 設備および停電等の状況について(9 月 7 日 15 時現在),  September  07,  2018
    ・Hepco.co.jp,   北海道胆振東部地震により被害を受けた 苫東厚真発電所の点検結果と復旧見通しについて,  September  11,  2018
    ・Denkishimbun.com,   震度7の地震により北海道全域で停電。主力電源が緊急停止,  September  10,  2018
    ・Hokkaido-np.co.jp , 火発長期停止、備えなし 想定訓練一度もなく 苫東厚真からブラックアウト,  September  08,  2018
    ・Denkishimbun.com,  再エネ運用が本格化/北本連系余力を調整力に,  September  11,  2018
    ・Denkishimbun.com,  京極1、2が順次再開へ/計画停電は回避の方向,  September  13,  2018
    ・Hokkaido-np.co.jp , 北電の対応「今段階でうんぬんせず」と知事,  September  11,  2018
    ・Hokkaido-np.co.jp , 震源域に最大火発 停止次々、全道に連鎖 「想定せず」遅れた対処,  September  07,  2018
    ・Static.jishin.go.jp, 平成 30 年北海道胆振東部地震の評価,  September  06,  2018
    ・Bosai.go.jp, 防災研の災害関連情報(速報) 平成30年北海道胆振東部地震  解析結果,  September  11,  2018
    ・Yomiuri.co.jp, 地震発生17分後、3基目停止でブラックアウト,  September  10,  2018
    ・Yomiuri.co.jp, 主力発電所1号機が停止、1分でブラックアウト,  September  11,  2018
    ・Mainichi.jp, 苫東厚真の火力2基、地震直後に自動停止,  September  11,  2018
    ・Asahi.com , 苫東厚真火力発電所、敷地内で液状化 北電が認める ,  September  13,  2018
    ・Asahi.com , ブラックアウト、空白の17分 需給バランス再び崩れる 北海道地震,  September  13,  2018
    ・Sankei.com , ブラックアウト、苫東厚真火力の「一本足打法」あだに,  September  13,  2018
    ・Fdma.go.jp , 平成30年北海道胆振 東部地震による被害及び 消防機関等の対応状況(第25報),  September  14,  2018



後 記: 今回の事故を調べていて感じたことは、日毎にメディアの北海道電力に対する印象が悪くなっていることです。確かに情報公開がオープンでなく、何かを隠しているのではないかと思わせます。そのような中で北海道知事は、「今段階で過去にさかのぼってうんぬんと言うつもりは全くない。北海道電力関係の方々は士気高く、北海道の危機的状況を乗り切るため、睡眠時間も抑えながら頑張っている」と述べています。緊急事態対応のときに上に立つ人の態度は泰然自若(たいぜん-じじゃく)でいるべきです。
 北海道電力の情報公開に関するつまずきや消極的な対応のきっかけは、地震直後の経済産業大臣の記者会見で(根拠もなく)「北海道電力に対して数時間以内に復旧のめどを立てるよう指示した」の言葉にあると思います。このようなことを大臣から指示されれば、泰然自若の人でなければ、忖度(そんたく)の方向へ向かうでしょう。とりあえず(根拠もなく)「復旧に少なくとも1週間程度かかる」と言ってしまったのでしょう。この被害を小さくみせるつまずきから、情報公開に消極的な対応になっていったと思います。



米国ジェファーソン郡の化学工場でタンクからスチレン漏洩

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 今回は、2018年8月22日(土)、米国テキサス州ジェファーソン郡ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場でスチレンが漏れた事故を紹介します。
ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson County)ポート・ネチズ(Port Neches)にあるライオン・エラストマー社(Lion Elastomers )の化学工場である。

■ 発災があったのは、ポート・ネチズにある化学工場のタンク施設である。
ライオン・エラストマー社の化学工場南端にある横型タンク群
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月22日(土)午後9時頃、ポート・ネチズのライオン・エラストマー社の施設でスチレンが漏れる事故があった。

■ 住民は、22日(土)の夜遅く、なじみの薄い臭いが近隣に広がっていったことに話題となった。住民のひとりは、「最初、暴走族が蚊とりスプレーを撒き散らしていったと思っていたが、臭いは消えず、だんだん強くなっていった」と話した。別な住民は、「私たちは、ここから避難すべきなのか、ひどい状態なのか知らされていなかった。とにかく、かなり強い臭いだった」と語った。

■ スチレンの臭いは強烈で、わずかな量でも住民はたじろいでしまう。住民のひとりは、「私には喘息気味の男の子がいるのですが、臭いがひどくて、外に出たがりません」と話している。

■ 臭いは近くにあるライオン・エラストマー社の工場の方から漂っていた。ライオン・エラストマー社は、ポート・ネチズ消防署へスチレンの漏れがあったことを報告した。

■ 消防署は、しばらく近隣地区に強い臭いが残るかもしれないが、化学物質の濃度としては危険レベルをかなり下回っていると話している。消防署は「外に居ても安全である」と発表した。消防署の推定によると、化学物質の能力から周辺地区では漏洩による臭いを感じることができるだろうという。スチレンの臭いしきい値(嗅覚しきい値)は0.016ppmで、極めて少量でも強い臭いを感じるという。

■ ライオン・エラストマー社の広報担当は、漏洩はわずかな時間だけで、漏れ量はわずかだといい、漏洩したスチレンは有害な量ではないと語った。広報担当は、工場の南端にあるタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったと語った。

■ 22日(土)夜のスチレン濃度は5ppm以下と報告されており、危険レベル以下である。米国環境保護庁(EPM)によると、ほとんどの人が一時的な副作用を訴える前に1時間曝露できる最大の大気中濃度は5.04ppmである。米国安全衛生労働局(OSHA)によると、作業環境におけるスチレンの許容濃度は、8時間の平均で100ppmである。

被 害
■ スチレンが漏洩して、周辺住民から臭気のクレームが出た。
■ 事故に伴う健康への被害者はいなかった。 

< 事故の原因 >
■ 工場のタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になった。
 漏洩に至った詳しい原因はわからない。

 < 対 応 >
■ ライオン・エラストマー社は、人的な被害はないが、大気を監視している。 22日(土)夜の事故発生時からすると、空気中のスチレン濃度は下がり続けているという。

補 足
米国およびテキサス州(Texas)の位置 (日本の広さと比較したもの)
(図は123ohmygod.seesaa.netから引用)
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国の南部のメキシコ湾に面しており、人口約2,800万人の州である。州都はオースティン である。
 「ジェファーソン郡」(Jefferson County)は、テキサス州の南東部に位置し、人口約25万人の郡である。郡都はボーモント(人口約12万人)である。
 「ポート・ネチズ」(Port Neches)は、ジェファーソン郡の東部にあり、人口約13,000人の町である。
テキサス州のジェファーソン郡(赤枠)の位置
(図はGoogleMapから引用)
■ 「ライオン・エラストマー社」(Lion Elastomers LLC)は、1943年に設立された化学会社で、EPDM(エチレンプロピレンゴム)やSBR(スチレン・ブタジエンゴム)などの合成ゴム製品を製造している。同社はポート・ネチズを本拠にしており、以前はアシュランド・エラストマー社(Ashland Elastomers LLC)として知られていたが、2014年にライオン・コポリマー社(Lion Copolymer)に買収され、現在は同社の子会社として活動している。

■ 「スチレン」(Styrene)は、無色または黄色液体で、芳香性が強く、比重が0.9の石油系液体である。工業的には、エチルベンゼンを鉄触媒等で脱水素して製造され、スチレンモノマーなどとも呼ばれる。引火点32℃、沸点145℃で、高濃度の蒸気は麻酔作用があり,多発性神経炎を起こす。日本における管理濃度は20ppmである。スチレンの臭いしきい値(嗅覚しきい値)について報道では、0.016ppmとあるが、日本では0.035ppmというデータもある。

■ ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場の施設内容は分からない。工場の南端にあるタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったと言われているが、確かに工場南には、「横型タンク群」がある。しかし、どのようなプロセスでスチレンが漏洩したかは分からない。 
ライオン・エラストマー社の化学工場南にある横型タンク群
(写真はGoogleMapストリートビューから引用)
所 感
■ 今回の事故は直接的な健康被害者が出ることなく、臭気クレームだけで終わった。漏洩量はわずかだというが、スチレンの臭いがいかに強烈かを物語る事故である。施設内のスチレンなどの臭気などの知識(どのような臭いがするか)はあっても、化学工場から漏洩した場合、大きな環境問題になりうることを示す事例といえる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・12newsnow.com,  Chemical  Leak at Port Neches Plant Last Night not Considered Dangerous, Officials Said,  September  23,  2018
    ・12newsnow.com,  Port Neches Residents Concerned about Plant Leak,  September  23,  2018
    ・Hazmatnation.com,  Styrene Peak “Below Dangerous Levels”,  September  23,  2018
    ・Isssource.com, TX Plant Chemical Reaction Causes Leak,  September  25,  2018



後 記: スチレン漏洩のニュースで、タンクからの漏洩らしいということなので、調べてみました。しかし、タンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったという以外に詳細な情報は得られませんでした。臭いだけの問題なので、消防署は手のつけようもなく、ハズマット隊は忙しかったのかも知れませんが、一般の消防士の活動の場は無かったようです。しかし、考えれば、臭気クレームだけのローカル・ニュースでも、地球の裏側の日本にまで届く時代なのですね。

米国ウィスコンシン州の製油所で爆発、貯蔵タンクが被災して火災(原因)

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 今回は、2018年4月26日に米国ウィスコンシン州ダグラス郡スーペリアのハスキー・エナージー社スーペリア製油所で起こった爆発・火災で被災したアスファルトタンクの火災事故の原因について紹介します。
左;タンク側板に開いた穴(事故後)、右:タンクから放出するアスファルト
(写真はCsb.govから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のウィスコンシン州(Wisconsin)ダグラス郡(Douglas)スーペリア(Superior)にあるハスキー・エナージー社(Husky Energy)の石油施設である。

■ 発災があったのは、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所で、精製能力は50,000バレル/日である。製油所は、5年ごとの定期保全のため、4月30日(月)から運転停止して5週間の定期検査を準備しており、広範囲の開放工事を予定して多くの作業員が入構していた。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所付近  (事故前、矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年4月26日(木)午前10時頃、ハスキー・エナージー社スーペリア製油所の流動接触分解装置(FCC)で爆発が起こり、続いて、火災が発生した。

■ 最初の爆発が起きた後、金属片がアスファルトの貯蔵タンクの1基に当たって穴が開いた。タンク側板の穴の開いた箇所から真黒い液体が奔流となって落ち、約2時間にわたって放出した。構内にアスファルトが流れ出した後、午後12時30分頃に2回目の爆発が起こり、大きな火災となった。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所の火災
(写真はCsb.govから引用)

避難した近隣地区
(写真はCsb.govから引用)
■ この事故に伴い、36人が病院で診察を受けた。うち、11名が製油所および請負会社の作業員だった。

■ 製油所から半径5km圏内の住民に、また、煙が流れる南の方向では16kmの範囲に避難指示が出された。また、近隣の住宅、学校、病院に避難指示が出された。製油所は工業地区にあるが、北東側の2km以内に住宅地がある。このため、千人以上が避難し、3つの学校と1つの病院が予防措置として避難した。

■ 発災に伴い、消防署が出動した。消防隊は近隣のタンクに冷却水を掛け、火災が拡大するのを防ごうと試みた。消防隊員は火炎だけでなく、発火する恐れのある他のケミカル類や石油製品に関する危険性を考慮しなければならなかった。午後遅くなって、十分な消火水と水圧が得られるという報告があった。その後、泡消火が試みられた。火災は、4月26日(木)午後6時45分頃、消された。

■ 住民の避難指示は4月27日(金)午前6時に解除された。

■ この事故の状況に関しては、「米国ウィスコンシン州の製油所で爆発、貯蔵タンクが被災して火災、20名負傷」( 2018年5月18日)を参照。

被 害
■ 流動接触分解装置の一部が損壊し、火災で焼損したほか、アスファルト貯蔵タンク1基が破片で損傷し、内部の流体が流出して火災とな、複数のタンクが被災した。設備の損害額は2,700万ドル(30億円)に昇り、費用の被災額は5,300万ドル(58億円)以上に達するとみられている。

■ 事故に伴い、36人が医者の診察を受けた。また、火災の煙とフッ化水素の懸念のため、千人以上の住民が約20時間避難した。なお、製油所の再建に当たっては、フッ化水素の使用を継続するか、中止するかの検討を行うという。
ハスキー・エナージー社スーペリア製油所の火災から立ち昇る黒煙
(写真はCsb.govから引用)
< 事故の原因 >
■ 発災の起点は、流動接触分解装置(FCC)の爆発によるものである。
 爆発による破片のひとつが、約200フィート(60m)飛び、アスファル用の容量50,000バレル(7,950KL)の地上式タンクへ衝突した。このため、タンク側板に穴が開き、15,000バレル(2,400KL)以上の熱いアスファルトが構内に放出し、約2時間後、アスファルトが発火し、大きな火災となった。

■ 流動接触分解装置(FCC)の爆発の原因について、中間報告ではつぎのようにみられている。
 ● FCC装置では、触媒の流れを制御する重要なバルブがあり、バルブは再生塔の空気が反応塔の炭化水素に接触しないようにしている。このバルブのひとつの使用済触媒スライドバルブにダメージが見られた。
 ● 使用済触媒スライドバルブを分解して検査したところ、内部摩耗が見られた。バルブが閉位置でも、バルブを通じて触媒が流れるような状態だった。
 ● このため、空気がスライドバルブを通って入り込み、炭化水素と混合し、設備内で生成した硫化鉄デポジットと接触して発火した可能性が高いとみられる。

< 対 応 >
■ 米国化学物質安全性委員会(The U.S. Chemical Safety Board ; CSB)は事故調査を行うことととした。また、4月27日(金)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)は、調査のため4人のメンバーを派遣することとした。

■ 5月1日(日)、米国化学物質安全性・危険性調査委員会は、最初の爆発が流動接触分解装置(13,000バレル/日)で起こったことを明らかにした。

■ ハスキー・エナージー社は、5月4日(金)時点で、1,045通のクレームを受け取ったという。そのほとんどは、避難中に発生した経費や損失に関するものだった。ごくわずかであるが、傷害に関わるクレームもあるという。

■ 2018年8月2日(木)、米国化学物質安全性委員会(CSB)は、爆発・火災の調査について中間報告を公表した。その内容はつぎのとおりである。
 ● 最初の爆発は流動接触分解装置(FCC)で午前10時に発生した。
 ● FCC装置は定期保全のためシャットダウンの準備中だった。
 ● 事故は午前の休憩時間中に起こったが、多くの作業員は堅牢な建物に入る前やプロセス装置外に出る前に、爆発が起こってしまった。
 ● 爆発による破片のひとつが、約200フィート(60m)飛び、近くにあったアスファルト用の容量約50,000バレル(7,950KL)の地上式タンクへ衝突した。このため、タンク側板に穴が開き、15,000バレル(2,400KL)以上の熱いアスファルトが構内に放出した。
 ● 放出が約2時間続いた後、アスファルトが発火し、大きな火災となった。
 ● 爆発によって36人が医者の診察を受けた。うち、11名が製油所および請負会社の作業員だった。さらに、近隣の住民が避難した。

■ 流動接触分解装置(FCC)のスライドバルブについては、継続調査中であるが、つぎのような見解である。
 ● FCC装置では、触媒の流れを制御する重要な3つのバルブがあるが、このバルブは再生塔の空気が反応塔の炭化水素に接触しないようにしている。このバルブのひとつ、使用済触媒スライドバルブにダメージが見られた。
 ● 使用済触媒スライドバルブを分解して検査したところ、内部摩耗が見られた。バルブが閉位置でも、バルブを通じて触媒が流れるような状態だった。
 ● このため、空気がスライドバルブを通って入り込み、炭化水素と混合し、設備内で生成した硫化鉄デポジットと接触して発火した可能性が高いとみられる。FCC装置の計画的なシャットダウン時、装置内では重質の原料油が軽質な油へと分解が起きている中で、空気が再生塔から反応塔へ流れ込み、さらに下流の設備へと流れ続けたとみられている。
爆発で破壊した2基のベッセル(黄枠部)
(写真はCsb.govの動画から引用)
■ CSBによる事故の状況をアニメーションにした動画がYouTubeCSB Interim Animation on Husky Refinery Explosion and Fireが出されている。
               発災のアニメーション   (写真はCsb.govの動画から引用)
■ ハスキー・エナジー社は、スーペリア製油所の再開には1824か月かかり、2020年まで操業の見通しが立たないという。

補 足
■ 「ウィスコンシン州」は、米国の中西部の最北に位置する州で、五大湖地域に含まれる。人口約570万人で、州都はマディソンである。 
 「スーペリア」(Superior)は、ウィスコンシン州北西端に位置し、ダグラス郡の郡庁所在地で、人口は約27,000人の都市である。スーペリアには、ウィスコンシン州で唯一の製油所であるスーペリア製油所がある。

■ 「ハスキー・エナジー社」(Husky Energy Inc.)は、1938年に設立し、カナダのアルバータ州カルガリーを本社とする石油と天然ガスのエネルギー会社である。カナダを始め、世界で原油と天然ガスの探査、開発、生産などの業務に従事している。
 「スーペリア製油所」(Superior Refinery)は、ハスキー・エナジー社が2017年にカルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズ(Calumet Specialty Products Partners. LP)から買収して得た。精製能力は50,000バレル/日で、アルバータのオイルサンドと軽質のノースダコタのバッケン原油の両方を処理し、アスファルト、ガソリン、ディーゼル燃料、重油を製造している。従業員数は約180名である。
 
■ 「発災タンク」はアスファルト用で保温付き固定屋根式タンクで、容量は約50,000バレル(7,950KL)ある。グーグルマップによると、タンクの直径は約28mであるので、高さは約13mとみられる。

■ 「流動接触分解装置」(FCC)は、重質の原料油が反応塔の底部から供給され、ライザー管内部で流動化した触媒と接触することにより液化石油ガス(LPG)、ガソリン、軽油留分に分解するプロセス装置である。反応塔で分解された油のベーパーは塔頂から出て、蒸留塔に送られる。触媒は、重質の油を分解すると同時に、コーク(炭素)で覆われ、活性を失うので、コークが付着した触媒は再生塔に送られ、高温下でコークを燃焼させて、再生される。再生された触媒は再度ライザー底部に供給され、循環使用される。
流動接触分解装置(FCC)の例
   (写真はPlibrico.co.jpから引用)
■ 「スライドバルブ」は、反応塔から再生塔への配管部および再生塔からライザー管への配管部に付いている。触媒(シリカ、アルミナなどから成るゼオライト系)を取扱うため、エロージョン性が高く、スライドバルブの弁体には、耐摩耗の表面処理が施されている。
スライドバルブの例 
  (写真はTokyo-hardfacing.co.jpから引用)
所 感 
■ 前回、この事故の原因について所感でつぎのように述べた。
 「流動接触分解装置のプロセスは、温度は高い(約430~540℃)が、圧力は低い(0.1~0.2MPa)装置であり、本体系装置の爆発ではないだろう。破片がタンク側板を貫通させるくらいの強烈な爆発力であり、2次装置の液化石油ガス(LPG)系などの異常によるものではないだろうか。それにしても、破片の写真を見ると、配管ではなく、何かの機器で結構な大きさのものであり、脆性的な割れの様相が見られる。あるいは、製油所は定期検査のためのシャットダウンに入っており、非定常運転による要因が関係しているのかもしれない」
 やはり、原因は流動接触分解装置の下流設備のベッセルの爆発によるものだった。スライドバルブのダメージ(摩耗)によって再生塔の空気(酸素)が下流設備へ流れたことから爆発混合気が形成したとみられている。

■ 一方、スライドバルブはエロージョン環境にあり、ある程度の摩耗はありうる。反応塔から再生塔への触媒の流れは、スライドバルブより上に堆積した触媒レベルによって圧力バランスが取られており、シャットダウン時の非定常運転は、このことを考慮した対応がとられる。スライドバルブの摩耗の不具合だけで、下流設備に空気が流れたということには疑問が残る。シャットダウン時の非定常運転の管理にも問題があったのではないだろうか。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Csb.gov,  CSB Releases Factual Update on Explosion and Fire at Husky Refinery Located in Superior, Wisconsin,  August  2,  2018
    ・Csb.gov, Factual Investigative Update April 26, 2018 Husky Superior Refinery Explosion and Fire ,  August  2,  2018
    ・Kare11.com,  Agency: Refinery Fire Caused by Blast Debris Hitting Tank,  August  2,  2018
    ・Superiortelegram.com,  Worn Valve, Iron Sulfide Possible Cause of Husky Explosion,  August  3,  2018
    ・Wpr.org,   Husky Energy: Fires Caused $40M In Expenses, $20M In Damages,  July  26,  2018
    ・Duluthnewstribune.com , Husky: Refinery Explosion Caused $27 Million in Damage,  July  26,  2018
    ・Fox9.com,  Federal Report: Worn Valve in Superior, Wisconsin Refinery Explosion,  August  2,  2018
    ・Insurancejournal.com , Agency Says Wisconsin Refinery Fire Caused by Blast Debris Hitting Tank,  August  6,  2018
    ・Citopbroker.com , Agency: Husky Energy refinery fire caused by blast debris hitting tank,  August  2,  2018
    ・Minnesota.cbslocal.com , Wis. Refinery Fire Caused By Blast Debris Hitting Tank, Agency Says,  August  2,  2018
    ・Safetyandhealthmagazine.com , CSB Issues Investigation Update, Animated Video on Wisconsin Refinery Explosion, Fire,  August  15,  2018



後 記: 今回の事故原因は、公的機関である米国化学物質安全性委員会(CSB)による調査で、中間報告が出されましたが、投稿がやや遅れてしまいました。 CSBは、トランプ政権になって国家予算削減で解散の噂が立っていましたので、CSBのやる気が見えます。今回のような事故は、公的機関でなければ、原因調査の結果が出てきません。この点、日本では第三者調査委員会ができて、公表される仕組みは良いと感じています。(反面、公的機関の役割が弱いともいえますが)
 ところで、ハスキー・エナジー社スーペリア製油所は、昨年、2017年にカルメット・スペシャリティ・プロダクト・パートナーズから買収されたものです。従業員は継続雇用されているでしょうが、経営が代わったことによる要因が事故に関係していないか疑問が残ります。米国で今回のような事故が起こるとは思いませんでした。以前の米国や石油メジャーの時代と違って、今は余裕のない製油所経営だと感じています。

韓国の石油貯蔵所で半地下式ガソリンタンクの爆発・火災

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 今回は、2018年10月7日(日)、韓国の京畿道の高陽市にある大韓送油管公社の高陽石油貯蔵所にあるガソリン用の半地下式貯蔵タンクが爆発して火災を起こした事例を紹介します。
(写真はAsahi.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、韓国ソウル近郊の京畿道(キョンギド)高陽市(コヤン・し)にある大韓送油管公社(Daehan Oil Pipeline Corp.)の高陽石油貯蔵所である。石油貯蔵所には、14基の半地下式円筒タンクがあり、貯蔵容量は計77万KLである。
 
■ 事故があったのは、高陽石油貯蔵所にあるガソリン用の容量4,900KLの半地下式貯蔵タンクである。このタンクは直径28.4m、高さ8.5m、側壁は厚さ60cmのコンクリート製でコーンルーフ型の屋根がついている。事故当時、タンクには4,400KLのガソリンが入っていた。
高陽市にある大韓送油管公社高陽石油貯蔵付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年10月7日(日)午前11時頃、貯蔵所にあるガソリン用の半地下式貯蔵タンクが爆発して火災を起こした。タンクから炎が上がり、黒い煙が空に昇った。

■ 発災に伴い、消防署の消防隊が現場へ出動した。
初期段階とみられる火災の状況
(写真はSlist.kr から引用)
■ 昼前には、一旦、火災の勢いが弱まった。しかし、正午頃、轟音とともに2回目の爆発が発生した。高さ30m以上の炎が立ち昇り、黒煙は現場から20kmほど離れたところからも見えた。驚いた住民が家を飛び出して避難したり、近隣の住民は不安を感じながら過ごした。事故の影響によって高陽市一帯で、一時、交通渋滞が発生した。

■ 大韓送油管公社は、火災発生後、自動泡消火設備を起動させ、1時間半の間、6,000リットルの泡消火薬剤の投入を試みたが、消火できなかった。

■ タンク火災の火勢が強まったことで、消防隊の消火作業は難航した。炎が激しく上がり、熱気と有毒ガスのため、消防士は100m以内に近づくのが難しかった。石油公社の備蓄運営チーム長によると、「石油自体でなく、熱によって気化した可燃性蒸気が燃え、この火がまた大規模な気化を起こす」といい、「石油火災は初期の消火に失敗すれば、火を消すのは難しい」と説明した。
(写真はNews.joins.comから引用)
■ 山火事で使用する消防用ヘリコプター3機を使った水の散布が行われたが、火炎を鎮めるにはほとんど役に立たなかった。
防災ヘリコプターによる散水
(写真はUpi.comから引用)
■ 消防隊は、爆発の危険性を考慮し、タンク上部に泡消火剤を投入する一方、タンク底部からタンク内のガソリンをパイプラインを通じて、隣のタンクに抜き出す作業を並行して進めた。消防当局の関係者によると、「京畿道内のすべての消火薬剤を動員し、民間と海軍の保有分も受けて消火に使った」という。

■ 10月7日(日)午後5時、大韓送油管公社の広報担当は、タンク内に残った油を抜き終わるまで火災が続く可能性があり、油の抜出しには7時間ほどかかる見込みだと発表した。

■ 午後8時、消防署は、タンクの油面が当初の8.4mから減少し、2.6mが残っていると発表した。大韓送油管公社は、「外部の専門家と消防の専門家の意見を総合した結果、午後11時頃前後で燃え尽きると見ている」と述べた。
 
■ 消防隊は、午後7時から油タンクに水を少しずつ注入し、残っている揮発油を上に浮かしながら燃焼させた。高陽市災害総合状況室の関係者は、「火がタンクの底部に近づけば、配管などを通じて火が隣のタンクに移るおそれがあり、水を注入して液面を上げて燃焼させ、最後に残った火に消火薬剤を一斉投入する」と説明した。

■ タンクは17時間にわたって炎上し、深夜12時過ぎに制圧下に入った。最終的に鎮火したのは、10月8日(月)午前4時といわれている。焼失した油の量は2,600KLとみられている。

■ 事故に伴うけが人は出なかった。
(写真はNocutnews.co.krから引用)
(写真はM.kyeonggi.co.krから引用)
(写真はM.kyeonggi.co.krから引用)
被 害
■ 容量4,900KLの半地下式貯蔵タンクが損壊した。タンク内にあったガソリン約2,600KLが焼失した。被害額は43億ウォン(約4億3千万円)といわれている。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。
(写真はM.kyeonggi.co.krから引用)
(写真はHeadtopics.comから引用)
(写真はTtellerreport.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 発災場所近くの工事現場から外国労働者の飛ばしたランタン型熱気球が、500m先にあるタンク周辺の芝生に落下し、芝生に火が付いて18分後にタンクが爆発した。タンクの通気口から引火したとみられる。

< 対 応 >
■ 10月7日(日)の消火活動のため、消防隊員300人、消防車両111台、消防ヘリコプター3台が出動した。
 高陽市警察は、10月8日(月)の午後、国立科学捜査研究院、消防当局、韓国ガス安全公社、韓国電気安全庁との共同査察を行った。

■ 10月9日(火)、警察の捜査によって、発災場所近くのトンネル工事現場で働いていたスリランカ人の男性(27歳)の飛ばしたランタン型熱気球が、500m先にあるタンク周辺の芝生に落下したことが分かった。芝生に火が付いて18分後にタンクが爆発した。タンクの通気口から引火したとみられる。
事故の状況を図解で示す韓国のメディアの例
(写真はGoldlion.donga.comから引用)
■ タンクには火災感知センサーが設置されておらず、大韓送油管公社は爆発まで火災の発生を知らなかったという。ランタン型熱気球は韓国の行事では欠かせない伝統的なミニ気球で、一部のコンビニなどでも販売されている。男性は、就労ビザで3年前に韓国に来て、近くのトンネル工事現場では今年3月から働くようになり、発破作業の補助を担当していたという。男性は工事現場のそばに石油貯蔵所があるということを知っていた。爆発物を扱う業務の特性上、月に1回の特別安全教育を受け、毎日の安全点検にも参加していたという。

■ スリランカ人の男性は警察の事情聴取に対し、「落ちていたランタン型熱気球を見つけ、休憩中に好奇心から火をつけた」と語った。ランタン型熱気球が石油貯蔵所の方向に飛んでいくとは思わなかったという。防犯カメラには、ランタン型熱気球が強風で石油貯油所の方向に飛んでいったため、男性が慌てて、その方向に走っていく様子が映っていた。ランタン型熱気球は、前日、石油貯蔵所から800m離れた小学校で飛ばされたもののひとつで、同校では保護者参加の行事でランタン型熱気球80個を飛ばしたという。大韓送油管公社は、「事故前日に周辺の学校で、ランタン型熱気球を飛ばす行事があったことは知らなかった」という。
 監視カメラによる発災前の状況
①スリランカ人の男性 ②落下するランタン型熱気球 ③芝生への着火
(写真はEnglish.chosun.comから引用)
ランタン型熱気球の例(上)および警察の記者会見(下)
(写真は上:Koreaherald.com、下:News.chosun.comから引用)
■ 警察の調べで、原因がイベントなどで空に飛ばすランタン型熱気球だったことが判明したが、ずさんな安全管理に批判が殺到している。石油貯蔵所が現場の監視を怠ったとの指摘が出ている。事故当日は日曜日で、所内では4人が勤務していた。正門を警備する2人を除き、2人は制御室で防犯カメラを監視する担当だった。警察が公開した防犯カメラ映像には、芝生に引火して煙が出るのが映っているが、制御室の担当者は気づかなかったという。事故当時1人は制御室ではない別室にいたことが確認された。警察関係者は「当直勤務者の現場管理義務があるかどうか法的に検討している。職員に出頭を求め、捜査を進める」と説明した。石油タンク外部で火や煙が出た場合、それを感知する装置はなかった。

■ 警察は重失火容疑で男性の逮捕状を請求した。しかし、男性は「好奇心から飛ばしたが、貯蔵所の方向に飛んでいくとは思わなかった」と供述し、裁判所は逮捕を認めなかった。ランタン型熱気球は、前日、付近の小学校の行事で飛ばされたもので、男性は地面に落ちていたものを拾い、ライターで火をつけたという。警察が逮捕状請求の方針を示し続けたところ、ネット上で、「安全設備を備えていなかった大韓送油管公社が責任を持つべきだ」と逮捕に反対する書き込みが殺到した。野党も「問題はランタン型熱気球でなく、政府の安全管理システムだ」と批判し、警察は逮捕状の請求を断念した。

■ 韓国の中央日報は、10月10日(水)付けの社説で「天灯(ランタン型熱気球)一つで大火災になる韓国の安全システム」と題して、つぎのように論評した。
● 10月7日に発生した火災は、事故予防システムの問題を浮き彫りにした。昨日、警察署は付近のトンネル工事現場で働くスリランカ人男性を緊急で身柄を拘束した。男性は事故前日にランタン型熱気球が落ちているのを見つけ、当日、貯蔵所から約500m離れた山に登って火をつけて飛ばしたという。

 ● 警察が調べた結果、大韓送油管公社側は、事故当時、ガソリンタンク周囲の芝に火がついてから、爆発が起こるまでの18分間、火災が発生したことも知らなかったという。あきれるしかない。また43億ウォン(約4億3千万円)の被害を出した今回の事故現場のガソリンタンクの外壁には、火災感知センサーさえもなかったことが明らかになった。全国的にこうした石油貯蔵所は計8箇所(高陽・板橋・大田・天安・大邱・光州広域市・全州・原州)あるという。大韓送油管公社は、今回の事故をきっかけに、火災および安全事故予防対策を徹底的に補完する必要がある。
 
● 事故の直接的な要因はランタン型熱気球だったが、これは火災の前日、付近の小学校のキャンプ行事で飛ばしたランタン型熱気球80個のうちの一つだった。昨年12月に消防基本法が改正され、ランタン型熱気球などの小型熱気球を飛ばして、摘発されれば200万ウォン以下の罰金刑となる。しかし、米国・英国などは火災を防ぐために、ランタン型熱気球を法で禁止している。今回の事故で、韓国もランタン型熱気球を厳しく規制すべきだという声が出ているのもこのためだ。また、スリランカ人が事故直後すぐに消防当局に通報していれば、迅速な火災鎮圧が可能だったという指摘が出ている。韓国滞留外国人は200万人(労働者が140万人)を超えた。今からでも各事業場単位で外国人に韓国の実情に合う安全および文化教育を強化する必要がある。

■ 10月18日(木)、火災原因を調査している警察は、タンクの通気口の保守が行われておらず、火炎抑止が機能していなかったとみている。同種のタンクの通気口を見ると、火炎抑制網(フレームアレスター)が破れていたり、通気口の下端が固定されておらず、すき間が開いている状態だった。また、計器室に設置されていた監視用のCCTVは画面が25個あり、各画面は小さく、事故現場の芝生に火がついたことを容易に認識することは困難な状況だった。
(写真はTellerreport.comから引用)
(写真はSankei.comから引用)
(写真はKoreajoongangdaily.joins.comから引用)
(写真はkoreatimes.co.krから引用)

タンクの通気口 (右は拡大)
(写真は左:koreatimes.co.kr、右:hyundaiilbo.comから引用)
補 足
韓国の京畿道の位置
(写真はKonest.comから引用)
■ 韓国は、正式には大韓民国(だいかんみんこく)といい、朝鮮半島南部にある共和制国家で、人口5,100万人である。
 「京畿道」(キョンギド)は、韓国の北西部にあり、軍事境界線(38度線)に近く、西は黄海に面する人口約1,200万人の行政区である。
 「高陽市」 (コヤン・し)は、京畿道の中西部に位置する人口約100万人の市である。

■ 「大韓送油管公社」(Daehan Oil Pipeline Corp.)は、1990年、政府・石油精製会社・航空会社の共同出資で設立された。2003年に民営化され、主な株主はSKイノベーション(持ち株比率41%)、GSカルテックス(28.6%)、産業通商資源部(9.7%)である。警備・監視業務は外部委託されていた。大韓送油管公社が管理する石油貯蔵所は、高陽のほか、板橋(パンギョ)・大田(テジョン)・天安(チョンアン)にもある。
大韓送油管公社のパイプラインと各支社
(写真はDopco.co.krから引用)

 ■ 「発災タンク」は、ガソリン用の容量4,900KLの半地下式貯蔵タンクで、直径28.4m、高さ8.5m、側壁が厚さ60cmのコンクリート製で、コーンルーフ型の屋根がついている。グーグルマップで見ると、発災タンクの直径は約28.8mであり、報道されている直径は正しいとみられる。
 日本の法律でいえば、タンク直径が34m未満であり、大容量泡放射砲を必要とせず、三点セット(放射能力3,000L/min)でよいことになる。しかし、必要泡放射量を7~10L/min/㎡とすれば、タンクの泡放射必要能力は4,500~6,300L/minとなる。これでは、大型化学消防車では対応できず、泡放射能力10,000L/min級の大容量泡放射砲が必要になる。
 なお、半地下式タンクの事例としては、1973年に起こった「ニューヨークLNGタンク爆発事故」がある。地下タンクの事例としては、1992年に起こった「自衛隊覆土式地下石油タンクの大気開放時の火災」がある。
      事故前の貯蔵タンク郡 矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ 地下タンクの火災事例は少ないが、今回のような半地下式タンクの火災をブログで紹介するのは初めてである。液化石油ガス用でなく、ガソリン用貯蔵タンクというのも珍しい。今回の事例では、韓国の中央日報の社説で指摘されているようなランタン型熱気球の問題、外国人労働者の問題などを抱えた事故予防システムの問題である。

■ 一方、タンクに関する疑問や課題点はつぎのとおりである。
 ● なぜ、ガソリン用に半地下式にしたのか。(38度線に近いということで、耐テロ対策か)
 ● なぜ、浮き屋根式にしなかったか。
 ● 火災が継続して液面が低下することによって、コンクリート側壁が内部の鉄筋が見えるほど劣化してしまった。コンクリートの破片が液出口付近に堆積し、影響を与えた可能性は高い。

■ 消火戦術に関する疑問や課題点がつぎのとおりである。
 ● 全面火災のような事象では、自動泡消火設備は効果がなかった。
 ● 直径28.4mのタンクでは、大容量泡放射砲を必要としないレベルで、日本の三点セット(最低放水能力3,000L/min)級の消防車でよいはずであるが、消火できなかった。(発災写真を見ると、大型化学消防車が何台も出動している) 試算(補足参照)では、放射能力10,000L/min級の大容量泡放射砲が必要だったと思われる。
 ● 半地下式タンクのため、タンク高さが低く、防油堤もなく、消防車両にとって優位だと考えられるが、実際は火炎の熱が地上に伝わり、100m以内に近づくことができなかった。このため、大容量泡放射砲の放射距離から考えて、ガードしなければ、使えないと思われ、耐火服や散水などの対応措置をとる必要があると思われる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。 
 ・Asahi.com,  オイルタンク炎上17時間、原因はランタン 韓国,  October  10,   2018
     ・Sankei.com, 原因は熱気球の落下 韓国の貯油タンク火災,  October  9,   2018
     ・Editorial.x-winz.netSankei.com, 高陽揮発油タンク火災…「安全大韓民国」にまた警報,  October  8,   2018
     ・Article.auone.jp, 乗用車6万台分の揮発油から火炎…韓国で貯油所火災,  October  8,   2018
     ・Headlines.yahoo.co.jp, (朝鮮日報日本語版) 高陽オイルタンク火災、天灯の芝生引火に18分間だれも気づかず,  October  10,   2018
     ・Firedirect.net, South Korea – Oil Storage Tank Fire Put Out after 17 Hours,  October  9,   2018
     ・Adaderana.lk , Sri Lankan Arrested South Korea for Oil Storage Tank Fire,  October  9,   2018
     ・Upi.com , South Korean police: Oil Tanker Explosion Caused by Paper Lantern,  October  9,   2018
     ・Koreajoongangdaily.joins.com , Goyang Oil Tank Blows Up, Fire Rages for Hours,  October  8,   2018
     ・News.chosun.com, "송유관공사, 폭발까지 18분간 화재 몰랐다…외부 센서 없어"출처 ,  October  9,   2018
     ・Koreaherald.com, Fire at Oil Storage Tank Put Out  Completely,  October  8,   2018
     ・Koreajoongangdaily.joins.com, Fire at Oil Storage Tank Put Out  Completely,  October  8,   2018
     ・Tellerreport.com, Goyang Gasoline Tank Fire, Evolving Work from 2 am,  October  8,   2018
     ・Tellerreport.com, [Video] Goyang City Gasoline Tank Large Fire ... 6 Hours Fireball,  October  7,   2018
     ・English.chosun.com, Goyang Oil Tank Explosion Causes Massive Fire,  October  8,   2018
     ・English.chosun.com, Sky Lantern Blamed for Oil Tank Fire,  October  10,   2018
     ・Koreabizwire.com, Massive Goyang Fire May Have Been Caused by a Lantern,  October  9,   2018
     ・Theinvestor.co.kr,  Cause of Goyang Oil Tank Blaze Still Unknown,  October  8,   2018
     ・Segye.com, 고양 송유관공사 휘발유탱크 폭발화재…오후 11시안팎 진화될 듯,  October  7,   2018
     ・News.kmib.co.kr , 경찰 “고양 저유소, 상시 화재 노출 돼있었다”,  October  18,   2018


後 記: 今回の事例は、韓国でタンク火災があり、大きく報道されているという情報を戴いたことから調べ始めました。タンク事故情報にアンテナを張っているつもりですが、抜けることもあり、ありがたい助言でした。
 実際に調べ始めると、近年、稀なほどメディアから多くの情報が出されていました。その背景には、異常な事故とともに驚くような原因にありますが、基本は韓国の情報公開がオープンであることだと思います。警察は判明したことをできるだけ公表しているように思います。市民の反応も速いですね。今回の事故では、スリランカ人男性の逮捕請求に対して疑問の声が多く出されました。裁判所がどのような判断をしたか分かりませんが、結果的には逮捕しませんでした。ポピュリズムになる恐れがあるという意見もあるでしょうが、自由さを感じます。「国境なき記者団」による「報道の自由度ランキング」で、韓国は2017年の63位から2018年は43位(満足できる状況)に上がっています。ちなみに、日本は67位(顕著な問題あり)で、1位はノルウェー(良好な状況)です。
 一方、多くの情報が出されていますので、見るのに疲れるぐらいでした。韓国の中央日報などのメディアが日本語版を出しているのを初めて知りました。韓国内では、ハングル語版はもちろん、英字版が多数出ていますので、選択するのが大変でした。今回はグーグル検索でまず画像を選び、そこから本文を引き出して見ていくことにしました。それでも、見切れないくらいありました。



中国・青島の死者62名が出た原油パイプラインの爆発事故(2013年)の原因

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 今回は、20131122日(金)、中国の山東省青島市で起こった原油パイプライン漏れに伴う爆発事故の原因について紹介します。(事後直後の情報は、「中国・青島で原油パイプライン漏れに伴う爆発で、多数の死傷者」20131130日)を参照)
(写真はThepaper.cnから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、山東省(さんとう省/シャントン省)青島市(ちんたお市/チンダオ市)の中心地から膠州湾(こうしゅうわん)を挟んで約4km離れた黄島区(こうとう区/ファンダオ区)の青島経済技術開発区に位置し、中国石油化工パイプライン社の保有する石油施設である。中国石油化工パイプライン社は中国石油化工(シノペック)の子会社である。

■ 発災があったのは、青島経済技術開発区の秦皇島道路の東西方向に沿って走っている埋設の原油パイプラインである。パイプラインは東黄パイプラインといい、輸送能力2,000万トン/年、設計圧力6.27MPa、全長248.5km、管径711mm、材料API5LX-60ストレート溶接鋼管で、外面防食被覆と陰極防食法の電気防食で保護されていた。
青島市の経済技術開発区付近 ×印は爆発地点)
(写真はグーグルマップから引用
東黄パイプライン(口径711mm、東営市から黄島石油基地まで248km
(図はCiedu.com.cnの動画から引用
青島市黄島区市街地の東黄パイプラインのルート
(図はCiedu.com.cnの動画から引用
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2013年11月22日(金)午前10時25分頃、青島市で原油パイプラインの漏れに伴って大爆発が起こる事故があった。地下に埋設されたパイプラインで、22日午前2時12分頃に漏れがあり、対応作業中に爆発したものである。
爆発地点秦皇島通りと斎堂島通り交差点付近)
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
■ 122日(金)午前212分、原油パイプラインの計器室において、パイプライン圧力が4.56MPaから4.52MPaに降下したのを確認した。受入先の黄島石油基地に電話で連絡した結果、東黄線パイプラインが漏れていると判断し、午前225分、パイプラインを緊急停止した。さらに、黄島石油基地から24.5km離れた洋河にある遮断弁を閉じるように連絡し、午前320分頃、遮断弁が閉止された。

パイプライン破裂による道路への油流出
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
■ 原油漏れは、黄島区の秦皇島通りと斎堂島通り交差点付近においてパイプラインが破裂したためで、移送が停止された午前3時20分頃でまでの68分間、舗装道路に1,000㎡の範囲にわたり流出した。

■ 午前3時40分頃、中国石油化工パイプライン社の従業員が黄島石油基地から約1.5km離れた漏洩現場に到着した。 人員を手分けして路面に漏洩した油の清掃を行うとともに、応援を要請した。クリーンアップの作業員は清掃に追われたが、午前5時頃には通り全体が油の臭いで満たされていた。午前6時過ぎ、交差点付近の600m以内に警戒線が引かれたが、その中を平気で通り過ぎる人たちがいた。

■ 午前6時頃、中国石油化工パイプライン社は海上に流出した油のクリーンアップを始めた。
 漏洩した原油の一部が雨水暗渠を通じて膠州湾に流出したもので、原油による海上汚染の範囲は約3,000㎡にわたった。午前8時30分に青島市環境保護局が報告を受け、河口に作業員を派遣し、対応を始めた。中国石油化工パイプライン社は数百㎡の面積をカバーするオイルフェンスを展張した。

■ 午前7時頃、中国石油化工パイプライン社は重機を使用して、漏洩箇所付近を掘り始めた。午前7時40分、2m×2m×1.5mの穴を掘って漏洩部を露出させ、午前8時20分に漏洩箇所を確認した。
 現場では、漏洩した油の処理のため、市当局が管理する雨水暗渠の蓋を開けることとした。このため、パワーショベルや油圧圧砕機などが使用された。
パワーショベルによる漏洩個所の掘削
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
雨水暗渠の蓋を壊すための油圧圧砕機
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
雨水暗渠の蓋を壊す油圧圧砕機(火花要因)
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
■ 午前1025分、現場の作業中に爆発が発生した。漏れた原油が雨水管渠へ流れ込み、海河通りと斎堂島通りの交差点付近を中心に爆発を起こしたとみられる。さらに、雨水管渠内と海上に流出していた原油が火災を起こした。
パイプライン破裂による道路と雨水暗渠への油流出
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
雨水暗渠内への油流出
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
■ 爆発の破壊力はすさまじく、道路を壊し、多くの建物や車が被害を受けた。路面が浮き上がり、破片が飛び散り、人に当たり、建家のガラスを砕き、車の中には高さ2mほど吹き飛ばされたものもあった。地面には、多くの亀裂が走り、最長のものは約1,500mに達した。爆発の周辺地区は断水し、停電が起こった。
                      雨水暗渠内で次々と爆発  (図はCiedu.com.cnの動画から引用)
 消防署が通報を受けたのは午前1025分だった。出動した消防隊は消防士約200名、消防車両45輌で、午後1240分までに視認できた火災を消火した。また、3箇所の病院から44台の救急車と1,195名の医療スタッフが派遣され、救助活動が行われた。
(写真はSohcradio.comから引用)
(写真はNews.k618.cnから引用)
■ 事故が起こった後、黄島区では、住民の避難が実施され、移動した人は18,000人にのぼった。環境保護部門は青島市の市街区での空気質は爆発の影響を受けていないと発表した。

■ 原油パイプラインが漏れてから爆発が起こるまでに7時間あったが、この間に予防措置としての住民避難がなかった。青島市は避難指示を出していなかった。

■ この爆発によって市民に多数の死傷者が出ており、死者62人、負傷者136人にのぼった。

(写真はNews.hsdhw.comから引用)
■ 海事部門は、6月23日(土)も海のクリーンアップを行うため、30隻以上の漁船を出した。オイルフェンスは約3,000m展張され、10トンの分散剤が使用され、23日(土)昼頃にはかなりの油濁が処理された。しかし、膠州湾沖合に広がった流出油のクリーンアップは1か月以上の期間を要した。

■ 習近平主席は地方当局に対して、行方不明の人の捜索、負傷した人の治療、そして事故の原因追究を指示した。救助活動は事故発生の翌23日(土)も続けられ、24日(日)は激しい雨の中で行われている。24日(日)には、習主席が青島の病院を訪問し、負傷者と医療スタッフを慰問した。

被 害
■ この爆発による死者は62人、負傷者は136人である。
 爆発事故後、住民の避難が実施され、移動した人は18,000人にのぼった。

■ 原油の総漏洩量は、約2,000トンと推定されている。被害総額は7.5億元(120億円)である。
                油流出と爆発による影響   (図はCiedu.com.cnの動画から引用)
< 事故の原因 >
■ 直接原因 
 原油パイプラインが腐食して減肉し、配管圧力に耐えられず破裂した。原油がパイプラインから漏洩し、排水暗渠に流入するとともに道路路面に流出した。原油流出後、現場で暗渠の蓋を開けるために使用した重機によって火花が発生し、暗渠内に形成した爆発混合気に引火して爆発を起こしたものとみられる。

■ 腐食要因
 事故の要因は、軽質原油のパイプラインを地方自治体の暗渠内に入れたことである。パイプラインはカルバート式の雨水暗渠内を通過していた。パイプラインは地下水による塩化物の腐食環境にあり、さらに暗渠内は潮汐の変化による塩分の影響を受けるほか、道路からの振動の影響を受け、腐食環境の高い場所だった。漏洩していた個所はパイプラインの下部だった。

■ 間接要因
 原油パイプラインは山東省東営市から青島市黄島石油基地まで敷設され、1986年7月に運転を開始後、27年間を経過している。2011年には、シノペックは東黄線パイプラインの危険性について認識していた。原油パイプライン敷設後、街がにぎやかになり、多くの建物が増え、パイプラインの防食部をメンテナンスできないところが出てきた。

< 対 応 >
■ 爆発事故の調査は、国務院が「11.22中国石油化工黄東石油パイプライン漏れ爆発」としてチームを編成してあたった。

■ シノペックは、事故後、漏れのあったパイプラインは27年間使用していると発表した。パイプラインは、青島市黄島区から東営市まで結ばれており、1986年7月から使用され、直径711mm(呼び径28B)、全長248.5kmであった。

■ 中国メディアの財新は、パイプラインが住宅地から15m以上離さなければならないとする法規制に合っていないと指摘した。さらに、シノペックは、2年前にセキュリティ上のリスクがあることやパイプラインの経年劣化について把握していたにもかかわらず、改善計画を進めなかったと指摘している。

■ 青島市の警察当局は、2013年11月26日(火)までに、シノペックの関係者7人と地元の経済開発区関係者2人を拘束、本格的な事情聴取を始めたことを「微博」を通じて明らかにした。事故をめぐっては、パイプラインの管理の仕方や破裂から爆発までの間に周囲の住民に危険が知らされていなかったことなどが問題視されていて、警察当局は今後、安全対策や事故後の対応に問題がなかったか、9人を追及していた。

■ 事故の責任によって、2015年11月、中国石油化工パイプライン社の運送部長、同社の安全環境観察部長、同社の濰坊いほう)地区石油運輸部長、青島市経済技術開発区管理委員会の緊急時対応部主任、青島市経済技術開発区安全監察局副局長、石油化学区分局局長ほか14人が罰則の判決を受けた。なお、中国石油化工の総裁は行政処分を受け、同社の副総裁は解任されている。青島市長は行政警告を受けている。

補 足
■ 「中国」は、正式には中華人民共和国で、1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家である。人口約138千万人で、首都は北京である。
 「山東省」(さんとう省/シャントン省)は、中華人民共和国の東部にある省で、北に渤海、東に黄海があり、黄河の下流に位置する。人口は約9,580万人、省都は済南である。
 「青島市」(ちんたお/チンダオ市)は、山東省の東部に位置する港湾都市で、市区人口約370万人、総人口約910万人と東部沿岸の重要な経済と文化の中心であり、近代的な製造業やハイテク産業基地がある。
 「黄島区」(こうとう区/ファンダオ区)は青島市の市轄区で、膠州湾入口の西側に位置し、青島市街地と海を隔てて向かいあっている。人口約149万人で、青島経済技術開発区を有している。

■ 「中国石油化工」は、正式には「中国石油化工集団公司」(ちゅうごくせきゆかこうしゅうだんこうし)といい、国務院国有資産監督管理委員会が監督・管理する国有企業である。英語名はChina Petrochemical Corporationで、通称「Sinopec(シノペック)」と呼ばれる。1998年、国務院の機構改革のもとに当時の中国石油化工総公司と中国石油天然気総公司が事業を再編され、中国石油化工集団公司(シノペック) と中国石油天然気集団公司(CNPC)の二大石油企業が誕生した。2000年、中国石油化工集団公司のうち、油田・工場・販売などの現業部門が分割民営化され、「中国石油化工股份有限公司」が誕生し、香港、上海、ロンドン、ニューヨークの各証券取引所に上場している。シノペックは、青島市黄島区に精製能力20万トン/日の青島製油所と石油化学プラントを有する。

所 感
雨水排水溝を横断する東黄パイプライン
(図はCiedu.com.cnの動画から引用)
■ 事故直後には、原油パイプラインの敷設がどのように行われていたかはっきりしなかったが、今回の情報で明確になった。パイプラインの雨水排水溝の横断方法が、埋設部と変わらない安易な形体をとったという印象である。それでも、パイプラインの通る上部部分だけが道路になっておれば、パイプラインを外観で見ることができ、検査も容易だっただろう。しかし、市街地の雨水排水溝の上に蓋をして道路を作ってしまったため、パイプラインが見えなくなってしまった。日本の町でも、雨水排水溝に蓋をして新しい土地を作ったりすることは少なくない。青島の場合、不幸ことに雨水排水溝が完全に暗渠となってしまい、危険物の通る危険な雨水暗渠になってしまった。そして、おそらく時間経過とともに、人々は道路の下に雨水排水があることも、まして原油パイプラインが走っていることも忘れてしまっていただろう。
 
■ 前回、パイプラインの補修を急ぐという明らかに操業優先の判断があったと述べた。これは、青島の事例だけでなかった。
   青島事例の4か月前に起こった事例では、パイプラインの破損補修を11時間で終わらせるという
   二次災害の危険性を無視し、操業を優先した荒い補修工事が行われている
   この事故は、建設用タワークレーンが倒壊して埋設の石油パイプラインを破損させた事例である。
   5日前に青島の事故があったばかりで、さすがに住民避難が優先的に行われたようだが、相変わらず
   油のクリーンアップ作業が完了していない段階で、溶接補修工事という非常に危険性の高い作業
   行われている。
 今回の事故では、直径711mmの配管の破裂箇所から2,000トンもの原油が流出している。必ずしも、補修工事を優先したのではなく、雨水暗渠内の流出油の処理作業を行おうとする対応だったようにも思える。しかし、大量の油流出の中で、補修工事という非常に危険性の高い作業を優先して行われようとしていたことへの疑念は払拭できない。中国の経済発展の裏にある陰の部分だといえるし62人の死者と136人の負傷者を出し、余りにも大きな代償だったと思う。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Tank-accident.blogspot.com,  中国・青島で原油パイプライン漏れに伴う爆発で、多数の死傷者,  November  30,  2013 
  ・ Baike.baidu.com, 11·22青岛输油管道爆炸事件,  August  15,  2018
  ・ Zh.wikipedia.org , 2013年青岛输油管道爆炸事故,  July  28,  2018
  ・Bbc.com ,青岛输油管爆炸事故一审14人获刑,  November  30,  2015
    ・News.sohu.com,  山东青岛11-22中石化输油管道爆炸事故调查报告,  January  11,  2014
    ・Qingdao.iqilu.com ,  山东青岛11-22中石化输油管道爆炸事故调查报告,  December  15,  2014
 

 後 記: 今回の事例について、中国では大きな教訓として活かそうということを感じます。事故調査報告に関してメディアから多くの情報が出ていますし、事故についてアニメーションが作成されており、状況が理解し易くなっています。(ただし、事故調査報告書そのものの検索はできない) 62人の死者と136人の負傷者を出したのですから、当然といえますが。報道の多くは、漏れから爆発までに7時間あったにもかかわらず、住民への避難指示が出されていなかったという批判です。事故の重大性から習近平主席が現地へ趣いており、親会社の中国石油化工の総裁や青島市長などへの行政処分が行われています。本ブログでは、この事故の責任については簡単に触れるだけにしました。ちょっと脇道にそれますが、東京電力福島原発事故で責任が無かったと主張する東京電力最高経営者への裁判が行われており、どうしても比較して考えてしまいました。
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