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Channel: 世界の貯蔵タンク事故情報
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米国のテキサス州サットン郡で石油パイプラインが火災、負傷者2名

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 今回は、2018年11月10日(土)、米国テキサス州サットン郡にあるDCPミッドストリーム社の天然ガスのパイプライン設備で起こった火災事故を紹介します。
(写真はHazmatnation.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)サットン郡(Sutton County)にあるDCPミッドストリーム社(DCP Midstream)の天然ガスのパイプライン設備である。

■ 発災があったのは、郡道406号線(カセンバリ通り)沿いにある呼び径20インチの天然ガスパイプラインである。
        テキサス州サットン郡付近(中央部に郡道406号線)  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年11月10日(土)午前11時少し前、天然ガスパイプラインが破損して、火災となった。炎は100フィート(30m)ほどの高さに昇った。

■ 作業員が新しい天然ガスパイプラインを敷設しようとして、既設のパイプラインを破損し、破裂させたものとみられる。

■ この事故によって、ふたりが負傷した。うち、ひとりは、逃げる際に背中側の70%に2~3度の火傷を負うという重傷で、サンアントニオの病院にペリコプター搬送された。もうひとりは体の10%に火傷を負った。
(写真はHillcountrybreakingnews.comから引用)
被 害
■ 呼び径20インチの天然ガスパイプラインが破損し、一部焼損した。

■ 負傷者が2名出た。

< 事故の原因 >
■ 作業員が新しい天然ガスパイプラインを敷設しようとして、既設のパイプラインを破損し、何らかの引火源で着火し、火災を起こしたものとみられる。

< 対 応 >
■ 保安官事務所によると、パイプラインの圧力が降下するまで、火災が続く可能性が高いという。
(写真はRockspringsrecord.comから引用)
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、南はメキシコ湾に面している一方、西部はメキシコと国境を接している。人口は約2,800万人で、州都はオースティンである。
 「サットン郡」(Sutton County)は、テキサス州の西部に位置するエドワード高原にあり、人口約4,100人の郡である。 郡庁所在地は人口約3,000人のソノラ(Sonora)である。
 サットン郡は原油および天然ガスの生産が盛んなところである。テキサス州の石油生産はメキシコ湾が有名だが、サットン郡では、陸上の油井で中規模の原油・ガス埋蔵量であり、1960年代後半から1970年代にかけて大量生産された。サットン郡で石油の生産行っているのは31事業者で、油井は9,300を超えている。サットン郡をグーグルマップで見ていくと、至るところに油井があることがわかる。米国はシェール革命といわれる時期から原油の生産量は大きく伸び、2018年にはサウジアラビアを抜く勢いといわれているが、サットン郡の原油および天然ガスの生産は2014年頃から急激に落ちている。
サットン郡の原油および天然ガスの生産量
(写真はTexas-drilling.comから引用)
■ 「DCPミッドストリーム社」(DCP Midstream)は、コロラド州デンバーに本拠を置き、天然ガスの生産、輸送、貯蔵、販売に携わっている石油企業である。同社1929年に設立され、Duke Energy Field Servicesと称していたが、20071月にDCP Midstreamに社名を変更した。
 郡道406号線(カセンバリ通り)をグーグルマップで調べたが、油井が多く存在し、事故現場を特定することはできなかった。しかし、郡道406号線(カセンバリ通り)をストリートビューで見ていくと、地面にじか置きのパイプが走っているのがわかる。集積用の石油のパイプラインではないかと思われる。
       郡道406号線(カセンバリ通り)沿い (パイプが見える) 
(写真はGoogleMap StreetViewから引用)
所 感 
■ この事故は、石油パイプラインの工事に関わる人為的ミスが原因と思われる。
 一方、事故現場である郡道406号線(カセンバリ通り)沿いには、日本では信じられないことだが、地面にじか置きのパイプが走っている。石油の油井が至るところにあり、人が住んでいない場所では、当たり前の風景なのであろう。このようなところでは、危険物の意識が薄くなるのは当然であろうと感じる。

■ 石油パイプラインの火災への対応はおおらかである。天然ガスであるため、消火することはかえって危険な所為もあるが、消防隊による活動が行われた様子はない。油井からのバルブを閉めて、内液の流れがなくなるのを待ったと思われる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Conchovalleyhomepage.com, Sutton County Pipeline Fire,  November 10  2018
    ・Hazmatnation.com, Pipeline Explosion Reported in Texas,  November 10  2018
    ・Hillcountrybreakingnews.com,  Pipeline Rupture in Sutton County Causes at Least 2 Injuries,  November 11  2018 
    ・Oilfield1.com, Texas Pipeline Explosion, Major Injuries Involved,  November 11  2018
    ・Reuters.com,  Fire on pipeline in Sutton County, Texas injures two: local media,  November 12  2018
    ・Zehllaw.com, Pipeline Ruptured as Workers Were Digging for New Line,  November 12  2018
    ・Rockspringsrecord.com, Two Injured in Sutton County Pipe Line,  November 15  2018


後 記: 本情報を入手したときには、スマホで撮ったと思われる動画くらいしかなく、事故状況を伝えるという内容のものではありませんでした。しかし、ほかに貯蔵タンクの事故はありませんでしたので、米国の報道の実態の一面を伝えるということから、ブログにまとめることとしました。
 しかし、調べてみると、面白いことを知り得ました。グーグルマップでは、サットン郡には、数多くの油井がある一方、人家が見当たりません。これがアメリカでしょう。また、ストリート・ビューでは、地面にじか置きのパイプが走っていることが分かりました。これもアメリカなのでしょう。そのうちに、事故の内容を伝える記事が出てきました。その主なものは米国のローカルの新聞によるものだということを知りました。米国の地方では、地元の新聞が発行され続けているのですね。(写真を参照)



中国福建省で桟橋からC9芳香族炭化水素を海上流出、52名が病院

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 今回は、 2018年11月4日(日)、中国福建省泉州市にある福建東港石油化工実業社の桟橋で船出荷時にC9芳香族炭化水素が海上に流出した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、福建省(ふっけん省/フーチェン省)泉州市(せんしゅう市/チュエンヂョウ 市)泉港区(せんこう区/チュァンガン区)にある福建東港石油化工実業社(福建东港石油化工实业有限公司)の石油化学工場である。

■ 発災があったのは、福建東港石油化工実業社の桟橋にある出荷設備である。同社の貯蔵タンク能力は384,000KLで、桟橋は3基保有しており、事故があったのは2,000DWT級桟橋である。
泉州市泉港区の福建東港石油化工実業社付近 
(写真はGoogleMapから引用
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年11月4日(日)午前1時頃、泉港区ある福建東港石油化工実業社の桟橋でC9芳香族炭化水素が海上に流出した。

タンカー天桐1
(写真はCnss.comから引用)
■ 貯蔵タンクから桟橋を経由して、タンカー「天桐1号」(タンロン)にC9芳香族炭化水素を移送するためつないでいたローディングホースの不具合で、C9芳香族炭化水素6.9トンを海上へ流出させたという。海面への流出した直接面積は約600,000k㎡(約770m四方)だった。

■ 桟橋近くにある湄洲島の漁村では、11月5日(月)朝、強い臭気で目覚めた。湾が濃い黄色で汚染されていた。漁師たちは大きなバケツや洗面器などを持ち出し、いかだやカゴを守るため、黄色い層の油汚れを取り除こうとした。漁師たちは黄色い層が何か、有毒かどうかは知らなかった。地方自治体は黄色い汚れは油だと漁師たちに言った。近くには製油所や石油化学の工場があり、この地域では油漏れは珍しいことではなかった。

海上流出のイメージ図の例
(図はNewssx.tvから引用)
■ 泉港区は、11月5日(月)午後6時までに、延べ100隻以上の船と延べ600人以上の人員を動員し、油吸着マット600袋近くを回収し、基本的に除去作業を完了させたと発表した。大気中の揮発性有機化合物(VOCs)濃度は、 4.0mg/㎥以下の安全値に対して午後6時には0.429mg/㎥まで低下したと付け加えた。

■ 地元環境当局は11月5日(月)午後までに海水の浄化作業が終了したと述べたが、依然として強い異臭があるほか、地元漁師たちは魚が死んでいると苦情を申し立てた。

■ 11月6日(火)、泉港区は空気は安全で、海水は養殖に適していると発表した。しかし、地元の漁師は、養殖場の発泡スチロールが油で侵され、多くの魚が死んだり、逃げ出しているという。ある漁師は、生簀(いけす)の魚は誰も食べないので、魚が売れないと語っている。

■ 当初、泉港区の人々は流出したのは油類だと安易に考えていたが、11月8日(木)になって初めてそれが単なる油類ではなく、C9芳香族炭化水素という有害化学物質だと知った。 C9芳香族炭化水素は、石油製品のひとつで接着剤、印刷用インク、塗料に使用されるが、人体には有害化学物質である。

■ 近くにあるシャンヤオ塩工場は、11月4日(日)の事故を聞き、海水の取水を止めたという。工場は通常どおり操業しており、海水の安全性が確認できれば、取水をすると11月8日(木)に語った。しかし、近くのスーパーマーケットでは、塩を買い求める住民によって塩を置いている棚が空になっているという。

■ 事故が起こった4日後の11月8日(木)、刺激性のガスを吸い込んだ後、めまい、吐き気、嘔吐、呼吸困難といった症状を訴えた住民10人が病院に入院している。結局、この事故に伴って52名が病院で検査を受けている。影響を受けたのは沿岸部の住民で、入院したうち1人は汚染された海に落ちて肺炎を起こしたという。この人は魚養殖の生け簀(いけす)から気を失って水中に転落した漁民だったが、その後病院で診察を受けたところ、肺炎と診断されて入院したという。ただし、肺炎とC9芳香族炭化水素流出の関連性は不明である。
(写真はEworldship.comから引用)
(写真はChinadailyhk.comから引用)
被 害 
■ C9芳香族炭化水素の流出量は、当初、約6.9トンとされた。しかし、実際の漏洩量は69.1トンだった。

■ 住民52名が病院で診察を受けた。うち、10名は入院した。

■ 流出事故によって、地元の漁師に数百万ドル(8億円)の収入損失をもたらしたという。

< 事故の原因 >
■ 桟橋からタンカーへ移送するため、つないでいたローディングホースの不具合で、C9芳香族炭化水素を海上へ流出させたという。原因は、接続フランジの緩みやローディングホースの劣化によるものだといわれ、明確な原因は分からなかった。

■ 11月25日(日)の泉州市の事故調査結果によると、明らかな人為ミスだった。
 桟橋用クレーンが長期故障していたため、オペレーターが規則違反し、ローディングホースに力が掛かる状態で油配管とつなぎ、貯蔵タンクから移送ポンプを通じてC9芳香族炭化水素の船積みが開始した。事故当日は潮位が低く、船積みして船が重くなると、タンカーはさらに沈み、ローディングホースに引張りの力が掛かった。ローディングホースが過剰な引張り力によって破断し、C9芳香族炭化水素が流出した。

< 対 応 >
■ 泉港区は事故の調査作業を始めた。水質、海産物に対するサンプル測定を専門機関に委託し、各関係部門の協力のもとに、法規に照らして適切に処理するとした。

■  台湾海峡への黄色い流出油はクリーンアップされているが、泉州師範大学の化学者チェン・カイハンさんは、養殖場近くの海水中に残ったわずかな化学物質でも、数か月または長い場合は数年にわたって残存する可能性があると述べている。

■ 11月8日(木)の午後、泉港区は400隻の船と2,500人を動員して、クリーンアップ作業を実施した。
 クリーンアップの取組みは、岸辺や漁具に残った流出物を取り除くことに焦点が当てられた。同日、流出地点から離れたところの水質は良好な状態に戻ったという。

■ 11月8日(木)、福建東港石油化工実業社は事故について謝罪し、漁師に補償すると約束した。

■ 11月12日(月)、地方自治体のウェブサイトで公表されたところによると、現場で集積された使用済の吸着マットの総量は20.73トンだったという。リサーチ24Hコンサルティング・グループの推算によれば、回収された油回収量は18.67トンとみられている。

■ 11月14日(水)、泉港区当局は、重大な事故を引き起こした過失罪で、福建東港石油化工実業社の3名とタンカー「天桐1号」の乗組員4名が拘束されたと発表した。

■ 流出は7.4エーカ(30万㎡)の養殖場に影響が出ており、泉州区は流出によって被害を受けている152箇所の養殖場に対して補償問題の解決を開始するとしている。

■ インターネットでは、流出油が中枢神経系統に影響を及ぼし、頭痛、めまい、吐き気などの症状が出ていることから、流出油にキシレンを含んでいる可能性があるという意見が出ている。
■ 事故が起こって2週間以上経過しているが、インターネット上で大きな議論になっているのは、C9芳香族炭化水素の本質的な危険性でなく、むしろ、中国ネット・モデレータによって、ソーシャル・メディアなどのポストを削除して流出に関する詳細について情報を隠そうとする異様な試みについてである。

泉州市の記者会見
(写真はSohu.comから引用)
■ 11月25日(日)、泉州市は事故について調査した結果を記者会見で発表した。概要はつぎのとおりである。
 ● 2018年11月3日午後4時頃、寧波舟山通州船務社(宁波舟山通州船务有限公司)の「天桐1号」が福建東港石油化工実業社の桟橋に到着した。午後6時30分頃、桟橋の配管からC9芳香族炭化水素の船積みの準備作業を始めた。桟橋用クレーンが長期故障していたため、オペレーターは規則違反し、ローディングホースに力が掛かる状態で油配管とつないだ。午後7時12分、貯蔵タンクから移送ポンプを通じてC9芳香族炭化水素の船積みが開始された。   
 ● 11月4日(日)は潮位が低く、船積みして船が重くなると、タンカーはさらに沈み、ローディングホースに引張りの力が掛かった。午前0時58分、ローディングホースに過剰な引張り力によって破断し、C9芳香族炭化水素が流出した。午前1時13分、オペレーターは流出に気がついた。ただちに、ポンプを停止させ、午前1時21分に流出は止まった。流出してから止まるまでに23分間かかった。
 ● C9芳香族炭化水素の流出量は、当初、約6.9トンと報告された。しかし、実際の漏洩量は69.1トンだった。 「船舶に起因する汚染を防止に関する国際条約」によれば、小規模漏洩は7トン以下、中規模漏洩は7~700トン、大規模漏洩は700トン以上となっている。福建東港石油化工実業社は、小規模漏洩にみせるため、漏洩量を6.9トンと虚偽報告した。
(写真はChinadailyhk.comから引用)
(写真はShine.cnから引用)
(写真はEpochtimes.comから引用)
(写真はShanghaiist.comから引用)
(写真はYicaiglobal.comから引用)
補 足
  中国福建省(図はAbysse.co.jpから引用)
■ 「中国」は、正式には中華人民共和国で、1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家である。人口約13億8千万人で、首都は北京である。
 「福建省」(ふっけん省/フーチェン省)は、中国の東南部に位置し、中華民国と台湾海峡で接する人口約3,700万人の省である。
 「泉州市」(せんしゅう市/チュエンヂョウ 市)は、福建省の東部に位置し、海に面する人口約812万人の地級市である。
 「泉港区」 (せんこう区/チュァンガン区)は、泉州市の港地区あり、人口約36.5万人の市轄区である。

■ 「福建東港石油化工実業社」(福建东港石油化工实业有限公司)は、2005年に設立された石油化学工場で、貯蔵タンクの総量は384,000KLで能力3万DWT級の桟橋1基、2,000DWT級の桟橋を2基保有している。事故があった桟橋は2,000DWT級の桟橋である。
福建東港石油化工実業社の工場
(写真はMmzwgk.gov.cnから引用)
              2000DWT桟橋 矢印が事故のあった桟橋)
(写真はGoogleMapから引用)
■ 「芳香族炭化水素」は、ベンゼン、トルエン、キシレンを代表とする高沸点溶剤(芳香族系炭化水素溶剤)で、高い溶解力から、樹脂の溶解、塗料、インキ、農薬等の用途に適している。正六角形の環状構造であるベンゼン(C6H6)環をもち、炭素数が9つの芳香族炭化水素が「C9芳香族炭化水素」である。C9以下の芳香族炭化水素系溶剤は一般的に毒性が強く、多量摂取すると中毒を起こす危険性がある。
  「C9芳香族炭化水素」は無色の液体で、密度は0.80~0.95で刺激的な匂いがある。引火点は>35℃、初留点140℃、自然発火温度>400℃である。
 日本でいうソルベントナフサ(C9-10芳香族炭化水素)の一種で、この物質を取扱うときには危険性が高いので、火気や高温の場所から遠ざけ、換気のよい場所でのみ行う。保護手袋や保護作業着を着用し、ベーパー、フューム、ミストを吸わないように必要に応じ保護メガネや顔面保護具を着用する。事故時に、体調が悪くなった場合、医者に連絡し、皮膚や髪に付着した場合、ただちに汚染された衣服をすべて脱ぎ、水またはシャワーで洗う。吸い込んだ場合、新鮮な空気の場所へ移し、休息させることが肝要である。

■ 桟橋からの船積みの接続は、ローディングアームまたはローディングホース(カーゴホース)を使って行われる。今回の船積みにはローディングホースが使用されている。事故では、桟橋用クレーンが長期故障していたため、オペレーターが規則違反し、ローディングホースに力が掛かる状態で油配管とつないだとしたが、実際の接続方法ははっきりしない。タンカー天桐1号は2,000DWT級桟橋より低い位置で着桟していたと思われる。本来、潮位、風、積載荷重を考慮して船積み時のローディングホースには、片寄った力が掛からないようにクレーンを使ってホースに余裕を持たせる。しかし、事故では、ローディングホースをロープで固定したため、船積みして船が重くなると、タンカーは沈み、ローディングホースが制限を受け、過剰な引張り力によって破断したと思われる。
(写真はNews.cctv.comから引用)
ローディングホースの接続方法の例
(図はSailor-ru.narod.ruから引用)
所 感
■ 当初、桟橋からタンカーへ移送する際、ローディングホースの不具合によって海上流出したらしいことは分かったが、不具合の要因ははっきりしなかった。しかし、泉州市が行った事故の調査結果で、潮位が低いときにタンカーが桟橋に着桟し、ローディングホースをつないで移送を開始したが、船積みしてタンカーが沈み、ローディングホースに過剰な引張り力がかかり、破断したものとみられることが分かった。
 この直接原因について、つぎのような間接的な要因があったと思われる。
 ● 桟橋用クレーンの故障を長期に補修しなかった。
 ● 無理にローディングホースをつないだ。(それまでの経験では問題が顕在化しなかった)
 ● 潮位の変化について危険予知がされていない。
 ● 積込みを始めたら、船体が沈むことへの危険予知がされていない。
 ● 深夜の船積みで流出発見が遅れた。
 
■ 今回の事故では、つぎのような事故後の対応のまずさが大きな騒ぎになった。
 ● C9芳香族炭化水素の有害性に事業者や地方自治体(泉港区)の認識が希薄だった。
 ● 深夜の事故で異常事態対応部署が適切に機能していなかった。
 ● 予防措置としてオイルフェンスをきちんと展張していない。
    (事故後、オイルフェンスを使用してはいる)
 ● 流出量を低く見込んだ対応になってしまった。(油回収の人員・資機材動員のひとつの目安)
 ● 流出油が養殖場に拡大してしまった。
 ● 事業者とともに地方自治体(泉港区)が事故の規模を小さく見せようとした。
 ● インターネットの情報公開に制限をかけた。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Jqknews.com,   Fujian Quangang Chemical Raw Materials Leakage Continued: Fishermen Lost Millions of Aaquatic Products Stopped Selling,  November  6,  2018  
    ・Afpbb.com,  有害化学物質が海に流出、52人が体調不良 中国福建省,  November  9,  2018
  ・Reuters.com,Chinese City Reassures Public after Chemical Spill Dissolves Fishing Nets,  November  9,  2018 
    ・Voanews.com,Chemical Spill Leaves 52 Ill in East China,  November  8,  2018
    ・Globaltimes.cn,  Fujian Chemical Leak Sickens 52 residents, Causes Salt Panic-Buying,   November  8,  2018  
    ・Caixinglobal.com,  Chemical Leak Hospitalizes 52 in Fujian,  November  9,  2018
    ・Yicaiglobal.com, Chemical Spill in Fujian Is Contained, Quanzhou Government Says,   November  9,  2018
    ・Newsx.tv,   Four Employees  under Investigation over Fujian Chemical Spill,  November  11,  2018  
    ・Chinadailyhk.com,  4 Probed in Fujian Over Toxic Leak,   November  12,  2018  
    ・Business.nikkeibp.co.jp,中国の化学物質流出、漁業、製塩業に大打撃,  November  16,  2018
    ・Scmp.com ,China Chemical Spill: 7 Arrested as Fishermen Wait for News on Compensation,  November 15,  2018
    ・Straitstimes.com,Seven Detained over East China Chemical Spill,  November  15,  2018
    ・Hazmatnation.com, 7 Arrested after Chinese Chemical Spill,  November  15,  2018
    ・Shanghaiist.com,7 Arrested over Massive Chemical Spill in Fujian Province which Made 52 Local Villagers Sick, ,  November  15,  2018
    ・Shine.cn,  7 arrested for chemical leak in Fujian,   November  15,  2018
    ・Chemlinked.com,  Suppression of Information on Fujian Chemical Spill Enrages Chinese Netizens,   November  22,  2018
    ・Jzghxkb.com,   石油化工船舶泄露大量碳九 涉事公司发承诺书致歉,  November  5,  2018
    ・Zghxkb.com, 福建泉州碳九泄漏 专家:影响近海至少持续1到2月,  November  9,  2018 
    ・Dzzq.com.cn, 泉港碳九实际泄漏量69.1吨 还有多少你不知道的事?,  November  26,  2018
    ・News.zijing.org, 福建泉港碳九泄漏69.1吨 企业违规操作刻意隐瞒,  November  26,  2018
    ・Caixinglobal.com,  Fujian Chemical Spill Was 10 Times Larger Than Initially Reported,  November  26,  2018
    ・ Jp.sputniknews.com , 中国の有害化学物質流出量、発表の10倍だと判明,  November  27,  2018
    ・Eworldship.com, “天桐1号”泄漏事故调查报告公布,  November  26,  2018 
    ・Sohu.com, 泉港碳九泄漏事件还原:船方知道存安全隐患,与码头方隐瞒泄漏量,  November  25,  2018
    ・Zh.wikipedia.org, 2018年福建泉港碳九泄漏事件,  November  28,  2018


後 記: このブログでは、事故の原因を明らかにし、再発防止に役立てるのがひとつの目的ですが、その趣旨はかなわないかと思っていたら、3週間後に原因に関する報道が出てきました。また、当初発表の流出量と実際の流出量が倍半分どころじゃないことも分かりました。もやとしていた中で、これらの事実が発表され、原因についてはややすっきりしました。
 一方、地方自治体は事故当事者ではありませんが、事態を早く終わらせたいと思うのか、事故を小さくみせるということについて事故当事者と一致したようです。これは、「中国・青島の死者62名が出た原油パイプラインの爆発事故(2013年)の原因」などで中国に関して感じていたことですが、なかなか改まっていないと思いました。しかし、今回は市民の反響が大きいため、泉港区ではなく、泉州市が迅速な事故報告を出し、日曜に記者会見を行うという事態になりました。ただ、世の中の政治や企業の虚偽報告を考えてみれば、これは中国の話だけでなく、現代では日本を含めた世界共通の意識なのかも知れません。
 教訓としては、火災事故と異なり、真夜中のタンカー油流出事故という漏れの情報があいまいな中で、適切に対処するにはどうすればよいかを考えるよい事例なのかも知れないと思っています。



ボウタイ分析による貯蔵タンクの危険性と軽減策の検討

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 今回は、インドのペトロリアム・アンド・エナジー・スタディーズ大学のバイバブ・シャルマ氏が2018年にまとめた「ボウタイ分析による貯蔵タンクのハザードとその軽減策の検討と評価」(Study and Analysis of Storage Tank Hazards and its Mitigation Measures Using Bow Tie Diagram)の資料を紹介します。
             ボウタイ図の例  (図はRroij.comから引用)

< 概 要 >
■ 石油工業や石油化学工業では、火災、爆発、大きな騒音、感電などの危険な状態に至ることがあり、その結果、健康被害、環境汚染、経済的損失をもたらす。これらの危険は、洗浄薬品、有害ガス、ロックアウト・タグアウト(常時開・閉バルブの管理)の不徹底、ベーパー、フューム、ダスト、過剰な熱または過度の低温などによってもたらされることもある。

■ 常圧貯蔵タンクの火災は工業界で一般的な事象である。今回の検討では、過去40年間にアジアの工業施設で起こったいろいろな貯蔵タンクの事故を取り扱っている。ボウタイ・ダイアグラム(BowTie Diagram) は、いろいろなタイプの貯蔵タンク火災につながった原因と要因を示すために適用される。将来、同様のタイプや状況に対応するオペレーティング・エンジニアを支援し、予防対策や緩和策についても提供する。

■ 検討結果、事故の70%が石油ターミナル(石油貯蔵所)と製油所で起こっており、事故の90%は火災と爆発で占められていることが分かった。事故の原因は、落雷と人為ミスであり、人為ミスには運転ミスやメンテナンス・ミスを含んでいる。そのほかの原因としては、設備の故障、静電気、破壊行為、クラック・破損、漏洩・配管の破損、他の火気などである。これらの事故は、適切な安全管理プログラムや優れたエンジニアリング方法が実行されていれば、回避されていたと思われる。

< はじめに >
■ 可燃性および燃焼性液体の貯蔵タンクは、製油所、石油化学工場、石油貯蔵所、石油ターミナルでよく見られる。このほかに、空港、地方の燃料供給会社、発電所、自動車工場や製鉄所のような大規模製造施設でも、可燃性および燃焼性液体の貯蔵施設で見られる。

■ 貯蔵タンクは、施設に応じていろいろな方法で可燃性および燃焼性液体を保有する。これらのタンクは直径が5mから150mの範囲で、平均の高さが15mである。重油、ガソリン、ディーゼル燃料、灯油、ジェット燃料(ATF)などの可燃性液体は、常温で常圧(0.5 bar以下)でタンクに貯蔵される。もし、十分な量のエネルギー源があれば、発火して火災や爆発に至ることがある。もし、爆発が起これば、爆発時に発生する衝撃波や過圧によって大きな影響を及ぼし、隣接するタンクに影響を与え、壊滅的な状況になる可能性がある。このようなタンクには、大量の原油やその他の石油製品を貯蔵することができる。大規模の工業施設では、いろいろな製品を貯蔵した様々な大きさのタンクを300基以上保有しているところもある。これらのタンクはお互いに非常に近くに配置され、他のタンクと共通の防油堤に囲まれている。

■ 貯蔵タンクは防油堤と呼ばれる囲まれた堤(境界)によって区分けされている。防油堤は、タンクのオーバーフローや構造的な問題によって発生する流出油を防ぐ障壁としての機能をもつ。各タンクは、その分類によって分けられ、分離される。防油堤は、通常、圧密した土盛りまたはコンクリート製の材料で作られる。堤の高さは大体2mくらいである。可燃性液体がオーバーフローするのを防ぐため特別に延長されることがある。防油堤の容量はタンクの総容量を考慮し、安全の余裕度としていくらか上乗せした割合にする。防油堤内に複数のタンクがある場合、堤内の容量は最大タンクの容量に少なくとも安全の余裕度をとったものにすべきである。

< タンクの種類 >
■ タンクの種類には、①固定屋根式タンク、②内部浮き屋根式タンク、③外部浮き屋根式タンクに分けられる。

① 固定屋根式タンク
■ 固定屋根式タンクには、コーンルーフ式タンク、ドームルーフ式タンク、支持屋根型円筒タンクがあり、構造は溶接式、リベット式、ボルト締め式などである。固定屋根式タンクは、通常、揮発性の油から重質油に至る精製油を貯蔵するために用いられる。
1 固定屋根式タンク
■ 固定屋根式タンクは、側板上部の縁に溶接され、側板頂部から覆う形をとる。そして、側板には、ドームルーフや円錐形屋根の力が下向きになるように形作られる。(図1を参照) タンクには、ウィンド・ガーダーと呼ぶ構造物が設けられる。ウィンド・ガーダーは、側板の歪みや風荷重に耐えるようにタンク側板の周囲に付けられる。新規に製作されるタンクでは、屋根板の最小厚さは5mmである

■ 直径がおよそ30mを超えるタンクでは、タンク屋根は支持構造となる。屋根のトラスは側板頂部の縁より下側に延ばされることがあり、その場合、タンクの貯蔵容量は減少することがある。固定屋根式タンクは、内部浮き屋根を保持するよう製作されることがある。屋根板は側板頂部の縁に溶接によって取付けられる。指定がある場合、その溶接の強さを最小に留めて接続を弱くし、事故時の過剰な圧力に対してタンク本体を保護する。
図2 ドームルーフ式タンク

■ すべての固定屋根は、オープン・ベンドまたはプレッシャ/バキューム・バルブ(PV弁)を通じて通気される。液体をタンク内に入れる場合、空気やベーパーを出す必要があり、タンク内の圧力は大気圧よりわずかに高くなければならない。

■ タンク内の液体を抜出すには、空気とベーパーを吸引してタンク内の圧力を大気圧よりわずかに下げる必要がある。(図2)

■ ドームルーフ・タンクは、外部浮き屋根式タンクの上を覆うように設計されている内部浮き屋根式タンクと類似している。ドーム構造の主目的は、環境への大気排出を極力少なくするためである。

② 内部浮き屋根式タンク
■ 内部浮き屋根式タンクの構造は、恒久的な固定屋根式タンクの内部に浮き屋根を備えたものである。内部屋根は、液面にポンツーンまたはダブルデッキによって浮くようになっている。(図3) このタンクは、一般に、高揮発性(低引火点)または有毒性液体を貯蔵する使用条件でみられる。
図3 内部浮き屋根式タンク
■ 浮き屋根で覆われていない固定屋根式タンクの場合、液面は上部の空気層に直接接触している。内部浮き屋根があることによって、ベーパーの蒸発損失を少なくとも95%減じることができ、高価な液体や毒性のある液体または可燃性の高い液体を取扱うときに極めて有用である。タンクには、通常、(BS 2654API Std 650によって)固定屋根部にオープンベントが取付けられるが、実際にはPVベントがよく使われている。

③ 外部浮き屋根式タンク
■ 外部浮き屋根式タンクは、液面上に浮く屋根で構成されているが、屋根は大気に曝されている。屋根は液位の変化に伴って上下する。外部浮き屋根にはリムシールがあり、ベーパーが大気へ放散するのを防ぐ。このタンク型式は、標準として原油や揮発性(低引火点)製品の貯蔵に使用される。原油はタンク側板が大気に曝せれていても自己潤滑的な傾向をもつが、一方、白油はこの性質が無く、側板は天候に曝せれて粗面化される。(図4)
図4 外部浮き屋根式タンク
< 事故の原因 >
① 落雷
■ 落雷は最も一般的な引火源のひとつであり、常圧型浮き屋根式タンクの火災要因になることが多い。調査によれば、火災事故の95%が落雷によって引火するリムシール火災である。引火を生じるには、落雷が直接タンクに落ちる必要はない。タンクの極く直近に落ちれば、側板と浮き屋根の間に相当量の静電気が発生し、火災に至ることがある。

■ 最近の火災事例としては、2017年10月にインドのムンバイ沖にあるブッチャー島においてディーゼル燃料タンクで落雷によって火災となった。死者は出なかったが、燃料が燃え尽きるまでに長い時間かかった。この事故の被害額は少なくとも6~7億ルピー(9.5~11億円)である。2017年7月には、インドのヴィサカパトナムにあるヒンドスタン・ペトロリアム社の原油タンクで落雷があり、リムシール火災となった。

② メンテナンス・エラー(保全ミス)
■ メンテナンス中の溶接やグランダー作業は、貯蔵タンク中のベーパーの爆発という壊滅的な損傷に至る原因になりうる。電気火花や電撃は可燃性液体や可燃性ベーパーの引火源となり、火災や爆発の原因となりうる。

■ 中国甘粛省蘭州市にあるペトロチャイナの製油所で起こった電動機から発生した電撃による事故、および台湾の高雄において1984年に発生した事故は同じ原因である。台湾の嘉義にある化学工場において起こった事故は、はんだ付け装置によって発生した火花が原因である。電気災害をできるだけ無くすため、エリア、室内、区域は、それぞれ、NFPA70(米国電気規程)の500条の危険(分類)場所で定義されるクラス分けを考慮しなければならない。

③ 運転ミス
■ 運転ミスの分類の原因で多いのはタンクの過充填である。その場合、油製品から大量のベーパーが大気に放出されるので、引火源の存在によって火災や爆発に至ることがある。タンクに可燃性液体が貯蔵されていて、過充填が生じれば、火災や爆発はほとんど避けられない。2001年、中国浙江省武義市においてタンクの過充填によってベンゼン50kgが漏洩し、46名の子どもと村民ふたりが病院に搬送される事故が起こった。

■ 運転ミスによる10回の事故のうち8回は漏洩が起こっている。2009年にインドのインディアン・オイル社のタンク・ターミナルで起こった“ジャイプール火災”は、操作手順書が不備だった上、遠隔からの漏洩遮断装置(遠隔操作バルブ)が無かったことによって起こっている。

④ 破壊行為
■ 貯蔵タンクの事故につながる4番目の原因は、破壊行為である。テロ活動や窃盗行為は、大きな緊急事態に至る可能性がある。1991年にイラクのクウェート侵攻中、複数のタンク貯蔵所で火災が生じた。消防活動の行われたタンク貯蔵所もわずかにあったが、戦争状態だったため、ほとんどは燃え尽きるまで何もされなかった。

⑤ 設備の故障
■ 外部浮き屋根式タンクには、屋根排水(ルーフドレン)、ブリーザー弁、緊急屋根排水(エマージェンシー・ルーフドレン)が設置されている。タンクの屋根排水が詰まり、雨水が屋根の上に溜まって、屋根が沈没するという事例がある。タンク内に過剰な圧力が形成し、ブリーザー弁で圧を抜くことがある。バルブの故障はタンクの座屈を招くことがある。タンクの周囲に設けられているシール部は、タンク屋根と内液の上下に追随してスライドし、ベーパーが大気へ逃げるのを防ぐ。シール部の故障や構成部材の一体性が喪失されれば、ベーパー放出という事故につながる。

⑥ 静電気
■ 可燃性液体の貯蔵タンク気相部の開放したエリアからサンプルを採取するときには、静電気が発生する恐れがある。1992年に日本で起こった事故は、サンプルを採取するのに導電性のロープを接続した金属製容器を使用していた。危険性を最小にするために、サンプリングはタンク気相部を開放した状態で行わないのがよい。オープンな状態のサンプリングが避けられない場合には、非導電性の材料によるサンプリング・ゲージを使用するのがよい。金属製の装置は使用しない。液体の移送中には、最大の静電荷が発生する。容器を接地して同電位にする。

⑦ 漏洩および配管破損
■ 1977年にインドのヴィシャーカパトナムでLPGが漏洩して起こった事故では、数時間発見されずに、ヴィシャーカパトナムの海岸でタンカーがポンプで汲み上げようとした。その結果、港湾都市全体が分厚い黒煙で覆われて、死者37名、負傷者100名を出す事故となった。

⑧ 直火
■ 直火とは、貯蔵タンク周辺に存在するタバコの喫煙、焚き火、火の粉など可燃性ベーパーの引火源になるようなものである。

⑨ 自然災害
■ 地震時における地震動が貯蔵タンクに与える影響は構造物に亀裂を生じさせたり、液面を揺動したりして、内部の液体が漏洩に至ることがある。アジアは地震が発生しやすい地域であるため、常にタンクの壊滅的な破壊に至る恐れがある。幸いにも、このような地震による事故の結果は極くわずかである。1964年に日本の新潟にある製油所で発生した火災は、地震のために漏出した炭化水素ベーパーが火花によって引火したものである。

⑩ 暴走反応
■ タンクに貯蔵されている物質に不純物が混ざって発熱反応を起こすことによって、暴走反応が生じることがある。1984年に起こったインドのボパール化学工場事故は大災害のひとつで、地下貯蔵タンクに入っていたメチル・イソシアートと水が混合したもので、大量の毒性ガスが放出して多くの人が亡くなった。

< 事故のシナリオの種類 >
① ボイルオーバー
■ ボイルオーバーは、重質の炭化水素または炭化水素液体の混合物が貯蔵タンクの火災の中で発生する現象で、例えば、原油タンク底に溜まった水に熱い油が接触すると爆発的に原油が放出される。熱がタンクの下の方へ移動して水に接したとき、水は水蒸気に変換する。このとき、水蒸気は1,500倍に膨張し、それとともに燃えていた原油を一緒に外へ放出する。タンクのボイルオーバーは、風下方向ではタンク直径の10倍のエリアに、横風方向でもタンク直径の5倍のエリアに影響を与える。

② スロップオーバー
■ スロップオーバーはタンクの全面火災時に現れ、液体中の溜まった水によってタンク内から液体が噴き出す現象である。

③ ベント火災
 ベント火災は固定屋根式タンクで発生し、可燃性ベーパーが放出されたベントて引火するものである。タンク・ベント部では、充填作業やタンクの呼吸サイクルによって常に可燃性ベーパーが存在する。ベント火災の多くは落雷または近くの引火源によって起こっている。

④ 全面火災(固定屋根式タンク)
■ 固定屋根式タンクの全面火災は、ベント火災が進展して起こることがある。フレーム・アレスター/PVが機能せず、炎がフラッシュバックした時に、タンク気相部が可燃性範囲内であれば、蒸気雲爆発が起こることがある。タンクがAPI Std 650に従って製作されている場合、屋根には弱くした溶接部がある。気相部の爆発によって、屋根は部分的に外れる(「魚の口」開口部)か、または完全に外れる可能性がある。

⑤ 全面火災(浮き屋根式タンク)
■ 浮き屋根式タンクの全面火災は、タンク屋根が浮力を失い、液面の一部または全部が露出して火災になる。

⑥ リムシール火災
■ リムシール火災は、タンク側板と屋根の間のシール部の機能が喪失し、ベーパーが放出し、何らかの引火源によって火災を起こすものである。

⑦ 堤内火災
■ 堤内火災は、防油堤エリア内でタンク側板の外側で起こる種類の火災である。この種の火災は少量の漏洩から防油堤内全域に進展する火災である。

< 検討方法 >
■ このレポートでは、ここ数十年の間にアジアで起こった主なタンク事故について調査した。データはいろいろ発行されたレポートから収集した。石油化学工場、貯蔵ターミナル、ガスプラント、発電所、肥料産業などの施設と比較してみると、石油・天然ガス分野で大きな事故が発生していることが分かった。

< 結果および考察 >
 注; ボウタイ(BowTie;蝶ネクタイ)分析はハザード分析手法のひとつで、想定される事故を中心に原因と結果を左右に配置して蝶ネクタイのような図を使用する。そして、ボウタイ分析に基づいて作成されたリスク評価ソフトウェアがBowTieXPである。 BowTieXPはリスクを評価するためのボウタイ図(BowTie diagram)を簡単に作成でき、複雑なリスクをわかりやすく視覚化できるという点が特徴で、リスクベースの改善計画の検討ができる。

■ 図5が検討したボウタイ図である。前述で述べた種々の事故の原因と結果をBowTieXPのソフトウェアを用いて分析した。ボウタイ図では、事故の脅威に対して軽減や回避できる予防障壁(バリア)があるとする。この予防障壁には、プロアクティブ・バリア(順向性障壁)とリカバリー・バリア(回復障壁)があり、両方の進展要因に対する軽減や回避する方法を検討することになる。発生する事故はシナリオによって対応していくことになるが、適切な軽減策や適切な標準作業手順が取られれば、最悪の事故への進展は回避できる。

■ ここで、貯蔵タンクのハザードの要因とそれに続く結果について軽減策とともに述べる。ボウタイ図によってある特定の脅威に対する予防障壁を明らかにするとともに、更にハザードにつながる進展要因についても説明できる。機器の故障、落雷、運転ミスなどの脅威を明らかにすれば、それに続く結果は軽減策の方法を説明できる。例えば、自動放水システム、移動式泡モニター装置、液体のポンプ排出などの軽減策で、これらの策は進展する事故の影響を小さくする。

■ プロアクティブ・バリア(順向性障壁)やリカバリー・バリア(回復障壁)として働く軽減策も進展要因になりうる。例えば、泡モニター装置への不適切な泡供給や自動放水システムのノズルが止まることである。これらの機器の適切なメンテナンスやより良い効率的な機器が使用されれば、進展要因を防ぐことができることがわかった。
図5 ボウタイ図

図5 ボウタイ図の拡大(左上部)

    図5 ボウタイ図の拡大(左中部1)

      図5 ボウタイ図の拡大(左中部2)

      図5 ボウタイ図の拡大(左下部)

       図5 ボウタイ図の拡大(右上部)

      図5 ボウタイ図の拡大(右中部1)

      図5 ボウタイ図の拡大(右中部2)

     図5 ボウタイ図の拡大(右下部)

< おわりに >
■ このレポートでは、産業施設のさまざまなタンクで発生した事故について検討した。壊滅的な結果へつながった原因と対応は体系的にボウタイ図の中で表した。設計、エンジニアリング、建設が良好に実施され、安全管理プログラム、標準作業手順、標準メンテナンス手順が良好に実行されていれば、事故のほとんどは回避されていただろう。

補 足
■ リスク評価の方法は、1940年代のFMEA(故障モード・影響解析)から始まり、FTA(故障の木解析)、HAZOP(Hazard and Operability Study)、ETA(事象の木解析)などが開発され、1970年代にBowTie解析が出された。そのほか、いろいろな評価法が出たが、1970年後半になると、コンピュータによるリスク評価が開発されるようになり、現在、いろいろなリスク評価ソフトウェアが出ている。
リスク評価の方法の変遷
■ リスク評価ソフトウェア「BowTieXP」は、オランダのCGE Risk Management Solutions社から出されている。同社によると、ボウタイ図はリスクを1つのわかりやすい図で視覚化したもので、図は蝶ネクタイのような形をしており、リスク管理の予防的側面と反応的側面の間に明確な違いがある。BowTieXPのボウタイ図には、考えられる複数の事故のシナリオ概要と、これらのシナリオを制御する上での障壁を示す。BowTieXPソフトウェアは、エンドユーザーを念頭に置いて開発されているため、最もユーザーフレンドリーなリスク評価ツールのひとつであるという。BowTieXPでボウタイ図を作成するのは簡単であるが、ソフトウェアを使用するので、とボウタイ図を維持することができるため、現在の安全状態を表すことができるという。

■ ボウタイ分析は、中国でも使われている例があり、古い評価方法ではない。最近では、サイバーリスクのボウタイ分析の例がある。どのような攻撃者の脅威を想定し、予防管理をどのようにするのか、被害を受けた場合の被害管理をどうするか、被害の結果はどのようなことがあるのかなどを視覚化できる。
 ボウタイ分析の例
所 感
■ このレポートの原題は、インドのウッタラーカンド州の州都であるデヘラードゥーンにあるペトロリアム・アンド・エナジー・スタディーズ大学のバイバブ・シャルマ氏による「ボウタイ分析による貯蔵タンクのハザードとその軽減策の検討と評価」(Study and Analysis of Storage Tank Hazards and its Mitigation Measures Using Bow Tie Diagram)である。

■ 貯蔵タンク分野では、なじみのないボウタイ分析によるタンクのリスク評価を行ったところに価値がある。レポート内容だけでは、詳細がわからないが、貯蔵タンクのリスクや軽減策を分かりやすく視覚化したものであることは理解できる。特に、「プロアクティブ・バリア(順向性障壁)・リカバリー・バリア(回復障壁)として働く軽減策も進展要因になりうる。例えば、泡モニター装置への不適切な泡供給や自動放水システムのノズルが止まることである」とする点は興味深く、具体的に「緊急対応チーム(消防隊)の遅れ」、「大容量泡放射砲の消火水の過剰供給」などは傾聴に値する。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
 ・ Vaibhav Sharma, Abhishek Nandan and Nihal Anwar Siddiqui ,  「 Study and Analysis of Storage Tank Hazards and its Mitigation Measures Using Bow Tie Diagram」 Vaibhav Sharma, Abhishek Nandan and Nihal Anwar Siddiqui,Department of Health, Safety and Environment, University of Petroleum and Energy Studies, Dehradun, Uttrakhand, India ,  2018
 


後 記: 興味深い資料ではありましたが、なかなか難渋しました。ボウタイ分析に関する基本認識を得ることに四苦八苦したあと、資料は英文ではありましたが、誤字と思われるところが少なくなく、また分かりづらい表現があり、悩みました。やや消化不良のところもありますが、問題提起という観点でブログを投稿することとしました。なお、肝心のボウタイ図(図5)はブログの図表では見えなくなるので、図を細かく分け、拡大版を添付することとしました。(実際の図は備考の原文を参照してください)



米国コロラド州で工事作業中にタンク爆発・火災、負傷者3名

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 今回は、2018年10月27日(土)、米国コロラド州ウェルド郡にあるマーラード・エクスプロレーション社のタンク設備で起こった爆発・火災の事故について紹介します。
(写真はGreeleytribune.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のコロラド州(Colorado)ウェルド郡(Weld County)にあるマーラード・エクスプロレーション社(Mallard Exploration)の施設である。

■ 発災があったのは、コロラド州道14号線沿いでウェルド郡道83号線近くにある油井施設のタンク設備である。施設はブリッグスデール(Briggsdale)の東にあり、10エーカー(40,460㎡:約200m四方)の敷地に新しく建設されているものである。現在、この土地に生産油井はないが、タンクは6基ある
コロラド州ウェルド郡ブリッグスデール付近(中央部に郡道14号線)
 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年10月27日(土)午前9時頃、マーラード・エクスプロレーション社のタンク設備で爆発・火災が起こった。

■ 発災場所に比較的近いところの住民によると、家が地震にあったように揺れたという。そして、すぐに真っ黒い煙が流れているのに気がついた。

■ 発災に伴い、ウェルド郡保安官事務所とブリッグスデール消防署が対応に出動した。ウェルド郡保安官が現場に到着したときには、タンク設備は火に包まれていた。

■ 火災はブリッグスデール消防署によって消された。

■ この事故に伴い、請負会社の作業員3名が負傷した。ノースコロラド医療センターに2名は救急車で搬送され、1名は重度のやけどのためヘリコプターで搬送された。3名は、事故当時、タンク設備付近で作業をしていた。

■ 6基のタンクのうち1基は形が崩れて黒焦げになっていた。破片が四方に散らばっていた。タンクの屋根板が現場から約100フィート(30m)の距離に噴き飛んでいた。タンクは一般の建物から2,000フィート(600m)以上離れていた。

被 害
■ タンク1基が爆発・火災によって損壊した。 

■ 負傷者が3名出た。

< 事故の原因 >
■ 作業者のひとりが供用中でなかった貯蔵タンクの作業をしていたとき、電動工具からの火花がタンク内に残留していたベーパーと油に引火したものとみられる。  

< 対 応 >
■ 事故の調査のため、 コロラド州原油・天然ガス保全委員会(Colorado Oil and Gas Conservation
Commission)が現場に入った。また、米国安全衛生労働局(Occupational Safety and Health Administration)も事故の対応のため現地を訪れた。
(写真はGreeleytribune.comから引用)
(写真はThedenverchannel.comから引用)
(写真はDenver.cbslocal.comの動画から引用)
(写真はThedenberchannel.comから引用)
(写真はDenver.cbslocal.comの動画から引用)
補 足 
■ 「コロラド州」(Colorado)は、米国西部にあり、州の南北にはロッキー山脈が貫いており、州全体の平均標高が全米で一番高い山岳地帯で、人口約503万人の州である。州都および人口最大都市はロッキー山脈の東側にあるデンバー市(人口約60万人)である。
 「ウェルド郡」(Weld County)は、コロラド州北部に位置し、人口約25万人の州である。

■ 「マーラード・エクスプロレーション社」(Mallard Exploration)は、コロラド州デンバーに本拠を置き、原油・天然ガスの生産に携わっている石油企業である。

■ 爆発・火災を起こしたタンクの仕様(大きさ、内容物)は分かっていない。グーグルマップで探してみると、コロラド州道14号線付近には油井用のタンク設備が多々ある。これらのタンクは同じくらいの大きさで、直径約4.3mであり、発災タンクの大きさを類推できる。高さを約6mとすれば、容量は80KL級である。
 
所 感
■ この事故は、「作業者のひとりが供用中でなかった貯蔵タンクの作業をしていたとき、電動工具からの火花がタンク内に残留していたベーパーと油に引火したもの」とみられており、明らかに「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(米国CSB;化学物質安全性委員会)が活かされていないものだろう。
 米国では、石油の油井が至るところにあり、タンク設備のオーナー(所有者)としての安全管理は希薄で、従って、タンク周辺の工事は請負会社任せになっているものと思われる。広大な人が住んでいない場所でのタンク工事に対する危険物の意識が弱くなっていると感じる。

 発災タンクの写真を見ると、いろいろな疑問がある。
 ● タンク周辺には防油堤がない。
 ● 新しく建設されていると思われるタンクに、なぜ可燃性ガス(油)が入っていたのか。
 ● 発災タンクの側板下部にはスラッジ抜出し用のマンホールがあり、空いている。
 ● 発災タンクの後側にあるタンク設備の地面が掘削されている。
 ● タンク設備には保温が施工されているが、この種のタンクには珍しい。
   (発災タンクの保温がバラバランに飛び散っている)
 ● 周辺には、油井もなく、タンク設備の用途がわからない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Greeleytribune.com, Three Injured, One Seriously Burned in Tank Battery Fire near Briggsdale,  October 27  2018
    ・Denver.cbslocal.com, 3 Hurt In Weld County Oil Tank Battery Fire ,  October 27  2018
    ・Kdvr.com, 3 workers injured in oil tank battery fire in Weld County,  October 27  2018
    ・K99.com, Weld County Oil Tank Battery Fire Injured Three Workers,  October 29  2018
    ・Thedenverchannel.com, 3 injured in Oil Tank Battery Fire East of Briggsdale in Weld County,  October 28  2018
    ・9news.com, 3 Injured after Oil Tank Battery Catches Fire in Weld County,  October 28  2018



後 記: 本情報の入手は遅かったため、ブログ投稿も遅くなりました。ところで、最近、米国の油井施設のタンク設備やパイプラインの事故を見るたびに感じることは、米国の原油・天然ガスの開発へのあくなき挑戦(欲望と言っていいかも)ですね。石油メジャーが独占していた原油・天然ガス開発は、現在では中小の独立した石油開発会社が担っています。ガソリン価格は日本の半分程度ですし、広大な土地を見れば、地球温暖化がフェークニュース扱いになってしまう素地はあるなあと思ってしまいますね。今回の事故も請負会社の不注意で済まされ、忘れ去られるのではないでしょうか。教訓が活かされない土壌ができつつあることを危惧しながら、まとめました。


米国テキサス州でタンク爆発? 実はタンクローリーが爆発、死傷者2名

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 今回は、2019年1月15日(火)、米国のテキサス州ミッドランド郡の州間高速道路20号線の近くにある油井用タンク施設のタンクローリー入出荷設備で起こった爆発・火災の事例を紹介します。
(写真はMedia.graytvinc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ミッドランド郡(Midland County)の州間高速道路20号線の近くにある油井用のタンク施設である。施設には、タンク設備のほかタンクローリーの入出荷設備があった。タンクは15基、タンクローリー積み場は3レーンあるが、所要者は報じられておらず、分かっていない。

■ 発災は、ミッドランド郡のFM1788号線の7800区画にあるタンク施設に入構していた油輸送用の大型タンクローリーで起こった。
テキサス州ミッドランド郡の州間高速道路20(左上)付近の油井群
 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月15日(火)午後、タンクローリーの入出荷設備で爆発・火災があった。

■ 当初、州間高速道路20号線の近くにある油井施設の蒸留設備で燃えているという情報が流れたが、これは、タンクローリーの設備近くにタンク設備があったことから勘違いしたものだった。ミッドランド消防署によると、現場で爆発した可能性があると通報を受けたという。その場所は油井用の塩水処理施設であったが、隊員25名が出動中に、発災は大型タンクローリー(エイティーン・ホイーラー;18-Wheeler)2台だと連絡があった。そして、現場に到着すると、タンクローリーは2台とも火災になっていた。

■ 発災は、現場で荷下ろし作業をしていたところ、油を運んでいた2台の大型タンクローリーから火が出たものだった。

■ この事故によって、運転手ひとりが亡くなり、もうひとりの運転手は火傷を負い、ミッドランド記念病院へ運ばれたのち、ラブロック病院へ空輸搬送された。現場には他にもうひとりいたが、火災発生時は建物の中にいて被災をまぬがれた。
 
 被 害
■ 大型タンクローリー2台が焼損したしたほか、タンクローリー入出荷設備が損壊した。 

■ 死傷者2名が出た。運転手1名が死亡し、1名が負傷した。

< 事故の原因 >
■ タンクローリーの爆発・火災を起こした原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 事故原因の調査は、米国安全衛生労働局(Occupational Health and Safety Administration;OHSA)およびテキサス州内の油田開発などの行政を行うテキサス州鉄道委員会(Texas Railroad Commission)が行うものとみられる。 
(写真はChron.comから引用)
(写真はMrt.comから引用)
(写真はMrt.comから引用)
(写真はMrt.comから引用)
(写真はCbs7.comから引用)
補 足 
(図はJa.wikipedia.orgから引用)
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、メキシコと国境を接し、人口約2,510万人の州である。テキサス州はスピンドルトップで原油が発見されて以来、石油が州内の政治と経済を牽引する存在になってきた。テキサス州一人当たりエネルギー消費量および全消費量で国内最大である。従来、メキシコ湾の海底油田が主であったが、 21世紀に入るとシェールオイル採掘の技術が進歩し、内陸部を中心に石油生産量が増加した。テキサス州を国として見た場合、ロシア、サウジアラビアに次ぐ世界第三位の石油産出国になっていると言われている。
 「ミッドランド郡」(Midland County)は、テキサス州西部に位置し、人口約13万人の郡である。

■ 発災場所の所有者は報じられておらず、分からない。しかし、グーグルマップで調べてみると、タンクローリーの入出荷設備とタンク設備のある場所は特定できた。この施設の運用方法は分からないが、油田生産の塩水処理設備だけでなく、タンクローリーの入出荷設備があるので、生産油の集積場所だとみられる。
           発災施設  (写真はGoogleMapから引用)
■ 「テキサス州鉄道委員会」(Texas Railroad Commission)は、州内の石油・天然ガス産業、ガス公益事業、パイプラインの安全性、液化石油ガスの安全性、および石炭とウラニウムの採掘を管理している。

■ 「エイティーン・ホイーラー」(18-Wheeler)とは、輸送用の大型トラックにつけられた愛称である。元々トラックに付いているタイヤホイール数の18からきているが、タイヤが18個を超える大型トラックも「エイティーン・ホイーラー 」といっている。 
 日本でも30KL級タンクローリーが走るようになったが、 いわゆる「エイティーン・ホイーラー 」 ではない。しかし、宇部興産専用道路(宇部市から美祢市を結ぶ高速道路:約32km)は私道のため、規制がなく、 40トン積みトレーラーを2両連結したダブルストレーラーを牽引しているので、34輪の連結トラックが走っている。
大型トラック・タンクローリーの例
■ 大型タンクローリーが入出荷設備で爆発事故を起こした事例としては、201055日(水)、米国ベア郡サンアントニオにあるAGE石油(AGE Refining)の製油所敷地でエイティーン・ホイーラーの大型タンクローリーが爆発して火災になった事故がある。  
米国ベア郡サンアントニオのタンクローリー爆発・火災事故
 所 感
■ この事故は、油井関連施設においてタンクローリーがタンクに積み下ろしするような設備での事故であり、日本では起こりえないものである。しかし、一般にタンクローリーへの油積込作業中に漏洩したり、火災を起こした事例は少なくない。
 ● 2010年5月、米国ベア郡サンアントニオにあるAGE石油のエイティーン・ホイーラーの爆発・火災」  
 このような中で、危険物保安技術協会の第11回危険物事故防止対策論文(2013年)では、「タンクローリー輸送事故防止に向けての提言」が奨励賞を受賞している。
 
■ タンクローリーの輸送中の事故も多いが、このブログで取り上げたつぎの事故は記憶に新しい大きな事故である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Hazmatnation.com, Crews Respond to Tank Battery Fire near Midland, TX,  January  16  2019
     ・Newswest9.com. Officials Identify Victims of Fire on FM 1788 South,  January  15  2019
     ・Cbs7.com. Victims Identified in Deadly Midland County fire,  January  16  2019
     ・Yourbasin.com. One Killed in Midland County Crash,  January  15  2019
     ・Mrt.com. County Fire Marshal: 1 Person Dies in Tanker Truck Fire,  January  15  2019
     ・Chron.com. Victims in Midland County Tanker Truck Fire Identified,  January  16  2019


 後 記: 本事故情報の最初はタンク・バッテリーの火災ということで、調べ始ましたが、タンクではなく、タンクローリーの爆発・火災だということが分かりました。ブログ投稿はやめようかと思いましたが、「エイティーン・ホイーラー」の事故だということで、続けて調べることとしました。日本では 「エイティーン・ホイーラー」 の車両はありませんので、紹介を兼ねて調べることにしました。 「エイティーン・ホイーラー」は、映画「ターミネーター」で主人公が追いかけられる大型タンクローリーです。(古くて見ていない人も多いかな)  エイティーン・ホイーラーのような大型のトラックは日本で走っていないとお思いでしょうが、補足で書いたように山口県の宇部興産専用道路では、ダブルストレーラーを牽引する34輪の連結トラックが走っています。しかし、米国では3台のトレーラーを牽引する連結トラック(46輪)が公道を走っています。(写真参照)
 ところで、肝心の事故情報ですが、死傷者が出ているのもかかわらず、詳しい内容の報道記事などは出てきませんでした。広大な土地に13万人しかいない郡で、至るところに油井があるような地域ですが、米国の報道状況の変化を感じる事故でした。
(写真はBlog.nittu-soken.co.jpから引用)




メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名

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 今回は、2019年1月18日(金)、メキシコのイタルゴ州トラウエリルパンに敷設されているメキシコ国営石油会社(ペメックス社)のガソリンのパイプラインで違法なタップによる油採取中、爆発・火災が起こり、99名が死亡し、39名が負傷によって入院するという事故を紹介します。
(写真はNationalpost.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、メキシコのイタルゴ州(Hidalgo State)トラウエリルパン(Tlahuelilpan)に敷設されているメキシコ国営石油会社のペメックス社(Petroleos Mexicanos: Pemex)の石油パイプラインである。

■ 発災があったのは、首都メキシコシティ(Mexico City)から北約90kmにあるトラウエリルパン付近に埋設された直径14インチの石油パイプラインである。メキシコでは、原油、天然ガス、石油製品がパイプラインで移送されているが、発災のあったパイプラインの油種はガソリンだった。
(写真はVoanews.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月18日(金)午後7時頃、トラウエリルパンの野原に敷設されていた石油パイプラインが爆発し、火災となった。暗闇がせまる中、炎と煙が激しく立ち昇った。

■ 爆発の約2時間前の1月18日(金)午後5時頃、油窃盗と思われるグループによって石油パイプラインに抜出しラインがあけられ、野原に多くの人々が集まり、お祭り気分のようだった。住民はガソリンをバケツやポリ缶などで採取していた。バケツやポリ缶を持った住民らは700人とも800人だったといわれる。

■ 発災に伴い、99名が死亡し、39名が病院に入院し治療している。(1月24日段階)

■ 爆発が起こった後、地元テレビは住民らが悲鳴を上げながら逃げ惑う姿や全身やけどを負った人の姿を放映した。

■ 爆発に伴う火災は、消防隊によって発災から4時間後の真夜中少し前に消火が確認された。

■ メキシコでは同種の犯罪が多発していることから、2018年12月に発足したメキシコ新政権は盗難対策として複数の石油パイプラインを止め、タンローリーでの燃料輸送をしていた。今回爆発したパイプラインは、稼働を再開したばかりだった。通油を開始した石油パイプラインには、約10,000バレル(時間単位不詳)が圧力約20kg/c㎡で流れていたという情報があるが、真偽はわからない。

■ 住民によると、爆発のあったパイプライン部は、油窃盗グループが繰り返しパイプに穴をあけているような場所だった。当局者によると、トラウエリルパン周辺のパイプラインは過去3か月間に10回、窃盗のために穴があけられているという。

■ ガソリンスタンドの全国的な燃料不足の中で、ほぼ4週間の間、停止されていたパイプラインが運転を再開したが、誰かが再び石油パイプラインに穴をあけた。この噂が地元に広まり、人々が集まってきた。多くの人が、ポリ缶を持って石油パイプラインにあけられた栓のところに現れた。

■ 地元の人によると、当初、ガソリンの採取はバケツを一杯にする程度であったという。しかし、群衆の数が多くなり、600人以上に膨らむと、人々は気短になっていた。ひとりの男がパイプラインのパッチ部に鉄の棒を突っ込んだ。すると、ガソリンが間欠泉の水のように高さ20フィート(6m)まで噴き出した。お祭りの様相が激しくなった。ガソリンで濡れた大人がポリ缶を投げたり、ガソリンを入れる容器類で場所とりする人が出てきた。

■ 追い払おうとした兵士に向かって何人かが石を投げ、棒を振り回した。ガソリンをとる人の中には、子どもを連れてきている人もあった。25人ほどの兵士は現場の野原周辺に立って、これ以上民間人が近づかないよう警備した。当局者によると、兵士はいたが、彼らへの指示は無理な介入をしないことだったという。1週間ほど前、別な町で国営の油を分捕るのを止めさせようとして、幾人かの兵士が住民たちから殴りつけられるという事件があった。
(写真はElpais.comから引用)
(写真はElcomercio.peから引用)
(写真はGlobalnews.caから引用)
(写真は左;Elcomercio.pe、右;Theguardian.comから引用)
被 害
■ 事故に伴い、 99名が死亡し、39名が病院に入院し治療している。

■ 石油パイプラインに違法なタップが設置され、配管が損傷した。パイプラインから内部のガソリンが漏洩し、焼失した。

< 事故の原因 >
■ 爆発の主原因は、油窃盗のため違法なタップによる故意の過失である。

■ 引火の原因は、初期段階の見方として、パイプラインの周囲にいた人々の衣類からの静電気放出とみられている。パイプラインの近くには多数の人間がおり、一部は合成繊維製の衣料を着用し、この衣類が電気反応を生じさせた可能性があるという。
(写真はAztecaamerica.comから引用)
(写真はLatimes.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はNews.sky.comから引用)
< 対 応 >
■ メキシコ公安長官は、石油パイプラインの爆発による火災は消滅したと述べ、救助隊による遺体の回収が開始された。

■ メキシコ大統領は、記者会見で遺族にお悔やみの言葉を述べる一方で、「犯罪組織のガソリン盗難への取締まりが必要だ」として、深刻化している燃料窃盗への対策継続に理解を求めた。メキシコ各地では、窃盗グループによる燃料の盗難が相次いでいて、2018年だけで3,300億円の被害が出ている。

■ 1月21日(月)、メキシコ政府は2018年に違法なタップが14,894件見つかったと発表した。これはメキシコ国内で1日当たり41件である。

■ 政府は事故について詳細な調査を始めた。そして、ペメックス社はパイプラインが破裂していることを知っていたのに、なぜ爆発するまで何時間も石油パイプラインを閉止しなかったのかという疑問があがっている。

■ 1月21日(月)、ペメックス社の技術者が記者会見の場で、「最初、漏出はわずかだったが、あとになって噴水のようになった。このことが分かって20分以内に、ペメックス社は措置をとった」と述べた。この措置が石油パイプライン内の油の流れを止め得たかどうかは明らかではなかった。

■ ペメックス社の最高経営責任者(CEO)は、調査結果に従うといい、パイプライン閉止の遅れについて過失や怠慢があったかどうかについては肯定も否定もしなかった。そして、「すべては見られており、これからです」と付け加えた。メキシコ司法長官は、当局による過失に関する調査は進行中であり、今週中には質問への回答をすることになるだろうと述べた。

■ ペメックス社の最高経営責任者(CEO)は、調査結果に従うといい、パイプライン閉止の遅れについて過失や怠慢があったかどうかについては肯定も否定もしなかった。そして、「すべては見られており、これからです」と付け加えた。
 メキシコ司法長官は、当局による過失に関する調査は進行中であり、今週中には質問への回答をすることになるだろうと述べた。
(写真はThespec.comから引用)
(写真はRegister-herald.com から引用)
(写真はTimesdaily.comから引用)
(写真はVoanews.comから引用)
(写真はOkcfox.comから引用)
補 足 
■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家で、人口約1億2,800万人の国である。
 「イダルゴ州」(Hidalgo) は、メキシコ中部にあり、人口約760万人の州である。
 「トラウエリルパン」(Tlahuelilpan)は、首都メキシコシティが車で90分、国営のツラ製油所(Tula)から13kmのところに位置する人口約8,500人の町である。緑豊かなアルファルファー畑と発電所があり、メキシコの標準的な田舎町で、収入は全国平均レベルで、住民の約半分は中程度の貧困の世帯である。
            メキシコ合衆国と各州の位置  (図はUpload.wikimedia.org から引用)
■「ペメックス社」(PetroleosMexicanos Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000の巨大企業である。 

■ 石油パイプラインの油窃盗は、メキシコなど貧困な国で起こっており、事故も少なくない。当ブログで取り上げた事故はつぎのとおりである。

■ 今回の事件の違法タップの方法は明らかにされていないが、おそらく「ホットタッピング」によるものであろう。本来はパイプラインの内容物を抜かずにバルブを切り込んだり、バイパスラインを設置するために開発された工法で、パイプラインに枝管(バルブ付き)のノズル部を溶接し、ホットタッピング・マシンという特殊な穿孔機を使用してパイプラインに孔を明け、抜出し口を設ける。通常はパイプラインの流れを一時的に止め、内圧を下げてから溶接工事や穿孔工事を行なう。石油パイプラインからの油窃盗では、内圧がかかったままであるので、極めて危険な工事である。
                    正規のホットタッピング工法の例  (図はWermac.org から引用)
パイプラインへの違法タップの例
(写真は、左;News.bbc.co.uk 、右;Linkedin.com から引用)
■ 石油パイプラインの違法タップの油窃盗に対して、メキシコでは 「ドローンによる監視」を行っているが、十分な効果は出ていない。また、パイプライン窃盗防止モニタリングという技術を提供している会社もある。アコースティック・エミッションを活用したり、防食用被覆材の損傷による電圧の急激な変化を検知する方法である。実際の有効性は分からない。

所 感
■ メキシコの石油パイプラインにおける油窃盗による事故は、2014年のメキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」、2017年の「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」を紹介したが、違法タップによる油窃盗は増え続けており、この背景には、貧困の拡大、安易な石油パイプラインの敷設、窃盗団による組織的犯罪などいろいろな要因がある。しかし、今回の事故をみると、2017年当時よりも混迷を極めていると痛感する。

■ 今回の事故について、日本から見て常識では考えられないことはつぎのとおりである。
 ● 油窃盗グループがあけた違法タップに大勢の住民が集まってきた。
 ● 石油パイプラインの埋設ルートが以前から掘られ、放置されていた。
 ● 違法タップだけでなく、だれかが鉄の棒で石油パイプラインに穴をあけた。
 ● ガソリンが噴出流となっても、住民が逃げなかった。
 ● 油窃盗が起こっていても、石油パイプラインがすぐに閉止されなかった。
 ● 兵士が近くにいても窃盗を止めなかった。
 ● 兵士数が少ないと判断して、応援隊を要請しなかった。 
  
■ 火災への対応の詳細については報道されていないが、おそらく消防の対処は、石油パイプラインの移送バルブが閉止され、漏れた油を燃え尽きさせるという方法がとられたのだろう。現場に消防車は見えるが、事故後の現場写真を見ると、消火泡が使われた跡は残っていない。中途半端に火災を消火すると、油汚染や消火泡による土壌・水質の環境汚染の問題があるのを懸念していると思われるが、今回のように多くの住民が倒れた場合、まだ息のある人はいたはずで、難しい判断だったと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com,  メキシコのパイプライン爆発事故、死者は79人に,  January 20, 2019
   ・Sankei.com, メキシコのパイプライン爆発 燃料窃盗時に引火か,  January 20, 2019
    ・Cnn.co.jp, メキシコの送油管爆発 死者73人に、衣類の静電気が原因か, January 20, 2019
    ・Mainichi.jp, メキシコ パイプライン爆発、死者79人に, January 20, 2019
    ・Fnn.jp, メキシコ・パイプライン爆発で66人死亡 石油盗もうとして?, January 20, 2019
    ・Nhk.or.jp, パイプライン爆発 死者66人に メキシコ, January 19, 2019
    ・Tokyo-np.co.jp, パイプライン爆発、死者66人 メキシコ,  January 20, 2019
    ・Nikkei.com , パイプライン爆発66人死亡 メキシコ,  January 20, 2019
    ・Japanese.donga.com, メキシコパイプライン爆発、少なくとも73人が死亡,  January 21, 2019
    ・Abcnews.go.com, Death Toll Reaches 73 in Mexico Fuel Pipeline Fire Horror,  January 20, 2019
    ・Washingtonpost.com,  Death Toll in Mexico Pipeline Fire Reaches 89 ,  January 21, 2019
    ・Voanews.com, Mexico Pipeline Death Toll Reaches 91,  January 20, 2019
    ・Abc13.com, Children burned in Mexico pipeline fire being treated at Shriner's Hospital,  January 22, 2019
    ・Ktvn.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire Reaches 93,  January 22, 2019
    ・Globalnews.ca, At least 21 Dead, 71 Hurt in Mexico Pipeline Fire Caused by Fuel Thieves,  January 18, 2019
    ・Kwtx.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire Rises to 93,  January 22, 2019
    ・Cbs7.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire Rises to 95,  January 23, 2019
    ・Nationalpost.com, Death Toll Reaches 85 after Huge Blast at Mexico Pipeline Ruptured by Fuel Thieves,  January 20, 2019
    ・Theguardian.com, Mexico Explosion: Scores Dead after Burst Pipeline Ignites,  January 19, 2019
    ・Elcomercio.pe , México: La explosión en toma clandestina de combustible deja al menos 96 muertos,  January 23, 2019
    ・En.wikipedia.org , Tlahuelilpan Pipeline Explosion,  January 24, 2019
    ・Washingtonpost.com, Death Toll in Mexico Pipeline Fire nears 100,  January 24, 2019



後 記: 事故の一報として日本のメディアの記事を知ったとき、また、メキシコでの石油パイプライン窃盗事件かと思いました。珍しく、すべての日本の報道機関が事故を伝えましたが、残念ながら日本の報道はそこまででした。
 さらに調べていくと、単なる油窃盗による事故でないことがわかりました。しかし、死者数が多い上に、日毎に増えていき、このことがニュースの焦点になり、私が知りたかった石油パイプラインに関するデータや事故の経緯ははっきりしない状況でした。そして、「所感」で書いたように日本にいると、常識では考えられないようなことが起こった事故だったのです。標題に「窃盗」の言葉を考えましたが、単なる盗みという感じではないので、「違法な(タップによる)油採取中」という表現にしました。これは、中東のタンク火災事故の中には、戦場におけるテロによるものがありますが、今回の事故はそれに近い状況だと感じています。このような中で、メキシコは事故を教訓とすることができるのだろうかと考えてしまいました。


イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名

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 今回は、2019年1月11日(金)、イエメンのアデンにある国営のアデン・リファイナリー社のアデン製油所で起こったディーゼル燃料用貯蔵タンクの爆発・火災事故を紹介します。
(写真はDebriefer.netから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、イエメン南部の港湾都市アデン(Aden)にある国営のアデン・リファイナリー社(Aden Refinery Company)の製油所である。製油所は、2015年3月に反政府武装組織フーシ派によって占領され、操業を停止したが、7か月後に奪還されて運転が再開された。しかし、技術的な問題などによって生産は再び中断されている。製油所の貯蔵タンクは、2016年以降、イエメンの石油商人に賃借りされているという。

■ 発災があったのは、アデン製油所のタンク地区にある貯蔵タンクである。発災した貯蔵タンクはディーゼル燃料用で容量7,000トンであるという。
                          イエメンのアデンにあるアデン製油所付近 (矢印は発災したタンク) 
(写真はGoogleMapから引用)
                     アデン製油所のタンク地区付近 (矢印が発災タンク) 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月11日(金)午後7時頃、アデン製油所で貯蔵タンク1基が爆発して火災となった。爆発音はアデンのブライガー地区でも聞こえた。

■ 貯蔵タンクにはディーゼル燃料が約7,000トン入っていた。貯蔵タンクの火災は、その前に配管が火災になり、延焼して爆発したという情報があるが、真偽は不詳である。

■ 発災に伴い、自衛消防隊のほか、民間防衛軍が消火のために出動した。3時間の消火活動を行ったが、火災の封じ込めはできなかった。

■ 1月12日(土)の昼過ぎ、内部液がタンク底部に近づいたとき、貯蔵タンクが爆発を起こした。
 
■ この2度目の爆発事故により、消火活動に従事していた消防隊員と火災を見ていた作業員が少なくとも15名負傷した。これはタンク火災を封じ込めようとして失敗し、新たな爆発が起こったため、負傷者が出た。負傷者は近くの病院に搬送された。

■ 1月12日(土)中には、タンクの火災は消えるものと見込まれている。衛星写真によると、1月13日(日)には、火が見えないので、消火されたものとみられる。
(写真はNthnews.netから引用)
(写真はDebriefer.netから引用)
(写真はThestar.comから引用)
被 害 
■ ディーゼル燃料タンクが爆発・火災によって損壊した。また、内部の燃料油が消失した。

■ 2度目の爆発で少なくとも15名が負傷した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中で不詳である。

■ 初期の情報で、火災事故は武装勢力による破壊活動の可能性が高いという見方があった。しかし、その後、イエメン内務省は否定している。
 貯蔵タンクの火災は、その前に配管が火災になり、延焼して爆発したという情報があるが、真偽は不詳である。 また、油タンクが砲撃を受けたとか、電気的な短絡によって爆発を引き起こしたなどいろいろな情報ある。

< 対 応 >
■ アデン治安部隊准将は、製油所で起きた爆発・火災の原因を明らかにするよう犯罪捜査部のチームに命じた。

■ 治安部隊は、事故がテロ攻撃らしいという情報を受け、構内で働くすべての人が構内から出ることを禁止し、調査を開始した。

■ アデンは国際的に認められたイエメン政府の支配下にある。サウジアラビアと西側に支えられた政府は、イランと同盟を結んだ反政府の武装組織フーシ派と戦っている。イエメンでは、何万人もの人々が殺され、経済が荒廃し、何百万人の人々が深刻な飢餓に直面している。国連は、この4年間続いている戦争を終わらせようと、先月、和平会談を開始した。しかし、逆にそれ以来、緊張が高まっている。

■ 1月10日(木)に、アデンの隣県ラハイで実施されたイエメン政府軍事パレードにフーシ派のドローン攻撃が行われ、数人が死亡するという事件が起きている。1月11日(金)には、サウジアラビアと西側の連合軍が無人飛行機を使ってフーシ派の基地を破壊した。 
(写真はThenational.aeから引用)
(写真はXinhuanet.comから引用)
                              112日(土)の航空写真     (写真はTwitter.com.から引用)
                              113日(日)の航空写真        (写真はTwitter.com.から引用)
補 足 
■ 「イエメン」は、正式にはイエメン共和国(Republic of Yemen)で、中東のアラビア半島の南端部に位置し、人口約2,350万人の共和制国家である。
 現在、イエメン全土では,イエメン政府と反政府勢力との戦闘、イスラム過激派組織によるテロ、誘拐事件が発生しており、日本の外務省が提供している危険レベルでは、もっとも高いレベル4(退避勧告、渡航禁止)である。イエメン日本国大使館は、治安悪化のため2015年2月15日をもって一時閉館し、在サウジアラビア日本国大使館内に臨時事務所を設けている。
             イエメンと周辺国  (写真はGoogleMapら引用)
■ 「アデン製油所」(Aden Refinery Company)は、1952年に設立されたイエメン国営の製油所で、精製能力は12万バレル/日である。元々は石油メジャーの旧BPThe British Petroleum Companyによって設立され、運営されていたが、1978年にイエメン政府に所有権と支配権が引き渡された。現在、プロセス装置の操業は中断されている。

■ 「発災タンク」はディーゼル燃料用で容量7,000トンだったと報じられている。グーグルマップで調べてみると、固定屋根式タンクで直径約18mである。隣接している同じ大きさのタンクから推測すると、高さは直径と同じくらいであり、高さを18mと仮定すると、容量は4,500KL級となる。7,000トンを7,000KLと読み替え、直径約18mのタンクでは、高さは約27mとなり、細長い印象のタンクとなる。ありえない形状ではないが、直径約18m×高さ約18mの容量4,500KL級のタンクだったとみるのが妥当であろう。
            発災タンク(矢印)   写真はGoogleMapから引用)
■ 「火災したタンク」に関する報道情報はいろいろあり、発災したタンクは2基あるというのが、大半だった。しかし、発災したディーゼル燃料用タンクまわりに火災を起こした痕跡のあるタンクがない。航空写真によると、12日(土)に爆発したはずの2基目のタンク火災は、13日(日)には消えている。このことから、「内部液がタンク底部に近づいたとき、貯蔵タンクが爆発を起こした」という情報が妥当だと考える。

■ ディーゼル燃料用タンクの2回目の爆発は「薄層ボイルオーバー」ではないかと思われる。「ボイルオーバーの事例と最近の研究」(危険物研究所報告第117号)の中で「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象が起こる」という古積博士らの指摘に符号する。
 今回の事例では、タンク火災の時系列がはっきりしないが、第1回目の爆発を1月11日(金)午後7時とし、第2回目の爆発を1月12日(土)13時(昼過ぎ)とすれば、燃焼時間は18時間である。ディーゼル燃料用タンクの発災写真によると、屋根の一部が噴き飛んでいるので、「障害物あり全面火災」の様相を見せている。仮に液面降下速度(燃焼速度)を20cm/hとすると、18時間後の液面降下は3m60cmである。
 タンクの大きさ(高さ)や液面高さのはっきりしたデータはないが、発災時の液面高さを18mとすれば、残油の高さは14.4mで、液面高さを10mとすれば、残油の高さは6.4mで、液面高さを5mとすれば、残油の高さは1.4mである。これらから考えられることは、発災時の液面高さは意外に高くなかったのではないかということである。当初の液面高さを5mとすれば、直径約18mのタンクでは、1,270KLの油が入っていたことになる。

所 感
■ ディーゼル燃料(軽油)は爆発・火災を起こしにくい油であるが、このブログで紹介したものだけでも、つぎのような類似事例がある。
 今回、テロ攻撃という情報もあるが、過去の事例からいえば、石油について安易な取扱いをし、タンク内にディーゼル燃料だけでなく、廃ガソリンのような揮発性の高い油を混合した場合、何らかの引火源があれば容易に爆発・火災を引き起こす。
 
■ 今回のタンク火災では、補足の中で紹介した「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象(薄層ボイルオーバー)」が起こったのではないかと思われる。
 発災写真を見ていて気になったことは、消防活動に関係しているとは思えない人が火災タンクの近くで火災を見物していることである。危険範囲(退避距離、ハザード・ゾーン)を設定し、直接、消火活動に従事している消防士以外は現場から遠くにいるべきである。まして、ボイルオーバーの起こる可能性のあるディーゼル燃料(軽油)ではなおさらのことである。


備  考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Reuters.com,  Yemeni Refinery Fire Spreads to Second Storage Tank: Sources,  January 13, 2019
    ・Thenational.ae, Violent Explosion Shakes Yemen's Aden Refinery,  January 11, 2019
    ・English.alarabiya.net,  Violent Explosion Shakes Yemen’s Aden Refineries,Mmassive Fire Breaks out,  January 11, 2019
    ・Efe.com, Firefighters Battle to Extinguish Yemen Fire after Blast Rocks Key Refinery,  January 12, 2019
    ・Thebaghdadpost.com,  Explosion Sparks Fire at Aden Refinery in Yemen,  January 12, 2019
    ・Xinhuanet.com, 15 Injured in Fresh Explosion at Oil Refinery in Yemen's Aden,  January 13, 2019
    ・Tasnimnews.com, Refinery Fire in Yemen’s Aden Spreads to 2nd Storage Tank: Sources,  January 13, 2019
    ・Arabnews.com, Six Injured as Blaze Spreads after ‘Sabotage’ Blast at Aden Refinery,  January 13, 2019
    ・Debriefer.net, Yemen`s Aden Refinery Confirm Fire Decline, End of Gravity,  January 13, 2019
    ・English.almasirah.net, Fire Spreads in Aden Refinery Again,  January 13, 2019
    ・Middleeasteye.ne, Yemen Oil Refinery Fire Spreads to Second Storage Tank,  January 14, 2019
    ・Yemen-rw.org,  Huge Fire Breaks out in Yemen’s Aden Refineries,  January 11, 2019
    ・Thenational.ae , Firefighters Were Already Working to Contain a Blaze Which Broke out on Friday,  January 12, 2019
    ・Arabtradeunion.org , Yemen: The Injury of 15 Workers, Following The Explosion of One of The Aden’s Oil Refinery Tanks and The Union Calls for an Investigation,  January 14, 2019



後 記: 今回のタンク事故情報は量的には多かったのですが、何が真実(に近い)なのか訳がわからないほどいろいろな情報がありました。まず、イエメンが内戦中であり、反政府の武装組織によるテロ攻撃の情報が多くありました。私もてっきり砲撃かドローンによるものだと予断してしまいました。つぎに発災の経緯ですが、これまた、いろいろな情報が出ていて、一時は複数の説を併記しようかと思いました。しかし、発災写真を見ていくと、どの説もしっくりいきませんでした。もう一度、情報源を調べ直すと、発災タンクの2度目の爆発が同じタンクだという記事が出てきました。タンク事故情報としては不十分ですが、複数説は止めて真実と思われる説でまとめることとしました。
 ところで、イエメンの危険レベルはレベル4(退避勧告)なので、取材に制限があると思いますが、真偽は別として意外に多くの報道記事があるということに驚きました。アジアでは、中国の新華社が報道記事や写真を出しており、戦場記者や戦場カメラマンが行っているのでしょう。その背景には、最近の探鉱入札案件では、中国企業が進出しているといいます。

米国テキサス州で油タンクが爆発して堤内火災

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 今回は、2019年1月29日(火)、米国テキサス州リバティ郡のデイセッタにあるサラトガ・オイル社油井施設のタンク設備で起こったタンク爆発・火災事故を紹介します。
(写真bluebonnetnews.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)リバティ郡(Liberty County)のデイセッタ(Daisetta)にあるサラトガ・オイル社(Saratoga Oil Company)の油井施設である。
 サラトガ・オイル社は、家族経営の小規模な油井会社である。当該油井施設は1日当たり1~4バレル(0.15~0.6KL)ほど油を生産していた。

■ 発災があったのは、デイセッタの町の南にある郡道2018号線の近くにある油井施設のタンク設備である。
       テキサス州リバティ郡デイセッタ付近  (矢印が発災場所) (写真はGoogleMapから引用)
                デイセッタ南の発災場所 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月29日(火)午前11時頃、油井施設のタンク設備で爆発が起こった。2基ある油タンクの1基が火災となった。油タンクから空に向かって黒煙が立ち昇った。

■ 発災に伴い、リバティ郡消防署の消防隊が出動した。大きな火災になったため、近くのデイセッタ消防署、ハーディン消防署、リバティ消防署、バトソン消防署の応援が要請された。

■ 火災は2基目の油タンクへ延焼した。その後、火災は防油堤全域に広がった。この火災状況がドローンによる空撮映像としてインターネットのユーチューブで流された。(YouTube;「Drone video captures fire after oil tank explosion in Liberty County」

■ ハイウェイ770号線近くの郡道2018号線沿いで現場から1マイル(1.6km)内にいる住人には、消火活動をしている間、避難するよう求められた。事故に伴うケガ人は無かった。

■ 火災は午前11時40頃には消された。火災がおさまった後、タンクの形はほとんど無かった。

■ 消火されたので、住民の避難は解除された。

■ 油タンクを保有している所有者によると、300バレル(48KL)の油が焼失したという。 
(写真はClick2houston.comから引用)
(写真はIsssource.comから引用)
(写真はBluebonnetnews.comから引用)
(写真はBluebonnetnews.comから引用)
被 害
■ 油タンク2基が爆発・火災によって損壊した。このほか3基のタンクが焼損した。油が約48KL焼失した。  

■ 負傷者はいなかった。近くの住人には、消火活動をしている間、避難するよう求められた。

< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。

■ 油タンクを保有している所有者によると、 静電気による爆発の可能性が高いという。 

< 対 応 >
■ 事故の原因についてテキサス鉄道委員会(Texas Railroad Commission)が調査を始めた。

■ 施設の保有者は、「私たちは大量の油を焼失しました。ここから立ち直るまで1年はかかるでしょう。ガレキを片付けてきれいにするまで、油井は全部止めることになるでしょう。それから新しい貯蔵タンクを搬入することになります。試練の時間を過ごしそうです」と語った。
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
(写真はAbc13.comから引用)
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,870万人の州である。
 「リバティ郡」(Liberty County)は、テキサス州東部に位置し、人口約75,000人の郡である。リバティ郡の経済は主に農業と石油である。
 「デイセッタ」(Daisetta)は、リバティ郡の東部に位置し、人口約970人の町である。
           テキサス州リバティ郡の位置(赤枠)  (写真はGoogleMapから引用)
■ 爆発・火災を起こしたタンクの大きさは分かっていない。グーグルマップで調べると、発災場所のタンク設備には5基の固定屋根式タンクがある。うち3基は火災後、タンク形状が残っていないので、鋼製でなく、塩水用のグラスファイバー製ではないかと思われる。油タンク2基のうち1基は完全に座屈・損壊している。1基はタンク下部だけが残っている。いずれのタンクも直径は約5mである。グーグルマップでは、影の長さが違うので、高さを5~7mとすると、容量は98~130KLとなるので、100KL級のタンクとみられる。
 一方、発災写真を見ると、噴き飛んだ屋根を含むタンク上部が防油堤の外にころがっている。発災時の強烈な爆発をうかがわせるものである。この噴き飛んだタンク上部は下側が火を被った跡があり、堤内に残った下部タンクの上部ではないだろうか。座屈・損壊しているタンクが発災して内部液が堤内に漏れ出し、その火にあぶられて、タンク上部が噴き飛んだのではないだろうか。
           発災したタンク設備  (写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ この事故は油井用タンクの弱点を示す事例である。揮発性の高い原油を固定屋根式タンクに保有するので、爆発混合気によって爆発する可能性は高い。過去の事例でも、この種のタンクは落雷による火災事故が多い。今回の場合、タンク設備の保有者は静電気による爆発の可能性が高いと語っているが、タンク内外での火気工事以外の静電気などによる引火源で火災が生じることがある事例といえる。

■ ドローンによる発災映像を見ると、完全に堤内火災の様相を呈している。塩水と油がタンク外に出て堤内に一杯になり、浮いている油が燃えているという状況である。土を盛り上げただけの防油堤であるが、外に溢れ出すことは防いでいる。消火活動は行われていないが、消火泡を投入することによって防油堤から油が溢流するのを避けるためであろう。鎮火後の被災写真を見ると、消火泡が投入された痕跡があるが、これは火勢が衰えたあと、堤内から溢れるおそれが無くなってからのダメ押しの処置だと思われる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

 後 記: ブログをまとめていて感じることは、事故情報が少ない時期と多い時期があることです。今は多いですね。昨年暮れ当たりは少なかったのですが、1月に入ってから事故が多くなっています。世界的にみているので、偶然ではありますが、不思議に思います。
 
 ところで、本ブログとしては異質な「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」(2013年7月)を投稿していますが、このヤーネルヒル事故をもとにして制作され、昨年、劇場公開された映画「オンリー・ザ・ブレイブ」(勇者のみ)がDVDとなっているのを知りました。早速、レンタルDVDを借りてきて見ました。森林火事の専門消防士(ホットショット)のことは知っていましたが、日常の生活や訓練のことは初めて聞く話で、興味深く見ることができました。(「面白かった」と書こうとしましたが、隊員20名中、19名が亡くなるという痛ましい物語なので、面白いの表現はまずいですね)




山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷

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 今回は、2019年2月6日(水)、山形県上山市にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマスガス化発電所で、燃料用の水素ガスタンクが爆発して、周辺に被害を与え、市民1名が負傷した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山形県上山市(かみのやま市)金谷の工業団地にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマス発電所である。この発電所は木のチップを使う木質バイオマスガス化発電で、2018年12月に完成し、今年3月末に発電事業を始める予定だった

■ 事故があったのは、バイオマスガス化発電所にある燃料用の水素タンクである。水素タンクは燃料となるガスを貯めるために設置されており、水素や一酸化炭素が貯蔵されていた。
                   上山市の工業団地周辺 (矢印は事故のあった建設前の場所)
図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月6日(水)午後4時10分頃、バイオマスガス化発電所で爆発が起こった。

■ 近所の住民から「爆発音がした」との110番の通報を受け、消防署が出動した。

■ バイオマス発電所の設備の試運転を始めて10分ほどして、水素タンクが爆発した。水素タンクの屋根部(直径約3m、厚さ約1cmの円形の金属板)が飛び、南西に100mほど離れた民家の2階部分を突き破った。家の中にいた30代の女性が、衝撃で落ちてきたものに頭をぶつけて首にけがをした。
被害を受けた住宅と飛んできたタンク屋根
(写真は左;Kahoku.co.jp、右;Sakuranbo.co.jpから引用)
■ 現場近くで働く女性は、「屋根に大きな物が落ちたような衝撃音があり、直下型地震のように地面も揺れた」と話した。爆風によって付近の住宅や事業所で、窓ガラスが割れたりする被害が出た。

■ 試運転を担っていたのは木質バイオマス発電施設などの設計・施工を請負った「テスナエナジー」で、事故当日は午後4時ごろから、試運転に向けた作業を進めていた。

■ 事故を起こしたバイオマス発電施設は「ガス化式」と呼ばれるもので、チップにした木材を熱して水素などのガスを抽出し、それを燃料にエンジンを回して発電する。爆発したタンクは燃料を貯めるためのもので、当時は水素のほか一酸化炭素やメタンなどのガスも充満していたとみられている。山形バイオマスエネルギーによると、当時、タンクには、燃料に使う水素などのガスが入っていて、試運転のため発電施設のエンジンの電源を入れたところ、突然、タンクの屋根が吹き飛んだという。

■ 2月8日(金)、上山市消防本部によると、爆発事故で、壁の一部や窓ガラスが破損するなどの建物被害が、発電施設内の建屋などを含め、14棟に上ることが分かった。被害は、施設を中心に半径約250mの範囲に及んでいた。女性がケガをした住宅を含め、民家や小屋で被害を受けたのは5棟で、工場などの事業所は9棟だった。金属製の屋根が直撃した住宅までの距離は約130mだった。最も施設から離れていたのは、南西約250m地点にある住宅脇の小屋で、窓ガラスが割れていたという。工場などではドアやシャッターのゆがみも確認された。

被 害
■ 人的被害として、市民1名が負傷した。

■ 発電所の燃料用水素タンクが損壊した。生産設備への影響はわかっていない。

■ 施設を中心に半径約250mの範囲にある建屋で、14棟に被害が出た。有害物質の漏洩は無かったと思われ、環境への影響はない。 
(写真はYomiuri.co.jpから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。タンク内の水素ガスに引火したことやタンクの圧力が急激に上昇したことなどが挙げられている。

■ 発電装置の稼働スイッチを入れて数秒で、水素タンク内の爆発が起きていたことが分かった。スイッチを入れた際、何らかの原因でタンク内の水素ガスに引火し、爆発が起きたとみられている。

< 対 応 >
■ 山形バイオマスエネルギーは、「ケガをされた方や周囲の皆様にご迷惑をおかけし、おわび申し上げたい。原因を調べるとともに、誠意をもって対応していきたい」とコメントしている。

■ 2月7日(木)、警察と消防署が朝から現場検証をして、詳しい状況を調べている。
 現場検証の状況はインターネットのユーチューブで流されている。(YouTube「稼働後数秒で爆発・上山」

■ 2月7日(木)、発電施設を担当する経済産業省関東東北産業保安監督部東北支部の職員が立入り、現場の状況を確認した。

■ 2月8日(金)、警察は午前9時半から事故の原因を調べるための実況見分を再開し、当時作業をしていた東京都の施工業者などから話を聞いた。警察は施設の構造や運用方法に問題があったと見て、業務上過失致傷の疑いで捜査を続けている。
(写真はKahoku.co.jpから引用)
(写真はFnn.jp から引用)
補 足
■ 「上山市」(かみのやま市)は、山形県の南東部にあり、人口約3万人の市である。上山市は、江戸時代には上山藩の城下町や羽州街道の宿場町として栄え、現在は上山温泉で知られる。

■ 「木質バイオマス発電」は、燃料となる木材を燃やしたり、熱することでタービンやエンジンを動かして発電している。大きく分けて2つの方式がある。
 ● 「直接燃焼方式」 ;木材を燃やして水を温め、発生した蒸気でタービンを回し、発電する。
 ● 「ガス化方式」;木材から発生する可燃性ガスを利用し、ガスエンジンを動かし、発電する
 近年、バイオマス発電が注目を浴びているが、発電方式の選択を先行しているドイツと比較すると、図のようになる。 日本では、ORC(蒸気タービンと同じくランキンサイクルによる発電方式の一種で、蒸気タービンとは異なり、熱媒として水ではなく、シリコンオイルなどの有機媒体を利用して発電を行う)の技術がなく、1,000kW前後の中小規模帯での選択肢が無かった。今回、事故があった施設の最大出力は約2,000kW弱で、ガス化方式を広げたものである。ガス化方式は直接燃焼方式と比べ、熱排水の処理の必要がなく、小規模施設でも発電効率が高いなどの利点がある。
 山形県で稼働中の木質バイオマス発電施設は7か所で、うちガス化方式が3か所、直接燃焼方式が4か所となっており、現在、稼働中の施設は約1,000~50,000kWの範囲にある。
          バイオマス発電技術の選択の幅  (図はNpobin.netから引用)

■ 「山形バイオマスエネルギー」は、間伐材や果樹の剪定枝をチップ化し、燃焼させる木質バイオマス発電事業をしている。 同社は、2015年に山形県の建設業・産業廃棄物処理業の㈱荒正と不動産業の㈱ヤマコーなどがバイオマス発電の新会社として設立された。事故のあった発電設備は2018年12月に完成したもので、ガス化方式を採用している。投資総額は約13億円で、年4億円程度の売電収入を見込んでいる。

■  「テスナエナジー」は、2014年に木質バイオマスのガス化プラント事業を専業として設立された会社である。テスナプロセスバイオマス発電システムと特徴である炭化炉・ガス改質炉は図のとおりである。

テスナプロセスバイオマス発電システム
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
テスナプロセスバイオマス発電システムの炭化炉とガス改質炉
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)
所 感
■ 今回の事故は、水素タンク(生成ガスホルダー)に爆発混合気が形成されたものだと思う。試運転時に生じる要因としては、つぎのようなケースがあるだろう。
 ● 試運転前に系内の空気を不活性ガス(窒素など)で置換していなかった。このため、空気の残った水素タンクに生成ガスが入り、爆発混合気が形成した。
 ● 試運転時に生成ガスライン系(ガス改質炉以降)に空気が入り、生成ガスとともに空気が水素タンクに入った。このとき、爆発範囲が4~75%と広い水素がタンク内で爆発混合気を形成した。
 引火源は、流動による静電気またはガスエンジンの逆火ではないだろうか。事故の背景として、試運転を行ったメンバーが、このような非定常運転について十分な知識と経験がなかったのではないかと感じる。   

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 木質バイオマス発電といっても、新規のプロセス装置と同様の設備である。定常運転時のマニュアルはあっただろうが、今回のような運転始めの際のマニュアルに問題があったのではないだろうか。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com,  試運転バイオマス発電設備が爆発 「地面揺れた」 山形,  February  06,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp, “ふた”はなぜ吹き飛んだ?バイオマス発電施設爆発事故 山形・上山市,  February  07,  2019
    ・Yomiuri.co.jp,  上山の発電所で爆発 破片で民家損傷 1人けが,  February  07,  2019
    ・Sakuranbo.co.jp,  “初めての試運転”で爆発・バイオマス発電施設事故 東京の施工業者などから聴取 ,  February  08,  2019
    ・Nhk.or.jp,  水素ガスなどに引火して爆発か,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山の工場で爆発 民家に金属片直撃、女性けが,  February  07,  2019
    ・Kahoku.co.jp, 上山プラント爆発>タンク内の水素ガス 引火した可能性,  February  07,  2019
    ・Jp.reuters.com,  バイオマスの施設で爆発、山形,  February  06,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 上山のバイオマス施設で爆発 民家に被害、女性軽傷,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 稼働後数秒で爆発・上山 発電施設、県警は過失傷害容疑も視野,  February  07,  2019
    ・Yamagata-np.jp, 木質バイオマス発電、県内に7カ所 上山の施設はガス化方式,  February  08,  2019
    Yamagata-np.jp, 半径250メートル、14棟が被害 上山・発電施設爆発事故,  February  09,  2019


後 記: 石油貯蔵タンクとはちょっと違ったタンクですが、大きく報道された事故でしたので、ブログを投稿することとしました。今回、情報を調べていて感じたことは、バイオマス技術が随分進展しているということです。特に、山形県では熱心であるように感じます。山形県酒田市に最大発電能力50,000kWのバイオマス発電所(サミット酒田パワー)が20188月に完成し、商業運転をしているほか、木質バイオマス発電施設は7か所あります。今回、事故のあったバイオマス発電施設も従来だと選択肢のなかった2,000kWクラスのガス化発電です。しかし、ドイツのようにOCR方式を導入すべきだという意見があります。また、経済産業省の補助事業の場合、2月中に試運転を終えて完了届を出さなければ補助金が貰えないので、締切が最優先になり、安全性がおろそかになる懸念があるという意見もあります。今回の施設が補助事業かどうかわかりませんが、県や企業の頑張りは見える反面、発電に関する国や経済産業省の基本思想が見えないということがわかりました。



米国ノースダコタ州で塩水処理施設のタンクが爆発・火災

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 今回は、2019年1月17日(木)、米国ノースダコタ州マッケンジー郡ワットフォード・シティにあるホワイト・オウル・エナジー・サービス社の油井用塩水処理施設でタンクが爆発・火災を起こした事例を紹介します。
(写真はRoundupweb.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ノースダコタ州(North Dakota)マッケンジー郡(McKenzie County)ワットフォード・シティ(Watford City)にあるホワイト・オウル・エナジー・サービス社(White Owl Energy Services)の塩水処理施設である。施設は水圧破砕方式の油井で使用される塩水を処理する。

■ 発災があったのは、ワットフォード・シティの東のハイウェイ23号線から400mほど離れたところにある施設の塩水タンクである。タンク内で、水、油、ガスをそれぞれ分離する。
           ワットフォード・シティ周辺 (矢印がホワイト・オウル・エナジー・サービス社の施設)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年1月17日(木)午後12時15分頃、塩水処理施設の塩水タンクが爆発し、火災となった。

■ 発災に伴い、ワットフォード・シティ消防署の消防隊が出動した。

■ 火災の炎は150~200フィート(45~60m)の高さに上り、約100ヤード(90m)離れたところでも火災からの熱を感じた。

■ 爆発時、現場にひとりの男性がいたが、ケガは無かった。

■ 爆発現場は工業地区にあり、危険に曝される住宅は無かった。しかし、警察は近くにある建家にいた人を安全のため避難させた。また、周辺の通行は制限された。

■ 火災はほかの塩水タンクに延焼した。午後になっても、タンクは燃え続けていた。しかし、消防署とホワイト・オウル・エナジー・サービス社は、タンク群の広い範囲に被害が及ぶ可能性がなく、近くに危険性がないこと、そして火が消えた後のクリーンアップを容易にするため、火災を燃え尽きさせる決定をした。

■ 発災から3時間を経たのち、タンクの1基が爆発して空中高く舞い上がった。この映像はユーチューブで流れている。タンクの大きさは300~400バレル(48~64KL)とみられる。 YouTubeWatford City white owl disposal explosion

■ その日の夜になって火は消えたとみられる。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
(写真はBismarcktribune.comから引用)
(写真はHazmatnation.comから引用)
(写真はRoundupweb.comから引用)
被 害 
■ 塩水処理施設のタンク10基が焼損した。このほかに被害を受けたタンク・機器があると思われる。

■ 負傷者は出なかった。発災地区に近い建家にいた人が待機させられた。

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は、消防署と警察署によって調査中である。

< 対 応 >
■ 対応には、ワットフォールド・シティ警察署、マッケンジー郡救急隊、マッケンジー郡保安官事務所も出動した。
(写真はFacebook.comから引用)
(写真はKvrr.comから引用)
(写真はFacebook.comから引用)
補 足 
■ 「ノースダコタ州」(North Dakota)は、米国の北部に位置し、カナダに接する州で、人口約76万人である。州都はビスマルク市である。ノースダコタ州はシェールオイルの生産による石油ブームが続いており、石油生産量はテキサス州につぐ全米第2位になっている。
 「マッケンジー郡」(McKenzie County)は、ノースダコタ州の西部に位置し、人口約12,700人の郡である。
 「ワットフォード・シティ」(Watford City)は、マッケンジー郡の中央部にあり、人口6,500人の郡庁所在地である。2010年は人口約1,700人だったが、急速に増加している。この地域は、季節ごとの気温差が大きく、夏は湿気が高くて暑く、冬は非常に寒い。事故のあった1月は最も寒く、日の平均気温が-12℃で、平均最低気温は-17℃である。
          ノースダコタ州の位置(図はGoogleMapから引用)
■ 「ホワイト・オウル・エナジー・サービス社」(White Owl Energy Services)は、2013年に設立された環境保全会社で、ノースダコタ州を中心にで油田廃棄物の処理、回収、および廃棄の業務のほか、油田の塩水処理を行っている。ノースダコタ州では、クラス2の塩水処理施設を4箇所保有しており、ワットフォード・シティの施設はその一つである。塩水処理施設の一般的なプロセスフローの例は図のとおりである。
塩水処理施設の一般的なプロセスフローの例
(図はBrincowater.wordpress.comから引用)
■ 事故のあった施設には、固定式屋根タンクが10基あり、同じ大きさだと思われる。噴き飛んだタンクの大きさは300400バレル(4864KL)と報じられている。グーグルマップで調べると、直径約3.8mであり、高さを7mとすれば、容量は79KLである。10基のタンク群の中で、最初に発災したタンクがどれかは分からない。このほか、隣接して、10基のタンクがある。こちらのタンク群は大きさが異なっており、水、油、ガスを分離する設備はこれらのタンクではないだろうか。
 発災したタンク群は、タンクローリーから塩水を受入れ専用のタンクではないかと思う。タンクが同じ大きさであり、防油堤の規模が小さいからである。被災写真を見ると、火災初期に比べて被災エリアが広がっている。タンクが近接しており、タンクと防油堤の距離も短く、防油堤の機能が十分に発揮されなかったと思われる。一般的に、塩水タンクは鋼製でなく、グラスファイバー製が使用される。しかし、火炎にあぶられて噴き飛んだタンクは鋼製と思われる。材質が混在していたか、あるいは鋼製で統一されていたのかもしれない。
ワイト・オウル・エナジー・サービス社ワットフォード・シティの施設
(写真はGoogleMapから引用)
■ タンクが噴き飛ぶという事例は少なくないが、映像で撮られた例はあまりない。このブログでは、つぎの事例がある。

所 感
■ 火災の原因は調査中であるが、この種のタンク火災で多い落雷ではなさそうである。
 2つのタンク群(10基×2系列)があるが、1系列は油、水、ガスを分離する塩水処理設備で、もう1系列がタンクローリーから塩水の専用受入れタンクではないかと思う。塩水とはいえ、天然ガス系の軽質油分の混入した水を処理するプロセス装置のような設備であり、運転面の何らかの弱点が潜んでいるのではないかと感じる。

■ 消火戦略には、「積極的戦略」、「防御的戦略」、「不介入戦略」の3つがある。今回の消防活動状況の詳細は分からないが、積極的戦略や防御的戦略がとられず、不介入戦略がとられた。介入することによるリスクが大きく、許容できないケースというより、成り行きで不介入戦略になったように思う。積極的戦略をとるために、泡薬剤保有量の確保、2次防油堤の構築、隣接タンクの冷却などの措置がとられた様子はない。

■ 塩水タンクという名称から混入している油は少ないと判断し、広範囲に被害が及ぶ可能性がなく、近くに危険性がないこと、そして火が消えた後のクリーンアップを容易にするため、火災を燃え尽きさせる決定(不介入戦略)をしたものと思われる。しかし、火災エリアが拡大し、タンクが噴き飛ぶという想定はしていなかっただろう。被災写真を見ると、隣接する10基のタンク群も黒く煤がついており、辛うじて延焼を免れている。タンク内には、思いのほか油が入っていたという印象である。最近の「米国テキサス州で油タンクが爆発して堤内火災」(2019年1月)の例をみると、塩水タンクといえども、防油堤は余裕をもって構築すべきと感じる事例である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Kxnet.com, Explosion at Disposal Site near Watford City,  January  17,  2019
    ・Willistonherald.com,  Tank Explodes at Saltwater Disposal Site in Watford City,  January  17,  2019
    ・Keyzradio.com, Watford City – Tank Explodes at Saltwater Disposal Site,  January  17,  2019
    ・Roundupweb.com, Tank Explodes at White Owl Energy Services Salt Water Disposal Site In Watford City, ND,  January  16,  2019
    ・Kvrr.com, Nobody Was Hurt After Oil Field Saltwater Disposal Site Exploded Near Watford City,  January  17,  2019
    ・Hazmatnation.com, No Injuries after Saltwater Disposal Site Experiences Tank Explosion,  January  17,  2019
    ・Oilfield1.com, Oilfield Explosion Sends Oil Tank Flying Hundreds Feet in Air,  January  18,  2019
    ・Inforum.com,  WATCH: Explosion Reported at Watford City Salt Water Disposal Site,  January  17,  2019



後 記: 今回、発災があった場所は、急速に人口増加した町なので、消防署の設備も整備されていない様子です。また、報道体制も整っていないと感じる事例でした。それだけでなく、いまから6年前に起こった「米国ノースダコタ州の石油施設で爆発、タンク13基が被災」(2013年11月)の事故の所感で、「最近、米国では、油井関連施設のタンク事故が目立つ。今回も天然ガス井の塩水処理施設におけるタンク爆発・火災事故である。これまでは油・ガス井に付帯する貯蔵タンクの事故で、運転管理に問題があると思っていたが、今回は塩水処理を専門とする会社における事故であり、問題は根深いように思う。米国内で課題化されるのではないだろうか。対応策がとられなければ、事故が再発するのは必至だと感じる」と記載しましたが、まさに同じ州で再発した事例です。米国の石油繁栄の裏で起こっている出来事だと感じます。



大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡

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 今回は、2019年2月13日(水)、大阪府和泉市にあるカーペット製造会社;プレステージ社の工場において、接着用の薬品タンクの上部にいた清掃会社のふたりの男性が転落し、死亡するという事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、大阪府和泉市伯太(はかた)町二丁目にあるカーペット製造会社のプレステージ社の工場である。

■ 事故があった設備は、工場にある接着用の薬品タンクである。タンクは直径約2.6m×高さ約5.4mで、上部に直径約50cmのマンホールがある。
事故のあった和泉市伯太町のプレステージ社工場(矢印)の周辺
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月13日(水)午前8時50分頃、プレステージ社の工場にあるタンクにふたりの男性が転落したという119番通報があった。

■ 通報を受けた和泉市消防本部の消防隊が現場に出動した。

■ ふたりは、尼崎市にある清掃会社;共栄工業の経営者75歳と従業員70歳の男性である。転落の通報は、別の従業員からあった。別な従業員によると、タンクの上にいたふたりの姿が見えなくなり、様子を見に行ってふたりともマンホールから転落したらしいという。

■ 事故当時、タンクの周辺で有毒の硫化水素が検出された。消防隊は、タンク内でふたりが倒れているのを見つけたが、硫化水素の発生で救助は難航した。消防隊は約4時間後の午後1時頃に救出したが、意識不明の状態で病院へ搬送した。

■ タンクは、委託業者によって廃棄に向けた作業をしていた。タンク内には、カーペットの表と裏を貼り合わせるのに使われる接着用の薬品が入っていたが、半年以上使われておらず、清掃会社の従業員らは薬品を抜き取って内部を清掃する予定だった。

■ 警察署は、一時、硫化水素が発生していたため、住民が現場に近づかずかないよう注意した。半径50m以内の周辺住民には、 自宅の窓を閉めて屋内に待機するよう呼び掛けた。近くには、保育園や小学校、高校などがあったが、屋外での活動を取りやめるなどした。規制は午後3時頃に解除された。

■ 事故当時、近くで働く30代の女性は「少し温泉のようなにおいがした」と話し、会社のエアコンや換気扇を切って外気が入らないようにしたという。別な男性は「こんなことは今までなかったので驚いたし、怖いです。危険な物質を取扱うところはしっかりしてほしい」と話していた。

■ タンクに転落したふたりの男性は病院で死亡が確認された。司法解剖の結果、死因は特定できなかったが、硫化水素による中毒死とみられている。 
事故のあったタンク(矢印)
(写真はAsahi.comから引用)
(写真はFnn.jpから引用)
被 害
■ 人的被害として死者2名が発生した。

■ 一時、硫化水素が発生していたため、半径50m以内の周辺住民は自宅の窓を閉めて屋内に待機した。

■ 物的被害や生産・出荷への影響は不明。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、硫化水素の発生した可能性のあるタンクに防護策をとらずにマンホールを開放したためとみられる。

■ タンクに転落したふたりは硫化水素による中毒死とみられる。 
(硫化水素は無色のガスで刺激臭があり、高濃度で吸うと意識混濁や呼吸マヒの症状が現れる)

■ 接着用薬品が長期間放置されることで腐敗し、硫化水素が発生したとみられる。

< 対 応 >
■ 警察で事故の原因を調べている。
(写真はSankei.comから引用)
補 足
■ 「和泉市」は、大阪府の南部中央の泉北地域に位置し、人口約185,000人の市である。
                大阪府和泉市の周辺 (マークが事故のあった現場)
(写真はGoogleMapから引用)
■ 「プレステージ社」は、和泉市でカーペット(敷物)の製造を営んでいる会社であるが、会社概要は不詳である。大阪の敷物会社を中心として設立された「日本カーペット工業組合」の正会員(30社)の1社である。
(日本カーペット工業組合は、カーペットの需要振興、業界基盤の強化などに取り組んでいる工業組合である)
(写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
■ 日本カーペット工業組合によれば、カーペットの素材による分類および製造方法による分類は図表のとおりである。 「プレステージ社」が、この中でどの素材や製造方法を得意とするカーペット会社か不詳である。
 事故のあった「タンクの内容物」について、メディアによっていろいろな言葉が使われており、接着剤、のり、薬品、ゴムの素材などである。分かりやすいように配慮されたものであろうが、製造方法に熟知している人を除けば、イメージが伝わらない。カーペットの貼り付けに使用される接着剤と言っても、どのような形態でタンクに入っているか分からない。接着剤の中に転落したという情報に、インターネットではベタベタしたものの中に落ちたと理解している人が多いように感じた。正しいのがどれかは分からないが、本ブログでは「接着用の薬品タンク」を妥当な表現として採用した。写真を見ると、タンクは攪拌機の付いた攪拌槽と思われる。
カーペットの素材による分類
(表はCarpet.or.jpから引用)
カーペットの製造方法による分類
(図はCarpet.or.jpから引用)
タフテッド・カーペットの断面
(図はRakuten.ne.jp から引用)
■ カーペットに使用される接着の例は、図のようにパイル糸を植え付けた基布と裏布をラテックス(ゴム)のような接着剤で貼り付けるものがある。今回の事故では、このような接着用の薬品がタンクの中に半年以上使われていなかったので、この間に硫化水素が発生したものだと思われる。「硫化水素」は、空気より重く、無色であるため、発生したことに気づきにくい。発生条件は特殊なものではなく、比較的発生しやすい物質である。汚泥や液体を処理・貯留する施設で、硫酸塩が存在し、酸素が十分に供給されない環境の浄化槽やピット・タンクにおいて発生する。

■ 亡くなった人が75歳と70歳という高齢だったということがインターネットでの話題のひとつになっているが、建設業界の高齢化はかなり深刻である。高年齢者雇用安定法の改正によって65歳までの高年齢者雇用確保措置の導入が義務化されたが、現場では、若手技術者が少なく、高齢者に頼らなければ回らない状況で、70歳以上の人も働いている。実際、建設現場では、高齢化の職人が多く、施工技術者の人材も不足している。建設会社の中には、65歳以上の人に高所の足場作業はやらせないような制限を設けているところもあるが、法令的には、制限の規定はない。高齢者の労働災害が増えていることも事実であり、高齢者への配慮も必要である。70歳以上の人に仕事を任せると、安全管理上で心配なこともあるが、元気な人もおり、多くの現場経験を持ち、丁寧な仕事も得意で、他業者との段取や交渉もうまくやっていくという意見をもつ経営者もいる。

■ 最近、このブログで紹介したタンク内の硫化水素または酸素欠乏による人身事故は、つぎのような事例がある。
  この事例では、最初に入った人が倒れたのを見て、助けようと入っていったふたりも
  倒れ、3名が亡くなった。


所 感
■ 今回の事故では、タンク上部のマンホールから転落したといわれているが、空気より重い硫化水素がタンク一杯に溜まっていたと思われる。タンク上部のマンホールを開放して、内部がどのような状況になっているのかを確認した際に、ひとりが転落し、もうひとりが転落した人を確認しようとして硫化水素で気を失って落下したものと思われる。
 昨年起こった「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」(2018年6月)の事例と異なり、換気が十分でない高さ(深さ)約5mのタンク内へ降りるという酸素欠乏危険作業をとったのではなく、タンク内部の状況(液レベルなど)を事前に確認しようとした行動であろう。ただ、最初に倒れた人を助けようとして二人目がとった行動は何らかの躊躇(ちゅうちょ)があれば、人身災害は回避されていたのではないかと心が痛い。

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要で、この3つのいずれがが適切に行われていれば、事故は回避できる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 事故経緯の詳細は分からないので、上記3つの事項のどこに課題があったかいえないが、あえて指摘すれば、つぎのとおりである。
 ● タンク内の接着用の薬品が半年以上使われなかった例は過去に無かっただろう。
  このため、過去の経験をもとにした通常の作業手順がとられたと思われる。
 ● しかし、過去の条件と異なり、換気の十分でない高さ(深さ)約5mのタンクを覗く
  こと自体が酸素欠乏危険作業の可能性のあることを認識しておく必要があっただろう。
 ● また、タンク保有者側も、半年以上使われていないことによる硫化水素発生の可能性
  について請負者に伝えておれば、違った対応がとられたのではないかと感じる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Mainichi.jp,   大阪・和泉 工場タンクに転落の2人が死亡 搬送先の病院で確認,  February  13,  2019
    ・Mainichi.jp,   工場のタンク内に転落の2人死亡 接着剤、半年以上使われず 硫化水素発生,  February   13,  2019
    ・Mainichi.jp,   工場タンク内に男性2人転落」 硫化水素が発生 大阪・和泉市,  February   13,  2019
    ・Sankei.com,   工場タンクに男性2人転落 硫化水素検出、大阪,  February  13,  2019
    ・Mainichi.jp,    工場タンク転落死、2人の身元判明 硫化水素中毒死の可能性,  February  13,  2019
    ・Nikkei.com,  工場タンクに2人転落、硫化水素発生か 大阪 ,  February  13,  2019
    ・Jiji.com, 繊維工場で硫化水素発生=タンク転落、作業員2人死亡-大阪 ,  February   13,  2019
    ・Asahi.com, 工場タンクに作業員2人転落か 付近で硫化水素発生 ,  February  13,  2019
    ・Yomiuri.co.jp, 作業員2人タンクに転落 大阪の工場…硫化水素が発生 住民ら屋内避難 ,  February  13,  2019
    ・This.kiji.is, 工場タンクに2人転落、意識不明 ,  February  13,  2019
    ・Nhk.or.jp, 薬品タンクに転落 硫化水素検出 ,  February 13,  2019
    ・Tv-osaka.co.jp, 工場タンクに転落2人死亡 硫化水素を検出,  February  13,  2019
    ・Nnn.co.jp, 工場タンクに2人転落、意識不明 大阪、硫化水素検出,  February  13,  2019
    ・Mainichi.jp, 工場タンク転落死、2人の身元判明 硫化水素中毒死の可能性,  February  14,  2019
    ・Jp.reuters.com , 工場でタンク転落の男性2人死亡,  February  14,  2019
    ・Ktv.jp, 有毒な硫化水素が発生した工場での死亡事故、タンクの接着剤は約半年間使われず,  February  14,  2019



後 記: 今回の事故の情報を見ていると、日本全国の報道機関が伝えています。しかし、少しづつ内容に差があり、見比べながらつなぎ合わせて、やっと事実らしいものが見えてきました。それとほとんどは事故のあった日だけの報道で、1社だけが続報を出していました。タンク内容物の表現がいろいろありましたが、タンクの大きさ(高さ)にしても最初に消防が報じた8mのままのところもあり、のちに訂正されましたが、報じなかったところもありました。また、亡くなったふたりを従業員だと多くが報じていますが、ひとりは経営していた人(兼作業者)だったようです。とかく、発災の第一報は事故があったということが分かれば良く、内容は続報で事実(らしい)を報告していけば良いと言われていますが、まさにそのとおりの事例です。
 大阪ぐらい大きな都市だと、(多分)伝えるべきニュースが多く、発災の第一報だけの記事が多かったですね。この点、地方における事故の方が、地元のメディアによる続報が多く、事実に近づいていると感じます。



新しいアプローチによる石油貯蔵タンク施設のリスク評価

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 今回は、2016年10月に開催された第66回カナダ・ケミカル・エンジニア会議で発表されたジェネシス・オイル&ガス・コンサルタント社によるA Novel Approach for Risk Assessment of Large Oil Storage Tanks(大規模石油貯蔵タンクのリスク・アセスメントに関する新しいアプローチ)の資料(パワーポイント)を紹介します。
 < 概 要 >
 この資料(パワーポイント)は、つぎのような事項についてまとめたものである。
 ● はじめに
 ● 貯蔵タンク施設におけるプロセス・ハザードおよびそれ以外のハザード
 ● リスク計算法
 ● 許容基準(個別リスクおよび環境の耐用性)
 ● リスク検討の確率変数
 ● 発生頻度の評価
 ● ハザード結果に対する評価
 ● リスクの計算・・・ドミノ効果
 ● まとめ

< はじめに >
■ 石油貯蔵タンク施設のためのリスク評価は、プロセス・ハザード分析やそれ以外のハザード分析をよく吟味するが必要がある。

■ 今日まで、火災、爆発、毒性ガス、竜巻、落雷、地震、封じ込めの失敗(防油堤の機能喪失など)、山火事などのハザードから生じるいろいろなリスクに対処できるような広範囲の検討は行われておらず、また工業的なガイドラインや技術出版物も出されていない。 

■ 産業界では、プロセスの安全性、先進的な構造解析、正確性や信頼性に関するいろいろな知見を組み合わせて対処するようなことが無いために、いろいろなハザードから環境に影響するような重大な設備損傷のリスクを見逃している。

■ ひいては、多重事故や壊滅的な事故が同時に始まったり、あるいは互いの事象が極く近いところで起こる場合、ドミノ効果(連鎖)を含めた分析を考える必要がある。

■ まとめとして言えることは、広く全体を見た検討を行うことによって、石油貯蔵タンク施設においてドミノ効果に至るようなリスクを見極めることができる。

< プロセス・ハザードおよびそれ以外のハザードの潜在性 >
■ 潜在するハザードにはつぎの項目を含む。
 ● 火災(プール火災、タンク全面火災、噴出火災、フラッシュ・ファイヤー、ボイルオーバー)
 ● 蒸気雲爆発(VCE)
 ● 毒性ガス漏洩
 ● 防油堤の損傷やオーバーフローによる封じ込め機能の喪失
 ● 地震
 ● 竜巻、ハリケーン
 ● テロ攻撃など

<タンク施設における潜在的火災シナリオ >
■ 最も激しい事故は全面火災とボイルオーバーである。全面火災は、タンク屋根が浮力を失い、タンク内の液面が露出して火災になったものである。
■ タンク事故の中で起こりうる火災シナリオはつぎのようなものである。
 ● リムシール火災
 ● 屋根上に油流出した屋根火災
 ● 全面火災
 ● 堤内火災
 ● ポンツーン内での爆発
 ● ボイルオーバー

■ 図で示すように、屋根の上で始まった比較的小規模の火災がタンクの全面火災に至ることがある。タンクの全面火災を消火できなかった場合、ボイルオーバーのような激しい火災シナリオにつながる可能性があるし、隣接するタンクを全面火災に至らせる可能性がある。

< 過去の火災ハザード >
< 爆 発 >
■ 蒸気雲爆発は、タンク地区で地上式貯蔵タンクから燃料や可燃性液体が流出した結果として起こることがある。流出を誘発する要因としては、つぎのようなものがある。
 ● 過充填
 ● 経年劣化や腐食による漏洩
 ● 配管の破損による堤内への漏洩
 ● 貯蔵タンク内に保管されている可燃性液体から生じた爆発混合気の形成

< 過去の爆発例 >
< 地震によるハザード >
■ 地震ハザードは貯蔵タンクにとって自然界から受ける最も厳しい脅威のひとつである。地震は火災や爆発といった事故の拡大という最悪の事態に至る可能性がある。
< 地震時における貯蔵タンクの挙動 >
■ “象の足” のような座屈が生じることがある。
< 毒性ガスの煙 >
バンスフィールド火災事故
■ 燃焼している石油からは煙が出るほか、毒性ガスが形成される。
 ● この事象が拡大する結果、人の健康には窒息や火傷の問題が生じる。
 ● 煙は風によって火災から遠く離れた場所に流れていき、広い地域にハザードを引き起こす。
 ● 無風や濃霧の状態の場合、煙は地面近くにとどまるため、消防活動の支障になって人の命を危険にさらす。
 
■ 煙と毒性ガスによるハザードは、つぎのような事項によって変わる。
 ● 煙の分散速度
 ● 煙の高さ
 ● 毒性物質の地上濃度
 ● 気象状況

ウクライナのヴァスィリキーウ
■ 煙には、二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、多環芳香族炭化水素(PAHs)、揮発性有機化合物(VOCs)のような毒性汚染物質を含んでいることがある。煙に二酸化硫黄(SO2)が含まれていて2km離れたところで感じられれば、人の健康に潜在的な懸念がある。
■ 住宅地が有毒な硫化水素(H2S)に曝されれば、ただちに人命にかかわる状況になる。

< 竜巻の影響 >
■ 竜巻は、局地的で、短時間の激しい嵐である。激しい風速の竜巻がタンクにぶつかり、タンク構造物に集中的な圧力がかかる。

■ 竜巻の風で飛ばされてきた物の破片が、貯蔵タンクに損傷を加えることもある。
竜巻フジタ・スケール
■  竜巻による被災例
 ● 1970年テキサス州で発生したラブロック竜巻の通過後、天然ガス貯蔵タンクがつぶれて裂けていた。
   注記; この貯蔵タンクに関する竜巻の影響について参照できる文書の記録はない。しかし、被災写真によると、油が流出していたことが分かる。2基のタンク(多分、空だった)はひっくり返っていた。立っていたタンクは破片の打撃によって損傷していたものとみられる。
1970年テキサス州でラブロック竜巻の通過後の天然ガス貯蔵タンク
 ● 20135月オクラホマ州ムーアで発生した竜巻の通過後、油井用タンクがブライアウッドまで吹き飛ばされ、損傷した。
20135月オクラホマ州ムーアで竜巻の通過後の油井用タンク
  ● 1987年エドモントンで発生した竜巻(スケールF4)の通過後、空の石油タンクが飛ばされた。
1987年エドモントンの竜巻(F4)の通過後、飛ばされた空の石油タンク
< 封じ込め機能の喪失 >
■ 火災、爆発、地震、油流出、タンク過充填、消防活動の注水の入れ過ぎの要因によって生じるタンク破損が封じ込めの機能喪失につながることがある。

■ 封じ込めの機能が喪失すれば、住民や環境を害したり、資産の損失やクリーンアップ費用などの負担を課し、会社の評価を下げることとなる。
< 貯蔵タンク施設における潜在的なハザード:封じ込め喪失 >
■ 封じ込めが喪失する理由は、つぎのとおりである。
 ● 火災、爆発、地震によるタンク破損
 ● 豪雨による洪水
 ● 消防活動
< テロ攻撃 >
■ 2014年リビアのエスサイダーで起こったタンク火災は、テロ攻撃によるものだった。
リビア・ドーン(イスラム教徒とミスラタン民兵の同盟)から発射されたロケットによってエスサイダーにある大型貯蔵タンクが火災となった。
■ 20165月、イラクの首都バグダッドの北20kmにあるタジで起こったタンク破壊は、テロ攻撃によるものだった。
バグダット近くの天然ガス工場にイスラミック・ステート(IS)武装組織によるテロ攻撃があり、少なくとも14名が死亡した。
< リスク評価のフロー図 >

< リスク算出 >
■ 貯蔵タンク施設および周辺におけるハザードによるリスクは、望ましくない事象そのもののリスクと、望ましくない事象の拡大(すなわち、ドミノ効果)のすべてのリスクを足し合わせたものである。

< 個別のリスク許容基準ーカナダ主要産業事故協議会(MIACC) >
■ 土地の使用方法によって、年間の個々のリスク基準は異なる。

< 環境リスクの許容度(区分定義)ー封じ込めの機能喪失 >

< 環境リスクの許容基準 > 
注; ALARPAs Low as Reasonably Practicable)とは、リスクは合理的に実行可能な限り、
できるだけ低くしなければならないという欧米で提起されている安全の考え方
< まとめ >
■ 貯蔵タンク施設に関するリスクの検討では、次のようなプロセス・ハザードとそれ以外のハザードを考慮する必要がある。
 ● 火災(プール火災、タンク面火災、噴出火災、フラッシュ・ファイヤー、ボイルオーバー)
 ● 蒸気雲爆発(VCE)
 ● 毒性の煙、毒性ガス
 ● 2次封じ込め設備におけるオーバーフローまたは破損の結果による封じ込め機能の喪失
 ● 地震、竜巻、ハリケーン、テロ攻撃など

■ ドミノ効果の要因になる石油貯蔵タンク施設の内外の危険性を決めるには、広範囲で全体的な検討が必要である。

■ この資料で示したアプローチは産業界のギャップを埋め、プロセス安全、新しい解析方法、信頼性に関する知識を結びつけるとともに、プロセス・ハザードやそれ以外のハザードから個別のリスク、環境へのリスク、施設の損害リスクを正確で信頼性のある推測ができるようになる。

■ リスクの検討でかなり低い結果に至るような場合でも、ドミノ効果を考慮した場合、全体のリスク評価に重大な影響を与えることがある。

補 足                                   
■  「ジェネシス・オイル&ガス・コンサルタント社」(Genesis Oil and Gas Consultants Ltd)は、1988年に設立したエネルギー関連企業で、エネルギー業界にエンジニアリング・サービスを提供している。英国のロンドンを中心にして、米国ヒューストンなど世界の14都市に活動拠点をもつ。従業員は1,000名以上で、11か国で事業展開している。

■ 「アリ・サリ博士」(Ali Sari, Ph.D.)は、ジェネシス・ヒューストンの構造および定量分析マネージャー(Structural and Quantitative Analysis Manager)である。本資料は、2016年10月に第66回カナダ・ケミカル・エンジニア会議(66th Canadian Chemical Engineering Conference)で発表されたパワーポイントの資料である。作成者はアリ・サリ博士のほか、Amir Arablouei, Ph.D.、Umid Azimov, P.E.、Watsamon Sahasakkul、Sepehr Dara, Ph.D.である。

■ 「ALARP」(As Low as Reasonably Practicable)とは、リスクは合理的に実行可能な限り、できるだけ 低くしなければならないという欧米で提起されている安全の考え方である。ALARPを含め、日本と欧米との安全に関する考え方は、「日本と欧米との安全管理について」(中村昌允)を参照。この中で向殿氏がまとめた両者の違いを表に示す。

■ この資料が発表された2016年は、その前の10年ほどの間に世界で貯蔵タンクの大災害が起こり、その教訓を活かさなければならないとする機運が高まっていた。このブログで取り上げた次の3つの事例はいずれもドミノ効果によって大きな損害を被っている。
 そして、この教訓を活かすため、2012年5月に行われた第11回国際燃焼・エネルギー利用会議でBAM (ドイツ連邦材料試験研究所)がつぎのような発表を行っている。

■ この資料は、石油貯蔵タンク施設に関して新しいアプローチによるリスク評価を提起している。このブログで「リスク評価」を取り上げたのは、つぎのとおりである。
 ● 「事故は避けられない?」 (2015年12月)
 日本では、従来、「災害は努力をすれば、二度と起こらないようにできる」という考え方のもとに、欧米のリスク評価のような考え方は受入れられなかったが、東日本大震災以降、変化してきた。例えば、総務省消防庁からつぎのような指針が提起された。
 ● 「石油コンビナートの防災アセスメント指針」(消防庁特殊災害室、2013年3月、169頁)
 この指針にもとづき、各都道府県で検討され、例えば、神奈川県ではつぎのような調査報告書が出されている。
 ● 「神奈川県石油コンビナート等防災アセスメント調査報告書」(神奈川県石油コンビナート等防災対策検討会、2015年3月、520頁)

所 感
■ 本資料はパワーポイントでまとめられ、主要項目だけで詳細事項が書かれていないので、分かりずらいところはあるが、リスク評価を考える上で興味深い。この新しいアプローチの特徴は、つぎのような事項であろう。
 ● 貯蔵タンクの単独火災のような事故だけを考えるのではなく、実際に起こった英国バンスフィールド火災、カリビアン石油火災、インド・ジャイプール火災のような複数タンク事故を前提に考える。
 ● テロ攻撃、竜巻、地震など過去の事例を網羅的に検討する。
 ● 環境へ大きな影響のある封じ込め設備(防油堤)の機能喪失に至るような事故を検討する。
 ● ドミノ効果が起こりうるという前提でリスクを検討する。

■ 一方、補足で紹介したように「日本と欧米との安全に対する考え方の違い」がある。日本では、「災害は努力をすれば、二度と起こらないようにできる」というのに対して、欧米では「災害は努力をしても、技術レベルに応じて必ず起きる」という違いがある。この思考の差異は、リスク評価を行う場合、意外に大きい。事故が起こった場合、日本では「絶対、二度と起こらないようにします」と答えるが、欧米では「事故が起こるのをできる限り最小にする」と答える。日本的な考え方が根底にあるようでは、リスク評価は成り立たない。リスク評価を行う場合、まず日本的な「事故を二度と起こらないようにする」という思考方法を捨てて取り組むことが大事だと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Cheminst.ca , A Novel Approach for Risk Assessment of Large Oil Storage Tanks, Ali Sari, Ph.D., P.E., Amir Arablouei, Ph.D., Umid Azimov, P.E., Watsamon Sahasakkul, Sepehr Dara, Ph.D. ,  Genesis Oil and Gas Consultants Ltd, October 16-19, 2016



後 記: 今回は「新しいアプローチによる石油貯蔵タンク施設のリスク評価」を紹介しましたが、リスク評価を行うには、「日本と欧米との安全に対する考え方の違い」を抜きには語れないと思い、補足で述べました。日本の考え方は、本人が自覚しているか、していないか関係なく、綿々と受け継がれています。
 東日本大震災の東京電力福島原子力発電所の事故責任について裁判が行われていますが、この中で日本の安全に関する考え方が如実に表れていると思います。ざっくりというと、この事故で事業者は「二度と起こらないようにします」と答える一方、「津波の高さは想定外だった」ので責任はないといいます。住民や環境が受容できなくても関係ないということになります。欧米の「災害は努力をしても、技術レベルに応じて必ず起きる」という考え方であれば、想定のレベルに関係なく、住民や環境が許容できない重大事故が起これば、そのような管理システムにしてしまったことに問題(責任)があるということです。本来、原子力業界はリスク評価に長(た)けていると思っていましたが、想定外(?)でした。日本でリスク評価を行うには、かなり頭の発想を変える必要がありますね。

ソロモン諸島の世界遺産海域近くで貨物船が座礁、油流出

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 今回は、2019年2月5日(火)、南太平洋のソロモン諸島のレンネル島カンガバ湾のリーフ(礁)で、貨物船ソロモン・トレーダーがボーキサイトを積載したまま座礁し、油が流出した事故を紹介します。座礁した場所の近くは、世界で最大の隆起サンゴ礁の島としてユネスコの世界遺産に登録されています。
(写真はWhc.unesco.orgから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、香港のキング・トレーダー社(King Trader)の運航する貨物船「ソロモン・トレーダー」(Solomon Trader)である。
 貨物船は1995年に建造され、全長225mで、現在は香港のサウス・エキスプレス社(South Express Ltd)所有で、インドネシアの鉱業会社ビンタン・マイニング・ソロモン・アイランズ社(Bintan Mining Solomon Islands)がチャーターして、アルミニウム原材料のボーキサイトを輸送していた。

■ 発災があったのは、南太平洋のソロモン諸島のレンネル島カンガバ湾(ラギュ湾)である。
 レンネル島はソロモン諸島の首都ホニアラから南方に約240km離れた島であり、イースト・レンネルは世界で最大の隆起サンゴ礁の島として1998年にユネスコの世界遺産に登録されている。
             ソロモン諸島のレンネル島  (写真はWhc.unesco.orgから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月5日(火)、レンネル島カンガバ湾のリーフ(礁)で貨物船ソロモン・トレーダーがボーキサイトを積載したまま座礁した。

■ 貨物船は、サイクロン「オマ」の接近中にボーキサイトの積込みを試みていたときに、風に流されて動けなくなった。さらに、サイクロン・オマが来襲して状況は悪化し、貨物船は礁の奥に押し込まれ、船体側部とエンジンルームがリーフで損傷した。

■ 船から油が漏れ出し始めたのは、2月15日(金)からだとみられる。

■ 座礁時には、燃料用の重油が700トン以上あったが、流出した油量は70~100トンとみられている。残る約600トンの重油が流出すれば、海洋汚染が一層深刻化する。

■ 2月25日(月)~26日(火)の航空監視画像では、座礁して3週間が経っても貨物船の周囲にオイルフェンスは展張されておらず、船の状況は事故のあった2月5日(火)からほとんど進んでいない。
            油流出の226日の状況   (写真はAfpbb.comから引用)
■ ガンガバ湾周辺には、300人ほどの住民がいるが、新鮮な魚を手に入れることができずにいて、いつまで続くかわからない状況である。住民は、「漁師は汚れた海で魚をとることをやめた」といい、魚が海面に浮かんでいるのを見たという。また、「油が流出して以来、海から採った魚を食べていない」という。「子どもたちには、海岸の砂が油で覆われているので、泳ぎにいかないよう言っている」と語った。

■ 事故から1か月が経っているが、今もリーフに乗り上げたままになっている。オーストラリア海上保安当局が上空から行った調査では、同船から大量の重油が流出し、約5〜6kmの範囲に拡散して海岸に漂着し始めていることを確認した。

■ 流出は世界遺産のすぐ外側で発生し、世界遺産に影響が及ぶ可能性があるほか、地元住民の生活も影響を受け始めている。3月8日(金)の地元ラジオ放送では、すでに環境への影響は出始めており、ソロモン諸島の災害管理当局が死んだ魚やカニが海岸に漂着し、ニワトリや鳥類にも影響が出ていると語った。

■ 3月11日(月)、レンネル島にいる1,500人の住民は油流出の影響を感じている。油の蒸気によって汚染されている恐れがあるため、タンクに集めた雨水を飲むことは避けるように言われている。また、住民が頭痛などの症状を訴えているという。

被 害
■ 貨物船から重油が70~100トン海へ流出し、海域へ環境被害が出た。世界遺産のサンゴ礁の海域への影響は不明である。
 (海洋生態学者は、油流出事故は長期にわたってサンゴなどの生態系に重大な被害をもたらす恐れがあるといい、サンゴが油と直接接触すると、サンゴのポリプを死滅させるか、繁殖や成長に影響を及ぼす恐れがあるという)
(写真はAfpbb.comから引用)
■ 流出油が海岸に漂着し、自然環境が汚染され、海域に住む魚やカニが死んだほか、ニワトリや鳥類にも影響が出ている。

■ 住民は、新鮮な魚を食することができないほか、頭痛などの症状を訴えている。

■ 貨物船が損傷し、船体に割れが発生している。

< 事故の原因 >
■ 事故要因は、貨物船がサイクロンが接近する中で無理な積出しを試みて、風に流され、リーフに座礁したことにある。
 (座礁した原因について、当時乗組員が持ち場を離れていたという報道や酒に酔っていたという噂の報道があったが、突風によって流されたものとみられている)

■ 貨物船の油流出の原因ははっきりしていないが、座礁してから約10日後に油が漏れ始めたということから、座礁した貨物船をタグボートで無理に曳航しようとして、船体がリーフで破損し、エンジンルーム内の燃料油が漏れたものとみられる。

< 対 応 >
■ ユネスコは、2月20日(水)、イースト・レンネルは1998年に世界遺産リストに登録され、世界最大の隆起サンゴ礁だと声明を出し、油濁除去の必要性を訴えた。

■ 鉱業会社ビンタン・マイニング・ソロモン・アイランズ社は、貨物船をチャーターしているだけで、油流出に対する法的責任を放棄し、事故に対する責任がないと主張した。ビンタン社は、「我々は船をチャーターしただけで、事故発生以来、船主と引揚げ専門家を調整したり支援したりしてきた。我々ができるのは今後もそこまでである」という。実際、ビンタン社は座礁している船のいる湾に入港してボーキサイトの積出し作業を続けており、油をかき混ぜ、問題を悪化させている。

■ ソロモン諸島政府は、同船の引き揚げと環境被害を食い止める責任は、同船を所有する香港企業のサウス・エキスプレス社と保険会社の韓国のKP&I社(Korea Protection and Indemnity Club)にあると指摘した。

■ サウス・エキスプレス社は、タグボートを使って貨物船を動かそうとしたが、船をリーフの奥へ押しやってしまい、状況を悪化させた。また、天候が悪く、貨物船へ近づくことが困難だったり、時にはまったく無理な状況になっているといい、水中の外部検査をしていないことに非難が出ている。

■ ソロモン諸島政府は2月中旬にオーストラリアに援助を求めた。

■ ソロモン諸島と密接な関係にあるオーストラリア政府はソロモン諸島と協力して、環境被害を食い止める対策に当たっている。オーストラリアは当初、流出監視のために専門家を派遣したが、3月3日(日)には外相が努力を強化し、貴重種の生物が住むレンネル島への被害を封じ込めるための機器、船舶および専門家を派遣すると述べた。

■ ユネスコは、3月4日(月)、つぎのような声明を出した。
 「現在、油流出の影響を評価し、緩和することが優先事項となっていますが、長期的には地域社会のために、そして地域社会によって持続可能な生計を立てることが重要です。木の伐採とボーキサイト採掘が、地域社会にとって数少ない収入源の一つになっていることは事実です。このような中で、世界遺産を保全し、ポリネシア社会の伝統や文化的価値を活かして利益を得ることができるように中小企業を成長させ、エコツーリズムを推進していくことが将来に続く鍵です。2018年、世界遺産委員会は国際社会に対し、ソロモン諸島の地域社会が持続可能な生活をできるように支援するよう要請しています」

■ サウス・エキスプレス社とKP&I社の両社は、3月6日(水)に謝罪の声明を発表し、貨物船に残った600トンの重油を別の船に移すなどの対応を予定していると発表した。

■ 3月上旬の状況は、貨物船が左舷に大きく傾いているので、船内に残っている燃料油をバラストタンクに移して、バランスを取り戻して、船体を浮上させようとする作業を行っている。

■ KP&I社は、3月6日(水)時点で、オーストラリアやニュージーランド、バヌアツ、米国、シンガポールや欧州から特殊器材を持ち込んだり、専門家を派遣しているという。

■ 貨物船の所属国籍である香港海洋局は、環境問題として世界的な懸念となっている油流出の封じ込めについて貨物船の所有者と連絡をとっているという。

■ 3月8日(金)、貨物船では、破損した燃料タンクから油を健全なコンテナーにポンプで移送する作業を始めた。 3月11日(月)、移送が終え、座礁した貨物船の破損タンクからの燃料漏洩は止まった。残りの燃料油は、バージ船のタンクにポンプで移送されることになっている。

■ 3月11日(月)、オーストラリア海事安全局は、ブリスベンから運んできたオイルフェンスを設置し、海に流出した油のクリーンアップを始めた。

■ 3月14日(木)、 KP&I社は、油流出が予想以上に深刻かもしれないといい、「当初の推定では70トンの油が海に出たと考えていたが、現在、流出した量はもっと多いと思われ、対応が進むにつれてはっきりするだろう」と話している。

■ サウス・エキスプレス社は、以前、船内に残った600トンの油を安全なタンクに移すと言っていたが、3月14日(木)、残った燃料油の半分ー約230トンーをバヌアツから運搬してきたタンク・バージ船に移したと発表した。このあと数日以内に燃料油の移送を完了したいという。しかし、天候や機器の修理のために中断が発生する可能性がある。

■ 貨物船のボーキサイトの積み荷を移すことは、引揚げ専門会社がソロモン・トレーダーの甲板上にクレーンを載せることができない限り、困難な状況になっている。
(写真はDfat.gov.au から引用)
(写真はYoutube(ABC) から引用)
(写真はTheguardian.comから引用
(写真はSbs.co,.auから引用)
(写真はAfpbb.comから引用)
補 足
■ 「ソロモン諸島」(Solomon Islands)は、南太平洋にあり、島々を国土とする人口約54万人の国家で、イギリス連邦王国のひとつである。オーストラリアの北東、パプアニューギニアの東に位置し、北にナウル、東にツバル、南東にフィジー、南にバヌアツがある。首都はガナルカナル島にあるホニアラである。
 「レンネル島」(Rennell Island )は、ソロモン諸島のレンネル・バローナ州に属し、人口約1,500人の島である。レンネル島は、主に隆起したサンゴの石灰岩から成っており、イースト・レンネルと呼ばれている東側にはテンガノ湖があり、1998年にユネスコの世界遺産に登録されている。
       ソロモン諸島とまわりの国々(写真はGoogleMapから引用)
ソロモン・トレーダー 写真はVesselfinder.comから引用)
■ 「ソロモン・トレーダー」(Solomon Trader)は、香港のサウス・エキスプレス社(South Express Ltd)が所有し、香港企業キング・トレーダー社(King Trader)が運航管理する貨物船で、全長224m×幅32m、73,592DWTである。1994年に韓国の現代重工業(ヒュンダイ)が建造したもので、船舶ではよくあるように転売されており、過去には、オーシャン・アンバー(2017年/香港)、ノーブル・ユニオン(2011年/香港)、ヌエバ・ユニオン(2007年)、ドリック・チャリオット(2005年)と呼ばれていた。 

レンネル島のボーキサイト鉱山
(写真はSbs.com.auから引用)
■ 貨物船ソロモン・トレーダーの所有者の「サウス・エキスプレス社」、チャーターしたインドネシアの鉱業会社である「ビンタン・マイニング・ソロモン・アイランズ社」(Bintan Mining Solomon Islands)、および船舶の運航管理会社の「キング・トレーダー社」について調べたが、詳細は分からなかった。
 なお、レンネル島におけるボーキサイド採掘は1970年頃から始められ、一時閉鎖されていたが、現在は再開されている。 レンネル島の鉱山は写真を参照。

所 感
■ 2018年3月にあった「インドネシアのボルネオ島で海底パイプラインから油流出、死者5名」の事故では、海上流出油時の緊急事態対応が不適切で、後手後手の対応になってしまったが、今回の対応はそれよりも悪い。貨物船の事故対応の悪さが目立つが、事故はつぎのような経緯で進んだものと思われる。
 ● 2月5日、サイクロンが近づく中、貨物船が無理な積出しを行い、風に流され、リーフに座礁した。
 ● 座礁の事故責任について船のチャーター会社、船の運航管理者、船の保険会社の中でもめ、対応を主管する部署が明確にならなかったと思われる。
 ● 座礁した船を曳航しようと、タグボートで無理に引き出そうとしたため、逆に貨物船船体を傷つけた。
 ● 貨物船から油が流出してしまった。(2月15日) この事故責任について船の所有者を含めた4社でもめ、流出油汚濁防止の主管部署がすぐには決まらなかったと思われる。
 ● 流出油汚濁防止は船の所有者と船の保険会社で処置することになったが、現場で主導する組織が弱体だったので、対応が進まなかった。
 ● ソロモン諸島政府には、このような事故対応を現場で主導できる部署はなく、オーストラリアに支援を求めた。オーストラリアは監視などの支援を行っていたが、流出油汚濁防止の対応を行う体制でなかった。
 ● 2月下旬から3月上旬にかけ、世界のメデイアが世界遺産海域での油流出事故を報じ始めた。
 ● 船の所有者と船の保険会社の油移送の体制が整い、また、オーストラリアの油拡散防止の体制が整ってきた。(3月10日過ぎ)

■ 今回の事例で、船舶の安全管理体制に大きな弱点があることが分かったことである。
 ● 船舶は、船の所有者、船の運航管理者、船のチャータ会社、船の保険会社と多層な組織が関連しており、安全管理体制が曖昧で、事故が起こったときの対応が進まない。
 ● 船舶には、船の所属国籍があるが、所属国の安全管理体制への関わり方は曖昧で、事故時にはほとんど有効に機能しない。
 ● 船舶が遠い国で事故を起こした場合、現場対応の体制が無く、初動対応はとれない。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Abc.net.au, Environmental Disaster Looms at Heritage-Listed Solomon Islands Site after Oil Spill,  February  27,  2019
    ・Sbs.com.au , An environmental disaster looms at heritage-listed Solomon Islands site after 60 tonnes of oil spilled into waters,  February  27,  2019
    ・Maritime-executive.com, Solomon Trader's Bunker Spill Continues Without Containment,  February  28,  2019
    ・Time.com,  A Grounded Ship Is Leaking Oil Into the Pacific Near a UNESCO World Heritage Site,  March 01,  2019
    ・Pina.com.fj , 80 tonnes oil spill affects people’s livelihood in Solomon Islands,  March  03,  2019 
    ・Whc.unesco.org ,  Concern for Oil Spill near East Rennell, Solomon Islands, in Central Pacific,  March  04,  2019
    ・Afpbb.com, 世界遺産海域で石油流出、座礁した貨物船所有の香港企業が謝罪,  March  07,  2019
    ・News.goo.ne.jp,  座礁船から重油流出、世界遺産脅かす ソロモン諸島(CNN),  March  08,  2019
    ・Nikkaibo.or.jp,  深刻な油濁被害が進むソロモン諸島,  March  06,  2019
    ・Nytimes.com,  Oil Spill Threatens a Treasured Coral Atoll in the South Pacific,  March  06,  2019
    ・Hazmatnation.com , Oil Spill Threatens UNESCO Heritage Site in Pacific,  March  04,  2019
    ・Npr.org,  Oil Spill In Solomon Islands Threatens World Heritage Site,  March  06,  2019
    ・Express.co.uk,  World Heritage Site AT RISK after MAJOR Oil Spill by Pacific Coral Reef - 'Deep Concern‘,  March  04, 2019
    ・Theguardian.com,  Alarm over Failure to Deal with Solomon Islands Oil Spill Threat,  March  01,  2019
    ・Theguardian.com,  Ship Owner Apologises for ‘Totally Unacceptable' Oil Spill in Solomon Islands,  March  06,  2019
    ・Smithsonianmag.com, Month-Long Oil Spill in the Solomon Islands Threatens World’s Largest Coral Reef Atoll,  March  11,  2019
    ・Business.financialpost.com, Grounded Ship Leaks 80 Tons of Oil near UNESCO World Heritage Site in Solomon Islands,  March  06,  2019
    ・Sbs.com.au,  Second Time Unlucky for Solomon Islands Oil Spill Bulk Carrier,  March  07,  2019
    ・Hellenicshippingnews.com , Solomon Islands Oil Spill Worse than First Thought, Say Owners of Hong Kong-Flagged Tanker, as Three-mile-long Slick Threatens Unesco World Heritage Site,  March  15,  2019
    ・Vesseltracker.com,  SALVORS SUCCEED IN CONTAINING SOLOMON TRADER SPILL,  March  11,  2019
    ・Vesseltracker.com, DAMAGED TANK PUMPED OUT,  March  11,  2019 
    ・Vesseltracker.com,  OIL SPILL WORSE THAN EXPECTED,  March  14,  2019
    ・Newsforkids.ne, Oil Spill Threatens Solomon Islands,  March  09,  2019



 後 記: 今回の事故情報を調べ始めて最初に感じたことは、なぜ発災から1か月も放置されていたかということです。2月下旬から流出事故が報じられるようになり、3月上旬になって世界のメデイアが世界遺産の海域での油濁事故を取り上げるようになりました。この時点では、発災時の経緯がはっきりしていませんでした。遠い国のソロモン諸島の事故ですから、現場に行って確認している訳ではないので、仕方ないことですが。2月の状況を把握することを諦めかけていたとき、ひとつだけ現地を訪問した記事が出てきました。この中で油流出は2月15日にあったことが掲載されていました。これで事故後の対応遅れの経緯について合点がいきました。

 船舶の事故といえば、昨年10月下旬に地元山口県の周防大島で貨物船が橋に衝突した事故がありました。貨物船は船の上部クレーンが倒れるくらいの衝撃を受けていますが、そのまま広島まで航行しています。海上保安庁の指摘が無ければ、さらに先へ航行したでしょう。貨物船は周防大島大橋に敷設されていた水道管を壊し、1か月余、島(住民約15,000人)は断水になり、山口県では、連日、給水や生活の不便さのニュースが流れました。現在、復旧にかかった金額より少ない補償額の提示がドイツの保険会社からあり、交渉している段階です。この事故で船舶について疑念があったのですが、今回の事故を見て船舶の安全管理体制がひどい状況であることを痛感しました。


米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災

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  今回は、 2019年3月17日(日)、米国テキサス州ハリス郡ディア・パーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった13基の貯蔵タンクの火災事故を紹介します。火災は6日間にわたり、大気汚染や海上汚濁の問題が続く最悪の事故になっています。
(写真はMedia.graytvinc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)ディア・パーク市(Deer Park)にあるインターコンチネンタル・ターミナル社(Intercontinental Terminals Company)のタンク施設である。インターコンチネンタル・ターミナル社は日本の三井物産が所有する施設である。

■ 発災は、ヒューストン(Houston)都市圏にあるターミナル施設のタンク設備で起こった。ターミナル施設には合計242基のタンクがあり、石油化学製品の油やガス、燃料油、バンカー油、各種蒸留油を貯蔵しており、総容量は1,300万バレル(207万KL)である。
テキサス州ハリス郡ディア・パーク周辺
(写真はGoogleMapから引用)
                         火災のあったタンク地区   (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年3月17日(日)午前10時20分頃、容量80,000バレル(12,700KL)のTank80-8(ナフサ)で火災が起こった。ナフサ・タンク内には90%の油が入っていた。

■ 周辺地区には空気中に濃い黒煙が漂った。地方自治体などは煙に毒性はなく、問題ないといっている。しかし、住民の中には、この発表を懐疑的に受け取った人もいる。孫のいる住民は、「子どもには外に出ないように言っている」と語った。

■ 火災が起こったとき、インターコンチネンタル・ターミナルの現場には約30名の従業員がいたが、けが人は出なかった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、火災への対応を行った。午後3時頃、火災が拡大しないよう、防御的消火戦略をとった。しかし、午後7時に、火災は2基目のTank80-5(キシレン)へ延焼した。
 消火用水の水圧が一時低下し、消防活動を妨げ、さらに2基のタンクが爆発的に燃焼して、火災は夜通し激しく燃えた。その後、水圧の低下は復旧した。

■ パサデナ・フリーウェイ225号線がベルトウェイ8号線からインディペンデンス・パークウェイまでの間で交通規制が行われ、上下線の両方が閉鎖された。また、ディア・パーク市は住民のために避難所を開設した。避難指示は出されていないが、住民には室内に留まることが推奨された。

■ 3月17日(日)の発災直後から大気の監視が行われ、健康に影響が出る状態では無かった。しかし、避難して帰ってきた住民のひとりは、近所の屋根の上に煙が立ち昇るのを見たが、目と喉にかゆみを感じたという。

■ ハリス郡は、3月17日(日)午後にインターコンチネンタル・ターミナル社に対して地方自治体として必要な物資を支援する旨申し出た。同社は発災のあった日に地方自治体の支援を求めなかったという。

■ 3月18日(月)午前1時30分時点、火災は隣接していた5基のタンクへ拡大した。新しく火災になったタンクの内液はガソリン用のブレンド油と潤滑油のベースオイルだった。消防活動はインターコンチネンタル・ターミナル社の消防隊が第一線で作業を行ったおり、泡を用いて火災を制御し、さらに火災が広がらないよう、防御的消火戦略がとられた。

■ 3月18日(月)午前5時30分時点で、タンク火災は8基に広がった。爆発する危険性は少ないが、インターコンチネンタル・ターミナル社の消防隊は、チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(Channel Industries Mutual Aid;CIMA、チャンネル産業協同組合)の支援を受け、泡消防車と高所泡放水車を用いて火災を制御し、さらなる火災の拡大がないよう消防活動が続けられた。CIMAは、ヒューストン圏内の石油精製・石油化学業界において消防業務および危険物取扱いを専門とする非営利団体である。

■ 3月18日(月)午前6時、ディア・パーク市は発災現場の近くにある学校の休校を決めた。

■ ヒューストンには、9つの製油所があり、1日当たり230万バレルの原油を処理しており、これは米国国内の12%を占める。この火災による製油所や港の出荷に影響は出ていない。

■ 3月18日(月)の早朝に近くの住民に対して避難勧告が出ていたが、その日のうちに解除された。しかし、屋内に留まるよう推奨された。テキサス環境保全委員会は、月曜昼の時点で、ただちに健康被害にかかわる汚染物質は出ていないと発表した。高度での排出量を監視するため、特別な航空機が飛ばされた。

■ 3月18日(月)午前10時時点で、火災になったTank80-8(ナフサ)の内液を減らすために、ポンプで別なタンクへの移送を始めた。また、火災のタンクは7基になったが、1基は空のタンクである。この時点で、火災を封じ込めることができず、あと2日間燃え続けるという予測であった。燃えている6基のタンクは同じ防油堤内にあり、この防油堤には計15基の貯蔵タンクが設置されている。消防隊は、これ以上火災が広がらないように消防活動を続けた。

■ 3月18日(月)大気排出物試験によって、施設から6マイル(9.6km)離れた場所で揮発性有機化合物が存在することが分かった。その濃度レベルは危険域を下回っているという。住民は屋内に留まり、ドアと窓を閉め、空調は止めるように推奨された。

■ 3月18日(月)午後3時時点で、消防隊が直面している火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-8(ナフサ)、Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基である。

■ 3月18日(月)の午後、火災から発生した煙は4,000フィート(1,200m)の高さに昇った。空気は比較的乾燥して澄んだ状態だったので、地上での汚染粒子は消散した形になった。しかし、ハリス郡当局は、空気が冷えて重くなるにつれて、煙は一晩で約400フィート(120m)の高さに落ちてくる可能性があるとみている。これは住民の健康に影響を与える恐れがあるという。

■ 3月18日(月)夜、インターコンチネンタル・ターミナル社から委託を受けた環境計測専門会社CTEHから測定場所や風向などとともに大気測定データが公表された。健康被害のある危険なレベルには無かった。

■ 3月18日(月)、現場に消火水を供給していた消防艇の水ポンプ2台が故障し、午後4時から10時までの6時間、水源が途切れたため、火炎が強まった。

■ 3月18日(月)夜、追加の泡薬剤が手配され、3月19日(火)午前10時に到着した。

■ 3月19日(火)早朝、インターコンチネンタル・ターミナル社から派遣要請されていたタンク火災の経験豊富な消防士15名が現場に到着した。派遣されたのはルイジアナ州の専門消防士のチームで、大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送してきた。

■ 3月19日(火)午前10時時点の火災のタンクは計8基だった。従来のTank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基に加え、ほかにTank80-9とTank80-12の空タンクも火に包まれた。このうち、空のTank80-9(空タンク)とTank80-11(潤滑油ベースオイル)は火災の熱で崩壊した。 早朝にTank80-14とTank80-15(いずれも熱分解ガソリン)の2基が火災という情報があったが、当時、火は出ていなかった。

■ 3月19日(火)午後3時45分時点で火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-4(潤滑油ブレンドオイル)、 Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-7(熱分解ガソリン)、Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ブレンドオイル)の8基で、火に包まれているのがTank80-9とTank80-12の空タンクである。なお、同じ防油堤内にあるTank80-1(潤滑油ベースオイル)とTank80-10(熱分解ガソリン)は火災を免れている。

■ 消火活動に参加しているチャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(CIMA)は、3月19日(火)に防御的戦略から積極的戦略へ移行し、Tank80-7(熱分解ガソリン)とTank80-8(ナフサ)に攻撃を開始した。CIMAは、火災がタンクの配置されている施設の区画外に広がるとは思っていないと語った。

■ 3月19日(火)、はっきりと火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)の4基だった。

■ 消防隊は、10,000~20,000ガロン/分(37,800~75,700 L/min)の消火泡をタンク施設へ放出した。タンク周辺から流れ出てくる油や消火泡は高さ6フィート(1.8m)の防油堤内に封じ込めようとした。しかし、油と水の一部が現場から出て、近くの水路と港に流出した。このため、漏れ出た液を回収するため、オイルフェンスが展張された。。

■ 3月19日(火)時点で大気の環境監視はテキサス環境保全委員会、米国環境保護庁、ハリス郡、インターコンチネンタル・ターミナル社の4つの組織がそれぞれ行っていた。モニタリング結果では、空気に毒性物質は無く、住民の健康に危険な状態ではないという。
                              黒煙の流れの足跡319日)     (写真はTwitter.comから引用)
■ 3月19日(火)夜、新たにTank80-14(熱分解ガソリン)が火災になった。熱分解ガソリンはエチレンとプロピレン製造時の副産物で芳香族の高いナフサ留分である。午後9時45分時点での火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-14(熱分解ガソリン)の4基だった。以前に燃えていたタンクの消火ができたため、燃えているタンクへ集中して泡薬剤による泡放射が可能となった。

■ 3月20日(水)午前3時頃、すべてのタンク火災が消えた。しかし、現場では、蒸気と煙が目でわかるくらいに立ち昇っており、再引火の可能性があるため、消防隊は泡と水による冷却作業を続けた。

■ 発災状況の動画が各メディアなどから流されている。主なユーチューブの動画を紹介する。
 ● 「 ITC Fire Deer Park: 7 tanks onfire」 (ABC13Houston、2019/3/18)
 ● 「LIVE:ITC FIRE UPDATE」 (ABC13Houston、2019/3/19)
 ● 「Raw video: ITC fire reignites inDeer Park」 (KHOU11、2019/3/20)
 ● 「WATCH LIVE: ITC Deer Park tanks onfire again」(KHOU11、2019/3/22)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はNbcdfw.comから引用)
(写真はNbcdfw.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はAbc.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)

(写真はYoutube.comから引用)
(写真はFox10phoenix.comから引用)
(写真はFiredirect.net.jpgから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
                        大容量と思われる泡放射     (写真はYoutube.comから引用)
被 害
■ 13基の貯蔵タンクが火災で焼損した。内液の石油が焼失(量は不詳)したほか、防油堤や配管が損傷した。発災時や消防活動によるけが人は無かった。

■ ベンゼンなどの大気放出で1,000名以上の住民に健康被害が出た。 

■ 油や消火泡が港湾(水路)に流出し、海水の水質汚濁が出た。油まみれの鳥魚やカメの死体が浮かんだりした。

< 事故の原因 >
■ 事故の詳細要因は調査中である。

Tank80-7(ナフサ)と配管マニホールド付近
(写真はGoogleMapから引用)
■ ナフサ・タンクの配管マニホールドで油漏洩が起こった。この漏れた油に引火し、配管マニホールド内で火災となり、続いてナフサ・タンクが火災となり、隣接するタンクに延焼していったとみられる。

■ 3月20日(水)、タンクが過熱し、安全弁が機能しなかった際に火災が始まったという情報が一部のメディアから報じられている。

< 対 応 >
■ 火災が消えた3月20日(水)の午後、タンク施設から煙が上がっているのが見えた。Tank80-5(キシレン)で覆っていた泡が切れたため、まだタンクの熱い金属部によって再引火したものだった。この火災は約30秒で消えた。
                                   320日の再引火      (写真はYoutube.comから引用)
■ 3月20日(水)の夜、風向きが変わり、ベンゼンを含む熱分解ガソリンのTank80-14(熱分解ガソリン)を覆っていた泡が移動した。このため、ベーパーが大気へ放出され、住民に避難勧告が出た。インターコンチネンタル・ターミナル社は熱分解ガソリンを別なタンクへ移送する計画だという。

■ 3月21日(木)の午前6時20分、火災は消えたがベンゼン濃度が上昇しており、火災の影響が終わっていないことが明らかになった。施設の東側境界線でベンゼン濃度が検出されたので、午前6時55分、この地区の避難勧告が出された。
 米国環境保護庁はすべてクリアしていると語っていた一方、テキサス環境保全委員会は若干の問題があることを認めた。3月20日(水)午後1時、大気の状況は「健全とはいえない」としていた。7時間後には数値が減少し、改善傾向にあるとしていた。

■ 問題のタンクは最後に火災になったタンクのひとつで、通常は浮き屋根で保護されているが、火災によって屋根が損傷し、代替として泡で覆っていた。風が変わったとき、Tank80-14(熱分解ガソリン)には20,000バレル(3,180KL)弱の油が入っていたが、その後、別なタンクへ移送を始めた。この作業は8~10時間かかる見込みであるという。

■ 避難勧告が出されている間、家の中にベーパーが侵入してこないよう、住民はエアコンを切り、ドアの下にタオルを詰めるよう言われた。大気の状況が改善したため、3月21日(木)午前11時40分に避難勧告は解除された。また、パサデナ・フリーウェイ225号線がベルトウェイ8号線からテキサス146号線までの間で閉鎖されていた交通規制は午後1時11分に再開された。状況は刻々と変わっていた。

■ 3月22日(金)の朝、Tank80-7(熱分解ガソリン)の内液を別な容器への移送が始められた。しかし、午後12時15分頃、 タンク施設の周囲にある防油堤の一部が壊れたため、その対処が終わるまで、Tank80-7(熱分解ガソリン)の移送は中断された。

■ 3月22日(金)午後3時45分頃、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)が再引火し、状況が激しくなった。火災は防油堤から漏れ出た液が広がっていった。新たに発生した火災に対して、ただちに水と泡を放射し始め、発災から約1時間後の午後4時45分頃に消された。防油堤の壊れた原因は分かっていない。漏れ出した液は火災で燃えたタンクの内液と消火で使った泡と水の混合液だった。その後、堤の修復部分を補強するとともに、ほかの防油堤についても調査が実施された。
(写真はYoutube.comから引用)
■ 3月23日(土)午後3時30分に中断していたTank80-7(熱分解ガソリン)の内液を、水中ポンプを使って流速1,300バレル/時(206KL/h)で別な容器への移送が始められた。また、構内の排水溝に溜まった液をバキューム車で汲み上げる作業が始められた。 

■ 再引火の恐れがあるため、発災地区のまわりに追加の大容量の消火泡ポンプが設置され、泡による覆いが切れた場合、すぐに泡を供給できるようにした。

■ 3月23日夜~24日朝にかけて夜を通してTank80-7(熱分解ガソリン)の内液移送が続けられた。3月24日(日)午前2時時点で、12,647バレル(2,010KL)を移送した。移送速度は最高で1,700バレル/時(270KL/h)だった。タンク内には約20,000バレル(3,180KL)あったと推定され、あと残りの液回収が続けて行われる。
 タンクには固定屋根と内部に浮き屋根が付いており、浮き屋根上の油はすべて回収できた。この結果、タンクは安定した位置にあり、泡を張り込みながら残りの液を回収する予定だという。今後24時間で、タンク施設内のすべての油を系統的に回収し、きれいにして地元の心配がないようにするという。

■ 3月24日(日)、発災タンク近くの溝からバキューム車で回収された液は、午前6時30分時点で650バレル(103KL)だった。構内の排水溝に溜まった液の回収は2,080バレル(330KL)だった。

■ タンク施設の2次防止堤エリア内の液レベルは、3月23日(土)朝の時点で2フィート(60cm)だったのが、3月24日(日)朝には2インチ(5cm)に低下した。

■ ベンゼン成分を放出した熱分解ガソリン・タンクの近くの北側に設置されていた2次防止堤の一部が損壊していたことが分かった。これを受けて、この近くの住民に避難するよう促された。また、ヒューストン港の一部が閉鎖された。

■ 米国沿岸警備隊は、港湾内に流出した油と泡を封じ込めるのため、オイルフェンスの展張強化を行った。海へ流れ出た液による影響は約2マイル(3.2km)にわたるエリアであったが、大半は封じ込めができた。3月23日(土)は8,500フィート(2,590m)のオイルフェンスを展張したが、場所によっては2重、3重にする必要があり、 3月24日(日)は27,000フィート(8,230m)を展張した。

■ 3月24日(日)、インターコンチネンタル・ターミナル社は、作業目標を各タンクからの油除去、構内の排水溝の修復、港湾の機能回復の3つに焦点を当てたが、けが人を出すこともなく、3つの目標を順調に達成しつつあると語っている。特に、Tank80-7(熱分解ガソリン)から追加の油抜出しが実施されつつある。Tank80-14(熱分解ガソリン)の油が移送され、タンクは空となって安全な状態である。また、Tank80-10(熱分解ガソリン)の油は移送中で、もうすぐ空になる予定だという。つぎの油移送はTank80-13(熱分解ガソリン)が予定されている。なお、事故が始まって以来、構内の排水溝の修復も続けられている。

■ 3月26日(火)、Tank80-7(熱分解ガソリン)とTank80-14(熱分解ガソリン)は空になり、安全な状態になった。つぎに、Tank80-10(熱分解ガソリン)の油移送を実施中で、これが終われば、Tank80-13(熱分解ガソリン)を空にする作業が始められる予定である。

■ 3月26日(火)、火災になったタンク施設は少なくとも2フィート(60cm)の泡を保持する必要があり、消火泡を供給している。また、バキューム車とホースを使用して、排水溝からの残った油(水との混合液)を抜き出している。この混合液はTank100-28へ移されている。

■ 3月26日(火)午前6時45分時点、タンク施設からの水の混じった油と消火泡の回収量は約33,394バレル(5,300KL)である。港湾(水路)からの油と水の混合液の回収量は約12,897バレル(2,050KL)である。

■ 3月26日(火)、テキサス州は環境汚染防止違反に当たるとし、数日間の火災の災害による化学物質の大気中への放出や水路への流出の対応費用に関する損害賠償をインターコンチネンタル・ターミナル社求めた。例えば、米国環境庁によると、地元、州、政府機関は請負者を含めて1,100人以上が発災現場や水路で作業している。

■ ハリス郡公衆衛生局によれば、発災のあった週に1,000人以上の人が郡の診療所を訪れた。その多くは、呼吸器の問題、頭痛、肌の刺激、吐き気に関連したものだったという。この地域の大気モニタリングでは、先週、ベンゼン濃度が急に高くなった。これらの数値は長期的な健康への影響を引き起こすほど高いものでなかったが、空気質の監視は継続するという。

■ 3月27日(水)、熱分解ガソリンの入ったタンクの油移送は完了した。現時点では、排水溝や水源を含めたタンク施設全体の修復作業を継続している。

■ 3月27日(水)午前6時時点、タンク施設からの水の混じった油と消火泡の回収量は約35,724バレル(5,680KL)である。港湾(水路)からの油と水の混合液の回収量は約28,528バレル(4,500KL)である。
(写真はChron.comから引用)
(写真はFox10phoenix.comから引用)
                                        壊れた防油堤     (写真はYoutube.comから引用)
320日の湾内(水路)の状況
(写真はItcreponse.comから引用)
(写真はChron.comから引用)
(写真は、左:Icis.com、右:Itcresponse.com から引用)
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、メキシコと国境を接し、人口約2,510万人の州である。テキサス州はスピンドルトップで原油が発見されて以来、石油が州内の政治と経済を牽引する存在になってきた。テキサス州一人当たりエネルギー消費量および全消費量で国内最大である。従来、メキシコ湾の海底油田が主であったが、 21世紀に入るとシェールオイル採掘の技術が進歩し、内陸部を中心に石油生産量が増加した。
 「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約465万人の郡である。
 「ディア・パーク」(Deer Park)は、ハリス郡の南東にあり、人口約32,000人の市である。
ハリス郡のヒューストン、ディアパークの周辺
(図はGoogleMapから引用)
■ 「インターコンチネンタル・ターミナル社」(Intercontinental Terminals Company)は、1972年にMitsui&Company(USA) Inc.によって設立された石油ターミナル会社で、日本の商社である三井物産の子会社である。ディア・パーク市の施設には約270人が働いているが、役員を含めて従業員は米国人である。
ディア・パーク施設は242基のタンクで総容量は1,300万バレル(207万KL)である。タンクの大きさは1,200~25,000KL級である。最長182mの船が着桟できる桟橋など5つのタンカー・バースがある。 
 三井物産はテキサス州にいくつかの会社を保有しており、石油・ガス投資会社のMEPテキサスホールディング、メタノール製造施設のMMTX社、飼料添加物製造工場のノーバス・インターナショナル社などである。
インターコンチネンタル・ターミナル社のディアパーク施設 (矢印が発災地区)
(写真はIterm.comから引用)
■ 最初に発災したナフサ・タンクは内部浮き屋根式で、容量が80,000バレル(12,700KL)である。グーグルマップによると、直径は約33mであり、高さは約15mとなる。今回の発災したタンク地区には15基の貯蔵タンクがあり、同じ防油堤内にある。15基の貯蔵タンクはいずれも同じ大きさで、内部浮き屋根式とみられる。油種はナフサ、ガソリン・ブレンド、キシレン、熱分解ガソリン、潤滑油ベースオイルといろいろあるが、内部浮き屋根を必要とする油を対象にしたタンク地区だと思われる。このタンク地区のタンク間距離は、グーグルマップによると約11mで、タンク直径の1/3であり、仕切り堤はない。

■ 「チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド」(Channel Industries Mutual Aid;CIMA、チャンネル産業協同組合)は、ヒューストン圏内の精製・石油化学業界において消防業務および危険物取扱いを専門とする非営利団体である。1955年にヒューストン船水路産業災害援助組織として設立され、自然災害から産業事故に至るあらゆる種類の緊急事態に協力的な支援と専門知識を提供している。
 なお、ディア・パーク市消防署はボランティア型の消防署である。また、途中からインターコンチネンタル・ターミナル社に要請され、派遣されてきたルイジアナ州の専門消防士のチーム(タンク火災の経験豊富な消防士15名)は大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送してきた。このチームの組織は明らかにされていないが、ルイジアナ州で消防活動の相互応援を牽引している“ハイアード・ガン・ギャング” のグループだと思われる。このグループについては、つぎのブログを参照。
ャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(CIMA )の装備や訓練風景
(写真はCimatexas.orgから引用)
所 感
■ 今回のタンク火災の消火活動は、つぎのように極めて難しい条件にあった。
 ● タンク地区の同じ防油堤内に多く(15基)の貯蔵タンクがあった。
 ● 発災タンクが15基の真ん中であり、消火活動の最も困難な位置だった。
 ● 最初の発災がナフサの防油堤内火災だった。堤内には仕切り堤が無く、油が堤内に広がる恐れがあった。
 ● タンク型式が内部浮き屋根式タンクで、固定屋根が覆われたまま、火災になり、消火方法が難しかった。
 ● タンク油種がナフサのほか、ガソリンブレンド、キシレン、熱分解ガソリンと危険性の高いものが多かった。
 ● タンク間距離が直径の約1/3(11m)と狭く、延焼しやすかった。
 ● タンクに固定泡消火設備や散水配管は無かったものと思われ、移動式の泡消火設備や散水ノズルに頼らざるを得なかった。

■ さらに、緊急事態の対応組織に問題があったように思う。
 ● 発災日が日曜であり、発災事業所の緊急事態対応の体制が整っていなかったと思われる。
 ● 発災事業所の消防隊は、CIMAという消防協同組合組織であり、プラント内の設備や油種に熟知していなかったのではないか。
 ● 市の公設消防はボランティア型消防署であり、プラントの火災は発災事業所に頼らざるを得ないと思われる。このように主導する緊急事態対応の長が曖昧であったと思われる。
 ● 初期のタンク火災戦略ついて防御的戦略をとってしまった。
 ● 大容量の泡消火砲を保有していたものと思われるが、有効に活用できなかった。

■ このタンク火災の経緯や消火活動の詳細が明らかにされ、教訓として広く知らしめるべきだと思う。
 ここでは、現在の情報からとるべきだった初期の消火戦略・戦術を考えてみた。
 ● 発災が配管マニホールド漏れによる防油堤内火災であり、まず配管からの漏れを最小限に抑える。(関連配管のバルブを閉めるなど)
 ● 防油堤内に仕切り堤がないので、漏洩の油が止められない状態であれば、堤内に広がることを念頭に置いておく。(散水によって水が溜まれば、油は表面に浮き、堤内に広がる)
 ● 堤内火災に引き続き、タンク火災になれば、積極的消火戦略を指向し、大容量の泡放射砲と泡薬剤の確保(手配)を行う。必要な資機材が整うまで待つ。
 ● タンクへの延焼を防止しなければならないので、隣接タンクへの曝露対策(散水)を行う。曝露対策として冷却放水をしている場合、タンク側板部に水蒸気が出ている限り、冷却効果があると見て放水を継続する。散水量は、「タンク火災への備え」を参考にすれば、1基あたり3,780L/分である。今回の場合、内部浮き屋根式タンクであり、特に固定屋根の金属温度上昇に気を配る必要がある。(固定屋根の通気口付近で引火する恐れが高い)
 ● 隣接タンクへの散水によって配管から漏れた油が浮遊して遠い場所で引火する恐れがあるので、消火泡で覆う。高発泡の泡放射設備があれば、そちらを使用する。
 ● 大容量の泡放射砲と泡薬剤が揃った段階で、タンク上部に一斉に泡を放射する。通気口からの火炎の場合、一方向だけでは死角になる場所が出てくるので、2方向から放射する。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Firedirect.net,  USA – ITC Plant – Naptha Fire Spreads To Multiple Tanks,  March  18,  2019
     ・Jp.reuters.com,  Texas Petrochemical Storage Fire Rages, May Burn for Two Days,  March  18,  2019
     ・Houstonpress.com,  ITC Fire Extinguished Early Wednesday Morning, School Closures Continue,  March  20,  2019
     ・Houstonpress.com,  ITC Plant Fire Spreads Overnight,  March  19,  2019
     ・Houstonpress.com, Benzene Levels From ITC Worsen Overnight. Shelter In Place Issued For Deer Park and Pasadena,  March  21,  2019
     ・Houstonpress.com, ITC Transitions Into Clean Up, EPA Reassures Still No Hazardous Levels,  March  21,  2019
     ・Houstonpress.com,  Critical Hours Ahead as ITC Attempts to Remove Last Barrels of Benzene From Tank ,  March  22,  2019
     ・Houstonpress.com, ITC Reports Breach Cause Unknown, New Fire is Out, Pumping Suspended,  March  23,  2019
     ・Bloomberg.com, Houston Officials Vow Public Is Safe as Fire Plume Hovers in Sky,  March  20,  2019
     ・Chron.com, Deer Park plant fire could last two more days; authorities monitoring air quality,  March  19,  2019
     ・Cnbc.com, Texas Petrochemical Fires Spreads to more Storage Tanks after Firefighting Snag,  March  19,  2019
     ・Khou.com, Fire crews switch to attack mode at ITC Deer Park fire,  March  20,  2019
     ・Fox26houston.com, All tank fires extinguished at ITC Deer Park,  March  20,  2019
     ・Tankstoragemag.com, Deer Park storage fire extinguished,  March  20,  2019
     ・Houstonpublicmedia.org, Eight Tanks Are On Fire At Deer Park Petrochemical Facility As Of Tuesday Afternoon,  March  19,  2019
     ・Nbcdfw.com , Petrochemical Plant Fire Near Houston Intensifies Overnight,  March  19,  2019
     ・Hazmatnation.com,   Firefighters give closer look inside Deer Park tank fire,  March  22,  2019
     ・Reuters.com, Texas Sues Fuel Tank Company over Houston Chemical Fire, Aftermath,  March  28,  2019
     ・Abc13.com, Harris County Attorney Vince Ryan Sues ITC over Deer Park Tank Fire,  March  28,  2019
     ・Deerparktx.gov, ITC Fire Updates,  April  03,  2019
     ・Itcresponse.com, 2nd 80’s Fire Response,  March  23,  2019
     ・News.tv-asahi.co.jp ,   石油タンクが大火災 消火も歯が立たず4日以上炎上,  March  21,  2019
     ・Bloomberg.co.jp, テキサス石油化学施設での火災、健康被害広がる,  March  23,  2019
     ・Sankei.com,  三井物産子会社を提訴 米テキサス州当局、火災で,  March  28,  2019



後 記: 今回の事故は、最近における最悪のタンク火災事故です。日本でも、テレビで報道されましたが、米国でもいろいろなメディアが報じています。長いタンク火災に続いて、大気汚染による住民への健康被害の問題があり、さらに漏れた油や消火泡による港湾の海上汚濁問題と災害の連鎖が引きずり、事故情報の報道は見きれないほどたくさんありました。
 このブログの趣旨から、タンク火災の経過や消防活動の状況に関する内容を焦点を当てて調べました。しかし、刻々と変わる事故は期間が長く、いつの時点の話なのか分かりにくいものでした。特に、記事がアップデートしたものだと余計に混乱してしまいました。事故経過がはっきりしない中、ディア・パーク市が発災事業所の情報発表をインターネットで公表していることを知りました。この情報が役立ちましたが、感じたのは、発災事業所自身が事故や消火活動の状況を十分に把握できていないということでした。米国の緊急事態対応のマニュアルは官民問わず、形はキチンとできているように感じましたが、事故は後手後手の典型のような経緯をたどり、現場の実行力が伴っていないように感じました。世界の石油産業を牽引する米国テキサス州における実情を見たように思いました。


米国テキサス州で配管漏れで爆発、イソブチレン・タンクに延焼、死傷者3名

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 今回は、2019年4月2日(火)、米国テキサス州ハリス郡クロスビーにあるKMCO社の化学プラントで3名の死傷者を出した爆発・火災事故を紹介します。
(写真はNbcnews.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)クロスビー(Crosby)にあるKMCO社(KMCO LLC)の化学プラントである。 KMCO社は1975年に設立された化学会社である。
 
■ 発災があったのは、クロスビーのラムジー通り沿いにある化学プラントの配管やタンク設備である。化学プラントは、ヒューストン(Houston)の北東にあり、3月17日(日)にタンク火災時のあったディア・パークから約20マイル(30km)しか離れていない。
              テキサス州ハリス郡クロスビー付近 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年4月2日(火)午前10時45分頃、KMCO社の化学プラントの移送配管で爆発があり、火災になった。すぐに、近くのイソブチレンで一杯のタンクに延焼し、さらに近くにあった貯蔵倉庫に延焼した。貯蔵倉庫の中には、固体で燃焼性のあるケミカルが入っており、火が移ったものとみられる。空には黒煙が立ち昇った。

■ KMCOのプラント構内にいた従業員によると、最初、ガス漏れがあり、急いで避難しようとしたという。プロセス区域から出たところで、誰かが「タンクに火が着いた」と叫び、プラントが爆発した。このとき、門は閉まっていたので、門の下を這って出た。「とにかく、できるだけ早く遠くへ逃げることしか考えられなかった」と話している。

■ ある住民は 「大きな音が聞こえた途端、家が揺れました」といい、別な住民は 「家全体が震えました。窓が振動し、飼っていた犬が吠えていました」と語っている。

■ 事故発生に伴い、ヒューストン消防署、クロスビー消防署などの公設消防隊が出動した。 KMCO社は緊急事態対応の指揮所を開設した。対応チームと公設消防は、火災を封じ込めようと活動した。

■ 火災発生に伴い、 KMCO社の化学プラント周辺の道路が交通規制で閉鎖された。

(写真はAbc.comから引用)
■ 発災に伴い、1名が死亡し、2名の重傷者が出た。亡くなったのは、KMCO社の運転部門の従業員で、現場において死亡が確認された。爆風で亡くなったものとみられる。ケガをしたふたりは救急ヘリコプターで病院に搬送された。

■ 事故発生により、当局は工場から1マイル(1.6km)以内の住民と学校の生徒に屋内に留まるように勧告した。クロスビーの学校では、校内の暖房、換気、空調システムのすべてを止め、さらに追加の安全予防策として、できる限りドアの密閉を強化した。

■ 米国環境庁は大気中に有害化学物質を検出していないと発表した。これを受け、約4時間後に屋内待機の勧告は解除された。
 
■ 火災の消火に当たっていた消防士が数名負傷したと報じているが、真偽は不詳である。 

■ 火災は、約5時間半経った午後4時20分に消された。しかし、消防隊はホットスポットによる再引火に留意した。

■ 午後2時30分までの消防活動は明らかに制御下にあったが、午後4時20分まで消火できなかったのは、消火水の圧力が低下したためである。この水圧低下の問題は、3月17日に起こったディア・パーク火災のときと同じである。 

■ KMCO社の会長は地域社会に心配と迷惑をかけたことを陳謝した。

■ 火災は当初、イソブチレンが引火したもので、その後、燃焼源はエタノールとアクリル酸エチルだった。この3つともプラント内で燃料に添加されるケミカルや溶剤である。

■ KMCO社は事故後、火災はイソブチレンから火の手があがり、それからエタノールとアクリル酸エチルによって燃料が供給され、タンクが火災に巻き込まれ、さらに乾燥したケミカルが詰まっている近くの貯蔵倉庫に燃え始めたと語った。

被 害
■ 化学プラント内の配管やタンクが焼損した。また、貯蔵倉庫が内部に保管されていたケミカルとともに焼失した。被害設備の詳細は不詳である。  

■ 3名の死傷者が出た。1名が死亡したほか、2名は重傷である。このほかに、消防隊に数人の負傷者が出たといわれている。

■ プラント近隣の住民と学校の生徒が一時、屋内待機した。影響した人数は不詳である。
           発災の経過状況 (各写真の左上は現地時間)
(写真はAbc.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
火の手は2箇所から上がっている
(写真はNbcnews.comから引用)
(写真はAa.com.trから引用)
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。

■ KMCOによると、予備調査では、最初にタンクから漏れたものではないとみている。KMCO社は事故後、火災はイソブチレンから火の手があがり、それからエタノールとアクリル酸エチルによって燃料が供給され、タンクが火災に巻き込まれ、さらに乾燥したケミカルが詰まっている近くの貯蔵倉庫に燃え始めたと語っている。

< 対 応 >
■ 4月2日(火)、テキサス州環境品質委員会は火災の初期評価を行うために調査係官を派遣した。また、米国CSB(化学物質安全性委員会)が事故調査を行うことを表明した。 

■ 4月3日(水)、プラントの操業はすべて無期限に停止され、消防の管理下におかれた。また、テキサス州は、KMCO社に対してテキサス州大気浄化法違反で訴状を出した。
 
■ プラントの爆発後、多くの住民が健康と安全について不安を抱いていた。火災が消えた後もメタノール・タンクとエタノール・タンクに関連したプラントでは、まだくすぶっている区域から不快な臭いがしていた。消防隊は、臭いの放散を防ぐためにその区域に泡を追加して覆った。

■ 住民だけでなく、数年前からプラントで働いている従業員のひとりは、「とても怖かった。2・3週間前にディア・パークの火災事故があり、これ以降、私たちの職業というものに悩み始めていました。そして、身近なところで事故が起きたのです。しかし、ほかのどこでも常に起こりうることなのです」と語っている。

■ 4月4日(木)、残っていたホットスポットはすべて冷却されて無くなった。KMCO社はドローンを使用して、消防署と連携してホットスポットが無くなり、完全に消火できたことを確認した。

■ 4月8日(月)、ヒューストン地区の化学プラントで働いている請負者が、KMCO社に対して訴訟を出した。訴えは、火災事故で負傷者が出たが、KMCO社は致命的な火災が発生する前に、可燃性ガスの漏れていることを知っていながら、避難を命じなかったというものである。ケミカル貯蔵施設で爆発前に、高圧のガス配管のバルブから漏れ、ガスが放出していたことをKMCO社は知っていたと主張している。 なお、逆止弁が故障して漏れたと報じているメディアもある。
             消火活動する消防隊   (写真はAbc.comから引用)
焼け落ちた貯蔵倉庫とみられる
(写真はNbcnews.comから引用)
(写真はHoustonchronicle.comから引用)
             発災中心部跡   (写真はChron.comから引用)
 補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,870万人の州である。
 「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約470万人の郡である。この事故の2週間前の2019年3月17日(日)に起こったディア・パーク市のタンク火災事故「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」は、同じハリス郡だった。
 「クロスビー」(Crosby)は、ハリス郡東部に位置し、人口約2,300人の町である。
         テキサス州クロスビー周辺  (写真はGoogleMapから引用)
■ 「KMCO社」(KMCO LLC)は、1975年に設立した化学会社で、クーラント(冷却剤)、ブレーキ・フルード製品、油田業界向けの化学薬品などを製造している。クロスビー工場は2012年に買収して保有したもので、従業員は180名である。工場施設には、貯蔵タンク600基、鉄道タンク車250台、反応塔28基などがある。
KMCO社のクロスビー工場
(矢印が発災箇所付近だが、今は配置が変わっている)
(写真はKmcoinc.client.artisandm.comから引用)
■ 発災設備のプロセス装置について報じられておらず、またKMCO社のウェブサイトでも明らかにされていないので分からない。発災後の設備跡とグーグルマップの設備配置を比較すると、明らかに改造されていることが分かる。また、イソブチレンが一杯入っていたという発災タンクの仕様も分からず、グーグルマップでも特定できなかった。
左が今回の火災跡、右が以前のプラント配置
以前の建家跡に新しい竪型タンクが3基追加されている
(写真は、左;Chron.com、右;GoogleMapから引用)
■ 「イソブチレン」(Isobuthylene)は化学式C4H8で、イソブテン(Isobuteneとも呼ばれ、通常、石油分解ガスからの分離か、イソブタンの触媒による脱水素化によって製造される。空気より軽く、比重は0.6 g/cm3で、極めて可燃性が高く、常温常圧で無色の気体である。漏洩すると、発火、爆発する危険性がある。タンク(容器)が加熱されると爆発するおそれがあり、ガス漏れを止められないときは、漏洩ガスの火災は消火しない。

 所 感
■ 今回の事故は化学プラント内で起こったもので、 最初にタンクから漏れたものではなく、高圧のガス配管のバルブ(逆止弁が故障して漏れたという情報もある)から漏れ、放出してガスに引火し、爆発したものだと思われる。燃焼源は最初にイソブチレンで、その後、エタノール、アクリル酸エチル、貯蔵倉庫内のケミカルに延焼していったとみられる。漏れの異常に気がついた従業員が対応をとっていた際に、爆発したものではないかと思われ、複数の死傷者が出るという不幸な出来事だった。何らかの別な対応がとれなかったのかと感じる。
 事故の原因は調査中だが、KMCO社は2012年にクロスビー工場を取得した後、事故のあったプラントの一部を改造しており、改造設備や運転マニュアルに問題があるのかも知れない。

■ この事故の2週間前の2019年3月17日(日)に、同じテキサス州ハリス郡にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク火災事故は、一旦消火後、再引火したり、ベンゼン放出で大気汚染の問題が生じたりしたため、地元の関心事は発災状況より再引火や大気汚染の懸念にあった。ハリス郡庁としては、インターコンチネンタル・ターミナル社のタンク火災事故が一段落した4月2日(火)に再びプラントの火災事故が起き、多忙な日々を送ることになったが、学習効果か、今回は後手後手の対応にはならなかったように思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Reuters.com, Texas Chemical Plant Fire Kills One, Injures Two,  April  3, 2019
    Edition.cnn.com,  Chemical Plant Fire near Houston Kills 1,  April  2, 2019
    Marketwatch.com, 1 Killed, 2 Hurt in Fire at Texas Chemical Plant,  April  2, 2019
    Time.com,  Fire at Houston-Area Chemical Plant Leaves 1 Dead, At Least 2 Injured,  April  2, 2019
    Khou.com, 'It Was Terrifying' | Deadly Chemical Plant Fire in Crosby Is Contained,  April 2, 2019
    Aa.com.tr,  Blast, Fire at Texas Chemical Plant Kills 1, Injures 2,  April  3, 2019
    Nzherald.co.nz , Texas Inferno: One Dead as Tank Catches Fire at Texas Chemical Plant,  April  3, 2019
    Simmonsandfletcher.com, KMCO Plant Explosion Update – Shelter In Place,  April  2, 2019
    Abc13.com, Cause of Deadly KMCO Explosion in Crosby Still Unknown,  April  4, 2019
    Abc13.com, Houston's ‘Tox-Doc' Explains The Dangers of The Smoke from Crosby Plant Fire,  April  3, 2019
    Abc13.com, 'Get out as fast as you can' Workers Crawl under Gate to Escape Blast at KMCO Plant in Crosby,  April  3, 2019
    Abc13.com, KMCO chemical plant fire in Crosby kills 1, injures 2,  April  3, 2019
    Chron.com, KMCO Identifies Worker Killed in Explosion at Crosby Chemical Plant,  April 3, 2019
    Fox26houston.com,  Lawsuit Filed against KMCO Following Plant Fire,  April 3, 2019
    ・Starcouriernews.com, Explosion, Fire at KMCO Plant in Crosby,  April 4, 2019
    Crossroadstoday.com, KMCO Knew of Valve Leak before Texas Plant Fire,  April  8, 2019
    Insurancejournal.com, Workers Injured at Texas Chemical Plant Damaged by Fire File Suit,  April 8, 2019
   Fox26houston.com, Contractors File Lawsuit against KMCO LLC after Deadly Fire,  April 8, 2019
    Fairfieldcurrent.com, The Newest: Texas company,  April  17, 2019
    Kmcoinc.client.artisandm.com, Press Release,  April  2-5, 2019


後 記: 米国のプロセス・プラントの事故は、発災事業所が十分把握していないためか、あるいは情報を意図的に出していないためか、タンク事故に比べて内容に乏しいことが多いと感じていました。さらに最近、米国の事故情報を見ていて、メディアによる報道の姿勢が甘いと感じます。メディアに関わる人材が少なくなり、相互に記事を融通しあうことが多いように思います。インターネットの事故情報は同じ記事が目立ちます。そのため、インターネット検索すれば、多くの記事が出てきますが、内容が同じということを知るだけの無駄時間を費やすことが結構多いと感じます。
 それでも、内容に工夫を施すメディアもあります。画像や動画は現場の状況を把握するのにとても参考になりますが、大抵は撮られた時間が分かりません。今回、ABCニュースの動画では、画面に時間を明示しています。この場面はブログ本文で紹介しましたが、状況がよく分かります。


米国ルイジアナ州で天然ガス施設の炭化水素用タンクが爆発・火災

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 今回は、2019年2月25日(月)、米国ルイジアナ州イースト・バトンルージュ郡のセントラルにある油田探査・生産会社ホワイト・マーリン・ミッドストリーム社の天然ガス施設で炭化水素用タンクが爆発して火災になった事例を紹介します。
(写真はKatc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ルイジアナ州(Louisiana)イースト・バトンルージュ郡(East Baton Rouge Parish)のセントラル(Central)にある油田探査・生産会社のホワイト・マーリン・ミッドストリーム社(White Marlin Midstream)の天然ガス施設である。

■ 発災があったのは、セントラルのローム・ドライブ8400番地にある天然ガス施設の炭化水素用のタンクである。タンク内には、塩水と炭化水素の混合液が入っていた。
            イースト・バトンルージュ郡のセントラル付近 (矢印部が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
                ホワイト・マーリン・ミッドストリーム社の天然ガス施設 (矢印部が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月25日(月)午前10時頃、炭化水素用のタンクが爆発して、火災になった。

■ 火災発生に伴い、セントラル消防署の消防隊が出動した。


■ 事故に伴うけが人は無かった。また、火災によるタンク以外の影響はなかった。

被 害
■ 火災に伴い、タンク1基が一部焼損し、内部の油が焼失した。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。 

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は爆発によるものであるが、爆発の原因は分かっていない。

< 対 応 >
■ 消防活動中、近くの住民は発災地区から離れているように言われた。

■ 2時間の消防活動の結果、タンク火災は消火された。
(写真はWbrz.comから引用)
(写真はWbrz.comから引用)
(写真はBrproud.comから引用)
(写真はWbrz.comから引用)
補 足
■ 「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国南部に位置し、メキシコ湾に面しており、人口約453万人の州である。州都はバトンルージュで、最大の都市はニューオリンズである。
 「イースト・バトンルージュ郡」(East Baton Rouge Parish)は、ルイジアナ州の中央部に位置する郡であり、人口約44万人の郡である。郡庁は州都でもあるバトンルージュである。
 「セントラル」(Central)は、イースト・バトンルージュ郡の東部にあり、人口約28,000人の町である。
                  ルイジアナ州イースト・バトンルージュ郡の位置  (写真はGoogleMapから引用)
 なお、ルイジアナ州では、つぎのような事故や対応事例がある。

■ 「ホワイト・マーリン・ミッドストリーム社」(White Marlin Midstream LLC)は、 2018年8月、イースト・バトンルージュ郡セントラルにある天然ガスプラントとパイプライン・システムを購入するために設立された会社である。
 親会社であるホワイト・マーリン・オイル&ガス社(White Marlin Oil and Gas Company LLC)は、石油・天然ガスの探査と生産に携わり、主にルイジアナ州とテキサス州での陸上・海上エネルギー事業に焦点を当てている。以前はサブコ・オイル&ガス社と呼ばれていたが、2014年2月にホワイト・マーリン・オイル&ガス社に変更したあと、2018年6月、ペトロ・ハーベスター・オイル&ガス社(Petro Harvester Oil&Gas、LLC)に買収された。その後、2018年8月、ペトロ・ハーベスター・オイル&ガス社、アローロック社、ホワイト・マーリン・オイル&ガス社の3社は石油探査・生産会社をロッカール・エナージー社(Rockall Energy)として統合し、運営している。
 今回事故のあったセントラルにある天然ガスプラントとパイプライン・システムは、アローヘッド・ルイジアナ・パイプライン社(Arrowhead Louisiana Pipeline LLC)とハーベスト・シッドストリーム(Harvest Midstream LP)から1,000ドルで購入したことになっている。

■ 「発災タンク」の大きさなどの情報は報じられていない。発災場所をグーグルマップで調べてみると、火災のあったタンクの直径は約4.0mである。高さを6.0mとすれば、容量は75㎥となる。天然ガス用の油井施設の塩水タンクはグラスファイバー製を使うことが多いが、発災写真を見ると、火災でも自立し、タンク屋根がめくれているので、鋼製だとみられる。
事故前の天然ガス用タンク施設 (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用
所 感
■  2018年8月、「米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で落雷による火災」が起こったとき、ルイジアナ州は、「NASAによる世界の雷マップ」によれば、テキサス州と並び、雷の多い地域であり、米国の原油・天然ガスの油井施設が好調の背景から、メキシコ湾岸でのタンク火災の頻度の高まる可能性があるのではないかと述べた。今回のタンク火災は落雷ではない要因だった。原因が分からないが、タンク内の塩水と炭化水素の混合液が関係する静電気によるものではないだろうか。

 消防活動の詳細は言及されていないが、消火活動が2時間で制御下に入っているので、比較的順調にいったものと思われる。ルイジアナ州では、「米国バトンルージュの貯蔵タンク複数火災における消火活動(1989年)」を経験し、 「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」をみるように、消防活動や消防組織に積極的な風土があるように思う。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Kwafb.com, Explosion in Hydrocarbon Tank Causes Fire in Central,  February  25,  2019
    ・Wbrz.com,  Tank Catches Fire at Central Plant,  February  25,  2019
    ・Wbrz.com, Emergency Crews Respond to Explosion at Central Plant Monday Morning,  February  25,  2019
    ・Businessreport.com, Gas Plant and Pipeline System near Central Sold,August 23, 2018


後 記: 今回の事故は2月にあり、情報の紹介が遅くなりました。今年2月は事故が多く、またこの事故に関する報道記事が少なく、すっかり忘れていました。ところで、今回の発災事業所を調べていて分かったのは、原油・天然ガスの探査・生産会社は複雑だということです。リスク回避のために会社を重層化しているのでしょうが、原油・天然ガス探査・生産会社自体が小規模になっており、実態がよく見えません。事故のあったセントラルにある天然ガスプラントとパイプライン・システムを1,000ドル(11万円)で購入したことになっていますが、なにか裏がありそうですね。
 好調を保っている米国の原油・天然ガス生産ですが、一方、イラン産原油禁輸の日本への影響は、石油価格が上昇し、供給量が3%減だそうです。供給が5%低下すれば、ガソリンの買い付け騒ぎになるといわれています。事故情報から横道にそれますが、すっきりしないGWですね。


インドの化学プラントでタンクから無水酢酸が漏洩、被災者55名

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 今回は、2019年4月17日(水)、インドのマハラシュトラ州ニラにあるジュービラント・ライフ・サイエンス社の化学プラントでタンクからケミカル(無水酢酸)が漏洩し、55名の被災者が出た事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インドのマハラシュトラ州(Maharashtra)ニラ(Nira)にあるジュービラント・ライフ・サイエンス社(Jubilant Life Sciences)の化学プラントである。

■ 発災があったのは、化学プラント内にあるタンクである。 
                          インドのマハラシュトラ州ニラ付近    (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年4月17日(水)午後4時30分頃、化学プラント内にあるタンクからケミカル(無水酢酸)が溢流して漏れ出た。

■ 事故に伴い、当初、21人の労働者が病院に入院し、ひとりが重体だといわれた。一方、地元の住民の中には、プラントで爆発があり、40人以上の労働者が被害を受けたと言っている。うち3人が重体だという。被害にあった労働者はニラやローナンドの私立病院で治療を受けているという。

■ 被害を受けた労働者は、呼吸困難、目の灼熱感、吐き気、めまいなどの症状を訴えた。

■ 発災後、プラントの事業者は、ただちに弁を閉じ、漏洩を止めたといっている。

■ ニラの町は人口約20,000人で、そのうちの何人かはプラントで働いている。事故のあと、いろいろな話が瞬く間に広がっていった。地元村民のひとりは、「午後4時30分頃、無水酢酸で満たされていたタンクの内部圧力が上昇し、爆発を起こした。35~40人くらいの労働者が相次いで病院へ運ばれた」という。

■ 事故が起こった後、数時間、ケミカルが大気中に漂い、住民に対して不快感や呼吸困難の被害を与えた。

■ 重体の被害者は、ターネから来た男性の契約ドライバー(42歳)で、タンクローリーからプラントへ希釈された酸を荷下ろし中だったという。彼はフュームを吸込み、意識を失ったという。
 
■ 発災は午後4時30分頃に起きたが、国の緊急救急隊が知ったのは午後6時30分頃である。国の緊急救急隊が現場に着くまでに、プラントの事業所はすでに被害者の労働者を病院に連れて行っていた。

■ 無水酢酸は、いろいろなアシル化製品を作る中間体として使用される。主なものは酢酸セルロースの製造で、ほかには鎮痛剤などの製造である。

被 害
■ ケミカル(無水酢酸)によって労働者55人が病院で手当を受けた。うち、ふたりは重体だった。

■ 事故が起こった後、数時間、ケミカルが大気中に漂い、住民に対して不快感や呼吸困難の被害を与えた。

< 事故の原因 >
■ 事故要因は、ケミカル(無水酢酸)がタンクから溢流して漏洩したものとみられる。タンクからの漏洩原因は分からない。
ニラにあるジュービラント・ライフ・サイエンス社のプラント 
(写真はGoogleMapから引用)
< 対 応 >
■ 地元住民は、2006年にプネー(Pune)から約75km離れたニラに化学プラントができて操業を開始して以来、プラントに対して抗議してきた。2009年にプラントの廃水をニラ河を放出し、水質を汚染していることがわかり、抗議委員会が結成されている。

■  4月18日(木)、州の安全衛生局は会社の所有者に対して法的措置をとることにし、担当官がプラントに立ち入った。事故後、ジュービラント・ライフ・サイエンス社は自らの判断でプラントを停止している。安全衛生局はジュービラント・ライフ・サイエンス社に対して、運転を再開する前にすべての安全性を確認するよう命じた。

■ 4月20日(土)、住民は、もしプラントがこの地域で操業を続けるならば、プラントへの道路をふさいで、再開阻止の運動を行うと迫っている。
■ 州の安全衛生局の職員が労働者の入院した病院へ訪問して確認した結果、被災者数は55人だった。重体はふたりで、その後は快復の傾向にある。

補 足
■ 「インド」は、正式にはインド共和国で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約13.3億人である。
 「マハラシュトラ州」(Maharashtra)は、インド西部にある州で、人口は約9,700万人である。
 「ニラ」(Nira)は、マハラシュトラ州の南西部に位置し、人口約20,000人の町である。
                             インドのマハラシュトラ州付近      (写真はGoogleMapから引用)
  なお、このブログで紹介したインドの事故などはつぎのとおりである。
 
ジュービラント・ライフ・サイエンス社のニラ工場 
(写真は21imguf_niraから引用)
■ 「ジュービラント・ライフ・サイエンス社」(Jubilant Life Sciences)は、インドの総合医薬品製造およびライフ・サエンス企業である。
 ニラにある化学プラントは、いろいろな工業界で使用される酢酸、無水酢酸、酢酸エチルなどを製造している。以前は、ガソリンやディーゼルに混合するエチルアルコールを製造していた。従業員は450名で24時間操業である。

■ 「発災タンク」の仕様は報じられておらず、型式や大きさなどは分からない。

■ 「無水酢酸」(Acetic anhydride)は、汎用分析用試薬、薬品、香料、染料等の有機合成原料として使用される。化学式は(CH3CO)2O、無色で強い酸味と刺激臭のある液体で、沸点140℃、密度1.08g/c㎥である。ベーパーは催涙性があり、液体が皮膚につくと、水泡や炎症を生じる。引火性で、49℃以上では爆発性混合気を生じることがある。
 漏洩時には、保護具・酸性ガス用フィルター付マスクを着用し、換気に留意しながら、漏れた液を密閉式の容器にできる限り集め、残留液は砂または不活性吸収剤に吸収させて安全な場所に移す。

所 感
■ 今回の事故は、化学プラント内にあるタンクからケミカル(無水酢酸)が溢流して漏洩し、被災者が出たものと思われる。石油タンクにおいて液面計器の故障などで過充填による事故例があるが、この事故も同様の事象があったのではないだろうか。

■ 発災事業所のジュービラント・ライフ・サイエンス社は被災者を病院へ運んでいるが、公的機関への報告は2時間後で、同社のウェブサイトでも事故に関して何も掲載されておらず、情報公開に極めて消極的である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
   ・Timesofindia.indiatimes.com, At Least 21 Hospitalized in Chemical Leak at Nira-Nimbut Plant,  April 18, 2019
   ・Timesofindia.indiatimes.com, Villagers Warn of Protests If Nira Plant Is Reopened,  April  20, 2019
   ・Timesofindia.indiatimes.com, DISH Officials Peg Chemical Leak Affected Plant Workers’ Tally at 55,  April  26, 2019  
   ・Hazardexonthenet.net, India Chemical Plant Leak Injures at Least 21,  April 23, 2019 
   ・Timesofindia.indiatimes.com,  2 Workers Critical a Day after Chemical Leak in Nira Plant ,  April  19, 2019 
   ・Firedirect.net, India – Chemical Plant Leak Injures At Least 21,  April  24, 2019
   ・Geoasia.org, TR: RSOE EDIS – Event Report – HAZMAT : [Nira-NimbutChemical Plant] Nira, State of Maharasthra, India, Asia,  April  18, 2019  


後 記: 今回の事故は、インドの化学プラント事業者と住民の確執を表しているように思います。その背景には、1984年に起きたインドのボパール事故が尾を引いているように感じます。1984年12月の夜中に、ボパールの化学プラントから猛毒のイソシアン酸メチルが漏洩し、3,000人以上の死者と35万人の被災者を出した最悪の工業事故です。
 発災事業所のジュービラント・ライフ・サイエンス社は、何とか隠密に処理したいという失敗を隠したがる典型のような行動ですし、住民は化学プラントの事業者に対して不信感が色濃くあるように感じます。そういう日本でも、水俣病などが分かった昭和30年代(1955年)に同様の隠蔽がありましたし、いまも自動車や建築物などに不正検査の問題が報じられています。いつの時代でも過去の教訓を活かしていくことが大事ですね。


米国フロリダ州のプロパンボンベ充填所で爆発・火災、負傷者1名

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 今回は、2019年4月29日(月)、米国フロリダ州ハイランズ郡セブリングにあるコーサン・クリスプラント・ミズーリ社のプロパンボンベ充填所で爆発・火災があり、負傷者1名を出した事故を紹介します。
(写真はFox13news.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国フロリダ州(Florida)ハイランズ郡(Highlands County)セブリング(Sebring)にあるコーサン・クリスプラント・ミズーリ社(Kosan Crisplant Missouri, Inc.)のプロパンボンベ充填所である。

■ 発災があったのは、ハイウェイ27号線近くのツイッティ通りにある充填所に保管していたプロパンボンベである。当充填所は2014年から稼働しており、約20人の従業員がいて、20ポンド(9kg)用プロパンボンベの充填作業を行っている。事故当時、充填所内にはプロパンボンベが6,000本あったとみられる。
ハイランズ郡セブリングのハイウェ27号線沿い付近 (矢印部が発災場所) (写真はGoogleMapから引用) 

コーサン・クリスプラント・ミズーリ社のプロパンガス充填所付近(矢印部) (写真はGoogleMapから引用)

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019429日(月)午後215分頃、プロパンボンベ充填所で爆発があり、火災となった。充填所から炎と黒煙が上がる中、時おり、プロパンボンベが誘爆して200フィート(60m)ほどの高さへ上がり、落ちてきた。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。ポップコーンのトウモロコシ穀粒がはじけるようにプロパンボンベが空中へ高く舞い上がる中、消防隊は為す術(すべ)もなかった。プロパンボンベの誘爆は活動する消防士の安全上の支障になった。プロパンボンベ充填所の火災については防御的消火戦略として燃え尽きる戦略をとった。

■ 事故に伴い、プロパンボンベ充填所の所長が重傷を負った。当日の作業が終わった後、所長が棚卸しを実施しているときに火災が起こったという。所長は全身火傷を負い、ヘリコプターで病院へ搬送された。 

■ 道路の向かい側にモービル・ホーム(トレーラーハウス)の敷地を保有しているオーナーによれば、「ボンベが爆発し、空に飛んでいました。プロパンボンベ充填所が近くにあるため、人がこの土地を望まない理由でした。空に舞い上がったボンベが、こちら側にも飛んできました。モービル・ホームに住んでいる人はいましたが、外出する時間帯でした。それで、みんな無事だったのです」と語った。

■ プロパンボンベ充填所からの炎や熱くなって飛んだボンベが隣接する建物類に延焼した。多くのモービル・ホームの資産を破壊した。ホームのほとんどは空いていたが、3家族は避難しなければならなかった。道路の反対側には、モービル・ホームのほか、動物病院があり、消防隊は病院への延焼防止に努めた。

■ 消防署長は、「充填場の裏には、大型の貯蔵タンクが設置されていました。幸い、タンクは巻き込まれませんでした。もし、タンクが延焼していていたら、さらに壊滅的な事故になっていたでしょう」と語った。  

■ 現場から1マイル(1,600m)以内の住民たちは、火災の消火活動の間、避難したが、午後9時頃に被災しなかった住民は帰宅した。

■ 被災した建物類は17軒に及んだ。14台のモービル・ホーム、2戸の固定住居と1つの小屋である。プロパンボンベの破片は1/4マイル(400m)離れたところでも見つかった。

■ ハイウェイ27号線は午後9時まで閉鎖され、ツイッティ通りは翌朝まで閉鎖された。 

■ 当該プロパンボンベ充填所の安全記録の実績に問題なく、これまでトラブルの報告は無かった。

■ 多くの住民は、プロパンボンベ充填所が住宅地の近くで設置許可されたことに不満を表している。一方、コーサン・クリスプラント・ミズーリ社は、この充填所が厳格な安全手順を受けて設置されており、州法および現地の法令に準拠していると述べている。

■ 事故の状況は米国のメディアが報道しており、ユーチューブにも投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。
 ● YouTube「Fireat Propane Warehouse in Sebring」(2019/04/29)

被 害
■ プロパンボンベ充填所が火災で損壊した。

■ 近隣のモービル・ホームなどの建家に延焼して、17棟の被害が出た。また、火災時に1マイル(1,600m)以内の住民が避難した。

■ 事故に伴う負傷者が1名出た。
(写真はHazmatnation.comから引用)
(写真はWflaorlando.iheart.comから引用)
(写真はWtsp.com.から引用)
(写真はWtsp.comから引用)
(写真はWtsp.comから引用)
(写真はFox13news.comから引用)

< 事故の原因 >
■ 火が出た原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 火災が消えた後、消防隊は現場に残り、ホットスポットの冷却を続けた。

■ 原因究明のため、430日(火)、4名の捜査官が現場に立ち入り調査を行った。施設の破壊が激しく、発災箇所を特定できず、調査が続けられた。危険区域の評価を行うとともに、まだ危険な状態にある10本のプロパンボンベをただちに取り外し、管理区域で安全に燃焼させた。
(写真はWtsp.comから引用)
ホットスポット(右は熱画像)
(写真はSmfr.comから引用)
          火災後のプロパンボンベ充填所全景 (写真はSmfr.comから引用)
ドローンによる上空からのプロパンボンベ充填所全景
(写真はsmfr.comから引用)
火災を受けなかったプロパン貯蔵タンク
(写真はBradenton.comから引用)
爆発して飛んだプロパンボンベや破片
(写真はFox13news.comから引用)
(写真はSmfr.comから引用)
モービルホーム側の被災状況
(写真は左;Wfla.com右;Yoursun.comから引用)
補 足 
■ 「フロリダ州」(Florida)は、米国南部に位置し、メキシコ湾と大西洋にはさまれるフロリダ半島の全域を占め、北はジョージア州とアラバマ州に接しており、比較的温暖で人口約1,880万人の州である。州都はタラハシー (Tallahassee)である。
 「ハイランズ郡」(Highlands County)は、フロリダ州の中央部に位置し、人口約99,000人の郡である。
 「セブリング」(Sebring)は、ハイランズ郡の西部に位置し、人口約10,500人の町である。
              フロリダ州と周辺  (写真はGoogleMapから引用)
■ 「コーサン・クリスプラント・ミズーリ社」(Kosan Crisplant Missouri, Inc.)は、プロパンガスのボンベ充填を行う会社で、外資系企業である。液化ガス産業を展開しているデンマークのコーサン・クリスプラント社(Kosan Crisplant)の系列会社と思われる。セブリングの充填所は2014年から稼働しており、約20人の従業員がいて、20ポンド(9kg)用プロパンボンベの充填作業を行っている。
 なお、コーサン・クリスプラント社の液化ガスの充填設備については、ユーチューブ(YouTube「Flexspeed,HPCL Gas Filling Plant, Oct 2010」)で紹介されているが、セブリングの充填所で採用されているかは分からない。

■ プロパンガス充填所における事故例としては、つぎのような事例がある。
 ● 「LPガス充てん所においてボンベに過充填したプロパンの液のままの放散による大爆発」(1986年5月) プロパンガスの充填中、過充填をしたため、ボンベを横倒して弁を開き大気放出した。放出ガスが着火し、漏出ガスが燃え続けて、付近にあった充填済みボンベを熱し、誘爆し、大災害になった。  
 ● 「LPG工場におけるボンベ残液の室内放散による爆発とボンベの破裂による火災の拡大」(1988年8月) 充填所において、ボンベの検査のため、ボンベに残ったLPGの液とガスの回収作業を行っていた。その作業が集中したため、室内に放出したため、電気火花などで着火爆発し、充填所の他のボンベに誘爆して被害が拡大した。

■ 「モービル・ホーム」(Mobile Home)は、日本ではトレーラーハウスという和製英語の方が一般的である。元来、米国でハイウェイを利用した旅行から始まったといわれ、日本でもキャンピングカーとして富裕層の乗り物で知られており、車のない豪華なものも作られている。
 一方、近年、米連邦政府が公営住宅への補助金を打ち切った1980年代以降に、低所得者層の間で広まり、今でも補助金の交付を受けない住宅としての利用者は全米で840万人以上いる。このほか、いろいろな理由でモービル・ホームに暮らす人は多く、米国では2010年代に推定2,000万人といわれる。老朽化したモービルホームは、住宅よりも安価に入手することが可能であるため、現在では、貧困層の象徴とされている一面があるのも米国の実情である。
いろいろなモービル・ホームの例
(写真はEn.wikipedia.orgBalatontourist.hu Kafgw.comから引用)
セブリングのプロパンボンベ充填所の向かい側にあるモービル・ホームのパーク(事故前)
(写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
所 感

■  今回の事故は、何らかの原因でプロパンボンベからガスが漏洩して、室内に滞留し、着火して火災になったものとみられる。ほかのプロパンボンベが誘爆して、さらに構外のモービル・ホーム(トレーラーハウス)などの建家に延焼したものである。
 日本で起きたLPガス充てん所においてボンベに過充填したプロパンの液のままの放散による大爆発」「LPG工場におけるボンベ残液の室内放散による爆発とボンベの破裂による火災の拡大」の事故のように過充填や残存ガスの放出と違って、ボンベの充填作業は行っていない時間帯らしいので、プロパンボンベの部品の故障や損傷で漏れたものではないだろうか。ガス検知が発報していると思われるが、様子を見に行った所長が爆発に遭遇して重度の火傷を負ってしまったのだろう。
 プロパンガス充填所の火災事故では、ボンベの漏れの火災がほかのボンベの誘爆に至って、被害が拡大することを示す事例である。

 プロパンボンベ充填所の火災は、ボンベの誘爆による消防士の安全保護のため、防御的戦略として燃え尽きることを選択し、近隣のモービル・ホームや動物病院の延焼防止に努めたとみられる。この選択は妥当だったと思う。プロパンボンベが漏れて火災となった場合、プロパンガスの火を消してしまうと、ガスが放散して再着火して被害が大きくなる恐れがある。
 プロパンボンベではないが、プロパンタンクの消防活動訓練に関するユーチューブの動画(Youtube「propanetank fire」(2011/10/26))を紹介する。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Hazmatnation.com, Fire at Propane Warehouse Destroys 17 Buildings; Seriously Injures One,  April  30,  2019
    Wfla.com,  Fire at Sebring Propane Warehouse Destroys 17 Buildings, Seriously Injures Worker,  April  30,  2019
    Abcactionnews.com, Propane Warehouse Fire Spreads to Several Mobile Homes in Sebring, One Person Airlifted to Hospital,  April  29,  2019
    Fox13news.com, Propane Warehouse Catches Fire in Highlands County,  April  29,  2019
    Yoursun.com, Propane Fire Cause Unknown,  May  07,  2019
    Fox13news.com, Massive Propane Warehouse Fire Gutted Mobile Homes; Cause under Investigation,  April  30,  2019
    Wflaorlando.iheart.com, One Hurt, 16 Homes Destroyed in Sebring, Florida Inferno,  April  30,  2019
    Bradenton.com, Manatee Firefighters Help Put out Sebring Propane Warehouse Fire That Destroys Several Homes ,  May  02,  2019
    Wnky.com,   Massive Propane Fire Destroys Florida Homes,  April  30,  2019
    Wwlp.com,   Massive Propane Fire Destroys Florida Homes,  April  30,  2019
    Smfr.com, Hazmat Team is Deployed to Highland County to Assist Highland County Fire Rescue on a LPG Storage Fire ,  May  01,  2019



後 記: 米国フロリダ州の事故を紹介するのは初めてです。フロリダ州といえば、豪華別荘や観光地で有名ですが、原油・天然ガス油田や石油産業が少なく、タンク事故が無いためでしょう。プロパンボンベの事故を紹介するのも初めてで、米国でプロパンボンベ充填所があるんだって意外に思いました。油田や石油産業がないことと関係がありそうですね。
 また、今回の事故に関連して、モービル・ホーム・パークといってモービル・ホームを貸したり、ホームを設置する場所を提供する不動産業があることを初めて知りました。米国の映画を見ていると、モービル・ホームで暮らす人の場面が出てくることがありますが、これまで気にしたことはありませんでした。今回のフロリダ州で起こった火災の被害者であるモービル・ホームの住民は富裕層の人ではないようです。2007年の住宅バブル崩壊をきっかけにしたリーマン・ショックの影響を感じる事例でした。

米国テキサス州でバージがLPGタンカーと衝突して損傷、ガソリンが海上流出

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 今回は、2019年5月10日(金)、テキサス州ベイポートのヒューストン可航水路において、パナマ船籍のLPGタンカーのジェネシス・リバー号と、カービー・インランド・マリン社のタグボートであるボイジャ号が押航していた2隻のバージ(はしけ)が衝突し、バージがひどい損傷をうけ、積載していたガソリンを海上流出するという事故を紹介します。
               衝突して損傷したバージ  (写真はGalvnews.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、テキサス州(Texas)ベイポート(Bayport)のヒューストン可航水路において航行していたパナマ船籍のLPGタンカーのジェネシス・リバー号(Genesis River)およびカービー・インランド・マリン社(Kirby Inland Marine)のタグボートであるボイジャ号(Voyager)である。タグボートは2隻のバージ(はしけ)を押航していた。
 
■ 発災があったのは、ジェネシス・リバー号とタグボートで押航されていた2隻のバージがヒューストン可航水路で衝突したことによって起った。
 ジェネシス・リバー号は2018年建造の総トン数46,794トン(載貨重量53,697DWT)、全長755フィート(230m×37mLPG船で、液化天然ガスを運んでいた。タグボート(Tugboat)のボイジャ号は、米国ではトウボート(Towboat)と呼ばれる押船で、1975年建造で1,350馬力ディーゼル機関を搭載している。2隻のバージには、それぞれ、リフォーメイトと呼ばれるガソリン・ブレンドを約25,000バレル(3,975KL)積載していた。事故があったとき、ジェネシス・リバー号は出港中で、バージは入港中だった。

■ ジェネシス・リバー号は川崎汽船が傭船し、最近、ヒューストンに入港し、5月末にエジプトへ到着する予定だった。カービー・インランド・マリン社は、米国にある4,000隻のバージのうち約4分の1を保有し、この水路では大きな存在であった。
      ヒューストン可航水路周辺と衝突場所  (✖マーク部 (写真はGoogleMapから引用)

(写真は、左;Towboatgallery.com、右; Inews.jpから引用)
米国におけるバージの押航方法の例
(写真は、左;Sec.gov、右;Vanwertalumni.comから引用)
事故の発生
■ 2019510日(金)午後330分頃、ヒューストン可航水路で大型タンカーと2隻のバージを押航するタグボートが衝突し、1隻のバージはひどい損傷を受け、もう1隻のバージは転覆した。これによって約9,000バレル(1,430KL)のガソリンが水路に流出した。

■ カービー・インランド・マリン社によると、大型タンカーの船体がバージを仕切っている4つの貯蔵タンクのうち2つを破損させたという。タンカーの船首がバージの左舷タンクを突き破り、右舷タンクまで達した。このため、漏れを食い止める方法が無かった。これらの2つのタンクの油は海へ直接流出してしまった。
(写真はAbcnews.go.comから引用)
■ 空からの映像では、バージの1隻には三角形の深い損傷が見られ、海上に油膜が見られた。一方、ジェネシス・リバー号の船首には擦った跡がある。転覆したバージはそのままになっているが、ガソリンが流出するとは考えられていない。タグボートには4名の乗組員がいたが、タグボートに損傷は無かった。


■ 連邦政府、州、海運関係者で組織されているベイポート水路衝突事故対応グループ(Bayport Channel Collision Response )は、大気監視システムでは“至急対応レベル”を検出していないと発表した。一方、シーブルック(Seabrook)市は、衝突によって漂ってくる臭いを感じると述べた。しかし、現時点では、住民が対応をとる必要はないと発表した。
(写真はGalvnews.comから引用)
■ 米国沿岸警備隊はサールベージ・チームを現地に配備した。

■ 緊急対応グループは、5月11日(土)朝の時点で、3,800フィート(1,160m)超のオイルフェンスを展張し、さらにバージの周囲などに12,150フィート(3,700m)を展張する予定だという。

■ ヒューストンの水路沿いには、米国の国内総生産の12%を処理する9つの製油所がある。この水路はヒューストンとメキシコ湾を結ぶ53マイル(85km)の商業水路で、海上交通に影響を与えた流出事故が続いており、この2か月間で、今回の事故が2回目である。前回は、2019年3月17日(日)、テキサス州ディア・パーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」で海上汚濁した事故である。

■ ヒューストン可航水路は部分的に船の航行を制限された。5月11日(土)の午後には、33隻の船が入港できるのを待ち、27隻の船が出航できるのを待ち、91隻がアンカーを下ろして停泊していた。

(写真はKhou.comから引用)
■ テキサス州は、事故のあった場所近くで、かもめの死体が2羽、アライグマの死体が1匹のほか、多数の死んだ魚が発見されたことを明らかにした。しかし、海水は人間にとって危険な状態ではなく、水路の再開を優先し、5月12日(日)に再開した。ヒューストン可航水路は米国内でもっとも混雑している水路のひとつであり、閉鎖されたままでいると、港のコストは高くなるのも事実である。

■ 512日(日)、事故から2日が過ぎ、ガルベストン湾の海岸線沿いには油膜が現れて影響するところが出始め、封じ込めを要する区域が広がっている。湾には、クリーンアップ作業の請負者によって約20,000フィート(6,100m)のオイルフェンスが展張された。この作業のため、カキ養殖は一時的に停止された。カービー・インランド・マリン社は、クリーンアップにあと2日はかかるとみている。
■ 事故の状況がユーチューブに投稿された主なものは、つぎのとおりである。

被 害
■ ガソリン約25,000バレル(3,975KL)を積載したバージ1隻が船体を大きく損傷し、もう1隻が転覆した。

■ ガソリン約11,276バレル(2,140KL)が海上へ流出し、大半が消失した。

■ ガソリン流出により海が汚濁された。このため、かもめ、アライグマの死体が発見されたほか、魚に被害が出た。また、近くの住民がガソリン臭による臭気被害が出た。

■ 総トン数46,794トンのLPGタンカーの船首部分が損傷した。
(写真はGalvnews.comから引用)
(写真はGalvnews.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 衝突の原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 514日(火)、川崎汽船は同社が傭船したLPG船ジェネシス・リバー号がヒューストン港を出港した後、バージと衝突したことをウェブサイトで発表した。発表によると、乗組員(インド人14 名、フィリピン人15 名、合計 29 名)は全員無事で、積載貨物にも損傷が無いことを確認したが、船体の一部には損傷が確認されたという。現在、当局の調査に全面的に協力をしているという。

■ 514日(火)、LPGタンカーのジェネシス・リバー号とボイジャー号押航のバージの衝突の状況をAISAutomatic Identification System自動船舶識別装置)によるアニメーションで示したユーチューブが投稿された。YoutubeTanker “Genesis River” Collided with Barge near Houston |May 10, 2019」を参照。
 このアニメーションでは、タグボートのボイジャー号に押航していたバージの船体寸法を入れて調整されたものである。すなわち、ボイジャー号はバージの長さ90m×32mを加えたものとした。 

■ 515日(水)、タンカーと衝突した2隻のバージは、中身を入れたまま他の船で浮揚させて移動した方が安全だと判断され、約4時間をかけて作業が行われた。衝突で損傷したバージはヒューストン可航水路近くにあるサウスウェスト造船所に運ばれ、転覆したバージは油抜取りを実施するバーバース・カット・ターミナルに運ばれた。これで、難破していたバージまわりに設定されていた安全注意区域も解除され、ヒューストン可航水路は完全にオープンした。

■ 516日(木)、連邦政府や州を含め現地で対応とクリーンアップに従事している人は334名にのぼっているという。クリーンアップのため20,000フィート超(6,100m)のオイルフェンスと8台のスキマーが使用された。バージからの流出量は当初の予想から増え、11,276バレル(2,140KL)と推定されている。
                 被災したバージの曳航    写真はhoustonchronicle.comから引用)
                  オイルフェンスの運搬     写真はKoamnewssnow.comから引用)
                     バージの衝突傷  写真はHoustonchronicle.comから引用)
           LPGタンカージェネシス・リバー号の衝突傷  写真はYoutube.comから引用)
所 感

■ 船が切断されかかっているような激しい衝突の損傷写真を見て驚くとともに、なぜこのようなことが起こったのか疑問に思った。LPGタンカーのジェネシス・リバー号とボイジャー号押航のバージの衝突の状況をAISアニメーションで示したユーチューブの映像「Tanker“Genesis River” Collided with Barge near Houston | May 10, 2019」を見ると、つぎのようなことがいえる。 (番号は図に示した順番)
 ● ジェネシス・リバー号は衝突前にほかの船(DWオーク号)と接近しているが、このときは船の通行規則どおりに右側通行ですれ違っている。①
 ● そのあと、ジェネシス・リバー号はボイジャ号に近づくが、なぜかわずかに左に進路を変えている。このとき、ボイジャ号の進行方向は北寄りであり、衝突の恐れが出てきた。 ②
 ● さらに両船は近づくが、そのままの状況では、お互いが左側通行の進路になる。 ③
  ボイジャー号はやや左に進路を変更する。(左側通行の進路になるが、衝突回避のためか?) ③
 ● ジェネシス・リバー号は右に進路を変更する。(右側通行の形にするためか?) ④
 ● ボイジャー号はさらに進路を左にとる。(この段階では、衝突回避のためとみられる) ⑤
 ● ジェネシス・リバー号の船首がボイジャー号の押航するバージ船体側面に突っ込み、衝突したものと思われる。 ⑥
 この航跡によって衝突の経緯は上記のようで、まず間違いないだろう。あとはそれぞれの時点での判断がどうだったかである。ただ、この航跡によると、バージの右舷に衝突したことになる。報道では、「タンカーの船首がバージの左舷タンクを突き破り、右舷タンクまで達した」とあるが、右側通行を基本とするため、右と左を間違ったのではないだろうか。また、転覆したバージは直接ジェネシス・リバー号との接触によるものでなく、激しい衝突の影響で転覆したのではないかと思う。
LPGタンカー「ジェネシス・リバー号」とタグボート「ボイジャ号」の航跡
(写真はYoutube.comの動画から引用)
■ 一方、この事故のつぎのような背景を考えると、「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」(マーフィの法則)と思わざるを得ない。 
 ● ヒューストン可航水路は米国内でもっとも混雑している水路のひとつで、事故の起こる恐れの高い水路である。
 ● 米国では、大型のバージを使用し続けており、乾貨物だけでなく、油タンク用がある。
 ● バージの安全対策はとられているが、所詮、推進動力をもっていない船である。
 ● 慣れていない新しいタンカーが混雑水路を航行する。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Reuters.com, Tanker Collision, Gasoline Spill Closes Portion of Houston Ship Channel,  May  13,  2019
      ・Firedirect.net , USA – Major Gas Product Spill After Tanker & Barges Collide,  May  13,  2019
      ・Cbsnews.com, Barges and Oil Tanker Collide in Houston Ship Channel,   May  10,  2019
      ・Foxnews.com, Barge and Tanker Collide, Leaking Gas Product into the Houston Channel,  May  11,  2019
      ・Abcnews.go.com, Tanker Collision Sends Thousands of Gallons of Gas Product Leaking into Houston Shipping Channel,   May  11,  2019
      ・Chron.com, Houston Ship Channel Remains Closed after Tanker Collision Spills Gasoline,  May  11,  2019
      ・Gcaptain.com , Major Gas Product Spill on Houston Ship Channel After Tanker and Barges Collide,  May  11,  2019
      ・Click2houston.com , Ship Collides with Barges, Causing Massive Gas Product Spill in Houston Ship Channel,  May  10,  2019
      ・Washingtonpost.com, Busy Texas Waterway Remains Partially Closed after Collision,  May  11,  2019
      ・Abc13.com, Barge Crash Cleanup Extends to Galveston Bay Two Days after Collision,  May  13,  2019
      ・Oilprice.com, Oil Tanker Collision In Houston Causes Leak, Closes Critical Port,  May  13,  2019
      ・Edition.cnn.com, Cleanup Continuing in Houston Ship Channel after Vessels Collide and Spill Gas Product,  May  12,  2019
      ・Khou.com, Houston Ship Channel Fully Open after Barge Collision; ‘Safety Zone' Lifted,  May  15,  2019
      ・Houstonchronicle.com ,   Barges involved in Houston Ship Channel Collision Are Removed,  May  15,  2019
      ・Response.restoration.noaa.gov, OR&R Responds to Barge Collision in Houston Ship Channel,  May  16,  2019
      ・Kline.co.jp, LPG運搬船 「GENESIS RIVER」衝突事故について,  May  14,  2019
      ・Nippon.zaidan.info, 米国内航バージ輸送の実態等調査報告書,  シップ・アンド・オーシャン財団,  February,  2002



後 記: 2018年1月に起こった異常な衝突事故「イランの石油タンカーが東シナ海で衝突・炎上、漂流後、沈没、死者32名」を本ブログで紹介しましたが、今回は異常な損傷状況の事故が報じられたので、調べることとしました。
 船はAIS(自動船舶識別装置)によって航跡を一般に調べられるようになっていることを前回の事故で知りましたが、今回はアニメーションで示したユーチューブの映像が投稿されており、よく分かりました。近くの工場より遠洋の船の方が各種データのほかリアルタイムに把握できるということです。それでも、場所を特定できるとまずい自衛隊や海上保安庁の取締り船は停波しているそうですが、このような衝突事故があれば、有用な情報源だと思います。
 今回、調べていてびっくりしたのは、LPGタンカーのジェネシス・リバー号を傭船したのが、日本の川崎汽船だったことです。2019年3月に起こった「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」の発災事業所のインターコンチネンタル・ターミナル社が日本の三井物産の所有する施設だったことに続いてのびっくりです。日本の企業が世界的に活躍するのはいいのですが、資金だけ出して事故に関係するのは興ざめですね。


茨城県常総市のリサイクル廃材置き場で火災、6日間燃え続ける

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 今回は、2019年5月15日(水)、茨城県常総市のリサイクル業者立東商事の中古家電製品を回収する廃材置き場で起こった火災事故を紹介します。
(写真はAsahi.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、茨城県常総市坂手町のリサイクル業者の立東商事(りっとう商事)の廃材置き場である。

■ 発災があったのは、常総市坂手町にある中古の家電製品を回収する廃材置き場である。発災当時、廃材置き場では約7,500㎡のエリアに、高さ10mほどに電子レンジや冷蔵庫が約50,000㎥積まれていた。
           茨城県常総市(枠内)と周辺地域 (写真はGoogleMapから引用)
常総市坂手町の廃材置き場周辺 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年5月15日(水)午前6時頃、廃材置き場から火が出ているのを出勤してきた従業員が見つけ、消防署に通報した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、消防車15台が出て消火活動に当たった。付近には金属などの燃える臭いが立ち込め、マスクを装着した消防隊員らが消火に当たった。

■ 廃材置き場には冷蔵庫や扇風機などの家電製品が高さ10mほどに積み上げられていて、発生から5時間ほどがたっても、黒煙や炎が激しく立ち上っている。県が、現場から50mの場所で採取した空気を調べたところ、有害物質のベンゼンが環境基準を上回っていたという。しかし、現時点では、周辺の住民に健康上の影響はないとしている。

■ 火災原因はわかっていないが、常総警察署によると、発災現場は廃品となった家電や金属類を解体する場所で、敷地内に積まれていた電子レンジや冷蔵庫などから出火したとみられる。 

■ 火災発生に伴うけが人は出ていない。

■ 現場は常総市の南にある工場や農地が点在する地域で、この火事を受けて常総市は市内にあるすべての小中学校などに対して、屋外での活動を控え、窓を閉めるように通知した。近くの小学校に通う小学生24人と幼稚園児1人の合わせて25人が、登校中に煙を吸うなどして、のどや目の痛みを訴えているという。

■ 5月16日(木)から消防隊は、重機2台を投入し、廃材をかき出しながら消火活動を行っており、17日(金)も継続して作業を続行している。消火のめどは立っていないという。消防隊によると、燃えているのは廃家電などの金属くずやプラスチック類で、保管量は推定で約50,000㎥に上る。現場周辺は、終日、黒い煙と臭いが立ち込めた。現場で消火活動に従事している隊員のひとりは、「煙でマスクが黒くなり、目も痛む。気温も高いので、体力的に厳しい」と語っている。一方、近くの住民は「洗濯物を外には干さないようにしている」という。

■ 5月16日(木)、煙の影響で、目や喉の痛みを訴える児童生徒がこの日も相次ぎ、常総市で41人、隣の坂東市で39人に上った。

■ 5月17日(金)の朝の時点で、目や喉の痛みを訴える児童生徒が相次ぎ、常総市と坂東市合わせて53人に上った。 

■ 火災は続き、発生から6日目、130時間以上を経過した5月20日(月)午後6時半過ぎ、消防隊は火の勢いが収まり、これ以上の延焼はないと判断し、鎮圧したと発表した。
515日(1日目)の火災状況(まだ柵から遠い)
(写真はNews.tv-asahi.co.jpから引用)
廃材の火災と放水の状況
(写真はNhk.or.jpから引用)
               火災状況(柵内はすべて火に包まれている)
(写真はAsahi.comから引用)
(写真はAsahi.comから引用)
(写真はAsahi.comから引用)
夜の火災の状況
(写真はYoutube.comから引用)
被 害
■ 廃材置き場にあった約50,000㎥の廃家電製品が焼損した。

■ 火災に伴う煙による大気汚染があった。近くの児童・生徒など住民に目や喉の痛みを訴える被害が出た。

■ 事故に伴うけが人は無かった。住民への避難指示は出なかった。  

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は調査中である。

■ 事故の要因は特定されていないが、敷地内に積まれていた電子レンジや冷蔵庫などから出火したとみられる。

< 対 応 >
■ 5月15日(水)午後、常総広域消防本部は、近隣広域消防本部、埼玉県、福島県防災ヘリコプター等を応援要請した。茨城県の防災ヘリコプターが定期整備に入っていたため、埼玉県などに防災ヘリコプターの応援を要請した。

■ 5月16日(木)、常総広域消防本部は、消防車両19台を投入するとともに、埼玉県、栃木県の防災ヘリコプターが前日に引き続いて加わり、空からの放水を繰り返した。
防災ヘリコプターによる消火活動
(写真はSankei.comから引用)
■ 517日(金)午前530分、茨城県広域応援隊が到着した。17日は県内16の消防本部から応援隊が入り、消防車両は20台、人員は延べ約170人に増強された。

■ 5月17日(金)、取手市消防本部は消防隊を応援に出した。同消防隊によると、火災は鎮火に至っておらず、不眠不休の消火活動が行われているという。今回の火災では、堆積している廃材の下に火が回っているため、重機で堆積物を除去して消火を行わなければならず、消火活動に時間を要しているという。
消火活動の状況 
(写真は、左;Ibarakinews.jp、右;City.toride.ibaraki.jpから引用)
■ 発災から75時間が経っても火災が収まらず、煙が広がっていることから、518日(土)、常総市は健康への影響や農作物の被害などの相談を受けるための窓口を設置した。

■ 5月18日(土)午後2時時点で、茨城県広域応援隊13隊が消火活動中である。さらに、福島県、埼玉県、栃木県の防災ヘリコプターが空中消火を行っている。出動している消防車は19台で、消火活動を行っている。

■ 茨城県県民生活環境部において大気影響調査を行っている。5月18日(土)午後2時時点で、常総保健所などの固定観測点では大気について異常はなく、移動系については15日採取分の結果に加え、16日採取分(常総市内2か所など)の分析の結果、住民への健康影響はないという。

■ 5月17日(金)、茨城県廃棄物対策課が明らかにしたところによると、2018年8月に現場にあった廃家電の保管状況が廃棄物処理法の施行規則に違反しているとして改善指導していたという。この資材置き場は野積みした廃家電などの高さを5mより低くしなければならないが、県が立入り検査したところ、実際には10mほどに達していた。茨城県の指導に対して、立東商事は、2018年9月、約7か月かけて保管量を減らすとの改善計画書を提出していた。その後、県は検査に入っておらず、2019年5月22日(水)に状況を確認する予定だったという。

■ 発生から6日目、130時間以上を経過した5月20日(月)午後6時半過ぎ、消防隊は、消火活動の結果、火の勢いが収まり、これ以上の延焼はないと判断し、鎮圧したと発表した。鎮火には至っていないため、再燃の可能性を除去するために、冷却のための放水活動等を継続している。

■ 5月20日(月)までに県内からの応援を含め、消防隊員など1,000人以上が従事し、消防車やポンプ車は延べ160台以上、ヘリコプターが13機が出動したという。

消防広域応援隊の解散式
(写真はTwitter.comから引用)
■ 5月21日(火)、火災が鎮圧したのを受け、消防広域応援隊の解散式が水海道総合体育館で行われた。地元を除く県内23の全ての消防本部で結成され、発生2日後の17日午前から消火活動に当たっていた。解散式では、常総地方広域事務組合管理者の守谷市市長が「5日間にわたる皆さんの活動で火災を鎮圧できた」と謝辞を述べ、常総市市長も「夜通し活動してくれたことに、市民も感謝している」と語った。一方、現場では、常総広域消防本部が再発火防止の放水を継続しており、鎮火まではあと数日かかる見通しである。

■ 5月22日(水)、今回の火災は改正廃棄物処理法の基準を超えて廃家電を積み上げるなど不適切な保管が被害を拡大させた可能性があることから、茨城県は県内同業他社に対する調査に乗り出した。茨城県内の同業者は約70社あり、このうち県に届け出を済ませたのは発災事業所を除く13社という。残りは保管方法の基準強化を受け、廃業を申し出たが、処分が終わっていない事業者もあるとみられる。このため、改めて約70社の確認調査に乗り出し、保管の高さや火災防止策が講じられているかなどを調べる。

■ 5月22日(水)、対応にあたった常総広域消防本部の消防長は、長引いた消火活動に対して、「燃えた量が膨大だった。消火したがれきを敷地外に運び出したかったが、出せる場所もなかった」といい、「発生当初は黒煙で全く前が見えない状態だった。その後、重機が入り、隊員たちが突入できる道を作り、一つ一つの山を重機で崩しながら放水して、冷やしたがれきを別のところによける、という作業を繰り返した」と語っている。
消火活動の状況
(写真はTwitter.comから引用)
(写真はAsahi.comから引用)
5162日目)の火災の状況
(写真はAbema.tvから引用)
5173日目)の火災の状況
(写真はNews.livedoor.comから引用)
5206日目)の火災の鎮圧状況
(写真はNewstopics.jpから引用)
5228日目)の鎮圧後の冷却作業の状況
(写真はIbarakinews.jpから引用)
補 足
■ 「常総市」(じょうそう市)は、茨城県南西部に位置し、東京都心から約50km、茨城県の県庁所在地である水戸市からは約70kmの圏内にあり、人口約60,300人の市である。

■ 「立東商事」(りっとう商事)は「リサイクル業者」としたが、メディアによっては「古物業」といい、茨城県では「集積物 雑品,プラスチック類,金属等」となっている。立東商事は株式会社の法人登録をしているが、会社の詳細は分からない。

■ 「常総広域消防」は常総地方の広域事務組合に属する広域消防で、つくばみらい市、守谷市、常総市(旧水海道市地区)を管轄地域とする。消防本部は水海道消防署内に設置されている。

油圧ショベルの例
写真Ja.wikipedia.orgから引用)
■ 今回の火災の消火活動で使用された「重機」は、映像で見ると「油圧ショベル」だとみられる。2017年12月にあった「豪州のリサイクル施設で車の燃料タンクが爆発して火災、負傷2名」で使用されたのは「エクスカべーター」(Excavator)という名称だったが、映像を見ると、同じ種類の重機である。豪州の火災事故では、「金属スラップ置き場にはいろいろな種類の材料が置かれており、その中には潜在的に燃え得る性質のものもあり、結果として燃焼したものとみられる。幸い、当該スラップ置き場は細かく区切られており、火災の消火作業にとっては若干有利な条件だった。しかし、消防隊は、一晩中、重機のエクスカべーターを使ってスクラップの山を崩しては火元を露出させて消火活動を行わなければならなかった」とあり、リサイクル施設や廃材置き場の消火活動には、油圧ショベルのような重機が必要である。

所 感 
■ 発災現場が廃品となった家電や金属類を解体する場所で、敷地内に積まれていた電子レンジや冷蔵庫などから出火したとみているようだ。通電していない電気機器からの出火はありえるのかという疑問は出る。しかし、冷蔵庫の冷媒ガスは、従来フロンが使用されてきたが、地球温暖化対策の代替フロンとして2002年以降から可燃性の炭化水素系ガス(イソブタン)が使用されているものがある。冷媒フロンは回収・適正処理の義務があるが、炭化水素系の冷媒は義務付けられていない。経年劣化した冷媒系統でイソブタンが漏れ、何らかの引火源があれば、出火する可能性は否定できない。
 また、考えにくいことであるが、廃材の中に油を拭いたウェスがあれば、酸化重合して発熱し発火する可能性はあるし、木くずなどの有機物が堆積して発酵が促進され、酸化反応が起こり、自然発火する可能性もある。廃材置き場は長年放置されてきていると思われ、自然発火物質が形成したこともありうる。 

■ さらに、冷蔵庫の断熱材発泡剤には炭化水素系のシクロペンタンが使われているものがある。近年、断熱材に代替石綿(アスベスト)材として繊維系断熱材のグラスウールやロックウールなどに代わり、さらに発泡プラスチック系断熱材が使用されるようになっている。2018年7月に起こった「多摩市の建設中のビルでウレタン製断熱材の火災、死傷者48名」のように炭化水素系の断熱材は一旦火が付くと急速に広がり、被害を大きくする。このように廃材置き場の廃材の物質をよく調べる必要のある事例といえよう。

■ スクラップ置き場の消火作業が困難だということは、「豪州のリサイクル施設で車の燃料タンクが爆発して火災、負傷2名」(2017年12月)で分かった。当事例では、最初から積極的消火戦略をとり、スクラップ置き場の下部で起こっている火災を消火するために、重機のエクスカべーター(油圧ショベル)を使ってスクラップの山を崩して火元を露出させながら対応しなければならなかった。このため、一晩中かかって17時間の消火活動を余儀なくされた。しかし、今回の廃材置き場の消火活動は鎮圧までに132時間かかっており、消防隊にとっては大変な作業だったと思う。

■ 一方、今回の廃材置き場の消火活動には、つぎのような分からない点がある。廃材置き場は日本中にあり、貴重な経験や知見は他部署に残してもらうことを期待したい。
 ● 廃材置き場の消火活動は、油圧ショベルを使用して廃材の下部にある火元を掘り出しながら消火を進める必要があると思われる。油圧ショベルの使用判断の時期や台数は適正だったか。運転者は消防隊員だったのか。今回の教訓と知見は何か。
 ● 6日間に及ぶ長期の消火活動では、隊員の休息が必要であると思われる。当初から応援要請されており、2日目(5月17日)に170名に増強されたが、消防隊の体制(編成)をどのようにとったか。また、6日間という長期になることを想定されたか。今回の教訓と知見は何か。
 ● 消火は水に頼るしかないと思われる。放水ノズルはどのようなタイプがもっとも有効だったか。高所放水車(スクアート車)は使用されたか。大容量(泡)放射砲システムの放水砲を使用すれば、有効だったか。
 ● 大量の消火水を消費することになると思われる。消火水が構外へ出ることへの排水対策はどのような方法をとったか。(消火泡でないので、水質は悪化しなかったか)
 ● 当初から防災ヘリコプターの使用を計画されていたと思われる。山火事と異なり、防災ヘリコプターの効果は薄かったのではないか。(特に初期は火災の熱風と黒煙の上を避けるように消火剤を撒くことになる)


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com, 資材置き場の廃材燃える 児童ら25人がのどや目の痛み,  May  15,  2019
   ・Nhk.or.jp,  常総市資材置き場火災 消火続く,  May  15,  2019
    Nagoyatv.com ,  学校の屋外活動が中止に廃材置き場で火事 茨城,  May  15,  2019
    Nishinippon.co.jp, 資材置き場で家電燃え黒煙、茨城 小学生ら約20人が目や喉の痛み,  May  15,  2019
   ・City.joso.lg.jp , [速報・鎮圧報]坂手町その他火災対応状況,  May  20,  2019
    Ibarakinews.jp,  常総火災 廃家電保管で業者指導 県が昨夏、改善怠った可能性も,  May  16,  2019
    Ibarakinews.jp,  常総・廃材火災 鎮火めど立たず 24時間態勢、消火活動続く,  May  16,  2019
   ・Ibarakinews.jp,  常総・廃材火災 応援入り消火続く 夜通し活動、隊員疲弊,  May  18,  2019
    News.tv-asahi.co.jp, 茨城の廃材火災まだ消えず 有害物質の値も上がる,  May  17,  2019
   News.tv-asahi.co.jp, 廃材火災、4日目も消えず 大気中の有害物質は・・・,  May  18,  2019
   ・Tokyo-np.co.jp, 常総火災 廃家電保管で業者指導 県が昨夏、改善怠った可能性も,  May  17,  2019
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後 記: 今回の火災はテレビなど多くのメディアで大きく報道されました。このブロブの対象である貯蔵タンクに関係する事故ではないようでしたが、 2017年12月にあった「豪州のリサイクル施設で車の燃料タンクが爆発して火災、負傷2名」の火災事故でリサイクル施設の廃材置き場における火災事故が困難なことを理解していましたので、調べることとしました。
 調べ始めたのは、火災が鎮圧されつつある頃からですが、発災から1週間も経たないのに、インターネットでは、エラーメッセージ(「ページを表示できません」という)になるサイトが多いのにがっかりしました。日本人は「熱しやすく、冷めやすい」国民性だと言われますが、当たっているように感じます。外国の報道サイトでは、エラーメッセージが出てくるものは極めて稀です。( 「ページを表示できません」というような記事は最初からサイトに出さないからかも知れません) また、記事の内容について言えば、深みがないというか、表層的だと感じました。例えば、地元の声を記事にしたものが極端に少なかったですし、もっとも苦労した現場の消防士の記事が無かったですね。だた、東京に近いため、報道ヘリはよく飛ばされていましたが、ドローンによる映像は無かったですね。
 結局、参考になったのは、地元の茨城新聞であり、常総市のウェブサイトでした。火災が消えたので、これで終わりということでなく、今回の火災事故の教訓を残してほしいという希望で締めくくりました。


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